新世界へ ACT 5 伝説の魔法使い
月より堕ちて来た者。
第3期の新編に併せて来訪したのは?
来訪者を探しているのは<神の僕>
あのレィに率いられる神軍達だった。
全世界を支配していた神の機械達の思惑通りに事が運ぶのか?
それはたった一人の少女に因って変えられた・・
東の果てに在る島国。
古から八百万の神が住まうという日の本の国。
新たなる千年紀が開かれた時を同じくして、島国へと降り立つ者が居た。
宙から。
空に張り巡らされた結界が消えた一瞬を逃さずに。
蒼き輝の珠は神を宿して降り立つ・・・希望の光を放つ為に
前の千年紀の折にも、地上への使者が降りて来た。
その者が成そうとしていたのは、現地に在る殲滅システムへの干渉。
人類を監視し終焉を齎すとされる殲滅装置の停止、若しくはシステムの是正。
月面の裏側に潜む生き残りの人類が送り込んだエージェント。
それが最初の使者であり、彼の正体。
しかし、月の民が送り込んで来た使者は、守護者の知る処になった。
審判を下す機械の主を兼ねる守護者は、彼を封印するに留めた。
その狙いは、月の民に地上への干渉が無駄であると教える為。
それに、今一度使者を送り込んで来た時の切り札にする為だった。
新たなるシ者がより強固にシステム侵入を図るのならば、虜の使者を盾とする。
つまり捕虜としての封印。
月からの使者は、意志体となって降りて来た。
地上の誰かに依存して、ケラウノスへと接触を図ろうと目論んだようだ。
だが、守護者により発見されて封じられてしまった。
人には見つけられない水底深くへ。
機械海獣<リバイアサン>の内部に封じられてしまったのだ。
最初の使者が捕らえられた千年後。
次の殲滅の光が地上を覆った時。
蒼き流れ星が地上へと堕ちた。
蒼き流星の中には、次なる使者が眠っていたのだ。
次なる?
否、これが最期のシ者となる筈だった。
シ者が成功するか、若しくは失敗となるのか。
どちらにせよ、月の民は決着を求めていたのだ。
・・・もう、期限が迫っていたから。
繰り返される殲滅の波動に拠り、地球自体の破滅が近付いていたから。
人類に下される審判の光は、地上よりも地下深くにあるマントルに異常を齎し始めていたのだから。
このまま繰り返し光を放ち続ければ、地球の運命も尽きてしまう。
後、何回で地球の寿命が尽きるのか。
後、何千年で終わりを迎えてしまうのか。
誰にも分らなかったが、確実にその時が訪れてしまう事だけは計算されていた。
月に眠る同胞は、ケラウノスを停めようと手を差し出して来た。
何とかして不幸の連鎖を終わらせようと目論んだ。
それは、図らずも守護者が考えていたのと同じ目的の為だった。
月の民は、自分達が降り立つ大地を守ろうとしただけ。
地上の機械達に支配される仮初めの人類を駆逐してでも、帰還を果そうとしていた。
ケラウノスを無力化するのも、地上を支配する戦闘機械達をも沈黙させる為にも。
シ者に因り、殲滅機能を無力化させる。
優先されるのはシ者の生還よりも、地上の情報を掴む事に在った。
仮初めの人類は、死滅させるのが妥当なのか。
仮初めの人類も、生存させるべきか。
それに拠り、この後執るべき戦略が変わるのだから・・・
「「どこに潜んだ?誰に宿ると言うのか?」」
人類を監視し続ける殲滅機械はシ者を探しあぐねた。
「「トレースに依れば、東洋のどこかだと判断できるのだが」」
落下地点は攫めたのだが、前回とは違って即時の回収が出来ずにいた。
計測された場所からは、使者の痕跡はおろか、反応さえも見つけ出す事が出来なかったのだ。
「「何者かにより回収されたのか?既に宿ってしまったのか?」」
第3期新世界になって、まだ数時間も経ってはいなかった。
人類に新たな記憶が宿って数時間。
その僅かな時間で、使者は隠れることに成功したのだろうか。
「「未発見の使者を野放しにはできない。
月の民への見せしめの為にも、必ず見つけ出さねばならない」」
文明が千年前へと繰り戻された世界で、中空から地上を監視する飛行機械がモニタリングしている。
新しく変えられた人類には、空を飛ぶ機械の存在すら教えられていなかった。
それを観た処で機械だとは思えず、異形の者だとしか考えつけない。
まるで悪魔か、妖怪の類だとしか思えない。
そう。
それを見上げている彼女だとても。
夜空に浮かぶ、物の怪を見上げて怯えた。
「きっと妖魔の類なんだろう。もしかすると<これ>を探しているのかもしれない」
黒髪の少女が木立の中に隠れ忍んでいた。
「私が持っているのを知れば、奪いに来るかもしれない」
懐へ仕舞い込んだ石に手を充てて。
宙に浮かぶ得体のしれない怪異から発せられる紅い輝に怯えながらも。
「きっとそうなんだ。
あのバケモノは、これを探しに現れたんだ。
魔物にとって大事な物なんだろう」
頭上を徘徊する物の怪に見つけられないように木の洞に隠れて、手にした石の事を想う。
「これはきっと、妖魔達にとって忌み嫌うべき聖なる石なんだ。
蒼く澄んだ石なんだから、邪気を祓う力が秘められていてもおかしくない」
黒髪の少女の懐に納められているのは碧き石。
蒼く澄んだ輝きを放つ、謎めいた石。
空を徘徊している神軍の飛行機械は、地上の特異点を探し回る。
「「生命反応が多数存在しているが、小動物らしき物ばかり。
大木の中にも数個確認出来るが、大方リスか何かだろう」」
上空からサーチするが、大木自体の生命力で反応がぼやけていた少女の反応に気付かず。
「「既にどこかへ移動したものと思われる。
近隣へと、探索範囲を広げるべきなり」」
飛行機械は捜索範囲を広げる為に移動を開始する。
探索用のレンズを紅く光らせながら。
一陣の風を巻き起こし、飛行機械が飛び去ると。
「諦めたのかな・・・どこかへ飛んで行ったわ」
ほっとした少女が、漸く木の洞から這い出して。
「この石の事を奏上しなきゃ。
魔物に対抗できる巫女様の元へ、民を憂う帝へと」
狩衣を纏っていた白銀髪の少女が呟いた。
「私だって仮にも北面の武士の端くれなんだから。
帝が無理でも、真盛様へならば、奏上出来る筈だよね」
皇家を守護する北面の武士なのだから、妖しき者を退治するのも務めだと思い。
「もしかしたら、光の宮<真盛>様からこの石を賜れるかもしれない。
邪を祓うことの出来る石ならば、私に与えてくださるかも。
そして、神官巫女に取り立てて下さるかもしれない」
この蒼い石が邪気を祓う事の出来る力を秘めているのなら、手にしてみたいと願った。
「私には、他の人よりも不思議な力があるんだから」
鬼や妖怪達と対峙できる、不思議な力があった。
他人からは鬼神力と呼ばれ畏怖される魔力が備わっていた。
「でも。
何故かは分からないけど、それがいつからなのかが思い出せないのは?
なんだか自分の事が急に造られたような気がするのは何故?」
月明かりに照らされる白銀髪の少女は戸惑っていた。
自分の事があまりにも霞んで思えてしまう事に。
何がどうなって・・・とは、分からないが。
「まぁ、記憶の混乱なんてよくある話だし。
今は、一刻も早く宮中に参内しなくては」
気を取り直した少女は、木立に差し込む月の明かりに照らされて。
「都に蔓延る鬼を探しに来た甲斐があったというもの。
思わぬ宝を手に出来たのかも知れないんだから」
腰に下げた赤鞘の大剣を握り締めて、駆け出して行く。
彼女の懐には、蒼き不思議な石が収められている。
古から伝えられる事になる蒼き珠。
日ノ本と言う仮初めの国に伝わる封魔の珠は、こうして人類の手に渡ったのだ。
持つべき者が手にすれば、蒼き輝を放つ<魔法の石>が。
月より堕ちて来たシ者を宿す、運命の石が。
それを手にしたのは。
「この石が、私を。
北面の巫女へと昇華させてくれるんだ。
聖なる巫女へと、このミコトを!」
後に、帝に見初められて光家の祖となる光のミコト。
皇家の血を受け継ぐ事ともなるのだが、それは別の物語。
伝説ともなる蒼き石の存在は、ミコトが手にした時から始まった。
魔法力を備えられた少女が手にした石が、どのような力を発揮したのか。
それは彼女がとある師匠の下に仕えた事で証明される。
時の帝からの命令を受けた神官巫女ミコトが、遠路大陸の果てまで探索の旅に出る。
女神が眠る国を探し出し、情勢を計る為に。
「まぁ~たくぅ!
お師匠様にも困ったもんだわ」
魔法を宿した薙刀槍に腰かけ、宙を飛んで行く神官巫女。
「なぁ~にが、私の宿命よ!
こんな大陸の果てまで探しに来なきゃいけないんだか」
帝からの命令が無ければ、当に任務なんて放棄していただろう。
師匠からの言葉が無ければ、初めっから受けなかった筈だった。
「私っばかりに損な役目を押し付けるんだから。
筆頭巫女であるミコトに、物探しに行かせるなんて・・・」
ブツブツ文句を溢すミコトの脳裏に、
「「物探しじゃないわよ。
大切な人が居るかを確認して貰いたいだけ」」
不意に話しかけてくる声が。
「ひッ?!
お、お、お、お師匠様ぁッ?!」
「「いつも言ってるでしょうミコト。
あなたが何処で何をしようが、丸見えなんだからね」」
慌てるミコトに、声が教える。
「「それに。ミコトには運命の人を探し出す宿命があるんだって」」
「はぁうッ?!耳にタコが出来るくらい伺っていますけど・・・」
頭の中で聞こえてくる女性の声に対して、ミコトは今一度問い直す。
「運命の人ってのが、師匠様から聞いている王国に居るのですか?
麗しき女神のような女性だと言う事ですけど?」
脳に直接話して来る師匠へ、声を出して訊ねるミコト。
「お師匠様にとって大切な人なのでしょうか?
それとも私にとって大事な方なのでしょうか?」
探索を依頼して来た帝の事よりも、姿の見えない師匠の命を気にしての問いだったのだが。
「「いいえ、ミコト。
探している方は・・・この世界にとっての重要人物。
大君が案じる通り、世界の運命をも握る方なのよ」」
「毎度のことですが・・・意味が分かりません」
幾度か師匠から聞いた事があるみたいだが、ミコトにとって重要さ加減が掴めていないらしい。
「世界の運命って言われても。
その人に拠って滅ぶとでも仰るのですか?」
「「そう言ってるじゃないの、何回も」」
答えはいつも肯定。
世界を滅ぼすくらいなら、悪魔か大魔王の類なのかも知れないと思うのだが。
「それなら、見つけ出して早急に討伐するのが上策では?
なぜ、麗しき女神のような方だと仰るのですか?」
「「滅ぶかは・・・この後の人々に懸っているから。
あのお方によって断罪されるのなら・・・もう一度滅ぶかもしれない。
そうならない為にも、ミコトによって見つけ出して欲しいの。
麗しき・・・王女でもあるリイン様を・・・ね」」
探し当てるのは、どこかの国の姫だと言われた。
一国の姫が、どうして世界の命運を握っているのかは知らされなかったが。
「分かりました、お師匠様。
ともかく、そのリインとかいう姫を見つけ出せば良いのですよね」
「「そう。そして悪意から護れば良いだけ。
あなたなら悪魔如きに後れを取る筈もないでしょうから」」
見つけ出して護れと命じられた。
どこかに居る姫の身を守れと。
「皇家の守護ならいざ知らず。
他国にまで干渉をするなんて、越権だとは思わないのですか?
その国にも退魔師くらいは存在している筈じゃありませんか?」
「「確かに魔法使いはいるでしょうけど。
悪魔ではない人の相手もしなければならないのなら。
神官巫女で北面の剣薙であるミコトの異能が必要なのよ」」
呪詛を司るだけではない、強力な剣技を放てる神官巫女のミコトが適任だと言われて。
「はぁ・・・面倒臭い。
それなら、お師匠様がぶっ飛ばせば済む話じゃ・・・」
溜息を溢して面倒臭がると。
「「それが出来ないからミコトに頼んだんじゃない。
嫌だと言うのなら・・・デコピン喰らわすわよ」」
脳裏へと強烈なる一言が放たれた。
「ぴぃええぇッ?!デコピンっですって?
あの八岐大蛇でさえ一撃で宙の彼方まで吹っ飛ばしたと言う?」
「「それは・・・成り行きでそうなっただけで・・・」」
必殺の一撃を、成り行きで喰らわせたという師匠の言葉に。
「いやいやいや!そんなの喰らったら死にますからッ!」
畏怖を超越して驚愕に震えてしまうだけ。
「分かりましたですッ!お役目、果たさせて頂きます」
涙目で引き受けるミコト。
それが後の世に語り継がれる伝説を生むなんて、考えてもいなかったが。
「理の女神様の言い付けですから!必ずや完遂してご覧に入れます」
お師匠様が見守っておられるからと、力強く感じてもいた。
なにせ、デコピンの一撃で魔王級の邪龍を退治した女神なのだから。
薙刀槍に腰かけた神官巫女ミコトがリイン王女を見つけたのは言うまでもない。
大陸北西の国、長く突き出た半島の国で。
妖精と女神が眠るとされる小さな国で。
運命に導かれた少女達が出逢った。
その国の名は・・・
戦乱の最中、姫騎士と神官巫女が邂逅する。
危機に瀕していた姫騎士を救援したミコトへ、甲冑に身を包む、金髪で蒼い瞳の姫が名乗るのは。
「私はフェアリアのリィン。
王女リィン・・・リィン・ミシェル・フェアリアル!」
審判の女神が望んで産んだ、運命の神子。
そしてリィンタルトと、その母ミカエルの名を継ぐ者。
新たなる世界に生み出されしフェアリア王国。
王女リィンと名を授けられた、神託を宿した神子・・・
フェアリアに伝わる伝説。
<双璧の魔女>が国の窮地を救ったという救国の伝説。
魔法使いの二人によって作り上げられた伝説。
方やフェアリアの女王として名を残したリイン。
もう一人の魔女は伝説を残して去ったと言われる。
秘められた、その後を知る者は居なかった・・・
次回 新世界へ ACT 6 ロストメモリー その後の物語




