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『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む』――新鮮な驚き。




『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む』




 かまど,みくのしん/著

 大和書房/発行 (2024.8出版)




◇ ◇ ◇ 





 約一年ぶりですね。毎年言ってますが、今年の夏も異常に暑いで(以下略)。前回とまったく同じ出だしです。

 もうね、一年文章書いてないと、書き方も忘れますね!


 最近は、「本に関する本」以外にはあんまり手が伸びてません。暑いしね。何しろ。メッセージアプリで短文しか打ってないから、文章も短文になっちゃうよ。一回前の文章、もうちょっとちゃんとしてたな。


 すっかり駄目人間となってる人間が久しぶりに「書き留めておかねば!」となったのが、今回の本です。

 オモコロ好きにはもう紹介する必要もないくらいバズったらしいweb記事を元に、雨穴のここでしか読めない新作短編を収録した一冊。対談形式のあっさり読めちゃう本です。


 ……はい。本好きさんはあんまり食指が動かなそうでしょ?

 違うんですよ! とにかく読んでみて!

 と、声を大にして言いたい。

 

 なんでこんな勧めてるかと言うとですね。

 本を読まない人、だけでなく、本を読むことが日常になっている人にも読んでもらいたいからです。

 

 本の内容は(なろう民にはおなじみ)長いタイトルがもう説明しているとおりなんですが。

 32歳になるまで一切本を読んでこなかった「みくのしん」さんが友人の「かまど」さんとともに、はじめて本を読んでみたらどうなるか、というノンフィクションです。

 本を読んだことがないって、どういうことか最初まったく想像できなかったんです。この本を読むまでは。まず取り上げられている「走れメロス」にしたって、教科書にはかなりの率で載っているはずの作品。あらすじくらいは覚えてるでしょ? って読むことにあまりストレスを感じない人間としては思ってしまうんです。なんなら国語の教科書は「読み物」として摂取していた勢だったので、みくのしんさんが「まったく覚えていない」というのにまず驚きます。



「中学生のときに数学の授業で出てきた問題を覚えてる? 2学期に出された数学のテストの問1を覚えてる?」「俺にとって国語で読んだ本ってそんな感じなんだよ。」



 このやり取りに、なるほど、と深く納得しましと。そうか、私にとっての数学と一緒なんだ、と。


 みくのしんさんは黙読がとにかく苦手で一冊読み切ることができない、読書に苦手意識を持っている方です。その方が短編とはいえ、ひとつの物語に挑戦する。方法として取ったのが「音読」でした。


 難しい単語などは、かまどさんに説明してもらいながら、一文一文、感想を語りながら読んでいきます。

 その感想が、とにかく新鮮なんです。

 本当に読めない人なのだろうか、と思うくらい。

 みくのしんさんは、文章から情景を想像することができないと語っていましたが、けっしてそんなことはなく、すべての登場人物にいちいち共感しながら丁寧に読んでいきます。


 ――私はこんなに純粋に読書を楽しんだことがあっただろうか。最早こんなにわくわくしながら読むことはできないのではないか。

 みくのしんさんの感想に、そんな驚きと寂しさを感じました。

 

 そして、何より著者ふたりと、みくのしんさんの友人でもある雨穴氏、すべての人が優しくて、ああ、こんな心の綺麗な大人っているんだ、となんだかこちらも心あたたかくなってしまうのです。


 ガイド役、あるいは聞き手である、かまどさんが繰り返しみくのしんさんに向けて語るように、私も普段、本なんて好きに読んだらいい、と感じていましたし、実際好きに読んでいます。それでもこんなに自由に読むことができていただろうか、と思ってしまうのです。


 小さな子、あるいは十代の子たちがどうしたら本を楽しんでくれるのだろうか、とここのところよく考えているのですが、未だ明確な答えが出ていません。ただ、この本はそのヒントになるのではないだろうか、とふと思いました。


『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(※1)を最近読んだのですが、こちらも今すごく売れているようです。あるいは最近出版された『積ん読の本』(※2)にしてもそうですが、統計上、本を読まなくなった人が増えてきている一方で、それでも「読みたい」と思っている人は潜在的にたくさんいるのだな、と感じています。そして、読めないと思い込んでいる人の中には、たくさんの「楽しめる」人たちが隠れているのでは。


 読めない、苦手だと思っている方、国語が苦手だと思い込んでいる学生さんにはもちろん、本を最近読んでいないな、という人、そして、本を読むことに慣れすぎている大人にも、ぜひこの本を一度読んでみることをおすすめします。


 紙の本が苦手な方にはwebで検索してもらうとオモコロの記事がヒットすると思うのでそちらをどうぞ。本には収録されていない別の作品を読む回もありますので、本から入った方にもぜひおすすめです。webには読み上げアプリが使えますから、文字を読むのが苦手、という方は読み上げたものを聞くのもありですね。書籍に関しては電子版も発売されています。


 自分の読書について振り返る一冊であり、紹介されている作品を改めて読んでみたくなる、優秀な「本の紹介本」でもあります。気になった方は、ぜひどうぞ。




※1 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書) 三宅香帆/著 集英社/発行(2024.4)


 これ、すごく面白かったです! 既にものすごく売れているので今更紹介するのもどうかと思って書いてませんが、エッセイ一回分くらい感想書けそうな本。労働の歴史、読書の歴史を振り返って、では現代の私たちは? というのを系統的にわかりやすく読みやすくまとめてくれてある本です。この中に、そもそも「黙読」が当たり前になったのは明治期以降、と書かれていて、音読こそ自然な本の読み方だったのかも……と思いました。本の内容の理解度も、もっと違うのかもしれませんね。



※2 『積ん読の本』 石田千湖/著 主婦と生活社/発行(2024.10)


 最近、積ん読に対して肯定的な風潮があって嬉しい。そうですよね、なんか本どんどん積んじゃうんですよね……。この本、冒頭に明治の評論家内田魚庵の言葉を引いていて、既に明治から「ツンドク」って言葉があったのか! と嬉しくなってしまう。もちろんこの本も積ん読してます!

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