Data.20 VS.腐り堕ちた聖賢者
そのモンスターはスケルトンのような骨だけの体に、黒ずみ汚れた法衣を着ていた。
右手には大きな黒い杖。上部にはこれまた黒く濁った宝玉がはめ込まれている。
豊富な魔力で邪悪な魔法をバンバン撃ってきそうな遠距離魔法型とみた。
ならば、素早く接近して近接戦闘にしてしまうのが良い。
しかし、ボスにそんな単純なテクニックが通用するかはわからない。
私はアチルにアイコンタクトを送る。
彼女はその意図を理解し、頷いた。
それと同時に私はボスへと一気に踏み込んだ。
通用するかは試して見ればわかること。
思考停止でなんでも突っ込むのは問題だけど、トライ&エラーは重要だ。
取り返すのつく失敗ならやって見ればいい……といっても、この行動が取り返しがつくかどうかも今試すんだけど!
「ブーメ乱舞!」
発動とともに『超電磁ブーメラン』を投げる。
今回は宙を舞うブーメランと地を舞う私の二重攻撃で勝負を決めにかかる。
こういう状態異常にするのが得意そうなモンスターは速攻に限る。
「……腐矢……!」
聖賢者は左手を私の方へ突き出す。
くすんだロープから露わになった左腕には、骨でできた弓が組み込まれていた。
そこへ生成された腐矢がひとりでにつがえられ、連続で放たれる。
私は手に持った『目覚めのブーメラン』で矢を舞うようにはたき落としつつ、本体への攻撃を試みる。
そうしてるうちにも、放たれた『超電磁ブーメラン』が聖賢者の背後から襲いかかろうとしていた。
「……邪悪なる……魔手!」
杖を持つ右腕を掲げ、聖賢者がスキルを発動する。
すると、地面より黒く腐った手が這い出し、私の『超電磁ブーメラン』をキャッチしようと動く。
流石ボスだけあって攻撃系スキルを普通に使いこなしているわね。
でも、甘い!
「雷の円陣!」
発生した電気に触れれば麻痺は必至!
魔力こそ高けれど、体力防御は低そうな見た目だ。
動きさえ止めてしまえばどうとでもなる。
聖賢者の生み出した腐った手は、そのまま電気を纏うブーメランに触れた。
どうやらこの手は本体と繋がっているようで、聖賢者も同時に電気を帯び麻痺した。
「もらったぁ!高速連続射撃!」
アチルが私の後ろからモンスターと一定の距離を保ちつつ右へ移動。
そして必殺のスキルを発動した。
連射される弾丸豆が聖賢者を襲う。
高速連続射撃は命中精度が悪い。
それに弾丸豆は小さく、敵は骨だけということもあり、かなりの数の豆が目標から外れた。
しかし、それでも威力は凄まじく、矢の組み込まれた左腕は肩から吹っ飛んでいた。
「オ……オォ……」
あとは【猛牛ブーメラン】を食らわせればお終い。
私はスキル発動のため大きく振りかぶり、脚に力を込める
ぐちゃ……
なんだ……?
さっきまで固い石の床だったのに、まるでゾンビスライムを踏んだ時のように柔らかい。
……床が腐り始めている!
「腐食……領域……!」
ボスのスキルだ!
石の床すら腐らせる腐食力はすぐにクツ、そして肉体に及ぶだろう。
早くこちらも攻撃を……!
といってもどこを狙う……やはり首か。しかし、この足場で正確に狙えるのか……。
「マココさん!私が足場を作ります!」
アチルがツタの絡んだ右手を地面に近づけ叫んだ。
「弾丸豆のなる木!」
すると、アチルの右手のツタが地面に根ざし、どんどん広間中に広がりだした。
そういえばこのスキルはそもそも【木魔術】から生まれた植物を生やす魔法。
本来はこうやって自分の戦いやすい環境を構築する為のものなのかもしれない。
ものの数秒で広間は太いツタと葉に覆われた。
この豆の木は腐食に強く、非常に頑丈のようだ。
体重を乗せても折れないけど、かなりしなるので相変わらず足場が不安なのは変わらない。
でも、体が腐っていく恐怖は消えた。
「もう私の魔力は限界です。薬草も切れました。あとはお願いします!」
「了解!」
よく見ると、聖賢者の脚にもツタが絡まり動きを封じている。
アチルの戦闘センスには毎度驚かさせられる。
このピンチでスキルを応用し、逆にチャンスを作りだした。
ここまでお膳立てされては、足場が不安ぐらいで外すわけにはいかないわね!
「……猛牛ブーメラン! いっけえええーーー!」
全力で投げた『超電磁ブーメラン』は、凄まじいスピードで聖賢者に迫り、やすやすとその体を上下真っ二つにした。
やはり脆かった……ん!?
聖賢者はまだ生きている。
飛んでいく上半身を二本の【邪悪なる魔手】で掴み、下半身とくっ付けようとしている。
こいつは脆いと見せかけて本当は強い生命力と再生力で粘り、【腐食領域】でじわじわと敵を腐らせて倒す耐久型のボスなのだ。
しかし、もう勝負はついている。
私は飛んでいるブーメランの向きを変えた。
猛牛ブーメランは勢いが強さなので、軌道を変えるのは【電磁制御】でも不可能。
でも地面に対して水平に飛んでいるブーメランを垂直に、つまり縦にする事は可能だった。
再生を図っていた腐り堕ちた聖職者は、なす術もなくその体を十字に切り分けられた。
頭も縦に真っ二つなので、流石にこれで倒れてくれるだろう……。
「グガ……アァ……」
なんと、スキルこそもう使えない様だけどまだ生きてはいる。
敵ながらこの粘りと完成された戦闘スタイルには感心するわ。
雑魚がたくさん出て来るダンジョンかと思ったら、最後の最後で一体に対する火力を求められる。
……いやぁ理不尽ねぇ。
私は念入りにその骨をブーメランで砕いていった。
数分後には【腐食領域】も解除された。
――レベルアップ!
――スキルレベルアップ!
勝利宣言代わりのアナウンスが脳内に響く。
どうやら終わったようね。
『強きものに……邪悪を祓う力を……』
どこからともなく声が響いた。
それと同時に聖賢者の残骸が光の粒子となり、新たなものを構築する。
新たなものは二つ。
それぞれ私とアチルの手元に一つずつ飛んできた。
アチルには『セイントクロスボウ』。
私には『聖なる首飾り』。
「マココさん! やりましたよ! ついに死して蠢く者の洞窟突破です!」
アチルは新装備よりボスを倒せたことが嬉しいようだ。
彼女の働きは大きかった。
ソロではいやらし過ぎて難しいダンジョンだったと思う。
「何とかなったわね。とりあえず魔石も落としたようだし、それを回収してまず村に帰りましょう」
「そうですね。雷の守護者さんも心配ですし、ここはまだダンジョン内部ですものね。安心するのはまだ早い……っと」
ボス討伐と同時に、部屋の中央にはダンジョンの入り口に通じる帰還の転移魔法円が出現している。
魔法円からはなんだか風が吹いているような感じがして、私たちを爽やか気分にさせてくれた。
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◆現在地
死して蠢く者の洞窟入り口周辺
「ふー、開放感がすごいです~」
アチルがうんと伸びをする。
確かに歩くのに苦労しないぐらい広い洞窟とはいえ、暗くてモンスターがどこから出て来るかわからないのは窮屈だった。
初めに入るダンジョンとしては微妙だったかな?
まあ、クリアしたので良しとする!
「今日は自力で持って帰れる荷物の量ですし、早速移動を開始しましょう」
アチルが足取り軽く歩き出した。
……かと思ったら止まった。
「あ、あれ……なんですか?」
彼女が指差す方向を見る。
そこには濃い紫色の雲が空を覆っていた。
ここよりかなり離れたところのようだけど、あんなのダンジョンに入る前にあったっけ?
首をかしげている時、ステータスウィンドウが独りでに開いた。
そしてニュースのページが勝手に表示される。
そこには『緊急速報!新フィールド発生!』の文字が大きく表示されていた。
10万PV突破しました!本当にありがとうございます!
AUOも20話まで来ましたが、これからもドンドン応援していただけると嬉しいです!
記念と言ってはなんですが、新フィールドの謎も明らかになる掲示板回を今日朝7:00に投稿予定です!
そしてこれからの更新は朝7:00に固定するかもしれません!
なにかありましたら感想や活動報告にでも気軽にお寄せください。
改めてこれからもよろしくお願いします!




