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Data.57 雨と蛇の目

 ◆現在地

 ヴォルヴォル大火山洞窟:地下10F(最終階層)

 side:マココ・ストレンジ


「う、お、りゃあああっ!」


 ブーメランを普通に投げる!

 発動しているスキルは『邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング)』の持つ【斬撃波】のみ。

 炎に効果がありそうなスキルが少ないせいでこの攻撃を繰り返している。

 しかし、ダメージは十分通っているし、こちらにダメージはほとんどない。

 もちろん『邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング)』が熱で焦げたり溶けたりもしていない。


「なんだかこの武器も素直になった気がするわ」


 証拠はないけど、クロッカスとの会話以降扱いやすくなった……ような。

 巨大なブーメランは私の思い描いた軌道を飛び、その線上にある物を断ち切る。

 今もまたヘビの体を二つに分けた。

 これで蛇の数は八匹。一匹一匹はずいぶん小さくなったわ。


 分裂したことにより、数匹狙いを私から三人の方に変えるかと心配したけど、どうやらヘビは体を切り分けた私に怒りを燃やしているようで、そのそぶりはない。

 まあ、強いとはいえ魔物だからそこまで高度な思考は持っていないか。


「さぁ……雑魚をまとめて葬るのはブーメランの得意技よ」


 数が増えてくると一体一体切るのがめんどくさくなるし、数が減ってから逃げ出されても面倒。

 このフロアは広いうえに隠れる場所も多いからね。


「シャアアアァァァーーーッッ!!」


 独特の鳴き声を上げ、八匹のヘビが跳びかかってくる。

 体の大きさや数に関わらず攻撃パターンが変わらないのもこいつの弱点の一つね。

 数が多い今なら取り囲んで体に巻き付く役とか攻撃役とかに分けて動くべき。

 ……さっきも思ったけどモンスターにそこまで求めてもね。実際やられたら苦戦するし、こんなもんでいい。


「とどっ! めっ……?」


 ぽつぽつと天井から水が降ってきた。

 それは徐々に勢いを増し、ザァァァ……と雨の様に降り注ぎ始めた。


「シャ……アァァァ…………」


 蒸発させきれないほどの水を浴び、ヘビたちはもだえ苦しむ。

 おおっ? これは他の誰かのスキル?

 天候を変えるスキルなんてすごい強力じゃない?


「よっしゃあ! 上手いこと囮になれたなぁ!」


「一つの体に二つの頭は本来ありえない状態だったみたいですね。適当に動き回ったらヘビの方で勝手にからまわってくれました」


 ベラとユーリが雨に打たれながらやり遂げた顔をしている。

 囮……ということはこの雨はアイリィが降らせたものなのね。


 そのアイリィ本人は弱ったヘビにトドメをさしているところだった。

 わたしの方のヘビと違ってまだ大きい状態だったけど、水の中では分裂能力は発動しないみたい。

 槍で貫かれた猛火の大蛇が白い光の粒子に変化していく。


 私の方もさっさとトドメをさしてあげるべきね。

 敵として配置されているとはいえ、無駄に苦しみを長引かせる必要はなし。

 すぐにブーメランを投げ、八匹のヘビを倒した。

 飛び散った白い粒子がアイリィの方の粒子と合わさり、フロアの中央に白く輝く球体を作り出す。


 ――レベルアップ!

 ――スキルレベルアップ!


 いつものアナウンス音声が響く。

 そして……。


『火の試練を乗り越えし者たちに、火の証を授けん……』


 アナウンスとは違う声が脳内に響いた。

 それと同時にフロア中央の輝く球体がはじけ、その光が四人の左手の甲に集まる。


「これで……まず一つ!」


 『(あかし)(あと)』の一番上の円に赤く燃える火の模様が刻まれた。

 これがトライダンジョンの一つ『ヴォルヴォル大火山洞窟』をクリアする事で得られる証『火の証』!


「いやぁ……なかなか苦労しましたなぁ……。こんな試練が後二つもあるんかいな」


 左手の甲を眺めつつ、ベラがぼやく。

 その装備には多少のコゲがみられるけど、本人へのダメージは少なそう。

 『黒金虎シリーズ』の装備は炎への耐性があるのかしら?


「今回は皆さんに助けられてばかりでした……」


 少し申し訳なさそうに自らの左手を撫でているのはユーリ・ジャハナ。

 彼女は装備にキズ自体少ない。立ち回りが上手なのだろう。

 しかし、今回はボスとの相性が悪すぎた。

 発射した後も自在に操作できる飛び道具とか普通は強いんだけどね。


「あ~熱かったぁ。次のダンジョンからはちゃんと対策してから挑まないとダメねぇ。競争だからと焦ると逆に時間を取られるわー」


 手の甲の『証』を見ずに天井付近の雨雲を見つめるアイリィ。

 この恵みの雨は彼女のスキル。天候を変えるなんてすごいわ。

 どうやったらこういうスキルが発現するのかしら……。


 まあ、一応ソロをメインにしている私なら直接水をぶっかけるスキルの方が向いてそうね。

 そうか、こういう思考の違いでスキルの差が生まれるのね。

 ……今さらな話か。


「すごいわねアイリィ。助かっちゃったわ」


「マココさんを助けた覚えはないけどねー。だって、全然正面からボスをボコってたじゃないですかぁ。そういう純粋な強さってどうやったらえられるんですかー?」


 向こうから見れば小細工なしでボスと戦ってたこっちが異常か。そりゃそうだ。


「んー、追い求め続けることかな。強さを……」


「あはは、面白ーい」


 うむ、反応は微妙!

 アイリィは真剣に強さの秘訣を尋ねてきているわけではないと思ってたので冗談っぽく返してみたけど、もしかして……。

 いや、普通に面白くなかっただけかな……。


「ふーん、追い求めるねー……」


 どちらにしろ嘘は言ってないわ。

 プレイ開始時から倒すべき目標を定め(ドラゴンゾンビとかね)、レベルを上げたり装備を集めたりしてきた。

 結局一つ一つ積み重ねることなのよ。


「まー、いいかー。『証』も手に入れた事だしぃ、さっさと戻ろー。確か『証』はダンジョンから一度出るまでに死ぬと消えちゃうのよねー」


「あっ、そうだったわね。じゃあ早く行きましょう」


 話を切り上げ私たちは来た道を引き返す。


「……おっ、ちょいまちやで! お二人さん!」


 ベラが9Fへ戻る転移の魔法円(ワープサークル)の前で皆を呼び止める。


「あれ金の宝箱ちゃうか? ひさびさやから見逃すところやったで」


 彼女が指差す先には確かに金色の宝箱が転がっていた。

 以前、『死して蠢く者の洞窟(アンデッドケイブ)』で見たことがある物と同じデザインだ。

 そういえば最近はドロップ運から見放されてたわねぇ。


「イベント用のボスからドロップしたんやから相当ええもん入ってそうや! あけてみよ!」


 ベラは真っ先に宝箱に駆け寄り、それを躊躇なく開けた。

 武器や防具なら戦力的に劣る彼女に譲るのもいいかもしれないわ。

 さあ、何が入ってるのか。こういうノリも久々ね。


「……なんやこれ?」


「何が出たの?」


 私が開けたわけじゃないので『ゴールドドロップ獲得!』のアナウンスは聞こえない。

 開けた本人に確認する必要がある。


「手のひらより小さいぐらいの玉が二つや。武器でも防具でもなく素材やて。なになに『()(じゃ)()』……」


 それはうっすら白く輝く玉だった。

 ベラのいう事が本当なら、これはフルフレイムサーペントの目にあたる部位。

 高温で最も危険だったところだ。

 大きさは実際に戦っていた(生きていた?)頃より小さいように思える。


「熱くないの?」


「温かいけど、熱くはないで。目というだけあって少しブニブニしてて……なんか気持ち悪いなぁ。マココはんこれあげるで! 一番強かったんもマココはんやしな!」


 ベラから『火の蛇の目』を手渡される。

 確かに温かくて、微妙にやわらかい……。


「でも、アイリィが勝負を決めたようなもんじゃないの? ねえ、アイリィ……」


「レアアイテムなのは確かそうだから、貰ってもいいんだけどぉ~。んんー、今回はいいやー。あげるよー」


「ユーリは……」


「私は大したことしてませんし……」


 みんないらないか……。

 いや、私は欲しいけどね。レアアイテムだもん。絶対どこかで使い道がある。

 ただ、普段ソロで遊ぶ私にはこういうドロップ品の分配の仕方がよくわからないから、とりあえず聞いて回っただけ。

 ありがたく貰っておこう。


「よし、じゃあ気を引き締めて戻るでー! うっかり死んだら三日待たされた挙句、また初めからやからな!」


「後続のプレイヤーも来ているかもしれません。油断なりませんね」


「帰るまでがダンジョン探索ってねー」


 パーティは帰路につく。

 他のプレイヤーは、そして他のダンジョンはどういう状況かしら……。

 無事出られたらまず情報収集ね。

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