Act10 必殺技?!常識じゃん!
闇があるのなら、また光もある。
魔物が現れるのなら魔法少女も!
だけど、緑髪の魔法少女はどことなく頼りなさ気で?
真昼に現れた怪異。
幼子達に迫る危機に。
独りの少女が敢然と立ち阻んだ。
白の魔法衣を身に纏い、紫色のスカーフリボンを首に巻き。
フリルのショートスカートを靡かせ、手には裾の広がったグローブを填めて・・・
真っ黒い魔物にも臆さずに。
「あたぃの魔法を喰らいやがれぇ~っ!」
梢から拳を振りかざして飛び下りて来た。
「鋼鉄のハンマーパ~ンチぃッ!」
グローブに魔法を籠めてあるのか、それともパンチ自体に力があるのか。
憑闇鬼に向かって、右手を繰り出して来たのだ。
ブンッ!
思い切り・・・
スカッ!
宙を薙いだ・・・だけなのだが?
「はへ?」
空振りに終わったパンチ。
目標の憑闇鬼は避けてはいなかったのだけど?
「おにょれッ!猪口才なぁッ!」
「「・・・いや、何もしてはおらんが?」」
あっけに取られる憑闇鬼と、助けられる筈の幼子達。
「ふ・・・ふふふ。
そっちがそう来るのなら・・・次はメガトンキックや!」
額に汗を一粒垂らしたナックルミミが、足を踏みしめて。
「喰らえやぁーッ!」
横っ飛びに蹴りをかます。
ドンッ!
と。
跳んだ猛烈な勢いのまま・・・
すかっ!
と。
「ありゃぁあああああああああああああ~」
勢い余って遠くの野原まで行ってしまった・・・ん、ですが?
どどどどどど・・・
野原から駆け戻って来た、何をやってるのか分からない魔法少女が。
「この野郎ッ!避けるなよなぁッ!」
「「だから・・・何もしておらんだろうが!」」
憑闇鬼も、どうして良いのか分からないみたいですね。
そして、逃げるのも忘れた小学生達は、眼を点にして戦闘(と、言えるかどうかは別にして)の趨勢を観ていたのでした。
「「お前は何をやりに来たんだ?」」
「決まってるやろ!お前を倒しに来たんや」
質した憑闇鬼に、びしりと決めるミミ。
「「いや、だから。
俺と闘う気なら、まともに出来ないのかと訊いてるんだ」」
「ふ・・・まだ小手調べやっちゅうに。臆したのか?」
・・・
・・・・・
・・・( ^ω^)・・・
しばしの沈黙の後。
「「ぎゃははははッ!小手調べが訊いて呆れるわぃ!」」
「むかッ!笑うたなぁ!吠え面かかしちゃるッ!」
鬼は呆れ、ミミが吠える。
「言っとくけどなぁ。あたぃはこれが初めての戦闘なんやぞ!
巧く術を放てんって、多寡を括っとったら泣きをみるでぇ!」
は?
「今日が初陣ってやつなんや。
魔法を撃つのも、必殺技を繰り出すんも、初めてなんや!」
はぁ?
「せやからッ、デモンストレーションみたいなもんなんやからな。
今迄のは・・・ちょっとした準備体操みたいなもんなんやぞ!」
・・・はぁ・・・
紅い汚れた目を瞬かせた鬼が、ナックルミミを無視して子供達へ向き直った。
「「あのアホな魔法少女は後で良い。
先にお前等から魔法力を頂くとしようか」」
魔拳少女を阿保呼ばわりした鬼が、幼子に向けて牙を剥こうとした。
「なぁ~にぃ~ッ?!
あたぃを怒らせたなぁーっ!」
無視された魔法少女だか、アホな子だか分からないミミが吠えまくる。
「3ん~度目は・・・外さへんからなぁッ!」
はい、3度目の正直って諺もありますからね。
「「どいつが魔力を持っている?この中にいる筈だ」」
で。
鬼は見向きもしないみたい。
所謂、完全無視扱いにされてますが?
「フ・・・そうか。
あたぃの怒りを受ける気になったみたいやな」
冷静な口調ですが、頭から湯気が立ち上ってますよ。
「憑闇鬼!今度という今度は・・・あたぃの本気を喰らうんや!」
で?何をする気でしょう。
バッと、両手を開いて・・・掲げ挙げて?
「天に居わします聖なる女神よ。
あたぃに闇を打ち倒す力を与えよ・・・与えるんや」
呪文のようなスペルを唱え始めたようですけど?
「色即是空、烈王破魔矢。
荒ぶる神々、荒くれる風よ。あたぃに神力を貸せ!」
と、差し翳していた右手をブンブン振り回し始めました。
「あたぃがナックルミミと呼ばれるんは。
これが属性だからや、拳から湧き出す・・・烈風が闇を滅ぼすからや!」
見る見るうちに、ミミの右手が超高速回転を始めて。
「喰らえやぁッ!これがあたぃの必殺技。
<烈風牙ナックル・トルネード>やぁッ!」
目にも留まらぬ速さで右腕が高速回転し、
「シュートぉッ!」
勢いを維持したまま、右手が憑闇鬼へと突き出された。
ピカッ!
突き出された右手の先に、金色の魔法陣が現れ・・・
ドッ!
魔法陣の中心から、旋風が撃ち出された。
ズドドドドドッ!
地面を薙いで、魔力の滾りが迸る。
一陣の風・・・そのような生易しいものでは無かった。
地表をも毟り取り、まるで水平に撃ち出された竜巻の如く。
「「なッ?!」」
至近距離からの攻撃に、さすがの憑闇鬼も見逃しては於けず。
「「馬鹿な?!小童共も巻き込む気か?」」
避ければ目的の子供達に被害が及ぶ。
猛烈な風に巻き込まれでもすれば、生死の保証が無い。
「「お前は悪魔か?鬼かッ?」」
避けることも出来ず、憑闇鬼が狼狽える。
が、相手の技がどれ程の物かも分からない今、
「「こんな風如き!」」
竜巻の渦を受け止めようとして、真っ黒な身体で立ち阻もうとした。
ド ドガガガガッ!
魔拳少女の放った必殺技が、鬼の腹にブチ当たる。
「「がぁあああああああっ?!」」
錐状の風に拠って、魔物の腹に風穴が抉られた。
「「あが?あがががががぁッ?!」」
貫く烈風。
吹飛ぶ鬼。
そして・・・
「ふふん!思い知ったか!」
人質でもあった幼子に当たるかもしれなかったのが、分かってもいないのか。
ふんぞり返る魔拳少女のナックルミミ・・・
「あたぃの勝利や!」
腹を貫かれ、滅びを与えられた憑闇鬼が。
「「畏るべし・・・見境無し娘・・・」」
断末魔に零したのは、
「「魔力を撃ち出せるとは・・・これぞ、魔砲というモノか」」
魔法少女の中で、格段に戦闘力の高い者を言い当てて。
「「我が滅びても、代わりがお前を捕らえるだろう。
次の闇は、お前をも狙うだろう・・・ぐふ」」
滅びを迎えて消え去って行った。
「ふんッ!あたぃは負けへんのや。
数いる魔法少女の中で、髄一の魔力を貰うたんやし!」
ビシッと消え去った鬼を指して。
「ナックルミミは、この世界の救世主を助ける為に存在するんや!」
存在理由が、メシアの救援に在るのだと言い切り。
「せやから!悪の栄えた試しは無いんやからな!」
決め台詞を・・・きっちり残して行くのでした。
憑闇鬼をたおした!
深緑の髪を靡かせ、翠の瞳に炎を燃やし。
魔拳少女、ナックルミミが勝利を収めた。
ピキーンッ!
左の耳に着けている、翠の宝石を設えたイヤリングが鳴る。
「うん?まだ・・・なんか居るんか?」
魔拳少女として、初陣を飾ったミミが。
「銀ニャン。ここらに敵がおるんでっか?」
イヤリングを押さえて訊くのだが。
ー 居るぞ、しかもさっきのとは別の奴が ー
見えない敵の存在を教えてくれた。
「さっきの・・・憑闇鬼とは他の?」
ミミが辺りの気配を探ろうとした時だった。
ごごごご・・・・ゴゴゴゴゴ
地鳴りが辺りに響き渡り、森の一角が突然盛り上がり始めた。
「なんや?!ありゃぁ?」
鬼などとは規模の違う存在。
闇の住人が地底からやって来るなんて、ミミに分かる筈も無かった。
「地震?火山?!いいや、あれは・・・」
地面が盛り上がり、崩れて・・・
ズズズズ・・・がらがらがら・・・
地表に出て来たのは?
「あれが?!邪操の・・・機械兵!」
魔拳少女ナックルミミが叫ぶ。
地の底深くから現れ出た、鋼の兵を指して。
闇の意志に操られる、人に仇名す邪操機械兵を・・・
ちゃっかり!
必殺技なんてモノを?!
やれば出来る娘ちゃんだったんですね。
ですが、今度の敵は機械兵ですけど?
大丈夫なんですか?ナックルミミさん??
次回 Act11 魔砲少女
魔法少女が歯がたたないのなら。魔砲少女の出番ですよね?!




