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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第5章 聖なる戦闘人形<ヴァルキュリア> 
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Act12 嗤って謀れ!

身体を隠した魔女が来る。

姿を見せない使者が再びリィンの元へと現れる。


そして鍵の御子に承諾を迫ろうと?

銀髪の男、ルシフォルが訪れた日の夜。


月夜の暗がり。

月の光が照らさない陰から。


戦闘人形ナンバー08・・・身体を周りの色に染める魔女が再び忍び寄って来た。


誰の眼にも姿など観えはしないと、多寡を括って。



 ジャリ・・・ジャリ・・・



魔女の歩む足元の砂が鳴る。

昼間には無かった砂地が、いつの間にか出来ていた事など関知せずに。


砂鳴りと共に、靴跡がくっきりと残っているのにも・・・だ。



「魔女を探知!1体だけのようです」


目ざとくキャミィが発見を報じる。


「どうやら奴は周りの景色に溶け込む能力を備えてやがります!

 直接の目視では、視認でき兼ねますが・・・」


「うむ。熱源探知に反応したか」


周囲に張り巡らせてあった観測装置に、まんまと引っ掛かった魔女。


「しかし、御子が知らせなければ発見するのに苦労しただろうな」


傍らに控えるラミアが、キャミィの注視する画面を覗き込んで。


「熱源探知だけじゃぁ、はっきりとした姿は視れないか」


オレンジ色に映る魔女らしき形を揶揄したのだった。


「でも、全く見えないよりはマシですよ。

 いざとなれば、魔鋼弾をお見舞いしてやれば良いんですから」


戦車砲手のアルが、白兵戦用の魔砲を手に携えて。


「作戦が頓挫するなら・・・ですけどね」


ニコリと笑って観測装置と射撃システムをリンクさせる。


「物騒な奴だな、相変わらずアルは」


肩を竦めるのは、ラミアの普段通り。

射撃についてはアルの右に出る奴が居ないのを知っていたからだが。


「魔女を殺るのは、作戦を察知された時だけだ。

 マクドノーの親爺から口酸っぱく言われただろう?」


パスクッチに忠告されたアルとラミアが深々と頷いて。


「アイ!隊長」


命令がない内は、見守るだけに徹すると応じた。


「それで・・・キャミィ。

 接近する魔女は、俺達に気が付いてはいないんだな?」


「確実ではありませんが、警戒はしていない様子です」


画面に映る様子を鑑み、先ずはキャミィの言う通りだと判断できる。

昼の内に造り上げたトラップにも気が付いていないのか。

それとも自身のカメレオン効果に絶対の信頼を置いて居るのか。


「忍者モドキが・・・いつまでも隠れ果せれると思うなよ」


野営を一晩延長させた解放軍にあって、魔女殺ストライカーズしが目論むのは?




姿を見せない魔女にんぎょうの気配が感じ取れる。

昨夜と同じ様に、足跡が迫って来たのを見つけられたから。


「もし魔女を倒すのなら、先手を打てただろうな」


昨晩とは違い、待ち構えることが出来ている。

相手はこちらが何も対策を練らないと思い込んでいるのだろうか。


「テントの周りに砂を敷き詰めてあるのを警戒しないなんて。

 ううん、警戒する程のことではないと多寡を括っているのかな」


迫り来る魔女を待つリィンは、相手の動向を見守っていた。

少しでも警戒する様子を見せるのなら、マックの指示を仰がねばならないと。



 ジャリ・・・ジャリ・・・



足跡が新たに敷き詰められた砂地に描かれて来る。

姿を隠しても、歩いた跡が残されては意味がないというのに。


足跡は真っ直ぐにリィンの元へと進んで来た。


「どうやら・・・あたし達を完全に舐め切っているようね」


翠の指輪を虜にしている余裕なのか。

それとも死神人形から言い含められているのか。


「あたしが拒否せず、無抵抗のままで連行されると思い込んでいるのかしらね」


マックに包み隠さず話した今、無為に応諾する訳がない。

敵の思う壺に嵌る筈も無い。


「どうせ、あたしが居なくなったら無差別殺戮を繰り広げる気なんだろうし。

 そんなことをさせる訳にはいかないじゃない?」


死神人形達、機械軍団の狙いは大方そんな処だろう。

指輪で釣り出されたリィンが居なくなれば、戦術核を以って攻撃する手筈なのは想像に難くない。

鍵の御子さえ解放軍に居なくなれば、強力な殺傷兵器を投入して来るのは目に見えていた。


「だったら・・・あたしはここから動く事は出来ない・・・本来なら」


指輪を取るか、解放軍の仲間を取るか。

選択の余地など残されていないかに思えたのだが。


「でも、どうして監視役の魔女はあたしの居場所を的確に見つけられたのか。

 どうやって監視し続けられているのか。

 強力なカメラを装備しているから?遠方からでも見分けがつく位の?」


手渡されたメモリーで、死神人形が言っていた。

見張り続けていると、逃げたって無駄だとも。


どうやって?誰が?


考えられるのは、今目の前に来ようとしている魔女の存在。

姿を消し、どこかから現れる。しかも的確にリィンの元まで。


鍵の御子として護衛されるリィンの姿を、易々と見つけられるとは考え難い。

だったら他に方法がある筈。


手練れのマックが、いの一番に気付いた。

偽物指輪の存在に。その中に仕込まれた発信機に。


普通の電波なら簡単に探知出来ただろうが、指輪から出ていたのは超長調波。


水中にさえも届く、波長の長い特殊な電波。

半径50キロ付近までは確実に捉えることが可能。

逆探知から逃れ得る出力に特化した電波により、魔女は捕捉し続けていたのだ。


「そう・・・あたしが填め続けると看破した死神人形。

 偽物だと分っていても外さないと観ていたのよ」


だから観測者は間違わずにいられた。


「今迄は・・・ね」


右手を拡げて突き出す。

そこには偽物の指輪など影も無かった・・・




「鍵の御子よ・・・結論を聞こう」


揺らめく影から質して来る。


「拒否など出来ない筈だ。

 即座に我と共に来るのかを答えるべし」


否応無しに応諾を迫り、今直ぐにでも連れ去らんとしている。


「答えはイエス。でも、直ぐには行けないから」


魔女の正面に居るマントを被った娘が答えた。


「む?!声が燻ぶっているのは何故だ?」


「観ての通り、マントを被っているから」


魔女の紅い瞳に映るのは、マントを頭から被る鍵の御子と思しき娘。


・・・マントを被ったくらいで声が変わるのか?



「「作戦開始・・・魔女は気付いていない」」


イヤフォンからキャミィの声が流れる。


「了解。命令在り次第に射撃します」


隠蔽された陰から、アルが応じた。

暗視鏡に大きく映し出された、魔女らしき影に狙いをつけて。



「直ぐには行けないのは何故なのだ?」


「こちらにも都合があるから。

 それに私が居なくなった後、核攻撃を受けない保証が欲しい」


マントを被った娘が、代価を求める。


「今暫くは解放軍に留まる。

 そちらが核攻撃を行わないと約束するまでは」


「交渉するつもりか・・・身を弁えないにも程があるぞ」


鍵の御子が居なくなった後、機械軍団からの戦術核による広域攻撃を避けようと考えたのか。


「交渉に応じるかは、本部に回答を求めねばなるまい。

 御子は死神人形からの命令に応じるのだな?」


「イエスだと言った」


魔女はマントの娘から応諾を伝えられて。


「よし。ではその折を本部に伝える。マントを捲って顔を見せろ」


本人確認を迫って来た。


「良いでしょう・・・」


マントの娘がゆるゆると頭を覆っているフードを跳ね上げ・・・


「「魔女から通信電波が発信された!」」


観測を続けるキャミィからの一報が。


「今だ、アル。撃てッ!」


瞬間を捉えたパスクッチの命令が跳ぶ。


「アイ!発射ッ」


ピンポイント射撃を繰り広げるスナイパーよろしく。



 バムッ!



魔砲を放つアル。



20メートルにも満たない距離。

ほぼ至近距離とでもいえる場所からの射撃は・・・



 ピシッ!



カメレオン効果をものともせず、狙い違わず命中させた。


「どう?あなた達の言う御子よ」


栗毛の娘が魔女へと応える。


「ふむ・・・間違いなくリィンタルトだな」


魔女の紅いレンズに映るのは、間違いなくリィンだった・・・


だが、しかし。


「そうよ・・・」


魔女の前に立っているのは、栗毛の少女には違いなかったが。


「「射撃成功だぜアル!奴は幻影を本物と見誤った」」


リィンとは別人の少女がマントを被っていた。

翠の指輪を填めた状態で、偽物の鍵の御子が魔女の前に居るのだ。


魔女殺ストライカーズしの作戦がまんまと嵌った。

幻影投射装置を、魔女のカメラへ貼り付かせることに成功した。


偽の指輪で弄んだ報いを、魔女へと支払わせてやったのだ。

騙されるのはお前達の方だと言わんばかりに。


「してやったり・・・ね。マック?」


「はい、今の処はですが。お嬢」


二人は別の場所で魔女達の動向を見守っている。


「少しばかり笑っても良いかな?」


「駄目に決まっているでしょう、リィンお嬢」


作戦が思いのほか巧くいったから、笑いそうになったリィンへ駄目だと言うマックだったが。


「ぶぅ!マックは笑ってるじゃないの」


カメラを向けられているリィンは笑えないけど、マックは細く笑んでいた。


「ごほん。いや、これからが本番ですのでね」


作戦の締めくくりに向けて、魔女殺し達がミスを犯さないかと目を配り。


「さぁ!魔女を騙して見せましょう」


最後の仕上げをパスクッチへと命じるのだった。


罠に填めようと試みる者は、自分も同じように貶められるとは考えないものだ。


機械の身体には、欠点がある。

人になら直ぐに分かるものでも理解できない・・・触覚。

肌を通して感じられる痛みに無縁なのは、良い事なのだろうか?


図られた作戦が見事に嵌った!

その時、リィンは?


次回 Act13 マックの涙

別れ・・・それは二人の間に交わされる約束となって・・・

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