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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第5章 聖なる戦闘人形<ヴァルキュリア> 
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Act 6 忍び寄る影

アーンヘルの郊外で改造を受けるミハル。

戦闘力を著しく向上させるのが目的だった。


一方その頃、鍵の御子として従軍しているリィンなのだが?

ミハル達がアーンヘルの郊外に留まっていた頃・・・



機械兵軍団との大会戦を終えた解放軍部隊は、手痛い損害を受けつつも北上を続けていた。


指揮車輛の半軌道車に座上しているリィンは、物憂げに遠くの空を見上げて呟く。


「また・・・多くの仲間を喪っちゃったわ」


オープンデッキ上で、ぼんやりと紅く染まる空を見詰めて。


「あたしってば・・・フューリー以上の死神なのかも」


鍵の御子となった自分が、為さねばならない地上の解放という名目に共感して集ってくれた人々。


ニューヨークに在るバベルの塔に往かねばならない。

それを阻止しようとする機械兵との戦闘で、喪われた幾多の人を想って。


「あたし独りだけが辿り着きさえすれば良い筈なんだよね」


喪った人の顔を思い起こしては、嘆き続ける。


「いっその事、タナトスに捕まったら辿り着けるのかな?」


敵手に墜ちてしまえば、鍵を奪われてしまうだけだと云う事さえも忘れてしまいそうになった。

それ程まで、リィンには戦闘で死んでいった人々が重く伸し掛かってもいたのだが・・・


「リィンお嬢。

 少しは休まれませんと」


いつの間にか傍らに立っていたマックが、優しく諭して来る。


「我々の目的は、機械達から世界を救う事だった筈では?

 それが出来るのは世界中で唯の独り、俺の姫君だけなんですぜ」


戦闘で疲弊したリィンを気遣い、励ます様にふざけて来る。


「うん・・・ありがとマック。

 今夜あたり、ぐっすりと眠るから」


それには答えず、睡眠で疲れを取るとだけ返し。


「全軍にも野営の準備に掛からせて・・・」


今日の進軍はここらで停めようと言うのだった。


「はぁ・・・ここらでねぇ」


指揮車上から辺りを見回すマックが、


「確かに・・・何も在りはしませんがね」


敵軍の気配おろか、野牛の群れも現れそうにない荒れ野。

はるか遠くにグランドキャニオンが垣間見れ、大分大陸奥地に来ているのが判ったが。


「まぁ・・・補給はどのみち望めやしませんが」


せめてリィンには指揮車上ではなく、休める宿を見つけてやりたいと願ったようだ。


「廃屋でも良いから、お嬢が安心して眠れる場所を・・・」


全軍の指揮を託され、解放軍のシンボルとして奉られ。

気を休める暇さえも見つけてやれずに、マックは娘程の年頃の少女が不憫に思えた。


「大丈夫よマック。

 あたしなら、あなたの膝枕さえあれば」


気を揉むマックに、無理やり笑顔を作って向けるリィン。


「だって・・・今のアタシにはマックしか居ないんだもん」


ニコッと微笑む茶髪の少女。

戦闘ともなれば険しい表情で味方の前に出て、勇ましく指揮を執る。

それが今は、あどけない少女本来の顔で微笑んでいる。


「お嬢は・・・男泣かせですな」


「あら?マックも男だったっけ」


歳の差なら、父と娘ほども有る。

歳の差だけなら慕われても狂おしくはない。


「だとすれば・・・襲っちゃう?」


「・・・俺はロリコンじゃぁありませんので!」


マックは慕われているのが嫌な訳ではない。

それにリィンが少女幻想ロリータでもない事だって解かっている。


「あたしって、ミカエルお母様に似てるんでしょ?」


「似て非なるモノ・・・です」


リィンの母との比較。

瓜二つとまではいかないまでも、血の通った親娘ならば似ていない筈が無い。


ミカエルの瞳はリィンタルトと同じ色。

栗毛も、整った鼻も・・・朱に染まる頬も。

そして、ピンクに染まる唇も・・・


「ミカエル様とは・・・似ておられません。

 お母様は貞操観念のお強い方でしたので」


「・・・ぶぅ」


少し拗ねるように口を尖らせるリィン。

母に似ていないと言われ、貞操観念が足りないと言われて。


「あたしだって・・・守り通したいよ」


心に秘めた人に捧げようと決めていると答えてから。


「それが叶わなくなったら・・・貰ってくれる?」


もしも鍵の御子として死なねばならなくなったのなら。

せめて最期はマックに魂を奪って貰いたいのだと・・・考えたのだが。


「も?!貰うぅ~~~~ッ?ですとォッ?!」


マックは早合点して飛び跳ねてしまった。

・・・まぁ、話の流れからして勘違いしても仕方がないが。


「? 変なマック」


飛び退くマックをジト目で観て。


「あたしのイッとな想い。分かったでしょ?」


「お、お、お、大人を揶揄うもんじゃありませんッ!」


最期まで共にと願うリィンに対して、マックは男としての矜持を試されたのかと応える。


だけど?二人共。

全く話が噛み合っていないのに、気が付かなかったのは・・・何故だ?





解放軍は小休止を兼ねた野営を執る。

勿論、辺りを警戒して歩哨をたてていたのは当然のこと。



その最北端。



 ドサッ



数名で警戒に当たっていた最後の歩哨が倒された。

暗闇の中、何者かが殺ったのだ。

しかも警戒していた者を、いとも容易く。


「上長からの命令により、これより目標に宣告へと向かう」


黒い影が、するりと消えていく。


「ファーストから受けていた命令通りに、目標へと伝達する」


消えた影から、機械音声が毀れて。

闇夜の中、何者かが解放軍の野営地に侵入を果した。


そう・・・彼女の手先がやって来たのだ。


リィンの指輪に纏わる事を伝えに。

彼女との交渉を持ちかけに・・・




「ドラム缶風呂ですが。お入りになられませんか?」


マックが気を効かせて風呂を用意してくれた。

女子ならば身を綺麗にしたいと思ったからだろう。


戦地にあって、風呂ほど豪勢な物はない。

しかも辺りには水源地も見当たらないのだから尚更だ。


「あたしの為に?」


「お嬢には体の芯から温まって貰いたいのです」


本当に心づくしなのだろう。

水も燃料も、枯渇しているというのに。


「ううん、その気持ちだけで温まったよマック」


テントの中に設えられたドラム缶風呂。

透明な湯が満たされ、水蒸気が立ち上っている。


「じゃぁ・・・せっかくだから」


勧められるままにリィンが湯に浸かるモノとマックは思ったのだが。


風呂の傍に置いてあったバケツを掴み上げると、


「あたしは、これだけあれば十分だから」


バケツ半分の湯を汲み上げるのだった。


「お?お嬢?!」


驚いたマックが引き留めようとしたのだが、リィンはニコッと笑うとこう言うのだ。


「こんな贅沢をあたしが貰う訳にはいかないよ。

 みんなも我慢してるんだから。

 だからマック、みんなで使おうよ?」


「リィンお嬢・・・ご立派です」


あどけない顔で微笑まれたマックは、返す言葉も無く頷く。

母であるミカエルもそうだったが、娘のリィンタルトも優しさは変わらないのだと再認識した。


「だってねぇ、マック。

 あなたも鏡を観て見なさいよ。

 スキンヘッドが毬栗いがくりみたいになっちゃってるよ?」


マックのトレードマークであるツルツル頭が、伸び出した毛でツンツン状態になっているよと笑うのだ。


「お髭だって、どこかの教授みたいにぼうぼうだよ?」


戦いに明け暮れていた間、手入れをしてこなかったマックを揶揄して。


「このお湯で、前のマックに戻ってよね?

 あたしは、精悍なマックの方が好きだから」


バケツを持って自分のテントへと歩き始める。


「お嬢?!お待ちください。

 それならば今少し多めに汲んで行ってください」


「いいの!これだけあれば。

 あたしはマックと違って刈る処なんてないんだから」


引き留めようとするマックに、振り返って舌を出すリィン。


「あんまりしつこいとお湯が冷めちゃうよ!」


テントの幕を掴んで、


「身体を拭うから、覗いちゃ駄目だからね」


ペロっと舌を出して揶揄うのだった。

野営テントに消えるリィンへ、マックが慌てて言い返すのは。


「誰が覘きますもんですか!

 いいや、何人たりとも近寄らせませんぞ」


自分が見張っているから心配ないとの意味と、


「悪戯な天使なんだよなぁ、我がお嬢は」


分っていないだろうが、男を擽るのにリィンは長けているように感じていた。


テントに消えたリィンを見送り、マックは自分の頭に手をやると。


「確かに・・・ボサボサだな」


生えて来た毛を撫でまわして、刈る事にしようとナイフに手を伸ばしたのだった。



バケツを置いて、上着を脱ぐ。


テントには自分だけ。

この中ならば素肌を曝しても気にしなくて良い。


「ん・・・しょ」


ゆっくりとシャツの袖を脱いでいく。


・・・」


左肩に痛みが奔る。

前日の戦闘で受けた負傷が、未だに痛みを訴えて来る。


「爆風だって、気を付けないと・・・こうなるって事ね」


患部が紫色になっている。

爆風で吹き飛ばされて来た物が肩に当たった。


「これだけで済んだのは幸いだったのよね」


もしも当たった箇所が頭部だったら、この程度では済まなかった。


「気を失ってしまったかもしれないし、下手をすれば眼を潰されたのかも」


内出血して、紫色に腫れた肩をそっと手で覆い。


「それよりも、味方の人達を不安にさせたかもしれない」


自分が鍵の御子であるから。

世界を機械達から奪い返す為に必要な娘。


誰もが自分を救世主のように祀り上げ、怪我一つ与えないように護ってくれる。

その行為により、何人が死傷したか。


リィンは指揮車上で想っていたのを思い出す。


「あたしこそが・・・死神なのね」


闘う機械兵達にとっても、味方である人にとっても。


「フューリーのことを死神なんて呼べなくなっちゃった」


それはリィンにとって、レィを殺した相手よりも堕ちたことを表していた。

仇を討っただけのフューリーも、死神と呼ばれた。

それなら、今の自分はどうなのか?

誰彼とも厭わずに殺戮を繰り広げる死神・・・いいや、悪魔ではないのか・・・と。


「始まりの頃には、あの指輪を取り戻したかっただけだったのにね」


死神人形に捕まり、奪われたエイジの指輪。

翠の指輪をこの手に取り戻すのが、リィンにとっての始まりだった。


それがいつの間にか、機械達から世界を救う御子なのだと持て囃されて。


「確かにロッゾアお爺ちゃんの遺言もあるんだけど」


悪魔の兵器を意のままに出来る紋章を授けられた。

それ故に、鍵の御子と呼ばれて此処に居る。

創造主たらんとするタナトスの野望を潰えさせれるのは、自分リィンだけだからだ。


下着だけになったリィンが、肩の疵よりも気になっていた。

胸の谷間にある紫色の紋章が、徐々に色濃くなっていたのが。


「発動の期限が迫って来たから?

 それとも、何か別の意味があるのかな?」


不安と危惧。

誰にも教えられず、誰の意見も貰えない。

知っているのは自分独り。

孤独感が否応にも増し、気心の知れたマックさえも溢せない辛さ。

戦闘が終わる度に、放心してしまうのは辛さを分かち合える愛しい人が傍に居てくれないから。


「だからと言って、手放せる訳もないよね」


御子と言う立場。世界を邪悪から護る位置が消える訳も無い。


「この紋章を消す時は・・・死ぬ時だもん」


タナトスの野望を食い止められ無ければ、死を以ってでも潰えさせる気だから。


「でも、その時までには。

 エイジの指輪を取り返したいな・・・」


右の薬指にある偽物を外し、そこには無い翠の指輪を求めてしまう。


「せめて死ぬ前に。もう一度填めたいな」


手を伸ばして指輪を求めるように・・・




 ダンッ!



考えよりも早く身体が動いた。

マックから教わっていた護身術の賜物か、元操手だった身のこなしか。


「誰ッ?!」


飛び退き、放り出していた拳銃コルトガバメントを掴んで。


「隠れたって無駄よ!居るのは分かっているのよ」


テントの外に向けて言い放った。


「それに・・・ね。あなたが人ではない事だって解かるのよ!」


リィンは感じた気配から、人ではないと看破した。


すると、隠れていた者が応えて来たのだ。


「翠の指輪を取り戻したいのか?

 ならば・・・我が上長の伝言を聞く事だ」


耳に引っ掛かる金属の声で、


「我等の手に在る指輪が欲しければ、黙って聞く事だ」


テントに何者かの影が映り込む。

黒い影・・・黒い靴先。


それがゆっくりとテントの中へと忍び込んで来るのだった・・・

忍び寄る妖しい影。

リィンの元へとやって来たのは刺客か?

それとも?!


次回 Act 7 拒否権のない取引

姿を見せない者から伝えられるのは?リィンの求めと重なるのだろうか?

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