【043】究極お風呂モード、スポポポポーン
本日一話目の更新です。
次の更新は、本日の朝7時です。
行き倒れを拾ってから三日後の、東大陸中央部。
人智を超えたあらゆる超生物がひしめき合い、ともすれば伝説の竜王や神話の怪物すらも潜むその大自然の中で、このあたりでも比較的強い魔物である属性竜の一体を屠った赤髪の魔王子は、自らが跳ね飛ばした首から噴水のように放出される、竜の血のシャワーを浴びて悦に浸っていた。
「クハハハハハ! バケモノ共の血はいつ浴びても気持ちがいいぜぇ……。この血に含まれた魔力が、死によって晒された魂が、俺様の糧になる!」
出身世界が違うとはいえ、こいつも地獄の悪魔である俺と似たような性質を持つ、魔界の魔族だ。
故に強力な生物の魔力や魂を喰らう事で、自らの成長エネルギーとしていくことができる。
これはハーデス本人の善悪の問題ではなく、生き物としての構造の問題だ。
弱肉強食が基本の悪魔や魔族らしい、純粋な生存競争。
ある意味では自然の摂理とも言えるだろう。
とはいえ……。
「うわっ、ちょっとやめろよハーデスお前、服が汚れるだろうが。この血が飛び散った服を洗濯するのはエルザママなんだぞ? お前、エルザがどれだけ怖いか知ってるか? いや、知らんだろうな。あ~あ、ハーデス死んだわ。これはもう終わったわ~」
そう、地獄や魔界でならいざしらず、ここは人間界である。
人間界には人間の法則があり、価値観が違う。
ともすれば魔界では褒められるであろうその行為も、この下級悪魔の服を洗濯するエルザママからしてみれば、ただ服を汚すだけの愚行に他ならない。
まったくもって、いい迷惑であった。
しかしまさか怒られると思っていなかったハーデスからしてみれば、俺の言葉は驚愕そのものだったのだろう。
なぜ注意を受けているのか全く分からないという顔できょとんとしてしまい、目をぱちくりさせていた。
「だめだよ、ハーデスくん。君が強いのはよく分かったけど、そんなに血を浴びる戦い方をしたら、洗濯が大変なんだよ? 父さんからは、できるだけ返り血を浴びないのが一流の証拠だって教わったし、あとで僕がお手本を見せてあげるね?」
「え? い、いや、俺様は……!」
そうだそうだ、もっと言ってやれアルス。
郷に入っては郷に従えという格言を理解していないこの魔王子サマに、現実ってものを教えてやれ。
と思っていたのだが、妙に凹むな?
なんでそんな焦っているのだろうか。
これはアルスに嫌われるのが怖いというよりも、どちらかというと、怒られ慣れていないという方が正しいか?
まあ、王子だからな。
多少はそういう面もあるだろうけど、それにしても動揺がすごい。
この世界の魔王には会った事がないが、教育が上手くいっているのか心配になる狼狽ぶりだ。
そうなると、少し言い過ぎてしまったかもしれんなぁ。
だが俺がいつまでも気にしていても始まらない。
話題を変えようじゃないか。
「というか、返り血が臭いから、お前一回風呂に入れ。ほら、みんなで水浴びするぞ」
「そうだね父さん。もうここで修行を始めてから三日目になるし、そろそろ汚れが気になっていたんだ」
うむ、そうと決まればさっそく風呂だ。
それにこの三日間の修行で、アルスの実力確認は十分行えた。
風呂からあがったら城に帰還するという選択肢もありだろう。
そろそろエルザが俺に会えない欲求不満と、息子であるアルスに会えない寂しさでイライラしはじめるころだからな。
この辺が野外実習の潮時というやつだろう。
そうして近くの広場に魔法で石風呂を作成し、これまた魔法でお湯を溜めていく。
いくら城に帰ったら満足いく風呂に入れるといっても、最低限の身だしなみを整えてからでないと部屋が汚れるからな。
これはマナーである。
「ほれ、さっさとハーデスも脱げ。最初の風呂は子供組からだぞ。それにアルスなんて既にすっ裸だ。これこそが究極お風呂形態のスポポポポーンモードだな、スポポポポーン」
「スポポポポーン!」
「はは! やっぱり我が息子はノリが良いな! スポポポポーン!」
アホな掛け声と共に服を簡易脱衣所に脱ぎ散らかしていたアルスへ、水魔法と火魔法の合成魔法である温水シャワーを浴びせる。
うむ、石鹸の持ち合わせは無いが、温水だけあって十分汚れは落ちるな。
「お~い、いいかげんハーデスも早く入れ。湯が冷めるぞ~」
「あ、ああ、風呂か。……え? スポポポポーン?」
「そうだ、スポポポポーンだ」
ほんとハーデスのやつは何をやっているのだろうか。
こうして我が息子様がシャワーを浴びているというのに、一向に混ざって来る気配がない。
もしかして、部外者であることを気にして、一番風呂を遠慮しているのだろうか。
王太子のくせに一々律儀なやつだなぁ。
と、最初はそんな感想を抱いていたのだが、どうやらそれは勘違いであることがすぐに発覚した。
「あ、あわ、あわわわわわ!! な、なんてモノを俺様に見せつけてやがるんだアルス! そ、それ、それをさっさと仕舞えバカヤロー! 人前でおかまいなしにブラブラさせやがって、ハレンチだろうが!?」
「ええぇ?」
そう必死になって叫ぶのは、真っ赤にした顔を手で覆いながら、アルスの股間を凝視するハーデス。
いやお前、男同士で何恥ずかしがってるんだよ、乙女か!
しかも顔を手で覆っているようにみせかけて、指の隙間から思いっきり観察してるじゃねぇか!
なにアホなことやってんだこいつは!?
いくらアルスの気を引きたいからって、意味わからんギャグに走るんじゃありません!
そう思うもハーデスの演技には妙に迫力があり、ギャグでこんなことをやっているようには見えない。
というか、徐々に頭に血が上り、目を回していっているようにも見える。
既に奴はダウン寸前だ。
まさか、こいつ……。
「はわわわ……。ア、アルスの腹筋、しゅごい……。バキバキだじょ……」
「父さん、なんかハーデスくんの様子が変だよ? 病気かな?」
まて、可哀そうだから病気扱いはやめてさしあげなさい。
これは恐らく、アレだ。
アレしかない。
「うん。いまのは見なかったことにしようアルス。きっとハーデスは長い間のサバイバルで、疲れがたまっているんだろう。そっとしておいてあげなさい」
「あっ! そうだったね! こんなになるまで一人で二年間も生き抜いていたなんて、すごいやハーデスくん」
うん、これは間違いなくあれだね。
もうデビルアイで心をみなくても分かるよ。
────君、女の子でもないけど、男の子でもないでしょう?
「うにゃぁ……」
あ、鼻血たらして気絶した。
【書籍化についてのご連絡】
有難い事に、読者の皆様の応援もありこの度【転生悪魔の最強勇者育成計画】が書籍化する事になりました。
詳細はのちほど、またご連絡します。
これを切っ掛けにもっと多くの人に作品を知ってもらえればなと思っております。
今後とも宜しくお願いします!




