【065】いつか語ってみせるよ、僕の夢を
昨日は突然投稿しましたので、読む順番にお気を付けください。
三魔将たちとの戦いから一ヶ月と少し。
夏休みとして与えられた休みも終わりに近づいたそんな頃。
金髪碧眼の少年アルスは、皆が寝静まった深夜、西大陸の拠点にある自らの部屋にてとある特訓を繰り返していた。
「二秒……、三秒……、四秒……、くっ、ダメだ。ここで必ず集中力が途切れちゃう。やっぱりまだ、僕の実力では四秒が限界みたいだね。せめてこの時間制限さえなんとかなれば、まだ使いものになるんだけど……」
溢れ出る大量の魔力をコントロールしつつもその両の目を黄金に輝かせ、そう独り言ちる。
あの大冒険の最後、絶体絶命のピンチの中この謎の力に目覚めた時、自らに眠る何かが引き出されたような感覚に気付いたアルスは、あれ以来度々この力を制御する訓練を続けていたのだ。
「確かハーデスによれば、あの時の僕は完全に三魔将の力を超えていたんだってね……。自覚はないけど、今のこの不甲斐ない感じを見ていると、とても信じられない気持ちだよ」
あの時に発揮した力のわずかでも引き出せればいいのにと思うものの、今もこうしてその制御に失敗しているように、あの日以来、完全にこの力を引き出せたことは一度も無い。
集中力が続く限り何度でも黄金の瞳を発動させることはできるが、どれだけ試行回数を重ねても、今の自分があの圧倒的だった三魔将を超えているという感覚が湧かないのだ。
そしてその感覚は、実に正しかった。
「今の黄金の瞳を発動させた状態だと、う~んと、三魔将との戦いを終える前のエインと十回戦って、十回勝てるくらいの力かな? ……だめだ、それでもやっぱり三魔将に及ぶ気がまるでしないや」
確かにライバルであるエインは強い。
しかしそんなエインを十回連続で倒せる相手というのは、上級魔族の中にはいくらでもいるだろう。
特に三魔将筆頭の上級魔族、暗黒騎士ジョウキューなど、黄金の瞳を発動させた今のアルスとエインがそれぞれ一万人いても勝負にならない自覚がある。
とてもとても、瞳の潜在力を完全に引き出していたあの時の圧倒的な力とは、程遠い実力であった。
「それに、ジョウキューの力を超えているって言っても、しょせんは表面上に見えているだけの魔力の話でしかない。……父さんを見ていれば分かるけど、表に出ている魔力量なんて飾りでしかないし、そもそも魔力が高いから相手より強いとは限らない。でもそれじゃあ、いったい僕は、どうしたら良いんだ……」
正面きって戦うだけが能ではないということを、今のアルスは三魔将との戦いから嫌というほど学んでいる。
だからこそ、黄金の瞳の力を過信する気にはなれないのであった。
だが、それでも使えるものは使えたほうが良いのは事実。
だからこそこうして練習しているわけなのだが、成功の切っ掛けすら掴めないのではどうしようもない。
そんなことを深夜に悩み続け、何度も何度も繰り返し反復練習をしていると、突然、部屋の扉からコンコンというノックが聞こえてきた。
「アルスいるか? 父さんだ、入るぞ」
「え、父さん? いいよ。入って入って」
夜な夜な訓練を繰り返す息子を案じたのだろうか。
深夜にもかかわらず息子の前に姿を現した父カキューは、今もなお黄金の瞳にかかりっきりの姿を見て少しだけ表情を歪める。
その表情に含まれていたのは大きな喜びと同時に介在する、とても大きな心配であった……。
「なあ、アルス。お前が覚えているかは分からないが……。確か小さいころに、父さんみたいになりたいと、そう言っていたな」
「うん。そうだよ。ちゃんと今も覚えてる。僕はいつか父さんみたいになりたいって、ずっとそう思っていたんだ。これは僕の目標であって、一番の夢なんだよね。えへへ……」
そんな息子の言葉を聞いた父カキューはくしゃりと顔を歪め、自分を追って来てくれていることが嬉しくありつつも、やはりこうなったかという、少しだけ呆れの含まれた珍妙な苦笑いする。
そしてその苦笑いのまま、やがて納得したかのように一度頷くと、大きな手のひらで息子の頭を撫で始めた。
「と、父さん……? どうしたのさ、急に」
「すまない、アルス。今の父さんはお前に、これくらいしかしてやることが出来ないんだ。だが嬉しかったぞ、お前が今もその目標を掲げて追ってきてくれているのが分かったからな」
父カキューは何度も何度も、言葉にはならない様々な想いを込めて頭を撫で続ける。
その瞳に映るのは、息子が悩み続けている中、現状ではなにもしてやることができない親としての不甲斐なさと、まだたった十歳のはずの子供が懸命に次の一歩を踏み出そうとする勇気を誇らしく思う、正と負のないまぜになった感情の渦であった。
「なあ、アルス。……辛くはないか? もし辛かったら、こんなことはもう辞めていいんだぞ? もっと楽にしていい。もっと子供らしく暮らしていい。もっともっと、自分のことだけ考えて生きていたっていいんだ。それに、これは仮にそう思っていたらの話なんだが……。この世界のことや、友達のこと、ハーデスのこと、そして魔族のことを心配しているのであれば、お前が一言、なんとかしてくれって頼んでくれたら、その時は父さんが全てを解決してやる。……約束だ」
「…………」
根を詰めすぎている息子への心配か、はたまたそれでも頑張ろうとする息子への期待の表れか。
決して顔をあわせることはせず、ただそっと、アルスにとっての逃げ道を用意してやる。
また、そんな父カキューの想いを息子であるアルスも感じ取っているのか、決してその横顔から目を逸らさずに黙って聞いていた。
「いいか、アルス。悪魔の約束は絶対だ」
「うん……」
「いついかなる、どんな時でも、一度交わした契約は破られることはないんだ」
「うん…………!」
だから、いざとなったら逃げてもいいんだと。
それでお前を責める者など、誰も居はしないのだと。
父カキューはそう語る。
そして一拍置いた後、再び問いただす。
「それでも、お前の気持ちは変わらないか……?」
「変わらないよ。ああ、変わらない。……変わるわけがない! だって、これは僕の夢なんだ!! たとえ今は力が足りなくても、たとえあの時、上級魔族相手に何も出来なくても、たとえ三魔将から見た僕なんて、ちっぽけな存在だったとしても……!!」
────それでも僕は、自分の意志で、自分の力で強くなりたい!!
────この夢を、諦めたくないんだ!!
固まっていた決心を揺さぶるかのような、心の隙間を見透かすのような、そんな父カキューの問い掛け。
そんな問い掛けによって、アルスはついに瞳から大粒の涙をこぼしながらも、それでもなお最後まで揺れ動くことのなかった自らの願いを口にした。
「だから、心配しないで父さん。僕の夢に、お願いしたらなんでも解決しちゃう、魔法の約束なんていらない。僕は僕自身の力で、これからも前に進むよ」
「そうか……。そうだよな。お前は昔からそういうやつだった。はははっ、父さんの完敗だよアルス。約束のことは忘れてくれ」
「えへへ……。僕、生まれてはじめて父さんに勝ったよ。これでようやく一勝だね!」
ああ。
誰が何と言おうと、この勝負、お前の勝ちだ。
父カキューはそれだけいうと、涙を流して精一杯の空元気を振る舞う息子を抱きしめたのだった。
「ありがとう、父さん。いつか絶対……。僕がこの先、仲間達と叶えていく夢を、父さんと母様に語ってあげるからさ。待っててよ」
「おう。楽しみに待ってるぞ。なにせ俺の息子だ。きっと世界で一番の夢になるんだろうな」
こうしてこの日、初めて腹を割って話し合った二人の親子の時間は、少しだけ温かくなった気持ちと共に、ゆるやかに過ぎて行ったのだった。
魔王子編のエピローグは、もうちょっとだけ続きます。




