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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第2部 魔砲少女ミハル エピソード7 第3章 夢幻 時の静寂に棲む者
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ACT 7 時の静寂に棲むモノ 中編

今語られる、美晴に纏わる秘話。

真実を語るのは、奇跡を体験した者のみ。


そう。

神が降りた晩。

月の明かりに照らされながら・・・・

二年前。

美晴は不測の事故に遭ってしまった。

暴走するトラックに轢かれ、心肺停止状態に堕ちてしまった。

一時は危篤状態になり、死の境目を彷徨ってしまったのだ。


だが、事故現場へ現れたシキによる決死の救命にも拠って、何とか一命を取り留めれる事になる。


凄惨な事故から一月が経過したある日のことだ。



永らくの治療の甲斐があり、美晴は集中治療室から一般病棟に移された。


しかし・・・


「依然として意識は回復しないのねルマさん」


美雪が介護に疲れたルマへ気を配る。


「今日はもう帰って休みなさい。後は私が看ていますから」


「あ・・・はい、お義母さま」


看病に疲れ果てていたルマが、勧めに応じた。


「明日まで私が看ていますからね、安心して休みなさい」


「お願いします・・・義母おかあさま」


ふらふらと病室から出て行ったルマを見送り、ベットで眠り続ける孫に想いを馳せる。


「やはり・・女神の啓示は変えれなかった」


この子は宿命さだめからは逃れられなかったのかと。


「あの娘を呼び覚ます為に美晴ちゃんは世に生を受けたのならば。

 魂が抜け落ちたかのような状態なら、宿る事が出来る筈よね。審判の女神・・・」


美雪は女神ミハルの再生を望んでいた。

出来る事ならば、平穏な状態のままで迎えられればと思っていた。


「こんな悲劇を齎してまで帰って来て欲しくはないの。

 美晴ちゃんに宿らせるのなら、同意を得てからにして貰いたいの」


孫と娘。

どちらも大事な子なのだから、どちらかを選択するのは哀し過ぎると。


「この子は確かに<女神再生計画>によって生を受けた。

 でも、それは私達の一存で始まった神をも畏れぬ所業だったのだから」


あまりな理不尽さに自分は拒絶した。

娘と同じ身体を造り出す為に、とんでもないことへ手を染めてしまったと感じていたからだ。


だが、計画を打ち明けられた息子夫婦は拒否しなかった。

神でもない人が、自分達の想いだけで人を造り出すような真似でも。


理の女神を宿らせる目的の為だけに、新たな命を造ってしまうと分かっても。

マモルとルマは、自分達の子として代理出産を受け入れたのだ。


ことの顛末を知らされた女神リーンは、哀し気に言ったものだ。


「「私はミハルを信じているわ。

  産まれてくる子を犠牲にはしないと。

  あなた方の計画は失敗するだけだと」」


神の啓示は徒労に終わる事を意味し。


「「全てはことわりの中に秘められているのだから」」


女神の再臨は、に託されたのだと知らしめた。


啓示は下された。

だとしても、未来は変えれると信じていたから強行されてしまった。

マモルとルマの同意の許に。


過去を思い出す美雪が呟く。


「なぜ・・・真盛むすこが留守の内に。

 せめて蒼乃が居てくれれば・・・まことが傍に居てくれたのなら」


事件がなぜこのタイミングで起きてしまったというのか。


「私は神を恨みます・・・蒼乃」


窓から観える夜闇に浮かぶのは、煌々と照らす月。


満月の中で運命だけが嘲笑っているかのよう。


「ああ、代われるものなら私が・・・この母が受けるべきでしょ!

 天におわします神々よ、どうかこの子を我等にお返しください!

 どうか、女神に美晴ちゃんを救わせ給へ!」


天にも縋るつもりで、祈りを捧げる。


天は願いを聞き遂げてくれるのか。

女神は再臨して助命を聴き遂げてくれるのだろうか。




煌々と辺りを照らす満月。

病室の中へも、青白い光が流れ込んでいた。


薄暗い病室の中、蒼い月明かりが美晴を照らした。


ー 暗闇の中・・・月明かりは旅人を目的地へと導く・・・


  そう・・・彼女の魂も。

  この世の者ではない、時の流れに身を置く魂も・・・ ー




「そこに居るのは・・・」



不意に。

聞き慣れた少女の声が聴こえた。


美晴(ミハル)ちゃん?!」


咄嗟の事に美雪は驚喜した。

孫娘が気付いたと思って。


「本当に・・・自分の眼で見れているの?」


いつの間にか美晴が起き上がっていた。

乱れた髪に顔を半ば迄隠した状態で。


「美晴ちゃんッ?!気が付いたのね」


呼ばれた美晴が不思議そうに美雪を眺める。


「・・・あなたは?もしかして・・・」


信じられ無いモノを観ているかのように小声で言った。


「もしかして・・・お母さん?」


ルマではなく、美雪を呼んだ・・・母と。


「美晴ちゃん?」


記憶が混濁しているのかと思った美雪が、思わず呼びかけた時だった。


「ミハル・・・そうだよ、美雪お母さん」


今度は、はっきりと母と呼んだ。

髪の間から垣間見れる瞳の色。

孫である美晴ではない、蒼色の瞳を観てしまった時。

悟ったのだ、<美晴>ではない存在を。


「お年を召してしまったのね、お母さんも」


言葉の端端から分かる。

声が孫と同じでも、話し方やトーンが違う。


「私が眠っている間に、苦労したんだね」


この子は美晴ではないと確信した。

自分の事を<あたし>と呼ばない娘が誰なのかを。


挿絵(By みてみん)


それは嘗て蒼き色を宿していた娘だと・・・分かってしまったのだ。


「どうして?なぜ・・・みはるちゃんの躰に?」


気付いた美雪は、過去の偽物デサイアを思い出し。

更には女神からの啓示を思い起こし・・・


「なぜ・・・孫の躰に宿ったの・・・その子はまだ死んではいなかったのよ?」


帰還を喜びつつも、孫と位置づけされた美晴の身を案じた。


「なぜ?・・・帰って来てはいけなかったのね私」


喜びよりも悲しさが滲む。

悲しさが苦渋を迫った。


そして女神だった娘は、告げるのだった。


「夜だけ。

 月に照らされた穢れた世界に。

 私は<娘>と代わる・・・憑代に選ばれた子へと」


悲しげな声で伝えて来たのです。

もはや、時は満ちたのだと。


「待ってミハル。孫の美晴ちゃんは?

 あなたの存在を知っているの?」


喪われた訳ではない筈だから。

死の境目を乗り越え、この世界に存在しているのだからと。


しかし、女神の筈だった<ミハル>が教えるのは、恐怖を齎す呪い。


「まだ知る筈もない。知ってしまえば己の存在を脅かす。

 何人たりとあなたの子を輝へと導けない・・・唯の一人を除いては」


帰還した女神は呪いを表す。


「私が望むのは、あの人に依って慰められることのみ。

 唯一つだけが私を癒してくれる。

 始まりの御子でもあるあなたが、一番知っている通りに」


紡がれ出る言葉に、怖ろしい事実を突きつけられる。


「お母さん達の居る世界に()()()()女神だけが。

 この世界を裁けることの出来る女神に依ってのみ。

 理を司る私を人に戻せるの・・・」

 

「審判の女神・・・あなたはリーンとの邂逅を願うだけなの?」


帰って来たミハルは、恨めし気に美雪を見詰めた。

戻ってきた女神は、人の世を恨んでいるかのようだった。


「永き時の静寂で観て来てしまったわ。

 人類の愚かしさを、戦争を繰り返すだけの世界を」


「それは・・・でも、今は」


やっと手に出来た平和を享受していると答えるつもりだった。


「今も・・・よ、お母さん。

 何も変わらない、上辺だけの平和だって気付いているのでしょう?」


垂れ下がった前髪を通して観えてしまった。

左の眼が紅く澱んでしまっているのを。

嘗てのデサイアと変わらぬ穢れた瞳を。


「何も変わらなかった。

 私が女神になってしまうのを停めれなかった。

 死んでしまうのさえも止められず、消える事になるのも・・・」


言葉の端々から感じられるのは。


「私がどんな想いで後事を託したのか。

 千年も彷徨わされる事になったというのに。

 人類は愚かな蛮行を捨てようともしていないのよ」


今の時代に生きる者への警鐘・・・いいや、怨念。


「全てが徒労になった。

 私やリーンが決死の想いで終末から逃れさせたのに。

 改心してくれたユピテルや、世界から魔法を消してくれたケラウノスをも裏切り。

 残された者達は神に背き続けているわ」


歯噛みする音が聞こえて来そうな程、娘であった者からの怨嗟が滲む。


美雪はこの時、あれ程優しかった娘が堕ちていると感じたのだ。

女神として、理を司った者としての存在は虚ろになったのだと思ってしまった。



啓示は当たっていた・・・何も変わらずに。

一時の邪悪が滅びても・・・何も変えられなかったのだと知らされてしまったのだ。

こともあろうに、帰還した娘の声で。


「そんな・・・酷過ぎよ。

 私の美春が。

 闇に囚われていた私を護ってくれた女神が・・・堕ちたなんて」


今迄どんなに帰還を待ちわびたか。

でも、現実は非情に過ぎた。

現界した娘であった女神は、事もあろうに堕ち神と化していた。



目覚めた女神は、既に輝を喪っていた・・・


蘇った娘からは愛しさを感じられず・・・


唯・・・空しさが心に拡がっていくのを停めれずに。


「あなたはミハルじゃないわ!

 あの子はきっと光を纏って帰って来るのですから!」


拒絶する美雪に、美晴の身体を一時の憑代とした娘だった者が悲し気に零す。


「私も・・・きぼうが欲しかった。

 人の世界で絶望を知らされるまでは・・・こころを汚されたくはなかった」


娘だった者からの答え。

それは争いを繰り返す愚かな人類への無念さが滲んでいる。


「だから・・・ひかりが欲しい。

 月の光だってこんなにも美しいのに・・・」


窓辺に映る満月を見上げるミハル。

薄暗い室内に<ひかり>を溢すのは月だけ。


「月にはあの子達が居る筈・・・もう少ししたら来てくれるかもね。

 こんな薄汚れた世界を変えてくれる・・・本当の人類が・・・ね」


憑神ミハルは、預言じみた言葉を残した。


「いつの日にか、終わりがやってくるのよ。

 希望も絶望も関係ない世界が訪れるの・・・」


終わりを呼ぼうとする手が突き出される。

その手のひらに描かれているのは・・・崩壊を意味するかのような赤黒い紋章。


「再び訪れようとしている。

 地上に破滅を呼ぶ、運命の日々が・・・」


それは母への警告か、人の世を変えるべき最初の申し子への忠言か。


「ねぇ美雪お母さん。

 私って・・・帰るべきではなかったのかな?」


挿絵(By みてみん)

美雪の前に現れた女神。

終焉を食い止めた筈の女神だったが。


堕ちてしまったのか?!

呪いの言葉を吐く女神。

だが・・・真実は?


次回 ACT 7 時の静寂に棲むモノ 後編

真実は月明かりの中で。彼女はやはり・・・

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