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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第2部 魔砲少女ミハル エピソード 7 新たなる運命 新しき希望 第1章魔砲少女
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Act 6 翳

突然の挑戦者。

月神げっしん 御美みみと名乗った下級生は、美晴みはるとの勝負を求めてきたが・・・

飛び出して来たのは、見かけたことの無い下級生。

黒髪なのに、光の反射で翠にも見える不思議な髪色の少女。


「見つけたでぇ~!やっぱり帝都学園に居ったんやな!」


自分と勝負しろと迫る下級生。


「今のあたぃとぉ~ミハルのぉ~、どっちが強いかを決めるんやぁ~!」


いきなり現れて、決闘を迫る少女。


「・・・誰かな、あなたは?」


見かけない子に決闘を申し込まれた剣舞部のエースは。


「勝負って、剣戟じゃぁないよね?」


少し困ったような顔になって訊き質す。

勝負を申し込んで来た子が得物を持っていないのを確かめて。


「剣戟・・・って、なんや?」


案の定、相手の少女は剣道を齧ってもいないようだ。


「あたぃは異能ちからで勝負を決めるって言うたんやけど?」


「ちから・・・はぁ?腕相撲とか・・・かな?」


言葉の行き違いで、意思疎通が測れていない。


「ちゃぁうぅ~ッ!異能ちから言うたら、魔法でってことやんか!」


「魔砲・・・いや、魔法?・・・ここで?」


指を廊下に向けて少女へ訊ねる。

学園内で魔法決戦を挑むのかと質す直すと。


「そぉ~や!今ここで。今直ぐに、や!」


下級生は直ぐにでも決闘に突入する気なのか。

ミハルへ向けて闘志を顕わにしている。


と、そこへ。


「おっほん。転入生の月神さんだったかしら。

 初日から、謹慎処分になりたいようね」


背後から、大貫教諭が現れて。


「上級生にタメ語を使い。

 尚且つ、禁止されている魔法力の行使を仄めかせるなんて。

 言語道断ですわよ!」


決闘少女の襟首を摘まみ上げて窘める。


「あ?!いやあの、これには深い訳があるんや~」


「言い訳は職員室で聴きます」


反論は許さないとばかりに、大貫教諭は月神と呼ばれた少女の襟首を摘まんだまま連行していく。


「あにゃぁ~~~~なんでやねん~~~~ッ」


「ほら、きりきり歩くのよ!」


廊下の先に消えて行く二人の姿を見送っていた、剣舞部のエースであるミハルに。


「あ・・・先生」


大貫教諭がこっそりとVサインを送ってきているのを見つけて。


「ありがとうございます、先生」


感謝の面持ちで一礼を贈った。





帝都学園の魔法科学部は鉄筋コンクリート3階建て。

南北方向に建てられた校舎の隅に在る、宿直室と書かれた立て札が下げられた部屋。


通常ならば、用務員か宿直の教諭が泊まる部屋だが・・・


 コンコン


ノックの音が中に居る人の耳へ届く。


「開いてるよ、入って来て」


青年の声が訊ねた者を招き入れた。


 キィ・・・


微かな軋み音を残して、ドアが開かれ・・・


「お疲れ・・・美晴みはる


入って来た女生徒の名を呼びかけた。


 パタン・・・


「辛いかい・・・今日も」


閉じられたドアの前には、剣を収めた袋を手にした黒髪の少女が立っている。


「いいえって言ったら・・・嘘になるよね」


前髪で顔の表情が分かり辛い。

だが、言葉の端から伺える。


「おいで、美晴」


部屋の中は、窓から入って来る夕日に染まって、ほの明るい。


「コッチに座って」


遮光カーテンが半ば迄引かれた陰の部分。

床から一段高い部分に敷かれた畳の上に。


「俺の側に来て」


上履きを脱いだ美晴が、声に招き寄せられるように近寄ると。


「ごめんね・・・シキ君、いつも・・・」


刀を収めた袋を置いて。


「迷惑ばかりかけちゃって・・・」


夕日に染まりながら、陰に居るひとへ謝った。


「謝る事なんてないさ。俺が勝手にお節介を焼いてるだけだから」


声のトーンから、シキと呼ばれた青年が心配している事が分かる。

お節介だと言ったが、本当は・・・


「だって!あたしの身体に取り込まれた闇を取り除くなんて。

 光を手に出来たシキ君を、闇の者へ戻す事にならないかって思うと・・・」


美晴が思い詰めたように俯く。


「言っただろ美晴。

 俺は好きで・・・邪気抽出を行うんだから。

 闇の異能がまだ使えるから、闇のプリンスと呼ばれてた時の魔力がね」


「だからって・・・無茶だよ。

 あたしは堕ちた女神の呪いを受けてるんだよ。

 いつかは、闇に染められちゃう・・・黄泉帰り者なんだよ?」


シキが取り成したが、美晴はグッとスカートを握り締めて。


「堕ち女神かみが予言したように。

 いつの日にかあたしは・・・悪魔になる、魔女と成る。

 そして最後には・・・<無>になってしまう運命なのに」


肩を震わせて恐怖に苛まれている。


「・・・美晴は。

 美晴を奪わせたりしないよ」


スカートを握る手に、シキの手が重なる。


「幼い時から決めていた。

 俺はこの為に産まれて来たんだって。

 美晴を護る為だけに、この世界に産まれたんだって・・・ね」


そっと、右手に。

呪いを受けた痣のある、美晴の右手に重ねて。


「俺達が出逢えたのも。

 俺が闇から抜け出せたのも。

 みんな美晴を護る為だったんだと思えるんだ」


「シキ君?」


重ねられた手から、異能ちからを感じ取って。


「美晴は喪わない。

 美晴だけは、生き続けなければならない。

 譬え、女神が呪い続けようとも。

 喩え、世界が滅びることになろうとも。

 俺が護り抜いてみせるから」


優しい言葉・・・頼っても良い存在。

幼馴染の青年からの言葉に、美晴は涙を湛えた目で見詰める。


「あたしは・・・生き続けても良いの?」


「ああ、生きていて貰いたいんだよ」


シキの瞳が赤く染まる。

それは闇の異能を行使してる証。

邪気に染まった澱んだ赤黒さではなく、澄んだ清らかさのある紅色。


「そう・・・か。そうなんだよね?」


右手の痣から邪気が吸い取られていくのを感じ取り、美晴が少しだけ微笑んだ。


「ああ、そうだよ」


そして、邪気を取り除くシキも・・・




夕日の染まった部屋。

夕日で影を伸ばす二人だったが。


「次は・・・俺の番だ」


手を離したシキが、紅い瞳のまま美晴に告げた。


「うん・・・いいよ」


既に悟っていたかのように、美晴が上着へ手をかける。


ボタンを外し、脱いで。

脱ぎ終えた上着をたたみ終えると。


「あ、っと。ちょっと待ってね」


スッと立ち上がり、暗がりに居るシキの前迄進むと。


「後ろからの方が・・・良かったよね?」


くるりと背を向けてシキの傍に座り込んで。


 シュル・・・シュルル


制服のネクタイリボンを解き、ボタンを外していく。

上から3つほどボタンを外してから、シャツを肩からずらして・・・


「はい・・・これで良い?」


襟を開き、肩に下げて。

左のうなじを晒して、そこに在る生まれながらの痣を見せた。

それは、光と闇を表す痣。美晴がこの世に生を受けた時から刻まれた紋章。


「ああ、良く見えるよ。輝ける者の証が」


前髪を垂らしたシキの顔が、美晴のうなじに近寄って、


「また・・・育ったみたいだね」


紅い瞳で見つめていた。


「え?!もぅ!シキ君の馬鹿」


白い肌が夕日に染まり、開け出された肌を染める。

シャツから零れたブラのラインが、大きく育った胸を強調して魅せる。


「ああ、俺は・・・馬鹿だよ」


「あ?!ごめんなさい。そんな意味で言ったんじゃぁ・・・」


美晴のうなじにシキの息がかかる。

細い首筋へ、シキの口が近寄る。


「ああ、分かってるよ・・・」


吹きかかる息を感じた美晴の身体が、ほんの少しだけ緊張した・・・



 キラッ ・・・と、シキの口で何かが光る。


「あ・・・あ?!」


シキの唇を感じた美晴が、思わず息を呑む。



 クチュッ!



うなじに在る紋章部分に、シキの唇が・・・



 プチュッ!



僅かな痛みの後、言い知れない感覚がうなじから捲き起きる。


「ん・・・うんぅぅ~~~~」


ゾクリとした感じが、一瞬で言い知れない快感へと挿げ替えられて。


挿絵(By みてみん)


 ツゥ~~~~


シキの唇から、紅い筋が零れる。


「あ・・・あ・・・あふぅ・・・ぅんッ」


眩暈にも似た感じと、真っ白になっていく頭の中。

吸血されていると感じる動揺と、魔法力を与えてシキの闇を中和できるという達成感。


「くぅん・・・あ・・・あ・・・」


喘ぎ声を上げそうになる口を閉ざそうと、人差し指を噛んで耐える。


「シキ・・・君・・・」


このまま続けられでもしたら・・・それこそ気を失いかねない。

その前に・・・イケない行為に縺れ込みそうで。


「も・・・良いよね?」


何とか自制心がある間に辞めて貰おうと、震える声で頼んだ。


「いいや、まだだ」


でも、シキは傍から離れようとしない。

いつもなら、頼べば直ぐに解放してくれるのに。


「なぜ?」


「今日はいつもより不思議な異能を感じるんだ。

 なんだか知らないけど、女神級の異能と出会ったんじゃないのかい?」


思いつきもしない理由を返された美晴は、


「知らない・・・知らないよぉ」


訳も分からなくなって。


「そんなに女神級の異能ってのが美味しいのぉ?」


シキに訊き返す。


「・・・あのなぁ美晴。もうとっくに異能回収は終わってるんだが?」


「は?はへ??」


傍からは離れていないが、当に首筋から唇は離れている。

会話していたのだから、当たり前だと言えば当たり前の話だ。


ハッと気を取り直して背後に振り返ると。


「接触して来た者の中に、強力な魔力を持った者が居た様なんだ。

 そいつの残留思念と云うか、想いというのか。

 桁外れに美晴を想う奴が居る様なんだけど・・・知らないのかい?」


真摯な表情で問いかけて来る。


「あ?えっと・・・知らないけど?」


そう答えて、少し違和感を覚えて・・・


「あ?!まさか、さっきの傍迷惑っ娘が?」


大貫教諭に連行されていった転入下級生を思い出して。


「あたしに決闘を申し込んで来たが居たっけ?!」


「どうやら美晴の思う通り・・・その娘らしいね」


今迄、学園に居なかった魔法使いとの認識から思い至る。

しかしその娘が女神級の魔力を、どうやって手に出来たのかは分からないが。


「暫くの間は、様子を見るしかなさそうだけど。

 美晴に害が在るのが判れば、俺が只じゃぁ済ませないから」


「シキ君にはこれ以上迷惑かけたくは無いし。

 自分の事は自分で決着してみるから」


相手次第では自分が出張ると言うシキに、美晴は遠慮して応えるのだが。


「駄目だよ美晴。もう少し甘えて見たらどうなんだ?

 今は、宿った堕ち神に対処するのが精一杯なんだろ?」


シキからの思い遣りが、心を癒してくれた。


「ありがとう、シキ君。

 でも、これがあたしの宿命なのなら・・・

 堪えてみせなきゃ・・・だよね」


精一杯の強がり。

優しくしてくれる人への思い遣り。


本当は今にも折れそうな心だと言っていたのに。


「そう・・・か。美晴はまた強くなろうって言うんだね?」


心の内を推し測り、助けは最低限に留めておくとシキは言った。


「そう!こう見えてもあたしは・・・」


魔砲少女ミハルなんだよ・・・と、答える前に。



 ドカッ!



いきなり戸がこじ開けられて。


魔鋼少女隊ストライカーズエースの、島田のミハルっちだノラ!」


居残り授業を受けていた筈のノーラが乱入して来た!


「そうだよね、ミハルさん」


ローラも・・・



で?


良い雰囲気だった二人は・・・いや、見つかるとヤバイ雰囲気だった二人は?


「あはは・・・呼んだ?」


「なんだよ二人して飛び込んで来るなんて?」



 とんとん・・・とんとん・・・



シャツをずらしている美晴と、背後に居るシキ。


「イチャくっているとばかり思ったノラが?」


「何やってるの二人共?」


覗きを敢行しようとしていた二人の前で。



 とんとん・・・とんとん・・・


挿絵(By みてみん)



「いやなに。肩を叩いて貰ってるんだけどぉ?」


「なにせ、毎晩の闇祓いだからさぁ。肩も凝るって話だよ」


老夫婦みたいな姿を見せていた・・・んだとさ。

美晴は懼れていた。

いつかは消えてしまうのではないかと。

闇の異能に負けて、自分の存在が無くなってしまうのではないかと。


光と闇。

美晴とシキ。

二人の絆が断たれようとした時、奇跡を起こしたシキ。

死の淵から蘇らせてくれたシキに恩を感じ、同時にシキの願いをも受け入れていた。


「生き続けるんだ」

シキの願い、美晴への想い。

そして願いを遂げる為に、二人は互いの命を取り留め合おうとしていた。


闇に冒されてゆく美晴を、闇の異能で救おうとするシキ。

闇の影響が増大しても美晴を助けようとするシキへ、美晴は光を授けて堕ちるのを防ぐ。

二人はこの先、いつまで傷を舐めあわねばならないのだろう・・・


次回 Act 7 殲魔の魔女

闇の魔物が襲い来るとき、少女は敢然と立ち向う!

光と闇の顔を持った、悲運の少女がそこに居た・・・

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