Data.52 火山洞窟の奥深くへ
ヴォルヴォル大火山洞窟突入から10分……。
「まあ……何とかなったわね」
「そこまで大した奴はおらんかったな!」
少し後ろに下がったところで、戦闘を見ていたベラが得意げに話す。
ダンジョンの入り口で待ち受けていた他プレイヤー集団たちは、数こそ多かったけど(20人くらい?、一人一人の戦闘能力はヴァイトの足元にも及ばなかった。
過半数は私が開幕に発動した【塵旋風】とその風に混じったユーリの【斬下の符】に切り裂かれ消えた。
残った数名もアイリィの槍に刺されなす術なくリスポーン地点へ送られた。
「アッサリでしたね」
「もうちょっと粘らないと面白い戦闘は撮れないのになぁ~。目立ちたい気持ちが先に出過ぎて、技術が全然身についてない初心者ゲーマーたちだったねぇ」
ユーリとアイリィも特に戦闘でダメージを負った様子はない。
とっても頼れる仲間たちだ。
で、私はというと……特に問題なく戦えたわ。
初めは【心】の暴走を恐れて、直っていた『超電磁ブーメラン』の方を使っていたけど、特に危ない気配も感じないので『邪悪なる大翼』も途中から使ってみた。
結果、特に何もなし。
暴走の条件を把握したいけど、それも今は難しそうだ。
とにかく、あまり苦戦するような相手に出会うとこのブーメランの力に大きく頼らざるを得なくなるから、【悪魔の悪戯心】が調子に乗る確率は上がりそう。
だからといって、この強大な力を強敵相手に使わないのでは本末転倒だ。
なんとかうまくあの『黒の力』を発動しながらも、操作権を私のものにしておく方法を見つけなければ!
これからヴァイトより強いかもしれないトッププレイヤーと戦うのだから!
「さぁ、先に進みましょう。みんな『ダンジョン手形』を持ってるから、地下1Fの魔法陣から地下6Fに行けるはずよね?」
「あの妖精はんの言ってた事がホンマならそうですなぁ」
「まぁ、嘘つく理由もないでしょうしぃ。さっさと行こうよぉ。ここ暑くてあんまり長くいたくないー」
「そうですね……。私も巫女服が分厚いですし、羽織も来てるので暑くてたまらないです……」
私たちは戦闘で出た汗をぬぐいながら先に進んだ。
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◆現在地
ヴォルヴォル大火山洞窟:地下6F
魔法円で転移した先は、それまでの階層と雰囲気が違っていた。
今までの階層は濃い赤茶色の壁だったけど、この地下6Fは真っ黒な岩石の壁から赤いマグマとみられる物がところどころ流れ出ている。
明らかに火山マップのダンジョン後半の雰囲気。
「……どうやら成功したみたいやな」
「ええそうね。ここからさらに進んで地下10Fにボスがいるはずよ」
「そのボスを倒せば……『証』が貰えるんですよね」
「うへぇ~。さらに熱く暑い戦いになりそうねぇ……」
確かにマグマまで流れ出ているから相当に居心地は悪い。
しかし、他プレイヤーがまだここまで来ていないので、そう意味では上の階層より安心して探索できるともいえる。
「手早く攻略して帰りましょう。その後、次の攻略先の相談よ」
「せやな」
「はい」
「はやく進もうよぉ」
私の呼びかけに三人の仲間はそれぞれ応え、フォーメーションを組む。
アイリィが一番前に。
ベラとユーリはその後ろ。
そして、私が一番後ろだ。
いざという時、一番頑丈な私が後ろに立つというワケね。
このフォーメーションを維持しつつ私たちは先へ向かった。
しばらくして、この階層初めてのモンスターが現れた。
「おおっと、あれはマグマゴーレムね。私が倒しちゃうよー」
行く手を阻むように立ち塞がった<マグマゴーレム:Lv34>にアイリィが果敢に立ち向かう。
ゴーレム系のモンスターとは以前『守護者の眠る廃神殿』で戦ったことがある。
全身が硬い代わりに動きが遅い。弱点は体のどこかにある魔石だ。
アイリィもそれは把握しているようで、ゴーレムの体の中心に輝く赤い魔石を集中的に狙っている。
しかし、槍の刃はなかなかその魔石を砕けず苦戦しているようだ。
「槍じゃ一発の威力が足りないし、武器に傷も付くわ。私に変わって」
「だ、大丈夫よー。うちも戦闘は得意な方だし、一人で何とかなるってー」
「でも……」
「アイリィもこう言ってるんやし、マココはんは後ろで待機してたらええって!」
ベラにも助太刀を止められてしまった……。
もしかして……私に気をつかってる?
暴走させまいと出来る限り戦闘させないようにしてる?
……それも仕方ないか。
実際、【悪魔の悪戯心】が私のボディを動かすと何しでかすかわからない。
それにステータスやスキルが強化されても、動きが素人じゃ四人パーティでの連携など絶望的だ。
ここはおとなしく他の人に頼った冒険というのを楽しむかな。
今まで私一人か、仲間がいても私が前に出て戦ってきたし。
「一角突き!」
そうこうしているうちにアイリィがスキルを発動し、マグマゴーレムの赤い魔石を貫いた。
溶岩の魔物はノイズとなった後、消滅した。
「ふー、楽勝よね~」
「そんなこと言って……腕にダメージを受けてますよ」
「えっ? あーほんとだ」
「私の治癒の符で今治しますね」
「別にこれくらい自分で治せるけど、せっかくだしおねがーい」
ユーリとアイリィは一回の冒険でなかなか仲良くなっているようね。
正直性格が合わないんじゃないかって思ってたけど、意外とゆるさとまじめさが噛み合っているみたい。
まあ、アイリィの素の性格は相当マジメというかキツめなようだけど……。
「さぁ、これで治りました」
「これ、傷口にわざわざお札貼る意味あるのー?」
「今回の傷は軽いものですからすぐ治りましたが、深い傷はしばらく貼り続けないと治せません。その代わり、貼った時点で出血や痛みによるダメージを抑えることが出来るんです」
「へー」
聞いておきながら大してスキルの効果に興味なさそうなアイリィ。
これもキャラ付けであって、実際は私たちの使うスキルもしっかり覚えて把握しているのだろう。
自らが所属するファミリーの為に。
「よーし! うち復活! 先に行くよー。だらだらしてたら後ろから他パーティが来てもおかしくないからねー。なんたって、ここしかまともに攻略できるイベントダンジョンはないんだから」
アイリィの掛け声とともにパーティのダンジョン探索は再会された。
向かってくるモンスターはアイリィとユーリが倒しつつ、時折ベラもサポートに回る。
私も防御力が低めの敵には『超電磁ブーメラン』で攻撃を仕掛けた。
なんというか、一応高難易度ダンジョンのはずなんだけど、気楽に攻略出来ている。
人数が多くなってお互いカバーしあえるというのもあるけど、全員プレイヤーというのも大きい。
NPCは死んでしまうと完全消滅するので、一緒に冒険してると相当緊張感がある。
私は本気で戦う彼らの隣りで本気で戦うもの好きだったけど、こういう『純粋に楽しむ戦い』も良いものね。
……『楽しむ』とか言いつつ、今進んでいる場所はイベントの最前線。
トッププレイヤーや廃人が必死に目指す場所である。
その場でこれだけ余裕を持てるのは……まっ、ゲーマーとしての長年の経験かな?
失敗すれば他プレイヤーに大きく遅れをとってしまう状況。
普通なら楽に遊べないところだけど、慣れるとそれが楽しいのよね。
私みたいなゲーム廃人はなんだかんだ『緊張感』や『本気』をゲームに求めてるのかも。
ならばこの黒いブーメランの持つ心は良いスパイスだ。
この先に待ち構えているボスを相手にするとき、『あの状態』は必要無くても武器としてこいつの力が必要になる。
一回暴れさせてあげたんだから、今回は大人しく私に従ってもらうわ。
悪戯好きの悪魔さんにはね。




