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Data.59 中央都市セントラル

「うはぁ……近くで見ると、でっかい町やなぁ……」


「まったくね」


 マンネンのハッチを開け、そこから見える大きな城壁を眺める。

 中央都市セントラル。

 他の地方都市に比べてその規模は大きい。

 移動を短縮してくれる魔法や装置がないこのゲームでは、都市を探索するだけで数日もっていかれそうね。


「にしても人が多いなぁ……。みんなイベントに行ってるかと思ったら、意外にマイペースに遊んでるプレイヤーも多いんやな」


「イベント内容が内容ですからね……。私もマココさん達と出会わなかったら、わざわざ見知らぬ人と組んで挑もうとは思わなかったと思いますし……」


「ここに4人で突っ込んでいったら目立つこと間違いなし。さて、どうしようかな」


「もう開き直って目立ちまくればええんとちゃうか?」


 ベラがシンプルな意見を述べる。


「それはあんまりオススメしないなー」


 私とユーリがベラの意見に同意しかけた時、アイリィが口を開いた。


「盗み系スキルの餌食になる確率が高いしー」


「盗み系スキル?」


「そうそう。簡単に言うと人の物をとっても罪にならないスキル……ていうかー、スキルを持つ人がある条件を満たすと窃盗の罪が無くなると言った方が良いかなー?」


 アイリィの知る情報によると、盗み系のスキルにはモンスターから何かを奪うほか、プレイヤーやNPCから物を盗めるらしい。

 そもそもAUOでは誰でも盗みが可能だ。

 しかし、その場合『罪』を背負い、盗んだ者の持ち主から攻撃を受ける状態になる。

 盗み系スキルを持っていてもこの部分は変わらない。


 変わるのはその後。

 スキルを持つ物は『罰』を受ける以外に『罪』を消す方法を持っている。

 それはある条件を満たすこと。

 その条件のパターンが複数あるかまではアイリィは知らないらしい。


 ただ、一つ知ってる条件は『一定時間逃げ切る事』。

 その間ログアウトも不可。

 ログアウトすると盗んだ物は不思議な力により持ち主の元へ帰り、罪を消す事も出来ない。

 条件を満たす前に盗んだ物を壊してもいけない。それは盗みとは別種の罪であるから。


「ウチらなら盗まれても取り返すことは簡単かもしれないけどー。時間のロスになる事は間違いないし、極力目立たない方が良いに越したことはないよー」


「確かにそうね……。でも、町には行かないといけないわ。イベントシアターはスルーするにしても、汚れ傷ついた装備の修復はしたいわ」


「それなら私にいいアイデアがありますよ!」


 あっ、この声は。

 私は反射的に空を見上げる。


「ヴァイト……か」


「御名答! お久しぶり……ってほどでもないですね、マココさん!」


 ヴァイト――。

 アイリィが所属するエンタメ集団『GrEed(グリード) SpUnky(スパンキー)』のリーダー。

 彼の持つ進化(エヴォル)スキル【悪魔の魔翼(デビルズ・ウイング)】はその名の通り大きな翼を生成するスキルで、飛行可能なうえ変化させて遠近両用の武器にもなる。

 正直強い。おチャラけたキャラだけどね。


「良いアイデアって?」


「単刀直入ですね……。まあいいでしょう。アイリィもお世話になってますし」


 ヴァイトは地面に降り立つと、その黒い翼をたたんだ。

 やっぱ空を飛べるって便利そうよねー。


「まず、イベントシアターにはできれば立ち寄らない方が良いです。純粋にプレイヤーが多すぎてワイワイガヤガヤ落ち着かないですし、トラブルの元になりますね」


「でも、それじゃ情報が手に入らないわよ」


「その『情報』は()がお()()しましょう。あ、ギャグじゃないですよ」


「わかってるわよ。で、情報って?」


「あいかわらずドライな人ですね……。もっとキャピキャピすることはないんですか?」


「AUOプレイ当初はテンション高かったわよ。てか、あのギャグに食いつかれても困るでしょう」


「……そうですね」


「二人ともお話が長いよー」


 アイリィが本題に入るように(うなが)す。


「オホン、では……まず『ダンジョンの攻略状況』をお伝えしましょう。ズバリ、他のダンジョンはまだ制覇した者が出ていません」


「大手ギルドってそんなに弱いのかしら?」


「ふむ……単純にそうとは言えませんね。あなた達の攻略した『ヴォルヴォル大火山洞窟』は戦闘能力によるゴリ押しの効くダンジョンでしたが、他はそうもいかないと言いますか……。まあ、彼らは封鎖にも『戦力』を割いている、というのもありますねぇ」


 ヴァイトは少し思考と視線をめぐらせた後、再び口を開いた。


『水底の大宮殿』を封鎖&攻略中のナンバー2ギルド『グローリア戦士団』は個々の戦闘能力が高いですが、数が少ない。なので、封鎖の方は上手くいってますが、探索の方はあまり進んでいませんね」


「まあ、あのダンジョンは水の中で入るのが大変らしいから、封鎖は難しくないでしょうね……」


「……あれ、マココさん。『水底の大宮殿』へ続く地下ルートが見つかった事知らなかったんですか?」


 えっ、あれ?

 みんな知ってる感じ?

 周りを見渡すと、みんな当然のことの様な顔をしている。

 最近スレ読んでなかったっけ……?


「まあ、細かい説明は省きますがね。その地下通路はイベントの三つのダンジョンのルールが適応される一本道なんです。その為、敵は正面からのみ来る。ゆえに守りやすいというワケですね。それに『戦士団』には進路妨害が得意なプレイヤーもいますし」


 ヴァイトはここで自身のステータスを開き、メモページを表示する。


「ここで何人か要注意人物を紹介しておきましょう。といってもメンバー全員そこそこの手練れですが……純粋にマココさんに敵う相手はいません。しかし、厄介な相手は多い。相手の土俵に引き込まれると苦戦する事でしょう。まずは……」


 ぼーっと聞いてるのも暇で、内容が頭に入ってこない気がするので、私も簡単にメモを取る事にした。


「一人目はオリヴァー……通称『大斧のオリヴァー』と言われる男。まあ、ギルドの団長ですね」


 大斧のオリヴァー――。

 AUOにおけるナンバー2ギルド『グローリア戦士団』の団長。

 彼に関してわかっている事は、『武器は大斧』『防具は獣の毛皮を素材に使っていてワイルド』ぐらいらしい。

 なんでもリアルタイム映像に映っていたのは、大斧の重さで相手プレイヤーをぶった切る姿ばかりだったという。


 スキル構成は全く不明。

 肉体強化系の目に見えにくいスキルを複数使って、大斧の威力を上げているという説が有力。

 役割は主に『探索班』。先陣を切っているらしい。

 そこは本来ダンジョン探索を主な目的としているギルドのリーダーっぽわね。


「彼に関しては、小細工よりパワーの人でしょう。つまりマココさんの得意な土俵ですね。しかし、一応リーダー格なので知っておいて損はないでしょう」


「人を怪力キャラみたいに……」


「……いや、ホントじゃないですか」


 ……それは置いといて二人目だ。


「二人目は『氷華(ひょうか)のキョウカ』。氷に(はな)と書いて氷華。その通称の通り、氷魔法を使うプレイヤーですね」


 氷華(ひょうか)のキョウカ――。

 氷を自在に操る氷使い。

 『氷魔法』と聞くと、ただ氷を飛ばすことをイメージしがちだけど、彼女は違うらしい。

 氷で武器を作ってそれを使って接近戦を仕掛けたり、足場を凍らせて敵を滑らせる。

 逆に自分は氷の足場を作ってアイススケートの様に滑るなど……。

 とにかく彼女の戦闘スタイルは柔軟で多岐にわたる。


 役割は『探索班』がメイン。

 水底の大神殿内部には水を利用したギミックがあるらしく、それらを氷のスキルでアレコレしてゴリ押すのだ。


「遠距離、近距離……射程に隙がなく戦法も豊富。団長オリヴァーが力だとすると、彼女は技。しかし非力というワケではなく、氷の鋭さは威力十分。これまた厄介な相手です」


 氷を自由自在に操るか……確かに強そうね。

 ただ私には邪悪な炎の力と氷を砕くパワーがある。相性は悪くなさそう。

 ……やっぱ私パワーキャラだわ。


「三人目……これで一応最後です。あんまり沢山話しても面白くな……いや、混乱するでしょうからね」


 ヴァイトはニッと笑う。


「最後は『土泥のドロシー』。彼女もその二つ名通りの戦い方をします」


「つまり土魔術かしら?」


「半分正解ですね。硬い土と柔らかな泥を組み合わせて強固な壁を作り、敵の侵攻を妨げる『封鎖班』の要。それが彼女です。先ほど述べたキョウカほど戦い方に幅はありませんが、その土魔法はパワーがあって崩すのは至難。逆に彼女は壁を自在に生み出し、相手パーティの連携を容易に崩してくる」


 壁を作って道を塞ぐ。シンプルだから面倒。


「でも地下通路の封鎖を担当する係なら、水中からダンジョンに侵入する私たちとは出会わない可能性が高いわね」


「まっ、そうとも言えますね。ただ一応頭に入れておいて損はないでしょう。さぁさ、プレイヤー情報はこれくらいにして次はダンジョンの構造についてですね。大宮殿は火山のようにどんどん下に潜っていくだけではなく、塔のようにどんどん登っていくだけでもない」


 むっ、塔……。

 そういえばそっちはあのギルドが攻略を進めていたはず……。


「そういえば塔の方はどうなってるの? シャルアンス聖騎士団は……」


「やはり気になりますか? ライバルとして」


「……ライバルじゃないわよ。良くない縁が少しあるけど」


「ふふふっ、まあ今は気にしなくても良いでしょう。攻略するなら次は断然『水底の大宮殿』がオススメです。騎士団は強い。少しでもレベルを上げて挑むべきです」


「でも、そんなに強いならいつ攻略されるか気が気じゃないじゃない?」


 まあ、後で掲示板を見ればおおよそのことはわかると思うけど。


「……いいでしょう。お伝えしましょう。シャルアンス聖騎士団が封鎖&攻略している『大嵐(テンペスト)の螺旋塔(スパイラルタワー)』は最終階層のボスこそ倒されていませんが、その手前まではある男によって攻略されています」


「聖騎士団長ね」


 ヴァイトはうなずく。


「アラン・ジャスティマ……。彼自体はもうこのダンジョンのモンスターなど相手にならない。しかし、攻略が完了していないのは彼の目的がギルドメンバーのより多くにアイテムボックスを入手させることに有るからです」


 ヴァイトの話によると『大嵐(テンペスト)の螺旋塔(スパイラルタワー)』には『階層上昇気流(フロアアップドラフト)』というギミックがあるらしい。

 これはダンジョン内部の下から上に突発的に吹く風で、これに触れると今いる階層より上の階層へ一瞬でワープ出来るらしい。


 ……いや『出来る』というよりワープ『してしまう』という表現がに似合うかな。

 転移の魔法円(ワープサークル)の様にプレイヤーの任意ではなく勝手に飛ばす。それもほぼ一人だけを。

 パーティはバラバラ、そしてモンスターが多いタイプのダンジョン。

 はぐれたプレイヤーは集団相手に耐えきれず撃破されてしまう。


 聖騎士団長及び戦闘職の幹部はあまり戦闘を得意としないギルドメンバーに【アイテムボックス】を入手させる為、『階層上昇気流(フロアアップドラフト)』の発生条件や法則性、敵モンスターの弱点を探っているみたい。


「気の長い攻略法に聞こえますが、彼らは全く焦っていない。初めから時間をかける算段なのでしょう。他のプレイヤーに先を越される心配がないから……。だから、今は『水の証』の入手を目指すべきです」


「そうね。じゃ、水のダンジョンの情報を」


「簡単に言えば部屋が多いのです。宮殿には地下を含めいくつかの階層があります。そして、各階層に多くの部屋がある。その中からボスのいる階層へとぶ転移の魔法円(ワープサークル)がある部屋を見つけなければなりません。……ま、これも予想なのですがね。なんせ、まだそれが見つかっていないから攻略されていないわけですから」


「ダンジョン封鎖なんてしてなかったら、多くのプレイヤーがなだれ込んですぐ見つかりそうな気もするわね」


「封鎖を予想したうえでの難易度調整だとしたら……恐ろしい運営様ですね」


 運営というより、管理AIの調整……なのかしら。

 人間の行動パターンを予測している?


「まあ、恐ろしいのは間違いない。私たちはあなたの助言通り『水底の大宮殿』を攻略するわ。ルートは水中から、それで地下の封鎖をスルーする……でいい?」


「はい、問題ござません。ただ、ダンジョン突入のタイミングは戦士団のメンバーが攻略を中断した時にした方がよろしいでしょう」


「無駄な衝突は避けた方がいいか……。で、何時頃になりそうなの?」


「それが今さっき休憩が明けて探索を再開したばかりなんですよ。なので八時間は間が空きそうですね」


「は、八時間!?」


 静かに話を聞いていたユーリが驚く。

 彼女はゲーマーではなく、一般人の感性を持っているのだ。


「もっと長い可能性もありますが、まあまたお伝えしますよ、私がね。それまでの間、リアルに戻るも良し、鍛えるも良し、自由に過ごしてください」


「助かるわ。いろいろ情報も手に入ったし。でも、装備の修復はどうしよう」


「この私が持ってきた安い『質素なローブ』を着て、一人ずつこっそり町に行くのが良いでしょう。あっ、セントラルより地方都市へ行くとより良いですね」


 皆も他に良い案が思いつかなかったので、ヴァイトの意見に従い服の修復を各自行う事にし、一時パーティは解散した。

 私は掲示板で情報収集、休憩、ログインして装備修復、時間が余ったらレベル上げかなー。

 出来る限り戦わないようにするとはいえ、多少は作戦や対策を考えておかないとね。

 あっ、ヴァイトに言われたチャットルームへの参加設定もしとかなきゃ。

 やることが多いけど、それが一番ゲームの楽しい時期なのよねー。

ちょっと長くなりました。

情報を出す話はテンポよくするのが難しい……。

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