【070】少し時は遡り……
本日二話目の投稿となります。
読む順番にお気を付けください。
時は少し遡り、メルメルがまだ各地を転々と旅し続け、世界のどこかにある砂漠の国を訪問したり、幻の海底王国を訪問したり、各地の島国や魔法大国でやらかしつつ、あらゆる場所で小さな功績を積んでいたころ……。
ついにこの日、アルスは十一歳の誕生日を迎えた。
この時には既にガイウスも夏休みから帰還してきており、ペットのボールスも含めてアルスの誕生日を盛大に祝い続けていた。
「おめでとうアルス! お前もついに十一歳か、早いもんだな!」
「おめでとうございますアルス。母はあなたが元気に正しく成長してくれていることが、何よりも嬉しくあります」
そう声をかけるのは父カキューと、母エルザ。
二人は成人まであと三年となった成長したアルスを見て、柔らかな笑みをこぼす。
あらゆる角度から息子であるアルスを見守ってきた二人だからこそ、感慨も人一倍なのだろう。
「おう、アルス。お前もデカくなったなぁ! それにそんな可愛い彼女まで出来ちまってよ! 俺も嫁を探しに旅に出たが、今回はからっきしだったぜ。がはははは!」
嫁の候補は何人もいたし結ばれるチャンスも何度もあったが、そういった出来事の全てを本人のクソ真面目さによって散らせてしまった男、ガイウスは語る。
だが彼はこのことに少しの後悔も抱いておらず、今は自分の幸せを追い求めるよりも、歳の離れた友達であるアルスに自らの持つ経験や知識を与えていきたいと思っているようであった。
そして、最後に……。
「アルス……! 誕生日おめでとう! これ、お、俺様が作った、チョコレートってやつなんだ! よかったら食べてくれよ。これでもけっこう、が、頑張ったんだぜ……」
「ありがとうハーデス。嬉しいよ!」
「そ、そうかな!? え、えへへ……」
最後に登場したハーデスが、ピンク色のハート型に包装したチョコレートを手渡し、表情をトロけさせる。
どうやら今回の誕生日のために作ったチョコで、満を持して大好きの想いを伝えることにしたらしい。
なんだかんだでアルスも「美味しい」だの、「ハーデスはいいお嫁さんになるね!」だのと、思わせぶりな台詞を吐いているあたり罪な男だ。
もちろん、そんな言葉を聞いてしまったハーデスは顔を真っ赤にさせドキドキしてしまうのだが、直球で言われたことに対し急に恥ずかしくなってしまったのか、後ろを向いて「お、おう! 当たり前だぜ! 俺様を誰だと思っていやがる!」と、男勝りなところを見せてしまうのであった。
変なところで素直になれないハーデスと、あまりにも素直すぎるアルス。
これぞ、まさに青春。
そんな感じで和気あいあいとしつつも、南大陸の魔法城で誕生日パーティーを繰り広げていた下級悪魔は、そろそろ良いだろうということで頃合いを見計いとある提案を切り出した。
「よし、アルス。それじゃあさっそく、十一歳、最初の試練といこうか。三魔将との一戦以降、この短期間でメキメキと実力を伸ばすお前も、そろそろ自分の実力を試したいといっていただろう? 今回はその腕試しの相手を、南大陸の大森林で見繕ってきた」
父カキューは語る。
南大陸の奥地にて、森の生態系を大きく荒らす邪竜が現れたと。
その邪竜は本来この大陸にはおらず、人跡未踏の地である東大陸からやってきたとのことであったが、問題はその邪竜の強さ。
本来属性竜はSS級中位と、人の手で討伐するのは不可能である怪物だ。
だがその邪竜は属性竜の中でも特殊な闇属性の力を宿しており、強度はなんと、SS級最上位。
ほとんどSSS級に手が届きかけているような、かつて現れたゴキブリの四天王すらそれなりに力を振るわないといけないような、そんな相手であったのだ。
そんな怪物を、父カキューはハーデスと協力し、二人だけで討伐してこいといっているようである。
「まあ、邪竜はあくまでも腕試し。討伐は目標であって絶対ではない。今回に限っては、最終的に父さんが面倒をみてやるから安心して全力を振るえ」
「分かったよ父さん! これは父さんがよく言っている、ボーナスステージっていうやつだよね!」
だがもちろん、討伐とはいってもあくまでも誕生日パーティーにおける、プレゼントみたいなもの。
これは父カキューの監視下に置かれた、アトラクションのようなものであった。
いくら人間や魔物を見つけ次第に襲い掛かり、生態系をめちゃくちゃにする災害のような邪竜であったとしても、その気になれば父カキューが討伐するか、もしくは東大陸に戻してやればいいだけのことである。
だからこそ文字通りに、腕試し。
何の不安も無かったのであった。
「ククク……。なんだかしらねぇが、俺様とアルスが協力してたかだか竜一匹を仕留めろたぁ、ずいぶん過小評価してくれてんじゃねぇかおっさん。目にもの見せてやるぜ」
「そうだねハーデス。この機会に、僕達の力がどこまで通用するか試してみよう」
しかしいくらアトラクションとはいっても、負けん気の強いこの二人。
何かが危機に陥っているような本番ではないと知りつつも、やる気は十分であった。
「よし! 気合も十分みたいだし、さっそく出発するか。今回は父さんとアルス、そしてハーデスの三人でのプチ遠征だ。日帰りになると思うから、城のことは頼んだぞエルザ、ガイウス、ボールス」
「ええ。いってらっしゃいませ旦那様」
「留守は任せなご主人」
「グルォオオーン」
三者三様に返事をした居残り組と別れたプチ遠征組は、転移で現地に向かいパーティー会場を後にするのであった。
そして……。
「ふんふんふーん。今日も今日とて、ふぁいあー! なのよ。この大森林の龍脈を通じて燃える炎は別格なのよね~。……でもちょっと、燃え過ぎかちら? いまならどんなモノでも燃やせそう。いや、燃やすのよ! FHOOOOO!」
邪竜が来襲し生態系が変わりつつある、とある大森林の奥地にて。
謎の幼女が一人、巨大な魔物の肉を火で炙り、盛大なキャンプファイヤーを楽しんでいるのであった。
まだまだしばらくは交差することのないこのヤバそうな幼女と、プチ遠征組。
そんな絶体絶命の危機に晒された邪竜の運命やいかに……。




