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Data.121 決戦の気配

 side:マココ・ストレンジ


 シュリン奪還のため魔王のもとに向かう私たちはビーストレスのアジトを離れ樹海の中を駆ける。

 ある人物を仲間に加えて。


「本当にこっちであってるの?」


 前を走るテオに声をかける。


「うん! 何度も通い慣れてるから間違えるはずないもん!」


「それにしてもどうして急に魔王のいる場所まで案内してくれるなんて言い出したの?」


「別にお前らのためじゃない!」


 いきなり手厳しい。


「私は魔蟲王様にもらった体も力も名前も全部好きだから王様を助けたい! でも、王様の命令で何度も通って仲良くなったリードも助けたい。どうすればいいのか私にはわからない! だからリードがそれを出来ると思ってお願いしたお前を助けてやることにした」


「テオは小さいのにしっかりした考え方ができるのね」


「そうでしょう! 別に人間とか攻撃を仕掛けている場所とか特には興味がないし、よくわからないの。でもそうしないと魔王様の願いが叶わないと思ってずっということを聞いてきたの。もしもっと簡単に魔王様の願いが叶うならそっちの方がいいし、それがリードの願いと一緒ならもっといい! それだけ!」


「ふふっ、そうよね。これは私も頑張らないとなぁ」


「私は魔王様と喧嘩なんて出来ないから本当にお前次第だよ! せいぜいみんなの期待を裏切らないようにね!」


「私もとてもじゃありませんが魔王には歯が立ちません。ただシュリン様を助けたい……アチルの分まで。その思いだけで来ました。足手まといかもしれませんが、よろしくお願いします」


「大丈夫よサブリナ。こうやって樹界の中を快適に移動できるのもあなたのバフと隠密スキルのおかげなんだから。魔王の戦いは私に任せて!」


「威勢がいいですね、赤い髪の人間のお方」


 声の聞こえた方へ視線を向けると、黒いスーツに身を包んだ青年が私たちの横を並走していた。


「っ!」


「おっと、敵じゃないよ。テオも言って」


「あっ、サイアスじゃん。お城にいるんじゃないの?」


 テオの仲間……ということは魔蟲人。『敵じゃないよ』ってガッツリ敵じゃない。

よくもまあ真顔でぬけぬけと……。


「そうそう、さっきまで城にいたんだけど戦いが始まりそうなんで逃げてきたんだよ」


「戦い? 誰と誰の?」


「ミュールメグズ様とシュリン・ファラエーナというこれまた蟲魔王の血を引く女の人の戦いさ」


「魔王様が戦ってるの!? それなのに何で逃げて来たの!? 一緒に戦わなきゃ!」

「シュリンが魔王と戦っているの!?」


 私とテオの疑問の声が被る。

 サイアスは少しうるさそうな表情をうかべる。


「戦っているのは本当さ。そしてなぜ一緒に戦わなかったのかって邪魔にしかならないからさ。僕もヴィノールもテオも、そしてそこの赤髪の人間も」


「ヴィノールも逃げてきたの!? あのお堅いヴィノールが魔王様を置いて!?」


「うん。実際はシュリン様に骨抜きにされたから僕が背負って来たんだけど」


「ほ、骨抜きってシュリンがなにをしたっていうのよ!」


「質問はゆっくりしてほしいな。見た感じおデコにキスしただけだったね。でもそれだけでヴィノールは完全に惚けてしまってね。あれが魔王の血の力ってことなのかな」


 やはりシュリンは魔王の力を使っているのね。

 里においていかれた車イスを見つけた後にリードの話を聞いたからそんな予感はしていたけど……。


「テオ、サイアスどっちでもいいから早く蟲魔王のもとに私を案内しなさい」


「僕の話聞いてる? 君が行ってもどうにもならないよ。魔王同士の戦いに……」


「いいから連れて行きなさい。私はシュリンを連れて帰らなきゃいけないの」


「どうしてそこまでこだわるんだい? 僕には多少知識があるから気づいているけど、君は神の使徒……つまりこの世界とは別の世界の存在でしょ?」


「遠く離れた世界に大切なものがあってもいいじゃない」


「……それはそうかもね。よし案内するよ、テオが」


「私かい! どうしてそこで自分が行くって言わないの!」


「平静を保っているけど僕だって魔蟲人だ。魔王同士のぶつかり合いを見てまたその場に戻るのは怖い。だからまだ見てないテオが行っておいで」


「なにさ! つまり怖くなったってことね。仕方ないわねぇ? 私がみんなを案内するわ! ついて来なさい!」


 結局案内役を引き受けたテオがまた前へ駆け出す。

 それに合わせて私とサブリナも動き出す。


「気をつけた方がいいよ。気合いや根性では埋め合わせられないほど魔王は強い」


 すれ違いざまにサイアスがつぶやく。

 私は返事をせずにそのまま前へ進んだ。

 彼の言葉を無視したワケではない。アチルが簡単にやられたことから考えても魔王は強い。

 でも私にはそれでも挑まなければならない理由があるんだ。




 > > > > > >




 前を走るテオの脚に迷いはない。

 もうすぐだ。もうすぐでシュリンに会える。

 その予感をおそらくテオもサブリナも感じていると思う。

 なにしろ先程から何か威圧感とも緊張感とも取れる何かが私たちを包んでいるからだ。

 それは前方から押し寄せてきている。いる……この先に二人の魔王が。


「マココさん……私怖くてたまりません……」


「大丈夫よサブリナ、戦うのは私だから。あなたはシュリンと一緒に逃げてくれればいいだけ」


「ううぅ……頑張ります……」


 基本的に臆病なサブリナはもうすでに顔が青く今にも地面に倒れ伏してしまいそうなほどフラフラだ。

 よく頑張ってくれているわ。だから更にもうちょっと頑張って!


「そろそろ古城が見える場所に出るよ! 覚悟は出来てる?」


「もちろんよ」


 樹海を抜け、背の高い草の生える草原に出る。

 草原の先には朽ちた洋風の城が見えている。


「あれね。あなたたちの根城は」


「そう……だけど何か周りの地形が変わってるよ!」


「どういうこと?」


「私にもわからない!」


 その時だった。私たちが空を飛ぶ人物を視界に捉えたのは。

 初めはあれが魔蟲王ミュールメグズなのかと思った。

 くるぶしから蛾のような巨大な羽が生え、その脚には蛾のような模様の体毛が生えている。

 わかりやすく虫……蛾の特徴が下半身に集中して見られる。


 違う。あれはミュールメグズではない。

 見覚えのあるクリーム色のクセ毛、特徴的な衣服、華奢な体……。

 全ての情報があの人物を彼女と結びつける。

 あれは魔王の力を解放したシュリンなんだ!

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