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Data.117 密林の獣

 密林から現れた獣の耳を持つ男はどうやら仲間らしい者たちに的確に指示を出している。

 どうやらこの謎の集団のリーダーは彼のようだ。

 トラに対して常に複数で攻撃を仕掛け的を絞らせないようにかく乱している。


CAT1(キャットワン)! 遅れているぞ!」


 トラの右後方から攻撃を仕掛けていた人物の離脱が他に比べて遅れた。

 するとトラはそれを見逃さず、ほぼ反射のようなスピードでその人を切り裂いた。


「ぎゃ……っ!」


 短い悲鳴を上げ体からは血が噴き出す。

 あれ? 血が血として見える……。描写設定をいじった覚えはないのに。

 まあ今はいい。それよりも一人重傷を負った事でチームとしての動きにズレが生じてしまった。

 一人また一人とトラの爪に切り裂かれていく。


「くっ……完全に原獣(げんじゅう)の不意を突いたのにそれでもダメなのか……! こんな時ミュールがいてくれたら……」


 リーダーの男は手斧を握りしめトラへと突撃していく。


「俺が時間を稼ぐ! その間に動ける者は怪我人を連れて離脱しろ!」


 軽快な動きで虎の頭上へとジャンプすると刺さりっぱなしの手斧を引き抜く。

 二刀流ならぬ二斧流(にふりゅう)スタイル。

 威力と手軽さを両立しているともいえるけど、これを完璧に使いこなすには使い手のパワーが必要不可欠だ。


「うおおおおおおおおお!!!」


 爪と斧の刃がぶつかっては離れてを繰り返す。

 すごい、あの重い爪の攻撃を弾き返している。

 しかし体力ではやはり本物の獣が上回るようでじりじりとリーダーの男が押されていく。


「ぐっ……しまった!」


 ついに握力が限界に達したのかその手から手斧がすっぽ抜ける。

 これを好機とトラは通常よりも大きく腕を振りかぶる。


獄炎灰塵旋風ごくえんかいじんせんぷう!」


 接続形態(リンクフォーム)の展開をするには十分な時間だった。

 大きな攻撃の時こそ大きな隙ができる。それがわからないようでは所詮獣ね。


 放たれたブーメランは無防備なトラの喉元にヒット。

 その毛と肉を焦がしながら奥へと食い込んでいく。

 しかし、硬い! 切断しきれるか……?


「これで!」


 リーダーの男が二つの手斧を投げる。

 その手斧はブーメランのような軌道を描きトラの後ろに回り込むと背後から首を切り裂いた。

 おかげでこちらのブーメランはトラの首を飛ばしトドメをさすことが出来た。


「ふぅ……なんとかなりましたね」


 接続形態(リンクフォーム)を解除しリーダーの男に話しかける。


「ええ……助けに入ったつもりがこちらが助けられてしまいました」


 リーダーの男も自らの武器を回収する。


「それであなた達はどこから……」

「それであなた達はどこから……」


 質問が被る。

 彼もケモ耳が生えていることから人間とは別の種族だとわかる。アクロス王国には獣人はいなかった。おそらく彼が生活するコミュニティーにも人間がいないのだろう。


「どうやらあなたは話のわかる方のようですね。助けてもらった恩もあります。我々のアジト……というと聞こえが悪いですね。住処に案内しましょう。ここは危険です」


「その話し方だとあんな獣がもっとたくさんいるみたいですね」


「ええ……ここは彼らの世界なのです」


「了解しました。あなた方の住処に移動します。ただ、その前に……こちらも助けて欲しいことがありまして……」


 マンネンの方をチラリと見る。

 未だダメージが癒えていない。

 ベラのアイテムボックスにはマンネンを回復するためのアイテムがたくさん入っているけど、どうやら単純なダメージとは何か別の物が回復を阻害しているみたい。


「あぁ……彼はあの虎の原獣(げんじゅう)の爪に塗られた毒にやられたのでしょう。体が大きいので時間が経っても生きていますがこれ以上は危ない。僕の持ってる分の解毒剤をとりあえず使いましょう。完全に毒を取り去るには量が足りませんが……命は助かるはずです」


 リーダーの男はマンネンに駆け寄り懐から取り出した小瓶の中の液体を飲ませる。


「あのトラに毒を塗る知性があったなんて」


「本能のまま動いているように見えたでしょう? それは正解です。彼ら原獣は敵を殺す効率的な方法を本能が知っています。毒のある果実を潰し毒を塗るというのも殺しの本能がさせるのです。しかし、いざトドメをさすとなると興奮しああやって大きな隙を晒す。そこが我々の勝機となる……はずだったのですが今回は人数が早く減ってしまい本当にただのピンチでした」


「仲間は大丈夫なの?」


「我々は頑丈です。あのくらいでは死にませんし毒に関しても全員解毒剤を携帯しています。まあ、今回は惨敗なので数週間は動けませんが……」


 会話のうちにマンネンはキャタピラーを動かせるまでに回復した。その表情はいつも通りだけど本当は痛みに耐えているのだろう。

 お世話になりっぱなしだしこんな時くらい引っ張って運んであげたいけど……無理なのよね……。


「マンネンは移動くらいならいけますでマココはん」


 外に出てきているベラの表情も優れない。今また原獣に襲われるとまずいわね。


「移動しましょう。えっと、そういえば自己紹介がまだでしたね。私はマココ・ストレンジ。おそらくあなた達とは違う国、アクロス王国から来ました」


「確かに知らない国ですね。僕はリード・ドグダーム。ズゥードゥー王国出身で今は原獣狩りの組織『ビーストレス』のリーダーをやってます。組織と言っても変わり者の集団なのであんまり戦闘時以外は統率がとれていませんけどね……ははは」


 ズゥードゥー王国……。そこがこのリードのような獣人たちの国なのかしら。

 それに原獣という異常な戦闘能力を持った存在。それを狩ることを専門とする集団……。

 シュリンの位置を示す指輪は相変わらず東を指している。


「あの、そのズゥードゥー王国ってここから東にあるんですか?」


「ええそうです。よく御存じで」


 魔蟲王はもしかしてこの国に……?

 ……とにかく今はこの先にある国の情報を持っている彼らに着いて行くのが得策ね。


「うぅ……うえっ……あたしも歩きます……うぷっ」


 歩き出そうとした時、まだ酔いで顔の青いサブリナがマンネンから降りてきた。


「おや? あの長い耳は伝説の種族エルフでは? どうやらあなた方も相当事情アリの集団みたいですね」


「ええ……まあ」


「あたしが……速足の祝福をかけます……。うっ……そうすれば速く移動できるはずです……んんっ!」


「ありがとうサブリナ。とりあえずあなたは私が背負うからスキルに集中して」


 【速足の祝福】がマンネンも含め全員に付与される。

 重傷でよろよろとしか動けないマンネンにとってこのスキルはありがたい。

 周囲を警戒しつつ私たちは足早に原獣の密林を後にした。

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