Act 2 息吹
世界に魔法が復活してから十年以上が過ぎた。
再び闇の者が出現し、世界に脅威が復活した。
だが、まだ一般には明らかにはされていなかった・・・
日ノ本国。
大洋の東に位置する島国。
温暖な気候に恵まれ、四季の恵みに育まれた和の国。
古から続く、独自の文化が今も色濃く残っている・・・
晴天の下、杜の中でも暑さが感じられる・・・夏の昼下がり。
サッ・・・サッ・・・サッ・・・
ランニングとホットパンツ姿の、竹箒を揮う少女の姿が境内に観える。
と、そこに。
「御美?!ミミはどこじゃぁ~?」
お年寄りの声が竹箒を持った少女を呼びたてる。
「はぁ~い!掃除中やで~」
大してゴミや落ち葉も無い境内を掃除している少女が答える。
観れば、少女は杜の社で掃除しているようだが。
「この、虚け者がぁ!帰って来たら巫女務めをする習わしじゃろうに!」
「はぁ~い。御婆様ぁ~」
元気よく答える少女。
黒髪をポニテに結わえた、ボーイッシュな娘だ。
しかも、帰宅した後境内の掃除をするなんて、きっと心根が清いに決まってる。
「ふん~だ!巫女務めが嫌だから掃除の真似をしてたっちゅうのに」
と、のたまわるのは掃除していた振りをしていた子。
「客相手のお茶出しとか・・・頭下げんの、嫌だっちゅうの!」
・・・なんだかなぁ。ツンツン娘だったのか?
ぶうぶう文句を垂れる少女。
嫌々ながら社務所へ歩き始めていると。
「早うせんか!お客がお待ちかねじゃぞい」
御婆の声が急がせる。
「はぁ~い、はぃい!」
気の無い声で受け答る少女に。
「ミミィ!お茶が冷えたら罰として、小遣い減らすからのぅ!」
「え?!マジ?やるからやるからぁッ!」
小遣い減棒の言葉に泡を喰って社務所へ駆け出すのは・・・少女らしさの表れなのだろう・・・か?
シュルンと袖を通す。
シャキッと、袴の帯を締める。
ランニングとパンツ姿だったミミとは、別人のような凛々しさを醸し出す。
白と赤の巫女服姿。
それだけでも神職だと見て取れるのだが、髪を結わえた少女は別格の美しさを誇る。
「あ~あ、邪魔くさぁ~」
・・・言葉はアレだけど。
社務所から出たミミが、社務所長の御婆の前まで来ると。
「お茶は~?お客様は何処です~(棒)」
やる気のない棒読み声で訊ねる。
「むぅ・・・斯様な振る舞いではのぅ・・・ま、良いとするか」
茶卓にほうじ茶を載せ、指で客人の居場所を教える御婆。
「あちらに居られるのじゃ・・・が」
「あちら・・・って?!ええ?」
指差された方を観た途端。
「無理無理むりぃ~!!外人やんか!」
ミミは素っ頓狂な声で拒否した。
「あたぃは外国語なんて喋れへんさかいに!」
御婆に向かってシャーシャー吠える。
「・・・小遣い減棒・・・」
「ぐぅッ!痛い処を責めんといてぇ~なぁ」
嫌々ながら、御婆の指図を受けねばならないと諦めて。
「お茶を出して来ればええんやろー!ぷんすか」
用意されていた茶卓をひったくるように持って、
「黙って会釈したら・・・ええだけや」
自分に言い聞かせるようにして客人へと歩き始めるのだった。
杜の中に客座が設えてあった。
本宮を前に観て、ゆっくりと境内を見渡せられる位置に腰かけているのは。
「ぎょくんッ」
ミミは客人を前にして生唾を呑む。
「間違いない・・・外人だ」
長椅子に腰かけているのは、癖っ気なプラチナブロンドの髪を肩下まで伸ばした蒼い目の外人。
素っ気ない態度でミミが近寄るのを眺めていたが。
「Hey!Have been waiting(はぁい!待っていたわよ)」
巫女姿でお茶を持って来た少女へと叫んだ。
「ひぃッ?!あいどんとの~」
早口の外国語に面食らったミミが悲鳴にも似た受け答えをすると。
「Oh~?!意味不明デスね~」
ヘンテコ日の本語で返されてしまった。
「なんや。日の本語喋れるんかいな」
「Oh~Yes!ちゃんと変換されてるから安心してよね」
変換って・・・なんですか?
「・・・胡散臭い外人やな」
それを言うのなら、怪しいでしょうに。
ついっと二人の眼が合わさって・・・
「ふむ・・・大当たりなようね」
「・・・なんやねん、この外人さんは?」
何やしらの納得顔で、外人さんは頷くのに対し、ミミは怪訝な顔のまま。
そこで、漸くこの場に来た訳を思い出して。
「せやったわ!お茶が生温ぅなってまぅ~」
黄金色のお茶を客人の外人さんへと、
「粗茶にございますが・・・」
頭を下げて茶卓を捧げ出す。
「Oh!わたしはお茶に目が無いのよねぇ~」
茶卓を受け取った外人さんが眼を輝かせていたのだが。
「むぅ~?これは・・・ぬるい。
ふむふむ・・・この国では最初に喉を潤す意味で冷めた茶を献上する習わしがあるのね」
一口飲んでから、
「じゃぁ・・・次が本番って奴?
この不味い一杯で終わりじゃないでしょ?」
お代りをせがんで来た・・・みたい。
「ま、不味いやてぇ~?!」
自分が嫌々ながら給仕に来たというのに、事もあろうに不味いの一言を告げられては。
「この・・・もういっぺん、持って来るさかいにな!」
カチンときたミミが巫女服を翻して社務所へ戻って行く。
後ろも振り向かずに歩いて行くミミを見送る客人の眼が細く笑み。
「フフフ。我ながら、ビンゴってやつかしら」
何かを感じ取ったのか、不敵に笑うのだった。
「畜生やで!ホンマ、腹の立つ外人や」
社務所で怒髪天を突く勢いで茶を点てるミミ。
「ふ・・・今度は。次は不味いなんて言わさへんからな」
普段煎れない抹茶を点てて。
「最高の・・・お も て な し っちゅーのを、みせたるわ!」
にやりんこ と、下衆な嗤いを浮かべるのだった。
用意されたのは、茶菓子と抹茶。
和のもてなしとして、これは外せないだろう。
「ふ・・・お待たせいたしました・・・やで」
先程とは違い、完全に応客態度に徹したミミ。
棒弱無人な客に対しては、相応の作法に則れと躾けられているのか。
身のこなしも先程とは別格だ。
無駄のない、しかも流暢な振る舞いに徹してのお茶出しだったが。
「Oh?!わんだほ~」
客人は振舞など見もしないで、茶菓子と抹茶椀に見とれていやがる。
「くっ?!おめしあがりくださいませ・・・」
ややも、固くなる口調をなんとか和らげるミミ。
そんな巫女には目もくれずに、金髪外人さんは抹茶椀を手に持って。
「す~ぱ~わんだほ~~」
感動したのか、目元を潤ませて。
ずずずずずずずずずずずず~~~~~~~
一気飲みしやがりました。
キラキラキラ~~~~~
「苦みに勝る・・・緑茶の旨味・・・完璧だわ」
目を輝かせ、飲み終えた椀を眺める外人さん。
「これが和の文化って奴?
ねぇこれって<侘び寂び>って奴なんでしょ?」
キラキラ目を潤ませた外人さんが、少女の点てた濃茶に感動してる。
「まぁ・・・そうみたいやけど?」
「はらしょ~ッ!ぶらぼ~!ばんざい~!」
・・・なんだか。胡散臭く思えますけど?
「気に入ったわ、あなた!
お礼に、魔法を授けてあげましょう!」
「はぁ・・・やっぱり。変な外人だったんやな」
いきなり、魔法を授けてあげるなんて云う外人さん。
授けて貰える類が違うとばかりに。
「授けるんやったら、賽銭とかにして欲しいわ」
呆れたように天を仰ぐのだったけど。
「あら~?わたしは女神なんだから。
人に神の力を授けてあげれるのにねぇ」
癖っ気のある金髪を指で弄り、
「本気で欲しいと思ったら、ティスを呼んだら善いわ。
双璧の女神である私を・・・ティスに願うと良いわ」
ニコリと笑う。
「なにを・・・馬鹿な話をするんや・・・」
青空を見上げていたミミが、外人へと振り返ったら。
「へ?!どこに・・・消えたんや?」
客座には誰の姿も無くなり、空になった椀と菓子皿だけが残されている。
「覚えておきなさい、巫女の少女。
あなたが望むのなら、私の異能を与えてあげる。
人では無理な強大魔法の力ってモノを・・・貸してあげるから・・・ね」
そして、最後に聞こえて来たのは魔法を与えると約束した女神ティスの声。
「う・・・嘘やろぉ?!」
姿を消したのは・・・女神?
自分を女神だと告げて消えたのは・・・幻ではない?
「あはは・・・夏呆けって奴やんな・・・これって」
独り客座の脇で立ち尽くすミミ。
「いや・・・嘘やない!こうして茶菓子も無くなっとるし!」
ハッと気が付いて、社務所の御婆の元へと駆け戻り。
「御婆様ッ!神様が・・・降りて来はったんやで!」
今出逢った女神の事を話そうとしたのだが。
「ミミ!茶菓子など振舞おってからに。
余計な菓子分は、小遣いから棒引きにしとくぞい!」
聞き耳など持たない御婆様。
現実世界は厳しかった・・・
「悲ぃ?!損なッ?」
・・・哀れやのぅ、ミミって娘も。
彼女は一体?
ミミが言うように女神なのか?
月神 御美という娘は魔法少女に憧れる?
目標とした皇都学園とは?
新たな少女が現れました。
次回 Act 3 憑闇鬼<つくやおに>
月夜の晩に現れるのは?少女の前に現れるのは・・・




