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『本の幽霊』――不思議で奇妙でうつくしい。







『本の幽霊』


 西崎憲/著 

 ナナロク社/発行 (2022.9出版)




◇ ◇ ◇ 





 このところ、へこんでおります。

 今期のドラマで『ブラッシュアップライフ』がとても良かったのですが、もうウニでいいじゃん、ウニに生まれ変われば幸せじゃない? と思う今日この頃です。


 さて、近況報告はこのくらいで。今回は短めです!



 西崎憲さんの本が好きです。

 好きです、と言っても西崎さんのお仕事を全部網羅できていないので、好きというのはもしかしたら憚られるのかもしれません。

 翻訳ものや音楽関係のものには手が出せていませんが、とりあえずいくつか読んだ小説はすべて「ああ、好きだな」と思えるものです。西崎さんが編んだアンソロジームック『たべるのがおそい』(※1)も夢みたいに素敵なムック本でした。そのラインナップや編集方針なんかが、「ああもう好き……」と呟いてしまうものでした。


 一番好きなのは『蕃東国年代記』(※2)ですが、今回はこちらをご紹介します。


 本にまつわるお話が多い、幻想的な短編集です。

 掌に乗るほどの、儚い重さの美しい本です。まるで古い外国文学の翻訳書のような、セピア色に金の題字、溜め息が出るような装幀にうっとりします。


 西崎さんの静かな文章と漢字の使い方が、読み流すことをもったいないと思わせ、ゆっくりと読みました。


 この本の中の一作はもともと電子書籍で出版されたものだそうです。それ以外の五篇が書き下ろされて改めて書籍で出版されたものです。電子書籍は手軽で良いものですが、これほど紙の質感が良くて、本として欲しいものはないなあと思います。

 

 物語はどれも少し不思議で奇妙なもの。本にまつわる物語が多くて、本好きならきっと気に入るものがあるのではないでしょうか。

 

 あるはずなのに見当たらない本、ここではないどこかを写し出すカフェの窓、都会の街中で行われる詩人主催の朗読会、一夜にしてできた砂嘴に現れた不思議な図書館……、などなどどれも素敵でした。


 読みながら、なんだかすごく懐かしい気持ちになりました。たぶん、西崎さんの文章は思春期の頃に好きだったものの香りがするのだと思います。少し古風で繊細でこわれもののようなうつくしくも奇妙な、そういうものを愛していたころのことをふと思い出して、こそばゆいような面映ゆいような気持ちにさせられます。

 ああ、こういうものを好きだったっけ、そういえば、というような。


 同時に雨の音や冬のよふけを想起してしまう。


 晴れた日の気怠い午後のカフェや、雨のそぼ降る日、しずかな夜に飲み物を用意して一話ずつ、ゆっくり読むのがおすすめです。とても短いお話が六篇、薄い本なので一気読みももちろん可能ですが。そんなふうに読んでしまうのはもったいないのです。

 

 


 



※1 文学ムック『たべるのがおそい』 書肆侃侃房/発行 (vol.1~7)


 vol.1が出版されたときの「おおお!? 今村夏子さんがいる!?」「なんだこの夢のようなムック本……」という衝撃が忘れられません。

 芥川賞候補作は大手出版社の純文系文芸誌掲載作がほとんどの中、今村夏子さんの「あひる」や宮内悠介さんの「ディレイ・エフェクト」などが候補として選ばれています。そりゃあ、これを無視はできないよね。書肆侃侃房さんの本はどれもとても丁寧に作られている気がして、ここから出版されているだけでもうなんだか安心してしまう。



※2 『蕃東国年代記』(創元推理文庫) 東京創元社/発行(2018.2)


 和風(?)ファンタジーです。とても素敵でとても好き。

 日本の東に浮かぶ蕃東国ばんどんこくを舞台とした幻想譚。平安時代頃、貴族の青年・宇内を主人公とした短編集で、竹取物語のようなファンタジー要素を含むドキドキワクワクの物語。年代記、と銘打っているだけあって、地続きの現代も時折コラムのように差し挟まれており、文化や習俗が自然で実際ある国の話かと思ってしまう。私は読み終わったあと地図で蕃東国を探しました(当然なかった)。

表紙絵は『宝石の国』など数々の幻想的なSFを手がける漫画家市川春子さんの美しい絵です。表紙でジャケ買いするレベル。そして、中身も好き。

  


 

 

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