14 暗殺者は張り切る。強力な協力プレイ。
「……それにしても、ちょっとタイミングがよすぎたんじゃないか?」
しばらくして、バルドゥイーンに案内されながら、カリンはふと、思った事を口にした。
「何の話です?」
彼は歩きながら訊ねた。
「アンタが来たタイミングだよ。まるで近くで見てたみたいじゃねぇか」
「まあ、実際見てましたからね」
「あ?」
「アジトを見つけた時に、不審な男が何人か出てきたんですよ。それで不思議に思って後をついていったら、カリンがいた近くで爆発したじゃありませんか。驚きましたよ」
「バカ! 近くにいたなら阻止できただろうが!」
カリンは魔法で氷の塊を作ると、それを掴んでバルドゥイーンの後頭部へと殴りつけた。彼はうめき声をあげて倒れた。死亡。
「しかし、情報収集だけしろと言ったのはカリンですよ」
物陰から新しいバルドゥイーンが現れ、言い訳をする。
「ケースバイケースってヤツだ。ハナが頑張らなかったら、大変な事になってたんだぞ」
「大丈夫ですよ。ハナならなんとかなると信じてましたから」
「うるせぇ! もう一回死ね!」
カリンは持っていた氷の塊を投げつけた。それはバルドゥイーンの額を直撃。再び死亡した。
「止めてください。私は無限に復活できますが、痛いものはやはり痛いのですよ」
次のバルドゥイーンがカリンの背後に現れて言った。それも腰の辺りを指でなぞるというイタズラ付きで。
彼女はこの行動に、思わず奇声を上げた。辺りには他に誰もいないが、恥ずかしくなり顔が熱くなる。
「てめえ! この――」
彼女は恥ずかしさを誤魔化すために彼の首を折ろうと振り向いた。しかし、彼はいない。
「止めてくださいと言っているのです。このままでは、いつまで経っても先へ進みませんよ」
彼の声が耳元で聞こえたかと思うと、肩にズシリと重さを感じた。いつの間にか、彼が肩に乗っていた。
「急いでいるのでしょう? 私の事はいいから先へ進みましょう? ね?」
彼に言われ、彼女は小さく舌打ちすると、始めに殺した方の彼の死体に近づいた。そして、股間を踏み潰した。
「あー! 酷い!」
「別にいいだろ。もう死んでんだし。それに、もう十分使っただろうが」
カリンは意地悪な笑みを浮かべると、そのまま死体を踏んで、真っ直ぐに歩きだした。
「で? どっち行けばいいの?」
「うーん……死体とはいえ、自分の体が傷つくのは嫌な気分ですね……あ、しばらくそのまま、真っ直ぐで」
バルドゥイーンは前方を指差して言った。
◆◆◆
それから目的地に着くまで、たったの10分やそこらであった。おそらく、あれからグダグダと話をしていなかったら、5分もかからない程度の距離だ。
『灯台下暗し』とは違うのだろうが、炊き出しを行なっていた地点からかなり近い所に、『イナーム王国』のアジトがあったのである。
「ここが新しいアジトか」
カリンは目の前の古い雑居ビルを眺めながら呟いた。
一見、誰もいないように見えるが、確かに人の気配がある。それも1人や2人ではない。10人単位でいそうな気配だ。
「ええ。間違いありません。透明化の魔法を使って中の様子を見てきましたから」
「透明化……ね。バレなかっただろうな?」
カリンは不安になって訊ねた。
透明化の魔法は、文字通りに体を透明にする魔法だ。しかし、それだけの魔法とも言える。つまりは、見る事はできなくても、そこに『いる』という事実は変わらない以上、何かしらの方法で探り当てられる可能性があるという事だ。彼女の不安とはそういう意味である。
「攻撃されなかったので大丈夫でしょう。まあ、例のヒューマンを見た時には視線が合いましたけど」
「バカ! それはバレたって事だ! 泳がされたんだよ! ……じゃあ、これは罠か?」
「そういう事だ!」
突然、物陰からたくさんの兵士達が飛び出し、辺りを囲んだ。そして一斉に銃を構える。
「あー、囲まれましたね」
「どうすんだよ、このクソジジイ」
「いやぁ、申し訳ない。やはり私には潜入は向いてないみたいで……」
バルドゥイーンは笑って誤魔化した。
「ライディン様の命令により、これより処刑を行なう!」
兵士の一人、リーダーと思わしき者が声を上げると、全員が一斉に引き金を引こうとした。
普通ならば絶体絶命である。しかし、カリンは余裕で脱出できる。それに今回はそうするまでもなく、バルドゥイーンが何とかしてくれる。
「……というわけで、私が得意な方法で挽回しますね」
バルドゥイーンは右手の親指と人差し指で爪を鳴らした。その瞬間、兵士達は石畳と共にグチャっと潰れて粗挽きミンチとなった。
彼の得意な、超重力の魔法である。彼の『若い』頃は、これ一つで多くの命を遊び感覚で奪ってきたらしい。敵でなくて本当に良かったと、カリンは周囲の惨状を見て思った。
「腕は衰えていねぇみたいだな」
「ええ。むしろ強くなっている気がします。大事な孫を守りたいって思ったら、少ない力でこんなに強くなりました。愛の力って凄いですね」
「アンタに愛がどうのとか、語らないでもらいたいんだけどな」
カリンは鼻を鳴らした。
と、その時であった。来た方向から誰かがやって来る足音が聞こえてきた。
新手か。カリンは警戒してその方向を見る。が、すぐに警戒を解いた。来たのは見知った相手だったからだ。
「おーい!」
来たのはユキであった。
豊かな胸を揺らしながら走って来る彼女を見て、カリンは嫉妬で少しイラッとしたが、すぐに気持ちを抑えた。
「何しに来たんだ?」
「『心配だから一緒に行って』ってお母さんに言われたの」
カリンの問いにユキは息を切らしながら答える。その言葉に少しムッとしたカリンは、乱暴にユキの胸を掴んだ。
「痛たた! 痛い痛い!」
「母さんが心配するのはスゲー分かる。でもな、アタシはこんな修羅場なんて何度も乗り越えてきたんだ。少しは信用しろっての」
「千切れる! 千切れる!」
「それにアンタはハナでもあるんだ。アンタが死ねばハナも死ぬ。アタシはそれが怖いんだ。だから、今すぐ安全な所へ引き返せ」
「いいから! とにかく手を離して!」
ユキは大粒の涙を流しながら、なんとかしてカリンから手を離させようとした。しかし、カリンの握力の前には全く無力であった。ビクともしない。
「あー、いい触り心地だ。アタシもこのくらい欲しかったな。せめてハナにもこれくらい盛って欲しいもんだ」
「や、ヤダ! ハナちゃんは平たい方が可愛いもん!」
「ふざけんな! 女として生まれて胸が平たいまま大人になったってのが、どんだけつらいか分かってんのか! 男が胸見た時のあのガッカリ顔! アレにどんだけ傷ついたと思ってやがる!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて……」
ここでバルドゥイーンが間に入って二人を止めた。ご丁寧に鎮静の魔法を使い、争う気を失せさせる。
強制的に落ち着けられたカリンはユキの胸から手を離した。ユキは掴まれた所を痛そうに揉む。
「カリン、ユキはそれくらい、ちゃんと分かっていると思いますよ。分かっていて、そして対策ができているから来た。そうでしょう?」
「うぅ、痛っ……うん。そう言おうと思った所だったのに……」
「なんだ。それなら早く言えよ」
「バカ! そっちが余計な事するからでしょうが!」
ユキは怒ったが、カリンは悪びれる様子すら見せない。
「で? どうするって?」
「こうするのよ」
ユキは二人から離れると、両手を横に広げた。すると彼女の体から半透明の板状の物が何枚も飛び出し、彼女の周囲を囲むように回る。
ハナの『ゲーム魔法』だ。ユキの時でも100%ではないが使えるのだ。
ユキはそれらの中から、色違いの二人のキャラクターが描かれてた板に触れた。その瞬間、例の声が周囲に響く。
『ゲームスタート! アクションブラザーズ!』
すると、ユキの体は光の粒子状になった。白と黒の粒。そして、混じり合っていた二種類の粒は二つに別れ、白の塊と黒の塊になった。
二つの塊はそれぞれ形を作り上げた。兎のズーマンの形。どこかで見た事があるシルエットだ。そうカリンが思った時には、二つの塊はハナとユキへと変わっていた。
「どう? このゲームは二人で協力してプレイするゲームなの。だから、一時的にアタイとハナちゃんに分離できるってわけ」
ユキは自慢げな顔をして説明した。
「ちなみに、元の体は半分こになってるから、二人が同時に殺されない限り、何度でも復活できるの」
「何だよそれ! めっちゃズルいじゃん!」
「ゲームはプレイヤーを楽しませるためにあるの。だから、これくらい当然よ」
カリンの抗議を涼しい顔をして、ユキは受け流した。ついさっきの様子とはとても対照的である。
「それで? ここがアジトなの?」
話を強引に切り替えて、ユキは訊ねる。
「いや、怪しいな。クソジジイのせいで、ここに来る事はバレちまったからな。もう、どこか別の所に逃げたかもしれねぇ」
「いいえ。その心配は無さそうですよ」
カリンの言葉をバルドゥイーンは否定した。
「今、建物全体にある生命エネルギーを探知しました。その中に、例のヒューマンのエネルギーがありました。最上階辺りでしょうか?」
「分かるのか? 奴は人形なんだろ?」
「おや? 知らないのですか? 生命エネルギーとは『生物として動くためのエネルギー』と定義されています。ゴーレムを動かすにも生命エネルギーが多少なりとも必要なのですから、彼には人と同じくらいの生命エネルギーが必要なはずです」
「でも、それは本当に奴のエネルギーなんだろうな?」
「それも、ご存知ない? 聞いた事がありません? 手に肉球がある人の場合、その皺の形は誰一人として同じ模様は無いと」
「ああ。それなら知ってる。まあ、アタシら兎には関係無い事だけどな。肉球無いし」
カリンは自分の手の平を見た。
「で? 今の話がどう関係あるって?」
「生命エネルギーも同じですよ。一つの塊であり、同じ『形』はありません。先ほど潜入した時、彼の生命エネルギーの『形』を覚えておきました。ですから間違いありません」
「へー、流石は魔術大学の学長だな。物知りだ」
カリンは左耳をいじりながら褒めた。
「じゃあ、何か? どうやってかは知らねぇが、アタシらの様子をさっきから見ているかもしれねぇわけだ」
「かもしれません」
「そうかい。舐めやがって……まあ、いいや。なら、このまま突入だな」
「レッツゴ~!」
ハナはノリノリで答える。
「ねえ、おじいちゃんも一緒に行こう?」
ユキはバルドゥイーンに話しかけた。
「はい?」
「おじいちゃんも一緒だと、ちょうど4人になるの。そしたら、面白い事が起きるの」
「そうですか。……いえ、私は構いませんけど、カリンはどう思うか……」
「街を壊滅させないって約束できるならいいぞ」
カリンは答えた。
「正直、この建物ごと、さっきの魔法でグシャっと潰してくれてもいいんだけどよ。それじゃ、気分がスッキリしねぇ。一人一人に絶望感を与えていかなきゃダメだ」
「ヒーローらしくないセリフですねぇ。まあ、いいですけど。では私も参戦させてもらいましょうか」
バルドゥイーンは微笑んだ。
「これでいいわ。じゃあ、ハナちゃん。アレ、お願いね」
「うん。分かった。アレだね? ユキちゃん」
ハナは頷くと、『ゲーム魔法』を使った。
『ゲームスタート! ドラゴンハンターZ!』
いつもの声が響くと、カリン達一人一人の周囲にさまざまな種類の武器が現れた。宙に浮きながら、ゆっくりと周囲を回転している。
「『ドラゴンハンターZ』は四人で協力してプレイするゲーム。それぞれ好きな武器を選んで戦うの」
ユキは得意そうに言う。
「へぇ、好きな武器ね。……じゃあ、アタシはこれにするわ」
カリンはそう言うと、迷う事無く二本一組の剣に触れた。すると剣は勝手に手に収まり、残りの武器は消えた。
「それは『双剣』ね。アタイは無難に大剣にしとくわ」
ユキはそう言って、身の丈程ありそうな巨大な剣を手に取った。
「ハナはやっぱりハンマーかな」
「では私は弓でいきましょう」
ハナとバルドゥイーンもそれぞれ武器を手に取った。
「選んでから聞くのもアレですけど、私の矢はいくつです?」
「無限だよぉ」
「おお、それは素晴らしい。それならガンガン射ることができますね」
バルドゥイーンは嬉しそうに言った。
「んじゃ、武器が決まったわけだし、行くか」
「お~!」
ハナの気の抜けた掛け声と共にカリン達は建物の中へと入っていった。
◆◆◆
入った瞬間、手荒い歓迎がカリン達を待ち受けていた。弾丸の嵐である。入ってすぐの所で待ち構えていた兵士達が、一斉に発砲してきたのだ。
しかし、それで傷つく者は誰もいなかった。先頭にいたカリンが持っていた剣で全て叩き落としたからである。それは向こうが弾切れになるまで続き、彼女の足元には無数の弾丸が転がった。
兵士達は激しく動揺する。それを全く気にする事無く、カリン達は反撃を開始した。
カリンは一瞬で兵士達の懐に潜り込むと、持っていた剣で首を斬りつけた。1人、2人、3人……あっという間に10人斬った。
ところが、この攻撃で首を失う者は誰もいなかった。血の一滴も出ず、代わりに極彩色の火花が散る。そして彼らは、糸の切れた操り人形のようにその場に倒れた。
「ありゃ? どうなってやがる?」
「その武器はハナちゃんの魔法で生み出された物なのよ! ハナちゃんがそんな残酷な事を許すと思う?」
兵士の1人を真っ二つにする勢いで剣を振り下ろしながら、ユキが答えた。
「当たると痛ぇけど、傷つけないし殺さないってか?」
2人の兵士の胸に剣を突き刺しながら、カリンは聞く。
「そういう事!」
数人の兵士を薙ぎ払いながらユキは答えた。
「そういう事はもっと早く言え! まあ、こっちは殺しに快感を覚えねぇから別にどっちでもいいんだけどよ!」
カリンがそう言うや否や、目の前を兵士が3人ほど横切った。皆、何か強烈な衝撃を受けたように吹っ飛び、壁に激突。クレーターを作る。
飛んできた方向を見ると、ハナが楽しげな様子で鉄塊のようなハンマーを振り回しているのが見えた。もう一度クレーターを見る。兵士達は皆、体があり得ない方向へ曲がり、壁画のようになっている。
どうやら直接ダメージを与える事ができなくても、間接的なら殺す事さえ可能らしい。
「やっぱり、本当の天才はハナだな」
カリンは振り返りながら剣を振った。そこにはナイフを持った兵士が立っていて、喉をバッサリと斬られて倒れた。その時のカリンの表情は苦笑していた。
と、その時であった。突然矢が飛んできた。
あまりの突然の事に、カリンは避ける事ができず、膝に受けてしまった。
「ぎゃー! 膝に矢がぁー!」
「失礼。ちょっと狙いが外れてしまいまして……」
バルドゥイーンの声を聞き、これが彼によるものだとすぐに分かった。
「何が『外れて』だ! 大当たりじゃねぇか!」
「大丈夫よ! 仲間への攻撃は無効だから!」
ユキは剣を振り回しながら言う。
「あ……確かに痛くは無いな。でも、スゲー異物感がするんだけど!」
「じゃあ、引き抜いたら? 痛くないんなら余裕でしょ?」
「そうは言ってもよ! 貫通してるから簡単には抜けねぇって!」
「それなら私が援護しますから、その間になんとか抜いてください。……それ! 10本まとめ撃ち」
バルドゥイーンは矢の束をかなり無理矢理に放った。
当然、放たれた矢は真っ直ぐには飛ばず、滅茶苦茶な方向へ飛んでいった。そればかりか、大きく蛇行して飛んでいく矢や、宙返りをしながら飛んでいく矢もあった。
「どんだけノーコンなんだよ! このクソジジイ! ノーコン! ノー――」
カリンが罵倒していると、そのうちの5本の矢が彼女の頭に刺さった。ちょうどモヒカンのように。
「オー脳!」
カリンは頭の矢を掴みながら絶叫した。
「まともに飛ばせないくせに、どうしてこういうのは正確なんだよ!」
「いやぁ、まぐれって怖いですね」
「でもぉ、膝の矢は無くなったよぉ」
兵士を杭のように床に打ち込みながら、ハナは言った。
「え? あ! 本当だ」
カリンが膝を確認すると、さっきまであった矢は跡形も無く消滅していた。
「きっと表示数の限界を超えたせいね」
最後の一人を倒しながら、ユキは言った。
「……っていうか、ハナちゃんもおじいちゃんも遊び過ぎ! ほとんどアタイとカリンだけで片づけたじゃないの!」
息を切らしながら、彼女は怒った口調で言う。
「これは失礼。ではお詫びと言ってはなんですが、ちょっと休憩でもしますか」
そう言ってバルドゥイーンは爪を鳴らすと、彼の足元にレジャーシートが現れた。そしてその上に、人数分のアイスコーヒー入りのグラスとバナナの房が現れた。
「わ~い! バナナだぁ!」
バナナが大好物なハナは一目散にレジャーシートの上に座った。
「冷たい飲み物だなんて気が利くわね。ちょうど喉が渇いてたところなのよ」
ユキは持っていた剣をその辺に放り投げて、レジャーシートの所へ向かい、座った。
「おいおい! 敵陣の中で休憩かよ! 何考えてやがる!」
カリンは頭に刺さった矢を引き抜こうとしながら、顔をしかめた。
もちろん痛いからではない。彼らのやっている事が非常識過ぎるからだ。
「大丈夫ですよ。この辺一帯に他の生命エネルギーはありませんから」
「そうか。それなら……」
カリンは矢を抜こうとするのを止めて、レジャーシートの所へ向かった。
ちょうど、少し動いて小腹が空いてきたところであった。それにバナナはハナ程ではないが好物である。
一応すぐに動けるようにと、靴は脱がずにシートの上に立膝の状態となり、バナナに手を伸ばそうとした。
が、その瞬間。手が止まった。長年の暗殺者としての勘が危険信号を発したのである。
カリンはバルドゥイーンの言葉を思い出した。
『この辺一帯に他の生命エネルギーはありませんから』。それはあってはいけない事だ。なぜなら、索敵範囲内にライディンがいない事を意味するからだ。
彼はどこに行ったのか。
逃げたか。いや、逃げるつもりなら、こっちが突入する前にそうしているはずだ。それは無い。
では、戦うつもりか。そうとしか考えられない。しかし、近くにいないのは事実のはずだ。
これはどういう事か、分からないが危険な状況なのは間違いない。
と、その時、わずかだが風が吹いた。それこそ、頭の矢が風を受けなければ気づかないくらいの風だ。それが、上から吹いた。そしてカリン達の周りだけ急に明るくなった。
その瞬間、カリンの頭の中で全てがつながった。
「危ねぇ!」
カリンは反射的にハナを抱きかかえると後ろへと跳んだ。それと同時にライディンが上から落ちてきた。
彼の両方の手の平を真下に向けていた。そこからは太いツララが出ている。そのツララの先には……バルドゥイーンとユキがいる。
そして、2本のツララは二人を貫いた。




