Act 9 魔戒の少女
人類は新たな脅威に晒されていた。
闇から出現する邪操の傀儡。
闇の魂を宿すと言われる悪魔の機械兵。
そして、憑闇鬼達との戦いが始まっていたのだ・・・
夜の闇に蠢く怪異。
人の中に在る魔法力を糧とする魔物。
何も知らない無力な人ならば出遭わない。
魔力を持たない人の前には、現れないから・・・だが。
魔力が秘められてあるのを知らずに生きて来た少女は、出遭ってしまうかもしれない。
未知なる存在に。
悍ましい魔物に。
魔法少女の魔力を貪りつくす・・・憑闇の鬼と・・・
「邪操の傀儡が現界した模様!」
指令室に警報が鳴り響く。
オペレーターのアナウンスと共に、メインモニターに出現位置がマークされる。
「邪操機兵の反応もあります!
敵は邪操機兵を伴う憑闇の魔物です!」
警報が鳴り響き、IMSの各部署に出撃を促すのは。
「各員、第1種戦闘態勢へ!」
声のトーンを落として、冷静なルマ司令が発令した。
「目標の殲滅を優先する。魔法戦闘団出撃体制に移行せよ」
出撃命令を下す司令に、隊長であるシキが復唱する。
「魔法少女隊、出撃します!」
即座に出撃搭乗員へ向けて振り返ると、
「出撃可能機は?」
戦備が整え終えられてある機体を訊く。
「初号機及び、零号機の2機なノラ!」
魔法力で緑髪から本来の金髪に変わったローラが、スクリーン上の機体を指して返して来る。
「よしッ!ノーラ。直ちに出撃準備にかかれ!」
「了解なノラッ!」
金髪の盗賊能力者で零号機パイロットのノーラが頷く。
属性を強化させ得る魔法の戦闘機械、翔騎が空中母艦<大鳳>に搭載されていくのが、メインモニターに映し出されていた。そして、2番機の初号機も。
シキ隊長が、初号機パイロットへと目を向けて。
「美晴・・・往けるかい?」
赤いリボンを左サイドに結った少女へと質す。
「勿論!大丈夫だよシキ隊長」
少しやつれた感じの美晴の顏を気にしているシキ隊長だったが。
「そうか・・・ならば。出撃せよ、魔砲少女ミハル!」
「イエッサー!」
元気よく声を張り上げた美晴に。
「気を付けるんだぞ、美晴」
少しばかり不安を感じたのか、注意を促して。
「調子が優れないのなら・・・」
無理はするなと念を押そうとしたのだが。
「大丈夫だってば!あたしは魔砲少女なんだからね」
ニコリと笑って返されてしまう。
しかし、司令ルマは見抜いていた。
「やはり・・・闇の侵蝕が進んでいるようね」
右手に在る痣の色は、グローブに隠されて見えてはいなかった。
だが、娘でもある美晴の表情に、僅かな翳りが在るのを見逃す筈も無い。
「後どれ位・・・保てるのか」
娘が夢魔に拠って侵蝕され続けているのを知らぬ訳も無い。
闇に蝕まれ、次第に聖なる力を失い続けている様子を見抜けない訳がなかった。
「罪作りな・・・人よね、私も」
呟く声は、誰にも届いてはいなかった。
娘を想う母の声は、美晴へは届いてはいない。
だけども、邪気から人を守るべき存在のIMSの司令ならば命じなくてはならない。
「出撃しなさい、魔法少女隊!」
ルマ司令の命令で、全員が挙手の礼を贈る。
「発進せよ!大鳳」
準備が整えられた空中母艦へ、直ちに出撃せよと命じ。
「邪操機兵を殲滅せよ!」
出現する機械兵との決戦を求めるのだった。
ビィーィッ!
発進シークイエンスが始る。
零号機に登場するノーラが黄色のスーツを靡かせて踊り込む。
機体へと続く、筒状の落下トンネルへと。
「お先にぃ~ノラ!」
初号機パイロットである美晴へ一言残して。
微かに頷いた美晴が、身体を廻してトンネルへと飛びこむ寸前に。
「美晴、本当なんだろうな?」
シキ隊長が呼びかけた。
「本当に・・・無理してないんだろうね?」
心配気な目で見詰めて。
「あ・・・っと。そうだね、心配してくれるんだよね」
立ち止った美晴が、そっと右手に填めている蒼き珠を掲げると。
「大丈夫だから。
あたしには、この石があるし。
それに赤鞘もいるから・・・ね」
気丈に振舞ってシキの心配を解こうとする。
「もぅ、シキ君は心配性なんだから」
微笑みを浮かべて手を振りながら搭乗筒に飛びこもうと背を向けた時。
「待って、美晴」
その右手をシキが掴んで。
「おまじない。
美晴を護る・・・俺からのおまじないだから」
右手の痣から何かを感じ取ると。
「もしも闇に呑まれそうになったら、俺を呼ぶんだぞ」
真摯な表情で忠告を与えて来た。
「え?!あ・・・うん」
真っ直ぐな瞳に、美晴はドキンとなる。
心の底に仕舞ってあった辛さが頭を擡げそうになる。
「あはは。もぅ、シキ君てば。
あたしがピンチに陥る訳なんてないでしょ?」
心では助けが欲しくても、言葉は裏腹に出てしまう。
強がりを言うのは、シキ達に迷惑をかけたくない一心からなのだ。
「あっという間に討伐してくるから・・・ね」
眼を併せず、搭乗筒に駆け込むミハルに対してシキは思った。
「討伐すれば、また闇の魔力が強くなるだけだろうに」
美晴に掛けられた呪いの存在を知るシキには、魔物を滅ぼせば滅ぼす程に影響を受けるのだと分かるから。
「無事に帰って来れば、俺がどんな事をしたって・・・」
だから、闇の魔力を未だに行使出来るシキが美晴の痣を中和していたのだ。
闇の魔力を抜き取り、代わりとして美晴の聖なる血を貰っていた。
「喩え、俺の身体が滅びるとしたって」
美晴の入った搭乗筒を見詰め、必ず護ると誓いを新たにして。
「美晴だけは・・・救ってみせるよ」
自らが産まれた理由を、そこだけに見出していた。
盆地の山里に変異が現れる。
小学生達の間近に、黒い翳りが現れる。
「きゃああああぁッ?!」
絶叫が、身に迫った危機を告げ。
「た、助けてッ!」
恐怖に支配された幼子達から救援を求める叫びが。
「「魔力を秘めるのは、どこのどいつだ?」」
真っ黒な怪異が、魔法の子を探し求める。
「「教えないと、一人残らず連れて行くぞ」」
口も鼻も無い、真っ黒けのバケモノから声が流れて。
「「先ずは・・・お前からか?」」
覆い被さった少女に向かって脅す。
「嫌ぁッ!お母さぁ~ん!」
魔物が目当ての少女へと穢れた手を突き出す。
「「さぁ!魔力を貰うぞ」」
襲い掛かる脅威に、少女達は為す術もなく・・・
「そこまでやで!」
不意に。
「その汚い手を下げたらどうなんや!」
少女の声が辺りに轟く。
「「ぬがッ?誰だ」」
怪異は声を張り上げる相手を探した。
地上には・・・影もない。
だが、張り出した木々の梢から。
「いい加減にせぇやって、言うたんや!」
真昼の太陽を背にして・・・
「「なんだとぉッ?!」」
白い魔法衣を着た少女が拳骨を突き出して揮う。
「あたぃが来たからには!憑闇鬼なんか、滅ぼしてやるんやからな!」
白のグローブに怒りを籠めて。
真白き衣を羽織る少女が、魔物を睨みつける。
「「お前は?!」」
魔物が、魔法少女だと見抜き吠えたてる。
「あたぃか?
あたぃは・・・魔拳少女の・・・ナックルミミ・・・や!」
魔法力を拳に籠め、魔を討つ姿。
その少女は・・・翠の瞳に深緑の髪を揺蕩わせていた。
少年少女の前に現れた怪異。
そして、対峙するのは?
魔拳少女?!
翠の髪を靡かせる・・・スレンダーグラマラスな女の子?!
一体、どんな技を秘めているのでしょうか?!
その前に・・・正体バレバレ~~~W
次回 Act10 必殺技?!常識じゃん!
魔拳少女は!負けへんのやぁ~~~~!とか、申しておりますが??




