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Data.118 ビーストレス

「みんな! 大丈夫か!?」


 アジトらしき建物の扉を開け放ちリードは叫んだ。

 負傷した仲間が先にここへ帰っているはずなのよね。


「はいはいリーダー。重症者多数だけど死んだ奴は一人もいないよ。むしろ一人になったリーダーがちゃんと帰ってくるかみんなで賭けようとしてたところだよ。ピンピンしてるし原獣をとり逃した意外運のいい日だったね」


「そもそも原獣を仕留めるために命はってんのにそれを成し遂げられず運が良いとは言ってくれるぜ!」


「命あるだけありがたいよ。また次があるし」


「まっ、それもそうか!」


 ビーストレスの仲間たちは傷だらけだけどどこか明るい。


「はぁ……皆元気そうでよかった。それに原獣は仕留めたぞ! 喜んでくれ!」


 それを聞いた途端場がざわざわし始める。

 イロモノ揃いの彼らでも『原獣は一人で勝てる相手じゃない』というのは共通認識のようだ。


「リーダーはいつの間にそんなに強くなったんだ!? もう俺らいらねーな! ここでゴロゴロして帰りを待ってるぜ!」


「残念ながらそうはいかない。なぜなら僕一人で仕留めたわけではないからだ。こちらの皆さん……いや、この赤い髪の彼女がほとんどをやってくれたんだ」


 またもや場がざわざわする。そして視線が私に集中する。ギラギラした獣の目だ……。


「リーダー、その人って伝承に記された『人間』って種族じゃないの?」


「えっ? そうなの? エルフは有名だから知ってたけど……」


「まったくリーダーは俺たちに原獣を倒すヒントがあるかもしれないと古い書物をたくさん読ませて自分は読まねーんだもんな」


 どうやら仲間の人の方が話は通りやすそうだ。

 ここで神の使徒(プレイヤー)であることもばらしておくかな。


「実は私たち人間の中でも特別な存在で、神の使徒なんて呼ばれていたりするんですが……」


「あ!それも聞いたことある!この世界とはまた別の世界から来た不死身の存在って伝承にも記されていたわ!」


「そんなすげぇ存在ならあの原獣どもを倒せるのも納得だ!」


「ええ! マココさんってそんな伝承に記されるようなすごい人だったの!? いやぁ勉強不足ですいません……」


「別に私がその伝承の本人ってワケじゃないですけどね」


 変わり者集団だと聞いていたから会話も苦戦するかなーと思っていたけどむしろ驚くほどすんなり私たちのことを理解してくれた。

 いやむしろ変わり者だからこそいきなり神の使徒とか言い出す人間のことも信じてくれたのかな?


「それでそんなすごい人たちが何故森の中に居たのかが気になりますね。差し支えなければぜひ聞かせていただきたいです。こちらも協力出来る事があるかもしれません」


「おいおいこっちはボロボロだぜ?」

「リーダー一人で頑張ってね」


「いやぁみんな手厳しい……」


 さぁて、聞いてはくれるみたいだけどどこまで話していいものか。神の次に魔王の名前まで出したら流石に引かれるだろうか。


「あのですね。私たちはさらわれた仲間のエルフを探してここまで来たんです。それでその子をさらった犯人は魔蟲王と名乗っていたのですが何か心当たりはありませんか?」


「魔……蟲王?」


 リードの顔に一瞬緊張の色が浮かぶ。

 他の仲間たちはどうにも心当たりが無さそうだ。


「魔王? ズゥードゥーは王国だから王様はいるけど悪い人じゃないしなー。人をさらったりはしないと思うよ」


「魔蟲王というのは古の世界を支配したとされる魔王の一人だな。そんなやばい奴の名を騙るとはなかなか度胸のある誘拐犯だ!」


「……リードさんは何か心当たりないですか?」


「えっ……ああ! すいません勉強不足なもので……。魔蟲王なんて初めて聞きました」


 嘘がつくのが下手ね。でも反応以外証拠がない以上問い詰めるのも難しい。

 さて、どうしたものか……。


「すいませんね。どうやらあなた方の追っている魔蟲王を騙る者の情報は提供できないみたいです。まあ、どうぞゆっくりしていってください。ズゥードゥー王国は狭いのでそう隠れる場所もありませんよ。そういう悪いのが根城にしそうなところはお教え……」


「やっほー! 来たよ~」


 バンッと乱暴にアジトの扉を開け放ち現れたのは黄色い髪に黄色いケープを纏った幼い少女だった。

 他のビーストレスのメンバーの様に見た目に獣の特徴は見られないが頭部に虫の触覚のような物が生えている。


「おっ、また来てくれたのかお嬢ちゃん!」


 メンバーたちは顔なじみのような反応で彼女を受け入れる。


「なに~、またボロボロになってるじゃん。どうして弱いのにずっと原獣と戦い続けてるの~?」


「さあ……なんでだったかな?」


「元々はズゥードゥー王国の国土を広げるために国の周囲に住む原獣を狩るという目的で組織された集団らしいよ。この国は土が痩せてる人口がすぐ増えるしね。今では活動費を稼ぐために普通のモンスターを買って稼ぐ時間の方が長いけどね」


「へ~、よくわからないけど結構無駄なことしてるんだー」


「おいおい嬢ちゃんそりゃないぜ。その無謀な目的を果たすために命を落とした奴もいるんだ」


「良いことじゃないよ。死んでちゃさ。まあ難しい話はよくわからないや。そんなことより痛みを誤魔化す粉をみんなに配ってあげるね」


「よ! まってました!」


 少女は手さげのカゴから小さな袋を取り出し、そこらへんに転がって休んでいるメンバーに手渡していく。


「一気に吸い過ぎちゃダメだからね。中毒になるみたいだから。少しずつね」


「いつも助かってるよ」


 薄暗いアジトの中で大人数が粉を吸っている光景は異様だ。

 でも今はそれ以上にこの少女の存在が気になる。この虫のような触覚はサブリナとエリファレスさんが語った魔蟲人のイメージと一致する。

 しかし、これだけまっ黄色の彼女自体の情報は出ていない。おそらく里には来なかった仲間か……。

 そしてこの少女と親しくしている彼らは……。思いがけず敵地に来てしまったのかもしれないわね。


「マココさん、あなたの今考えている事……僕にはわかっています。でも早まらないで。僕らは敵ではありません」


「やっぱり何か知っているのですね? 話してくれれば信用するかもしれませんが」


「わかりました。場所を変え……」


「ああーーーーっっ!!」


 黄色い少女が私を指差し急に叫び声をあげる。


「こ、こいつ! え、ああ……えっと、そうだそうだ! 前に見たことあると思ったら黒い炎でダイオウを倒してた奴だな! お前の炎のせいでグランドラゴンフライまで燃えて私が怒られたんだからな!」


 彼女自身の口から証拠が思いっきり漏れ出してきた。

 間違いなく彼女は魔蟲王の部下である魔蟲人!

 この少女が魔蟲王……そしてシュリンの居場所を知っている可能性は大だ!

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