表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第5章 聖なる戦闘人形<ヴァルキュリア> 
107/428

Act 4 ヴァルボア

墓標の前に佇む老人。


ミハル達が訪れるのを待ち続けていたみたいなのだが・・・

二つ並んだ墓標の前に、白銀髪の老人が佇んでいた。

蒼銀髪の娘と茶髪の少年、それに犬型のロボットが近付いて来るのを見守りながら・・・



老人が佇んでいる辺りだけは、周りの雰囲気とは違った。

二つの墓石が建っている所だけ、草木が生えていなかった。


まるで眠っている人が、いつでも目覚めて出て来られるように。

二人が、つい最近の間に眠りに就いたかのように思えた。



3人が老人の前にまで来ると。


「此処に何か用かのぅ、嬢ちゃん?」


ジッとミハルの表情を見詰めて訊ねて来た。


「こちらに、独りの男性が来ていたと思うのですが。

 何処に行かれたのか、目にしなかったでしょうか?」


探りを入れて来た相手に、ミハルも応じる。


「知っているとも。

 奴はお嬢の元へと向かったようじゃ」


どちらも相手がどう出るのかと、様子見を繰り返すとばかり思ったが。


「お前さんの、操手ドライバーと言えば分かるじゃろぅ?

 あの娘の元へと向かったんじゃよ」


ミハルの表情を探り、少女人形のレィであるのかを確かめようとする。


「ルシフォルさんが・・・なぜ?

 なぜ独りで・・・行ってしまわれたのですか?」


でも、ミハルが訊ねるのは。


「私とグランに、何も告げず」


独りだけで旅だったのかと質したのだ。


「ふむ・・・レィ君。

 君とルシフォルとの間には、新たな絆が結ばれていたようじゃな」


「そうです・・・って、答えたら。教えて頂けますか、教授」


名を告げられてしまえば、隠していても意味がないとばかりに。


「リィンタルトの元へ、どうして向かったのですか、一人だけで?

 それに・・・あの子は機械達に捕らえられているのではなかったのですか?

 教えてください、ヴァルボア教授」


隠していた自分を曝け出して訊いた。

白銀髪の老人がヴァルボア教授であるのと、自分が人形のレィだったのを肯定してみせるのだった。


「その新たな身体は、ルシフォルに与えられたそうじゃな?」


つま先から頭のてっぺんまで眺め終えたヴァルボアが、


「あの日以降に、何があったと言うのじゃ?

 なぜ、お嬢から離れる事になった?

 戦闘人形の身体を捨てた訳は?」


ミハルの質問には答えず、逆に質して。


「儂がリィンお嬢の生存を知ったのは、2週間ほど前の衛星放送で・・・じゃ。

 確かに機械共に捕縛されて居ったようじゃが救出され、

 つい先日には解放軍の一員として闘っておるのが、風の噂で漏れ聞こえて来たのじゃよ」


リィンタルトが機械達から解放されたことを伝え、


「此処ジョージア州より北東にある平原で、機械達と人類解放軍が激戦を遂げたのじゃ。

 双方共に、甚大なる被害を被った挙句。

 お嬢達はニューヨーク目掛けて北上しておるのじゃが・・・」


戦闘に参加し、目的地がニューヨークだと知らせるのだった。


「ニューヨーク・・・やはり鍵の御子としての役目を果たそうとしているのね」


ヴァルボアから教えられたミハルは、どうしてルシフォルがリィンタルトに会おうとしているのかが分かった気がした。


「鍵の御子であるリィンは、きっとタナトスを許さない。

 どんな訳があろうとも、必ずタナトスを滅ぼすだろうから・・・」


ルシフォルはミハルへ頼んだ様に、リィンに会って押し留めようと考えたのだろう。

滅ぼすのは、機械の支配する世界だけに留めて貰う為にも。



「あの個体をルシフォルと呼んでおるようじゃが。

 本当の機械博士ルシフォルは・・・ここに眠っておるぞ」


考え込むミハルへ、傍に建つ墓碑をヴァルボアが指す。


「タナトスの嫁と、隣り合わせにのぅ」


二つの墓碑には、確かにルシフォルとミハエルの名が刻まれてある。


「此処に埋葬したのはタナトスらしいが・・・」


難しい表情に為り、ミハルの反応を待っている。

もし、ルシフォルを人間と思い込んでいるのならば、墓碑の名を信じられないと驚くだろうから。


だが。


「私だって・・・そう。

 ルシフォルさんは言ってました、身体は器に過ぎないって。

 魂の容は、絆によって表されるのだと」


本物のルシフォルが、どんな顔形なのかは知らないが。

救ってくれたルシフォルこそが、自分にとってのルシフォルなのだと答えるミハル。


「ですから。私の知っている人がルシフォルさんなのです。

 この墓碑の下に居られる方ではないのです」


顔形がどうであれ、救ってくれて此処まで導いてくれた人こそがルシフォルだと。


「それに。

 今の私は、このお墓に居られるミハエルさんを映した身体。

 彼が仮初めの身体を持つのなら、私だって同じではありませんか」


仮初めの身体を持ち、仮の魂を宿らせた者同士だと答えて。


「そして彼も私も。

 あの娘に逢わねばならないのです」


リィンタルトに逢わねばならないのは自分も同じなのだと。


「でも・・・どうして独りだけで?」


どうせならば二人で旅を続けて居たかった。

ヴァルボアに、その訳をもう一度訊いてみる。


「お前さんには分からなかったようじゃな。

 あの身体には欠陥があったのじゃよ。

 いいや、欠陥と言うよりは故障が発生したとでも言うべきかのぅ?」


と。

それこそ信じられない一言を返されて。


「故障?!ルシフォルさんに?!」


今迄一度も聞かされなかった。教えて貰っていなかったから・・・


「やはり・・・か。

 アヤツの身体は、核の光を浴びて体表の何パーセントかを壊死させられた。

 人工皮膚であろうとも修復できない程のダメージを受けたのじゃ。

 外気と触れないようにしなければ、ひと月とは保てないじゃろう。

 内部を錆に侵食され、やがては心臓部へも。

 人間が老いていくように、機械の身体も滅びていくのじゃ」


「機械の身体なのに?!滅びてしまうのですか?!」


ヴァルボアが教えてくれた現実を否定していたミハルだったが。


「どうしてルシフォルさんが防護服を着ていたのか分かった。

 なぜ、機械の身体を持っているのに、外気を遮断する服を着ていたのかが」


汚染された空間でも、自分は無事に済んでいた。

それなのに、自分と同じ形状記憶金属と人工皮膚で造られたルシフォルだけが、防護服を纏っていた。


その訳が今になって分かってしまった。


それは彼が言っていたように、ミハルと旅を続けたかったからだとも思えた。

急に体が蝕まれ、動けなくなるのを先に延ばす為に。


「万物に不死などは無い。機械と言えども、無限ではないのじゃよ」


ヴァルボアの言う通りだ。

物には限りがあるのだから。


「奴は健在な内に、お嬢と会うつもりじゃろう。

 お前さんと別れてでも、邂逅を願ったのじゃ」


「なぜ・・・邪魔だったの?」


どうせならば、手を携えて会いたかったのにと思ったミハルへ。


「お?そうじゃった!

 これをお前さんに手渡して貰いたいと頼まれて居ったのじゃ」


懐から取り出されたのは・・・


「あ?!」


それを一目見たミハルが叫ぶ。


戦闘環パワーユニット!」


黒い円環。

戦闘人形が手足に填める、究極のパワー増幅器。


「それって・・・ゼロの?!」


レィの・・・とは呼ばずに、敢えてゼロと言った。


「そうじゃ。

 奴がお前さんから預かっていたと言ったんじゃぞ」


「燃え尽きかけていた身体から・・・保管してくださっていたのね」


滅びた身体から取り措いてくれていたらしい。

戦闘人形レィの・・・形見を。


「そうじゃ。

 そして儂を呼び寄せていた訳をも・・・教えてくれとな」


「訳?」


手渡された円環を手にして。


「訳ってなんなのですか?」


ヴァルボアへと訊ねてから。


「その訳と云うのが、ルシフォルさんが独りで旅立たれたことに繋がるのですね?」


先に旅立った訳とも繋がるのかと。


頷くヴァルボアが、


「そうじゃとも。

 じゃから・・・お前さんの気持ちを質したかったのじゃ」


今迄の会話は、全て次の問いの為に在るのだと。


「仮初めのルシフォルだと知っても尚、逢いたいかのぅ?

 奴の元へと辿り着く為には、その体のままでは無理じゃろう?

 3つの希望を一身に背負うには、戦闘の記憶が必要ではないかのぅ?」


指を3つ立て、それを1本へと減らして。


「心正しき機械の娘よ。

 君には闘わねばならない宿命があるのじゃ。

 消えかけた絆を繋ぎ止めなければならんのじゃぞ?」


一本の指を空へと突き上げて。


「儂の持って来た異能を、君の力に変えてみんかね?」


少しだけ笑ってみせたのだった。




ヴァルボア教授とミハルを名乗るレィ。


二人の再会は何を呼び起こすと言うのだろう?

そして先に旅立ったルシフォルは?



次回 Act 5 蘇った記憶

君は記憶を蘇らせて・・・何を求めると言うのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ