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天才軍師、顔の良い生首を拾う。~孔明じゃない諸葛さんは怪異の知識で無双する~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
三章

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九、大将軍 "諸葛瑾"


 今日は宿舎から離れ、諸葛家の屋敷に家人全員がドタバタと大忙しの状態であった。

 大広間にはたくさんの食事が並べられ、屋内だけでなく屋敷の周りに至るまで塵一つも残さないような大掃除。

 諸葛恪の母が家人たちの総指揮を執り、小柄な体でキビキビと走り回りながら元気に大声を張り上げていた。


 楊甜も勿論その家人の一人として、厩舎の掃除や水の貼り換えなど労働に勤しむ。

 相変わらず諸葛恪の愛馬はこちらを馬鹿にするように唇をぶるぶると震わせて楽しげであった。


「あぁんっ、服を噛まないでぇ!」


 油断した。近くに寄って通路を掃いていたら、馬に服を噛まれて右に左に振り回される。

 周囲の家人たちはその様子を見ながら笑い、やれやれと言った表情でびえびえ泣く楊甜を助け出した。


 今日は諸葛家の当主であり、諸葛恪の父「諸葛瑾」が"建業"に帰ってくる日である。

 どんな人なんだろう。やっぱり諸葛恪に似て怖い人なんだろうか。

 秣まみれになりながら楊甜はまだ見ぬ主人の父に恐怖心を膨らませていた。


「そろそろ時間だ、表門に行くぞ」


 号令がかかり、家人たちはぞろぞろと表門に整列する。

 するとしばらくしてガラガラと音を立てながら一台の馬車が門を越えて、足を止めた。

 最初に降りたのは諸葛格であり、続いてぬらりと一人の細長い大きな男が身を屈めながら馬車を降りる。


 あれが諸葛瑾。とにかく大きい、と言うより長い。

 表情はニコニコと朗らかであり、身長から雰囲気から諸葛恪とはまるで真逆なように感じてしまう。

 そんなことを思いながら皆が頭を下げている中、ぽけーっと諸葛瑾を見上げている楊甜。

 すると急に諸葛恪からの恐ろしい殺気に気が付き、慌てて頭を下げた。


「楊甜、お前あとで来い」


 側でそうボソッと告げられる。終わった。寒気と脂汗が止まらない。

 諸葛瑾らがそのまま屋敷に入った後、周囲の家人たちから「可愛そうに」と楊甜は憐みの目を向けられたのであった。


 その後は夜更け頃まで宴席が続いた。諸葛瑾の任地は遠い西の"公安"という地。

 荊州の要である"江陵"のすぐ隣にあり、主に同盟国"蜀漢"との外交窓口にもなっている場所。故に建業に帰ることは中々難しい。

 蜀漢の国政を担っているのが諸葛瑾の弟の諸葛亮ということもあり、外交は諸葛瑾が最も適任であったのだ。


 宴席も終わり、片付けの作業に入った頃。忙しくてすっかり忘れていた楊甜に、諸葛恪から呼び出しの声が掛かった。

 "書室まで来い"という言伝を聞き、ガクガクと膝を震わせながら楊甜はその書室まで足を進める。


「よよよ楊甜ですぅっ」

「入れ」


 そこには酒に酔って顔を赤く染める諸葛瑾と、顔色の一切変わってない諸葛恪が居た。

 説教をくらうものだとばかり思っていたが、そんな険悪な雰囲気は特に感じない。


「杜宇から全て聞いています。貴方が恪の例の従者ですね」

「えっと、あの、はい、たぶんそうです…」

「うん、珍しい人相をしている。悪人の相が全くない、綺麗な顔だ。もっとも、怪異の人相を見るのはこれが初めてではありますが」

「父上がお前に会いたいと言っていてな。我慢してくれ」


 諸葛恪の大きな手のひらがペタペタと楊甜の顔をくまなく触っている。

 とにかく酒臭い。楊甜は出来るだけ呼吸を止めて、早く時間が過ぎてくれと願った。


「格、良い友を得たな。上大将軍(陸遜)には私からも話しておく。だがあの人も頑固だ、友を失わないようお前も気を引き締めるように」

「友では…いや、まぁ、承知しました」

「それとお前、また輔呉将軍に無礼を働いたみたいだな」

「いやそれはっ」

「言い訳無用。明日、共に頭を下げに行くぞ」

「くっ…」

「あとは楊甜くんと少し話がしたい。お前は下がって良いぞ、ゆっくり休め」


 ここまで一方的に弱腰の諸葛恪の姿は今まで見たことが無かったし、想像することすら出来なかった。

 そのまま部屋を出て行く諸葛恪。そして酒の臭いの残る書室には、楊甜と諸葛瑾が二人のみ。


 外からは虫の音が聞こえる。開いた窓からそよぐ夜風が心地いい。

 それに諸葛瑾のゆったりとした動作には、なんとも眠りを誘うような美しさがあった。


「格を、どう思いますか」

「え、どう、と言いますと?えっと、凄い人だなぁと、思っています」

「父親ながら私もそう思います。アレは天才だ。私の弟の亮の若き頃によく似ている。いや、あの才の鋭さは亮よりも上ですね。しかし危うい」

「危うい?」

「このままであれば、格はこの家を滅ぼしかねない。私はそう思っています」


 静かに語る諸葛瑾の顔から既に赤みは引いていた。

 深い悲しみの瞳。楊甜はどのような言葉を続ければいいのかも分からず、黙っているほかなかった。


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