【031】対するは、剣の申し子
キリが良いので、朝7時にもう一度投稿します。
カラミエラ教国、聖女イーシャ・グレース・ド・カラミエラ五歳記念武術大会、子供の部決勝。
そんな大舞台の上で睨み合うは、片や癖の無い銀髪に澄んだ紫眼を持つ齢十の少年剣士、エイン。
それに対抗するは輝く金髪に碧眼、なによりも表情に純粋さと素直さを感じさせる五歳児、我らがアルスの姿があった。
「やはり来たか、少年。この前は俺の主君の危ないところを助けてもらったこと、感謝する。なにより、そんな君ならここまで来るだろうとは思っていた」
「うん! それは僕もだよ! え~と……」
舞台の上で、試合開始前の雑談を繰り広げる二人は既にどこか親し気で、お互いにここまで勝ち残ることが分かっていたように笑い合っていた。
実際この子らの実力ならそうなるのは必然であったし、周辺国の同年代では図抜けた戦闘力を誇るだろう。
魔法、武術、統治力。
強さにもいろいろあるが、まずもって武術の面で言えば、未成年の中では西大陸においても五本指に入るくらいには強いのは間違いない。
俺もこの世界の全てを知っているなんてことは全然ないのだが、まあ、この予想もそう大外れではないだろう。
「俺の名はエインだ。本当はもっと長ったらしい名前があるんだけど、この武を競う場で無粋なことは言わないでおく。今の俺は、ただのエインだよ。君の名は?」
「僕はアルス! 僕もただのアルスだよ、エイン君!」
「ふっ、そうか。君も姓を名乗る気は無いということだな、アルス……。その名前、覚えておくよ」
いや、本当に姓はないんだけどね。
こちらが他国の貴族に見えているだろうエイン少年には悪いが、それ全部エルザママのミスリードだから。
まあ、そのおかげで下手な輩からちょっかいをかけられずに済んでいる面もあるので、文句があるわけではないんだけども。
「それでは、両者構え!」
「…………」
「…………」
「────試合、開始!」
瞬間、審判の合図と共に舞台から二人の少年の魔力が弾けた。
大人程に余裕をもって相手を観察しない子供の感性故か、睨み合いもへったくれもなく、いきなりフルパワーで身体強化を施した両者が激突したのだ。
とはいえ、その実力は本物。
エイン少年もアルスも、両者共に戦士として十分A級で通用する強さを持っているのだから。
「だが、年齢差による人生経験と体格のせいか、エイン少年が若干有利だな」
「ええ、その通りでございます。あの少年が戦士としてA級の半ばまで武術を極めているとするならば、アルスはまだその入り口に到達したばかり。とても同じ条件下では勝ちを拾うことは難しいでしょう」
だが、それは一度でも剣を交えればアルスにも分かっていることだろう。
問題はいまのままでは絶対に勝てないということを認識し、自分以上の強者に向けてどう戦略を組み立てるか、だな。
とはいえ、明らかに格上であるガイウスと違い、ある程度は実力が拮抗した強者との真剣勝負でそこまで考えられるかは怪しい。
なぜならアルスには、そういったギリギリでの戦いの経験が全く足りないからだ。
「どう思う、ガイウス」
「負けるな。間違いなく」
「端的な意見だけど、俺も同意見だよ。やっぱそうなるよなぁ……」
決勝の舞台から舞い戻り、俺とエルザと同じく観客席で観戦をはじめていたガイウスにも聞いてみたが、やはり意見は同じだった。
その証拠とばかりに、自分の剣が押されていることを理解したアルスはさっそくデビルバットアサルトの構えに入り、勝負を急いでしまったのだから。
「つ、強いねエイン君! でも、僕だって……!」
「その構えは……。来るか、アルス!」
「……絶対に、負けないよ! 究極戦士覚醒奥儀スーパーデビルバットアサルト!!」
そう宣言すると共に、過去の俺が口走った謎の技名が会場全体に響き渡り、アルスの身体能力が爆発的に膨れ上がる。
しかし、やっぱり功を焦ったか……。
アルスはああ見えて、実はものすごく負けず嫌いだ。
なにせ自分より一日早く奥儀を発動できるようになったガイウスに純粋な憧れと、なにより負けてなるものかという闘志を燃やし、次の日には同じように奥儀を完成させていたくらいなのだから。
つまり性格の良さと勝負事に対する負けず嫌いは、全く関係ない要素なのである。
だからこそ五歳児にして破格の成長を遂げているとも言えるが、今回はそれが裏目に出たな。
「ハァァァァァァ!!」
「くっ、一撃が重いし、確かに俺よりも動きは素早い……。だが、それは想定内だ」
アルスの急激な身体能力の上昇に対し、事前にその事実を把握していたエイン少年はニヤリと笑う。
こりゃあたぶん、弱点の方も分析されちゃってるね。
明らかにあれ、持久戦に持ち込む構えだよ。
「あちゃ~。やっぱりこうなった」
「仕方ないだろうご主人よ。アルスの地力が現時点で追いついていない以上、どちらにせよどこかで切り札は切らねばならなかった。問題はその切り札の使い方だが……」
「まあ、しょうがないか。初めてだもんね、本気の真剣勝負は」
分かってはいた。
分かってはいたが、やはり親としてはちょっと悔しい。
しかし、この苦戦によってアルスはより大きく羽ばたけるのだから、これも経験だと割り切ろう。
「あとの問題は、エルザママが試合に熱中しすぎて暴走しないかどうかだな」
「ああ……」
「何をしているのですアルス! そこです! そこで足を使いなさい! お行儀など気にしている場合ではありません! 勝つのです! 勝つのですアルス!」
ちなみにこのエルザ、あまりの熱中ぶりに既に我を忘れている。
だって目がやばいもの、視線だけで人を失神させられるもの。
というか、このものすごい応援ぶりに観客がチラっとこちらを見た瞬間、意識失ったもの。
下級悪魔もエルザママが怖い、タスケテ。
「だ、大丈夫だご主人。こうみえてエルザ夫人も殺気は少しも放出していない。理性は保っている。怖いのは視線だけ、……のはずだ」
「分かってるさ。……が、怖いものは怖い」
「それは俺も同意する」
願わくば、エイン少年がこちらに視線を向けないことを祈るばかりである。
もし一度でも今のエルザを見てしまったら、たぶん恐怖のあまり決定的な隙になってしまうだろうから。
「そこです!!! 敵の右腕ごとぶった切るつもりで! もっと殺す気で攻めるのです!」
うん。
向こうから見えないように結界はっておこう……。
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