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13 暗殺者はまだ死ねない。『愛』のためにも。

「カリン……カリン……」


 誰かは分からないが、優しく暖かな声が聞こえ、カリンは目を覚ました。


「ん……」


 ゆっくりと目を開ける。


 最初に見えたのは青空であった。雲一つない綺麗な空だ。

 上半身を起こしてみる。すると、花畑に寝ていたのが分かった。周囲を見回すと、それは辺り一面に広がっている。


「どこだ……ここは……」


 カリンは呟いた。すると、それに答えるかのように、さっきの声がどこからか聞こえてきた。


「ここは生と死の間の世界です」


 その言葉を聞き、カリンは空を見上げる。


「なんだ? じゃあ、臨死体験ってヤツか?」

「そう思ってもらって構いません」

「ふーん」


 カリンはすんなりと受け入れた。


 自身が生きていない事はなんとなく分かっていた。あの爆発で生きていられるとは思えなかったからだ。

 むしろ、まだ死んだと確定していない事に、少しだけ驚いていた。


「もしかしてアンタ、神様か? 神様がアタシに話しかけているのか?」

「いいえ。私は自身を神とは思っていません。アナタ方がそう思っているだけです」

「なんだそりゃ? まあ、いいや。アタシが神様と思っているんだ。アンタは神様だ」


 カリンがそう言うと、小さく笑う声が聞こえた。


「面白い考え方ですね。いいでしょう。では神と名乗らせてもらいましょうか」

「で? アンタは誰だ?」

「私はヤーマと呼ばれている存在です」

「わーお。愛しの神様じゃねぇか!」


 カリンは立ち上がった。


「とっくに見捨てられてたかと思ったよ」

「アナタはずっと愛のために行動してきました。それが今、実を結んだのです」

「……殺しでもか?」

「その答えがここにあります」


 そう言われて、カリンは少し考えた。


 カリンのいる世界では死後、信仰していた神の元へと向かうと言われている。

 そして、もしも信仰心がなかったり、全ての神から拒絶されてしまった場合は、『地獄』という本物の悪魔のいる世界に送られて、ずっといたぶられてしまうと言われている。


 では、今回の場合はどうだろうか。

 ここは『地獄』ではない。だから少なくとも神から拒絶されてはいない。しかし、神の元へたどり着いたわけでもない。

 生と死の間。半分生きていて、半分死んでいる。これが何を意味するのか。なんとなく想像できた。


「……試されてんのか?」

「一言で言えば、その通りです」


 ヤーマは答えた。


「へぇ。じゃあ何をすればいい? 愛情の神様だし、ハナへの愛を語ればいいのか? なら、ペンと原稿用紙10枚……いや、20枚くらいくれ」

「いいえ。違いますよ」


 ヤーマがそう言うと、空にスクリーンのようなものが映し出された。

 映像が流れる。どこかの公園か広場のような場所だ。幼い兎の女の子が一人、花壇のところに座って泣いていた。


「……これは!」


 カリンは目を見開いた。


 泣いている子供はハナ、いやハンナであった。という事は、ここは孤児院の敷地の中なのだろうか。

 どうやらこれは過去の映像であるらしい。自分が知らない過去の出来事。ハンナの身に何があったのか、カリンは食い入るように見つめる。


『お家に帰りたいよぉ……お母さんやお姉ちゃんに会いたいよぉ……』


 ハンナは泣き続ける。ホームシックになったのだろう。


 すると、同じくらいの背丈をした女の子がやってきた。黒い兎の女の子。

 彼女は少しの間ハンナを見つめると、すぐ隣に座った。そして話しかけた。


『アナタ、最近来た子?』

『……ほえ?』

『アタイはユキ、アナタは?』

『……ハナだよぉ』


 ハンナは泣きながらも、ちゃんと答えた。ユキは少し微笑んで、話を続ける。


『そっか、ハナって言うんだ』

『……うん』

『じゃあ、ハナちゃん。泣いちゃダメ。ここが新しいお家よ』


 ユキはハンナの頭を撫でる。


『アタイ達はいらないから捨てられたの。だから、これからはここがお家。そして、ここにいるみんなが家族なの』

『嫌だよぉ……帰りたいよぉ……』


 ハンナはさらに泣く。それを見て、ユキは彼女を抱きしめた。


『大丈夫。ここは前よりもずっといい所なの。安心して』

『うう……』

『寂しいならアタイがそばにいてあげる。だから泣かないで』

『……うん』


 ハンナは泣くのを止めた。


『あ、そうだ! これで遊ぶ?』


 ユキは抱きしめるのを止めると、手を叩き、ポケットから何か取り出した。ゲーム機だ。


『……コレ、なぁに?』

『ゲーム。知らない? すっごく面白いよ』

『ゲーム……』

『この前拾ったの。本当はみんなには内緒なんだけど、ハナちゃんには特別に貸してあげるね』

『……ありがとう』

『遊び方は――』


 ここで映像はフェードアウトした。そして別の映像が流れる。

 病室であった。ハナはベッドで寝ていた。そしてユキは、そばでとても心配そうな顔をして見つめていた。


 さっきのは二人の出会いであった。どうやら次はハナが病気になってしまった時の事らしい。

 どれだけ時間が飛んだか分からないが、ユキの様子から考えて、その間にとても親しい仲となっていたのはすぐに分かった。


『嫌だよ……怖いよ……ハナ、まだ死にたくないよ……』


 ハンナは蚊が鳴くような声で呟く。

 だいぶやつれている。病気がかなり進行しているのだろう。


『大丈夫。ハナちゃんは死なない。安心して』


 ユキは彼女を慰める。しかし、それが嘘だというのが雰囲気からにじみ出ていた。


 ハンナの病気は『消耗症』というものだとカリンは聞かされている。

 体のあらゆる機能が虚弱になっていき、最終的に生命機能を維持できずに死ぬという病気だ。現在でも治療法が無い。


『早く治して、またゲームで遊ぼ?』

『……うん』


 ハンナは小さく頷く。


 しかしその直後、彼女はせき込み、血を吐いた。

 ユキは慌ててティッシュを取り、拭き取ろうとした。が、ハンナの様子がおかしい事に気づき、手を止めた。


 ハンナの体は痙攣を始めた。呼吸は荒くなり、さらに血を吐く。

 苦しそうな様子に、カリンは目を覆いたくなった。しかし、体が全く動かない。


『お姉ちゃん……に……会いたい……よ……お姉ちゃん……お姉……ちゃん……』


 ハンナは震える手を伸ばし、虚空を掴んだ。そして、その手から力が抜けた。


『ハナちゃん? ハナちゃん!』


 ユキはハンナの体を揺すった。しかし、何も反応が無い。

 カリンには分かった。ハンナは死んだと。


『嫌だよ! 死なないで! ハナちゃん! ハナちゃん!』


 ユキは必死で呼びかけた。でも、やはり何も反応が無い。


『助けて神様! ハナちゃんを死なせないで! 代わりにアタイが死んでもいいから! だから助けて!』


 ユキは叫んだ。すると、彼女の体が輝き始める。そしてハンナの体から何かが彼女へと流れ始めた。

 記憶だ。ハンナの記憶が流れ込んでいるのだ。カリンはなんとなく理解した。


『そんな……ハナちゃんが暗殺者? 酷い……殺しばかりして、最後は病気になって死んだの? そんなの……そんなのあんまりよ!』


 ユキは頭を抱えた。記憶からハンナの正体を知ったのだろう。

 彼女がそう言うのもよく分かった。殺しという悪い事をしてきただけでなく、子供らしい事をさせてもらえなかったからだ。

 それがつらい事だとカリンもよく分かっていたし、そんな思いをさせないようにと、ハンナとは一生懸命に遊んであげた。でも、その遊びは殺しに関係した事だった。そういう意味で、彼女には子供らしい事をさせてもらえない人生を送らせてしまった。


 そう思ったカリンは自分が情けなく思えた。と同時に、ユキに対して言いきれないくらいの感謝を感じた。

 彼女はハンナに、光のある生き方を教えてあげた。そして今も、教えてあげてくれている。


『……分かった。大好きなハナちゃんのために、アタイの人生全部あげる。だから、ハナちゃんはアタイの代わりに生きて。昔の事は全部忘れて、いっぱい楽しい事をして! アタイは……それでいいから』


 ユキは大粒の涙を流しながら言った。そして、ハナに姿を変えた。


「……そっか。だからユキはハナでい続けてんのか」


 カリンも泣きながら呟いた。


「はい。全ては彼女のため。彼女を心の底から愛していた。ですから、彼女として生き続ける事を選択したのです」


 映像が消え、ヤーマが再び話しかけてきた。


「……負けたよ。ユキ、アンタはアタシなんかより、ずっとあの子が好きなんだな」


 カリンは腕で涙を拭う。


「ユキはハンナのために、文字通り人生をささげました。それが彼女の愛です。ではカリン、アナタは誰のために、愛として何をささげられますか?」

「……なるほど、それが『試験』か」


 カリンは大きく息を吸い、吐いた。そして質問に答える。


「もちろんハナのために、全てをささげる」

「…………」

「なんてな。つい最近まではそうだった。でも、今は違う」

「では、今はどうですか?」

「不幸な目に遭っている奴のために、幸せをささげる」

「それは何故ですか?」


 ヤーマはさらに質問する。


「あー……まいったな。アタシは頭が悪いから、うまく説明できないぞ……まあ、とりあえずアレだ。アタシにできる事は殺しだけ、それしか能の無い奴だ。だからアタシはダメなズーマンなんだって、表の世界を知ってからずっとそう思ってた。でも、そうじゃなかった。殺しでも人を喜ばす事ができるって分かった。アタシも人のために親切にできるんだって。だからアタシは、そんな奴のためならいくらでも命を張れる。そう思ったんだ」

「つまり、人のために戦い続ける事。それがアナタ自身にできる『愛』と思ったのですね?」

「えーと……それでいいかな? うん、合ってると思う。まあ、とりあえず、やっと見つけたやりがい、つまりはワガママだ。これを押し通してみんなを笑顔にしたい。それだけなんだ」

「ワガママ……ですか」


 ヤーマの声を聞き、カリンは肩をすくめた。


「そう、ワガママ。ああなって欲しい、こうなって欲しい、そう思っているだけ。理解なんてされる必要はねぇ。ただ思った事が実現できるように、やれる事をやっていたいのさ」

「つまり、たとえ守りたい相手から嫌われても、続けていたいと?」

「守りたい……ね。まあ、そういう事かな? 殺しが一般的には悪い事だってのは分かる。でも、それでないと救えない事もある。だからアタシは、笑顔のために、殺しで救える事ならなんでもやりたいのさ」

「なるほど……よく分かりました」


 ヤーマの声が辺りに響いた。


「愛情。それは理屈ではありません。愛したい、愛されたい。そのためなら、どんな道理も捻じ曲げてしまうものです。そして、必ずしも双方向ではありません」

「お、おう……」


 カリンには難しい話だったので、彼女は曖昧な返事をした。


「私が良し悪しの基準として考えるのは、そういった思いです。そしてアナタからは、強い思いを感じました」

「じゃあ、合格?」

「はい。アナタを私の『勇者』の一人に任命します」

「へぇ、『勇者』ね……え?」


 カリンは言っている事がよく分からなくて聞き返した。


「私はアナタ達の住む世界への影響力を考えて、あまり動く事ができません。アナタにはその代行者として行動する権利を与えると言っているのです」

「愛情の神様の代わりを? アタシが? いいのか?」


 カリンは目を丸くする。


「アナタがどんな世界を作っていくのか、見てみたくなりました。まあ、アナタの言葉でいえば、私のワガママでしょうか?」

「マジかよ……本当にいいのか? アタシなんて単なる人殺しだぞ?」

「ええ。アナタの謙虚な姿勢、それを見ていたら任せても大丈夫だと思ったのですよ」

「……そっか。じゃあ、任せるって言われたし、やってみるかな? 責任重大だけど、やりがいはありそうだ」


 カリンは頭を掻いた。


「では、行きなさい。アナタにはするべき事があるのでしょう?」


 ヤーマに言われた瞬間、辺りは灯りが消えたかのように真っ暗になった。そして次の瞬間、カリンは目を覚ました。



 ◆◆◆



「よかった! 目を覚ましてくれたのね?」


 目を覚まして最初に見えたのは、母親のとても心配そうな顔であった。


「母さん? ……無事か!」


 勢いよく起き上がろうとしたので、彼女と頭をぶつけそうになった。


「やっと目を覚ました? どこも悪くないのに全然起きないから、お母さんが心配したじゃない」


 声がした方を向くと、ユキが立っていた。


「……ユキ」

「みんなの事が心配? なら大丈夫、全員無事よ。避難しているからここにはいないけど。ハナちゃんが魔法で爆発から守ってくれたの。つまり、アナタがかばったのは無駄だったってわけ。……ま、お母さんを守りたいって気持ちはよく分かったけど」


 ユキは肩をすくめた。

 平気を装っているが、本当はかなり疲れているのが見て分かった。きっと守るために一度に大量の魔力を消費したのだ。


「そっか。いや、無事ならいいんだ」


 カリンは気づかないふりをして答えると、周辺を見回した。


 酷い状態だった。

 さっきまで人が並んでいた辺りを中心に爆発の跡がくっきりと残っていた。中心部分とプレハブ小屋だけは無傷なのは、魔法で守られたからなのだろう。

 爆発によるものか、あちこちで火の手が上がっている。すでに消火活動が始まっているが、収まる気配は無い。熱気でかなり暑い。


 本来ならば、これに血生臭さが加わっていたはずだ。それが阻止したハナはとても頑張ったに違いない。

 後で何か美味しい物を買ってあげよう。そう思いながらカリンは立ち上がった。


「偶然じゃねぇよな?」

「そうね。きっと報復だと思う」


 ユキは答える。


「やっぱりそう思う? あの野郎……アタシだけじゃなく、無関係な奴も狙いやがって……見つけたらタダじゃおかねぇからな」


 カリンは舌打ちした。


「では、さっそく成敗に行きますか?」

「え?」


 声がした方を向くと、いつの間にかバルドゥイーンが立っていた。


「酷い有様ですね。こんな状態でも死傷者が誰もいないだなんて、ハナはよく頑張りました」

「おい、ジジイ! もしかして、もう見つけたのか?」

「はい。いやぁ、株で直感を鍛えたおかげなのでしょうか? 初めに探した場所で、彼がいるのを見つけました。どうします? 案内しますか?」

「でかした、ジジイ。もちろん、今すぐに乗り込むぞ。ブチ殺してやる」


 カリンは鼻息を荒げて答えた。


「では、行きましょう。あ、ユキはどうします?」

「アタイは――」

「いや、アンタは母さんのそばにいてやれ。まだ近くに悪い奴がいるかもしれねぇからな」

「……カリン」

「それに、たまには母さんと話がしたいだろ?」

「……うん」


 ユキは頷いた。


「よし。じゃあ、行って来る」

「待って!」


 カリンが出発しようとすると、母親が呼び止めた。


「説明してちょうだい! この爆発の事、知っているの? それに殺すって何? 答えて!」


 何も知らない母親は説明を求める。

 カリンは小さくため息をつくと、彼女の方を向いた。


「……分かった。質問に答えるよ。でも、アタシは頭が悪いから、一つずつ頼む」


 もう隠す事はできない。そう思ったカリンは素の口調で言った。

 言葉通り、なんでも答えるつもりであった。全部答えて楽になろう。そう思ったのだった。


「……分かったわ。じゃあ、この爆発の事。いったい何を知っているの?」

「これは『イナーム王国』によるもんだ。アタシに対する報復だと思う」

「報復?」

「『イナーム王国』相手に喧嘩売ったんだ。いっぱい殺したしな。でも、まさか、関係ない奴も巻き込むとは思わなかった」

「殺したって……本当に? どうして?」


 母親は混乱した様子で訊ねる。


「今までずっと黙ってきたけど、アタシは暗殺者なんだ。人殺しのクソみたいな女さ。でも、人殺しでも人の役に立てる事をしたいって思ってさ。だから、悪い奴を殺す事にしたんだ。それで平和にできたらなって」

「そんな……」


 母親はその場に座り込んだ。


「分かってくれとは言わねぇよ。まともな頭をしてたら、ダメな事をしてるって思うだろうってのはアタシでも分かるよ。でもアタシは……アタシにできる事がしたいんだ。みんなのために。笑顔になってくれるなら、どんなに汚れた事だってやりたい」


 カリンは言い終わると、深く息を吐いた。


「今まで距離を取ってたのはそういう事さ。家族に人殺しがいるなんて嫌だろ? ……だから、さよならだ。もう二度と目の前に現れないよ。アタシなんて捨ててくれ」


 そう言って、カリンはその場を去ろうとした。しかし、母親は急に立ち上がると、カリンの元へ駆け寄り、背中からハグをした。


「……何だよ? 自首しろってか? まだだ。この世から悪い奴がいなくなるまで、アタシは捕まるわけにはいかねぇよ」

「いいえ。そうじゃないの。聞いてちょうだい」

「え?」

「今まで秘密にしていてつらかったでしょ? 気づけなくてごめんなさいね」


 母親はハグする腕に力を込める。


「どうして謝る? 悪いのは全部アタシだ」

「いいえ。子供の悩みを聞いてあげられなかった私にも問題があったわ」

「母さん……」

「そうね。確かに暴力は悪い事よ。人殺しだなんてもっと悪いわ。……でもね。不思議よね。私、アナタを止める事ができないの。こんなに真っ直ぐな目、出会ってから今まで一度も見せてくれた事がなかったからかもしれないけど……どうしても、頑張って欲しいって思わずにはいられないの」


 母親はカリンの頭を撫でた。


 愛情は理屈じゃない。カリンはふと、ヤーマの言葉を思い出した。

 今、目の前にいる女性。彼女は自分を愛してくれている。産んだわけでもないのに、種族だって違うのに、人殺しだというのに。ただ娘だというだけで、こんなに。


 愛情は必ずしも双方向ではないという言葉も思い出した。

 確かにそうであった。これほど愛されているというのに、自分はそれを全く知らなかったからだ。でも、知った以上は、同じくらい彼女を愛したいと思った。


 そのためにできる事は何か、それは決めた事を貫き通す事だ。

 どんなに自分が汚れても、彼女は応援すると言ってくれた。殺しを止めさせる事だってできたはずなのに、それをせずに受け入れてくれると言ってくれた。

 だから、決して暗殺は止めない。それが彼女を愛する事だと思った。


「帰って来たら、また一緒にカレーを食べましょ?」

「……うん」


 カリンが返事をすると、母親は手を離した。


「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 カリンは母親の方を向いて言った。彼女は微笑んで答えた。


「絶対に『イナーム王国』の連中を殺して……懲らしめて(・・・・・)来る。人を傷つけようとするとどうなるか、教えてやらなくちゃいけねぇ」

「そうね。でも、危ないと思ったら無理しないでね。アナタが無事に戻って来る事が、私には一番大事な事だから……」

「分かった。……待たせたな、ジジイ」


 カリンはバルドゥイーンの方を向いた。すると、彼は嬉しそうな顔をしていた。


「……何だよ?」

「無事に和解できてよかったですね」

「ああ。アンタの思った通りになったよ」

「いえいえ。私はアナタがお母様と話ができればいいなと思っただけです。ここまでとは思ってもいませんでした」

「どうだか。まあいいや。早く連れて行ってくれ」


 カリンに促され、バルドゥイーンは歩き出した。その後ろをカリンは歩く。

 決戦の時がやってきた。

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