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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第2章 蠢く悪魔
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Act14 望みはあなた

現れる闇・・・

偏愛者フューリーはリィンを欲しても居た。

そして犯罪に手を染めてもいた。


接触するには危険すぎる相手となっていたのだが・・・

 ・・・アークナイト社構内 人形ドール研究室ラボ・・・


 ・・・PM5:00・・・



室内に夕日が差し込む。

ポールに掲げられていた青地に双頭の獅子の社旗が降ろされていくのが見える。

本日の勤務時間が終わったのだと告げていた。


強化ガラスで覆われた建物内部にある人形開発部から観ていても、終業した作業員達が帰宅の途に就くのが分かる。


「ガードマンも見張っているだろうし・・・先ずは大丈夫じゃろうて」


3階の窓際から見下ろすヴァルボア教授が、帰宅を停められたリィンを慰めていた。


「うん・・・」


力なく答えるリィン。

信じていた友とも言えるフューリーの裏切り行為が、未だに理解出来ずに居たのだが。


「フューリーちゃんは間違ってる・・・話し合えばきっと・・・」


彼女フューリー自分リィンに対する想いを歪ませ、主人であるフェアリー家に反逆してしまった。しかも、事もあろうに大切な人である麗美レィをも怨んでいるという。


「取り返しのつかなくなる前に・・・会って・・・自首して貰おう」


今ならまだ間に合う筈だとリィンは幼い想いを募らせる。

研究室に居れば大丈夫だとユーリィ姉も、ヴァルボア教授も言うが、この場に居座り続けても事態が改善する訳でもないのは、15歳の少女リィンでも分かっていた。


「フューリーちゃんに会わなきゃ」


自分に想いを募らせ、歪な愛に身を貶めた彼女を停めなければと。


「きっと・・・分ってくれる。いいえ、分からせなきゃ」


彼女の罪と、自分への想いが狂ってしまっているのだと。


「でも・・・気になるのは。

 あのフューリーちゃんが単独で極秘資料を盗んだとは思えない。

 誰かにそそのかされたように思えるんだけどなぁ~、誰にだろう?」


永く付き合っていた彼女フューリーだからこそ、リィンは人柄を知り尽くしていた。


「外では凛としてはいたけど、本当は内気で誰かを頼っていたのに。

 メイドとして振舞わなければならないからって泣いていたぐらいだったのに。

 あたしと二人っきりの時だけ、気弱な一面を見せてくれていたっけ」


リィンはフューリーが屋敷に上がった日を思い出す。


「あれは私が10歳になった日だったわ。

 お傍遣いのメイドとしてフューリーちゃんがやって来たのは。

 オドオドとした金髪で可愛い子だった・・・」


メイドの衣装を着たフューリーを初めて観た時の印象。

彼女の祖国が紛争を起こし、御両親を亡くして直ぐに引き取られたとも教わった。


「フューリーはいつも話してくれた。

 今があるのはお父様が助けてくださったから・・・と。

 だからフェアリー家に尽くすのが、自分の恩返しなのって」


瞼の裏に、幼き日のフューリーが翳を伴いながら佇んでいた。


ー それなのに・・・どうして。

  どうしてしまったというの?

 

  助けなきゃ・・・私が。友達であるリィンタルトが!


眼を開けた時、リィンは決断していた。




「どちらへ行かれますのじゃな?」


ドアのロックを解除したリィンへ、ヴァルボアが怪訝な表情で質したが。


「ん~?この部屋には無い所」


振り向きもしないでリィンは出て行こうとする。


「ふむ・・・これは失礼を申しましたな」


ヴァルボアは<無い所>と返されて、咄嗟にトイレだと思い込んだようだ。

だが、決死の想いに囚われていたリィンが言ったのは、全く別の意味を孕んでいた。


リィンが言う<無い所>とは<彼女フューリーが居る場所>という意味だったのだ。


研究室から出たリィンは、パーカーのフードを目深に被り、誰からの視線も浴びないようにした。


「きっとフューリーちゃんは待っている。

 私が探し当てるのを・・・アークナイト社の近所で」


彼女がどこで待っているのかを考えた時、自分ならどうするのかを一番に思いつく。


「捕縛される可能性があっても、真っ先に会う事が出来そうな場所へ行くもん。

 想いを遂げることが出来るかも知れないって所へ行くから」


玄関ホールに足を運ぶリィンは、会った後のことなど思いもしていなかった。

もしも最悪の場合、不幸が訪れてしまうとは考えも及ばなかったのだ。





ー 今、フューリーはアークナイト社にリィンが居るのを把握している筈。

  だとすれば、行く先は自ずと知れる・・・


レィは5キロ先にあるアークナイト社へ駆ける。


ー もし、途中で捉まえる事が出来たのなら・・・私はどうする?


犯行に及ばせなくするには?

フューリーの事だから周到に計画を練っているかも知れない。

それを反故に出来るのか?止めさせれるのだろうか?


焦りは最悪の場合をも想定させる。


ー もし・・・叶わないとするのなら。止める方法はない!


決断は禁忌に触れる。

フューリーが武器を携行している可能性もあるし、間に合わなかったらリィンを人質に取られることも在り得る。


「だから。フューリーより先にリィンの元へ」


一刻の猶予だって在りはしなかった。

リィンがアークナイト社の中に居るとしても・・・だ。


フューリーは人形の情報だけを盗んだのではないとも考えられる。

その折に、アークナイト社の配置図や通風孔、もしかしたら潜り込める方法まで盗み出したかもしれない。そうなったら、何人ガードマンが居たとしたって無意味になってしまう。


犯罪者の心理なんて、レィには図りようも無かった。

それが自分やリィンへ向けられたものであったのなら、尚の事分かりようもない話だった。


「間に合ってくれ」


祈りながら駆け続けるレィの眼に、アークナイト社の外壁が飛び込んで来た。





・・・アークナイト社、北北西外壁・・・


・・・PM6:00・・・



紅魔が刻。

夕日が沈む時、古来より人は魔が降りる時刻だという。



外壁の陰の中に佇んでいる人影を見た瞬間に分かった。

それが人為らざる者であるのが。


黒いマントに覆われた・・・首切りかまを携えた異形の者。


・・・死神。


人の命を絶つ者。

人の宿命を告げる邪神。


そして・・・今は。



「フューリーちゃん・・・でしょ?」


蔭に潜むマントを被った人影に近寄りながら、リィンは声を掛ける。


「・・・リィンタルト嬢・・・」


か細い声が、リィンの問いかけに肯定した。


「やっぱり!良かったわ会えて」


黒づくめのフューリーに、リィンは相好を緩めて手を差し出す。

マントに覆われたフューリーの口元も・・・吊り上がり嗤ったように思えた。


「良く此処だと分かったわね・・・リィン」


言葉の端に、何かを阿る様な響きがあったのにリィンは気付かない。


「聞いたんでしょ?私の事を・・・それなのに何故?」


差し出されたリィンの手を見詰めているのか、それとも気にも留めていないのか。

手を併せようともせず、両手はマントの中のまま。


「聞いたけど・・・信じられなかったから」


「信じられないですって?私の事・・・それとも裏切った方?」


二人は伸ばせば手の届く近さまで寄り合う。


「フューリーちゃん・・・なぜなの?

 どうして私なんかを欲しがるの?」


フューリーの問いには答えず、経緯を求めるリィン。


「なぜ人形の情報を売ってしまったの?

 みんながフューリーちゃんを信じていたのに」


だが、フューリーはマントの中で嗤っただけ。


「フフ・・・本当にお嬢様ねリィンは」


そして話すのは。


「復讐・・・私の。

 これは無惨にも殺された両親への復讐なのよ」


ギリリと歯ぎしりが聞こえた気がする。

リィンの前でフューリーが、ギリシャ神話の復讐の女神<フューリィズ>と化した。


「聞いてしまったのよ私は。

 エリザやリマダが嘲っていた情報を、この耳で聞いてしまったからよ」


そこでやっとマントの中に妖しく光る瞳を見た。

リィンにはフューリーが別のモノと化していく様にも思える程、怖い貌に思えてしまった。


「奴等に因れば、私の故郷ガルシアの紛争地に機械兵を送り込んだそうだ。

 そして無差別の殺戮を繰り広げたのよ、フェアリー財閥の名をひろめる為にね。

 そう・・・このアークナイト社製の機械人形が私の両親を奪った犯人」


「え・・・まさか?」


怖ろしい声で恨みを告げるフューリーに、リィンは耳を疑った。


「リィンには関係がない話かもしれない。

 だけど私は知ってしまったのよ、フェアリー財閥が裏で何をしていたのかを。

 聖騎士アークナイトという名はね、聖十字をも意味してる。

 キリスト教以外の異教徒を弾圧する十字軍になぞらえて。

 私の故郷が中央政府に反目していただけで、

 アークナイト社製の機械兵達が無慈悲な殺戮を行ったのよ」


見返して来るフューリーの眼には、復讐鬼と成り果てた者だけが持つ闇が映る。


「覚えているわ・・・あの日を。

 まだ10歳にもなっていなかった私の眼に焼き付いた惨禍の火を。

 そして銃撃して来た機械兵のロゴを・・・青地に獅子が描かれていたのをね」


怨念か、それとも慚愧か。

父母を奪われた娘から零れるのは、只ひたすらに恨みの声。


「リィンの姉により知らされるまでは、私は幸せだったわ。

 大好きなリィンタルトお嬢様の傍に居られて。

 メイドなのに友達と呼ばれて・・・とっても嬉しかったもの。

 だけど・・・あの日以来私は変わったわ。

 どんなに止めようと考えても、憎さが倍増していくのを停めれなくなった。

 どれだけリィンに話そうかと思ったか知れない。

 ・・・でも、出来なかったのよ」


固まったように話を聞いているリィンが問う。


「なぜ・・・話してくれなかったの?」


その瞬間だけ、フューリーの声が<元>へ戻った。


「どうして?そんなの決まってるじゃないの。

 リィンに嫌われたくなかったからよ!

 大好きなリィンが知ってしまえば、私の居場所が無くなるのが怖かっただけよ!」


元のリィン専任メイドであるフューリーの声に戻って、思いの丈をぶつけられたのだ。


「フューリー・・・ちゃん」


声色こわいろが前の友達だった頃に戻ったと思ったリィンは、今こそチャンスだと手を伸ばす。


「私が一緒に行くから、みんなの処へ帰ろう?」


事情を話して情状酌量を願おうと。


だが、リィンは幼かった。

まだ人の恨みという物を知る年頃では無かったのだ。

深い闇に堕ちた魂を救える筈も無かったのに。


「フェアリー家には戻らないわ。

 仇の元へなんて・・・だからリィンも返さない。

 だって・・・リィンタルトは私だけのモノなんだから!」


牙を剥く闇。

闇に囚われたフューリーは、邪なる手をマントから放つ。

その手に握られていたのは・・・<死神>


「リィンが来ないというのなら!

 私だけのモノにするのが叶わないというのなら!

 人形にしてでも手に入れるわ!

 あなたを手に出来るのなら・・・殺してでも!」


黒いビニール袋をリィンへ突きつけて来るのだった・・・


とうとうフューリーは悪魔に魂を売り渡したのか?

己が欲望の為に、リィンを殺める気なのか?


黒い袋に忍ばせていたのは?


<死神>はどれを連れて行こうとしているのだろう?


次回 Act15 悲劇の銃弾

目の前で起きる悲劇に、君は目を澱ませる・・・

惨劇は紅魔ガ刻に起きる!

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