【036】暗黒騎士の正体、そして家族旅行の終わり
本日2話目の投稿となります。
読む順番にお気を付けください。
あっぶねぇ!
いや、本当にあっぶねぇ!
いまのエインくんの攻撃で兜がズレて、漆黒の鎧の中に入っている下級悪魔の顔が見えちゃうところだった!
手加減した俺への不意打ちとはいえ、攻撃を掠めさせるとは見上げた根性である。
いやはや、アルスに良い友達ができてよかったよ、ほんと。
ただ残念なことに、その技の反動で気絶しちゃったらしい。
だったらこんなのもう、撤退だ撤退。
せっかく友達になれたわけだし、アルスたちの仲をもっと深めてやろうと強敵を演出したわけだが、これ以上は息子たちの健康にかかわる。
「フハハハハハハ! この俺に僅かでも傷をつけるとは、やるな少年たち! 俺と善戦したその褒美に、今日のところはここで引いてやるとしよう。では、さらばだぁ!」
「あ、待て!」
「待たんよ。はぁっ!」
空中を高速で追いかけてくるアルスを撒くために、こちらも転移魔法で姿をくらます。
これでもう二度と追いかけてくることは出来まい。
元々はあのザルーグとかいう辺境伯が誘拐を企んでいた時にピーンと来たこのイベントだが、ちゃんと子供達の試練になれたようで良かった。
あんな有象無象の暗部が相手ではアルスたちにとって役不足だったし、せっかくならもっと盛り上げてやろうとした結果なのだが、大成功を収めたと言っていいだろう。
きっとこの試練を乗り越えた子供達は、より強い絆で結ばれたに違いない。
まあ、約一名、アルスにフラれて最初からダウンしていたのが居た事だけが残念だけどもね。
まあ、あの聖女ちゃんは最初からアルスにベタ惚れだったみたいだから、イベントの有無にかかわらずこれからも仲良くしてくれるだろう。
それにしても、防御力を高めるためではなく、姿と魔力をカモフラージュするために急遽仕立てたこの暗黒騎士鎧だが、予想以上の働きだったな。
さすが俺の錬金術、万能である。
今後もなにかあったらこの鎧を着ることにしよう。
そうして暗黒騎士鎧を亜空間にしまい、何食わぬ顔でパーティー会場に戻る。
道中で、俺が大剣で吹き飛ばした暗部たちがぞろぞろと辺境伯邸に向かっているところを見かけたが、あいつらのことは今気にしなくてもいい。
この暗黒騎士の登場によってアルスたちに構っている余裕もなくなっただろうし、最終的にはこの教国を去るときにでもお灸をすえてやればいいだけだからだ。
「おかえりなさいませ、旦那様。もう用事は済んだのですか?」
「ああ、済んだ済んだ。いや~まいったね。急に腹が痛くなってパーティーを抜け出すなんて、俺も初めての事だよ」
「…………」
え、なに?
エルザママの目が怖いのですけども。
なんかすごーく嫌な予感がするが、これは気のせいだ。
きっと気のせいである!
「……旦那様」
「ひゃいっ」
やべ、噛んだ!
何やってるんだ下級悪魔!
「今晩だけではなく、二晩の貸し切りで、手を打ちましょう」
「そ、それはどういう……」
「すべて、お話しなくてはなりませんか?」
そういってエルザが俺の頬をスゥっと指でなぞると、そこには少しだけ血が付着していた。
あ、これはまさか……。
いや、まさかではない。
アルスとエインくんが協力して生まれた最後の攻撃が、薄皮一枚だけ俺に攻撃を通していた、ということのなのだろう。
いやはや、こんなところに証拠を残すとは、まいったな……。
これはもう、俺が隠れてやっていたことが全てバレてしまったと思って間違いない。
「これは、その、あれだ……!」
「往生際が悪いですね? 分かりました。それでは三日三晩で……」
「はいっ! 分かりました! 全て俺が悪かったです! はい! 二晩で手を打ちます!」
「よろしい」
怖えぇぇぇ~~~!!
いまエルザママ、完全に人を殺す時の目だったよ!
い、いったい今晩からどんなお仕置きをされてしまうんだ!
下級悪魔に人権はあるのか?
いや、ない!
「あの? お手柔らかにお願いします」
「ふふ。容赦はいたしません」
容赦ナシらしいです!
終わった!
下級悪魔、散る!
そんなニッコリ微笑まれたら、恐怖でチビってしまいます!
「そ、それとだな。アルスはちゃんと、俺たちの予想以上の成長を遂げていたぞ。これはいよいよ、次のステップに踏み出す時かもしれない」
「まあっ、そうですか。さすが私たちの子。ですが、そうなると少し寂しくもありますね……」
それはそうだ。
いつかは子供というのは親離れをしていくものだからな。
いまはまだその時ではないが、いずれはアルス個人が世界中を冒険して、そして自分の人生を切り開いていくのだ。
そのためにちょっと背中を後押しするのが俺たち親の役目であり、次のステップということになる。
そしてなにより、それに足るだけの勇気を、アルスは見せたのだから。
「ああ、アルスのやつ凄かったぞ。なにせこの俺を相手に一歩も引かないどころか、友達を鼓舞するために突っ込んできたんだからな」
「そうですか……。あの子らしいですね……」
そうして、少ししんみりとしつつもパーティーは進んでいき、最終的に暗黒騎士との戦いから帰還したアルスたちがボロボロだったり、目が覚めた聖女がフラれた時のショックで都合よく失恋の記憶を無くしていたりしたが、最終的にはつつがなくイベントは終了しこの国を去ることができた。
ちなみにこの国を去るときに、こっそりザルーグ辺境伯の執務室に不審な手紙を置いて行き、お灸はちゃんと据えておいた。
これはケジメというやつだから、手抜かりはない。
あの辺境伯の心境には納得できる部分もあるが、喧嘩を売る相手を間違えた、ということになるだろう。
すまんな辺境伯。
そして、その後は教国の上層部で魔族の出現がどうだとか、帰国してしまうアルスを見た聖女様が一週間ほどご乱心なされたとかいう風の噂を聞いたが、それは些細な事である。
大事なのは今日この日の思い出がアルスを大きく成長させたという、その一点に尽きるだろうからだ。
きっと、そうなのである。
ここからは余談だが、イベントを終えて城に帰ったあと、約束の二晩を過ごすエルザママの要求は凄かった、とだけ言っておこう。
なぜか次の日にお肌がつやつやだったのは、いうまでもあるまい。
次回、深夜0時に教国編のラストを投稿します。
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