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『ポケット製本図鑑』――職人、あるいはデザイナーの心意気




『ポケット製本図鑑』


 『デザインのひきだし』編集部/編

 グラフィック社/発行 (2023.7出版)




◇ ◇ ◇ 





 お久しぶりです。毎年言っている気がしますが、今年の夏は特に暑いですね!

 九月も後半だというのに、一切涼しくなりません。

 どうにかしてください。(来週には涼しくなるようです、すみません……)


 さて。

 暑いので読書量も格段に減る今日この頃。皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。

 こういう時は写真いっぱいのワクワクするような本を読むに限ります。

 私にとって、ワクワクすると言えば、やっぱり本。

 うつくしい本は、たとえ中を読まずとも、そこにあるだけでうっとりとしてしまうもの。

 今回は本に関する本のご紹介です。


 製本の種類についてどれだけご存じですか?

 私は並製本、上製本くらいは聞いたことがありましたが、ただ本を享受するだけで、その製本方法についてどんな名前がついているのかろくに知りませんでした。

 だから、この本はめくるだけで「ほほぅ」と溜め息が出る、楽しい本なのでした。


『デザインのひきだし』はグラフィック社が発行している、「プロなら知っておきたいデザイン・印刷・紙・加工の実践情報誌」という雑誌。その特集を元に再構成して出版されたのが、本書。

『ポケット~』とある通り、コンパクトに製本方法をまとめた本。

 もとの雑誌は「プロなら~」とキャッチコピー(?)がついていますが、この本は内容的には初心者向けではないでしょうか。割と気軽に読めます。


 上製本、並製本、和綴じ本など種類別に製本の見本写真と製本方法、扱っている製本会社などを紹介しています。

 ひとつの製本方法に対して、せいぜい見開き二ページ。カラフルで眺めているだけでもう楽しい本です。その製本を頼める会社の紹介まであります。

 普段奥付を見たときに、著者や出版社くらいは確認しても印刷会社や製本会社までは見逃しがち。素敵な製本を見つけたら、製本会社もチェックしなければ……、と気づきました(いまさらですが)。


 そして、これを見ていると、本ってもっとお金がかかって然るべきなのでは……と、思ってしまいます。


 一冊の本が出来上がるまでに、どれだけの工程がかかっているのだろう、と途方に暮れる気がします。

 かがり方、表紙の加工、背をどのようにするか、チリのあるなし、その幅、素材、ありとあらゆる選択肢があり、すべて製本機で対応できるものもあればすべて手作業で、というものもある……。普段何気なく本屋さんに並ぶ本を手にとっていますが、その一冊一冊が考え抜かれて作られているのだなあ、と改めて思いいたりました。

 素敵な装幀のものはもちろん、いつもうっとりしておりますが、その製本方法にも当たり前ですが、それぞれに名前があって、それを知ることで解像度が上がるような気がしました。本書は本当にコンパクトかつ簡潔にまとめられているので、本職の方には物足りないのでしょうが、製本素人の私などは「おぉう、すてき……!」とうっとりして、ちょっと知ったかぶりできちゃいそうな得意げな顔になってしまうのです。


「ふんふん、これはコデックス装ね」

「やっぱりフランス装はすてきね」

「背は金の箔押しですね」

「ふふん、この和綴じは康煕綴じね」

「なるほど、だから和綴じ本は秩入りなのか」


 などなど。知ったかぶりは感じ悪いですかね!

 ですがこれ一冊であなたもちょっと知ったかぶりできちゃう! というお得な本になっております。物足りない方はさらにもっと専門性の高い本に手を出せばいいのです。入門書としては充分すぎる充実度であります。


 最後の方に「帳簿製本」についてのコラムもありまして、これがまたうっとりする本なんだなあ。

 帳簿製本はその名の通り、かつて帳簿が手書きであった頃、帳簿用の冊子に盛んに使われたもので、今作れる方は三人ほどしかいないそう。明治初期に伝わり、昭和三十年代頃をピークに、今は廃れてしまった製本方法。


 天、地、小口にマーブリングを施してあって、これは装飾であると同時に帳簿の改竄防止の意味を持つという。マーブリングはページが抜けると模様が繋がらなくなるため、容易に改竄ができなくなるのです。頭いいな!

 この手法を使ったノートなんかも手掛けているそうです。すてき。いいなあ。


 内容については詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、そういう失われつつある技術を守ろうとする方もいて、一方で技術の進化によりかつては難しかったデザインにも挑戦している製本会社もあって。

 製本に携わる職人さんと、製本会社の創意工夫によって日々進化している「本」というもの。

 

「紙の本」というのはこれからはそういう付加価値というか、より高級品となっていくのかもしれないなあ、と思いました。


 読書バリアフリーとしての電子書籍の良い面ももちろんあり、それはそれで必要なことでしょう。なんならもっと電子化が進んでも良いくらいですが。

 一方で、紙の本自体ももっとお金をかけてゆっくりと作り上げていってもいいのかもしれない、と感じました。

 こんなに複雑な工程を経て作られているのに、現代の本ってなんて対価の割に安いのだろう、有り難いなあと思う一方で、消費するのみの自分になんだか申し訳なくなるのです。


 今後は電子書籍は手の届く価格に、紙の本は高級品として簡単には手に入らない時代になるのかもしれない。まるでSFの世界のように。

 過去、物凄いお金持ちや権力者しか手に入れられなかった高級品のように、また戻っていくのかもしれないと思うと不思議な心持ちになりますね。


 


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