Data.107 セントラル奪還作戦 -魔木人-
「魔王、アカシック=コード、アイツとは……」
「お前……弱いくせに喋りすぎなんだよ……」
ウンドパオブはヴァイトに狙いを定め生成した丸太を投擲する。
「おやおや、喋りすぎはまだしも弱いとは心外ですね」
ヴァイトは素早くアイテムボックスからステッキのような物を取り出す。
「確かにここにいる他の方に比べれば弱いかもしれません。かつてはこれでもマココさんといい勝負だったのですがね。しかし……」
ステッキ先端の緑色の玉からビームの刃が展開され鎌のような形になる。
ビームの鎌を振り、ヴァイトは飛来する丸太をいとも簡単に切断した。
「この程度の単純な攻撃では仕留められませんよ。それなりに場数は踏んでいるんでね」
「ククク……こんなの攻撃に入らないぞ……」
不敵に笑う木人は生えてきた何本かの腕を足場に突き刺した。
まるで大地に根を張るように。
「愚かな人間どもとはいえ……ここまでたどり着いた褒美をやろう……」
不敵な笑み。ゾクッと背筋に冷たいものが走る。
「暗黒装甲!」
直感か、あるいは恐れか。とっさに新スキルである【暗黒装甲】を展開する。
黒い装甲を纏うことで機動力は落ちるけど防御力は跳ね上がった。
ズズッズズッズズッ!!
その直後、切り株状の足場から鋭い木の根が無数に突き出てきた。
でたらめな方向に伸びるものもあれば私を串刺しにせんと迫る根もある。
が、その全てが暗黒装甲に触れた瞬間砕け散った。流石に木の根に貫かれるほど私はやわではない。
「僕にもこの程度は攻撃に入りませんよ」
竜の鱗のような追加装甲を纏ったアラン。今までに見た事のない姿だ。
彼もまた強敵を倒し新スキルを入手しているのね。
「ぬるい! ぬるいぞ!」
オリヴァーの斧の周囲に黒い球体が浮かんでいる。こっちは以前も見たことがある。
『惑星斧』の持つスキル【重力星】……その名の通り周囲に重力を発生させることで攻撃を地面に叩き落としたりできる。
今回は重力で根をへし折ることで自らの身を守ったというわけね。
「あのぉ……やっぱり私は帰ってもよろしいでしょうかね?」
ヴァイト……はダメージを負っている。
咄嗟に【悪魔の魔翼】を発動したのはいいものの全身を覆う時間が足りなかったようだ。
「やっぱり、私って戦闘が本職じゃないですしね。ここはプロのお三方に出番をお譲りしようかなと……」
「なに弱気になってんのよ。それなりに場数踏んでるんでしょ」
「そうだ……そうだ……逃がしてもらえると思ってるのか……?」
根による追撃が入る。
ヴァイトは翼をはばたかせ一時空中に逃れる。
「それで逃げたつもりか……。お前たちはもう鳥かごの中なんだぜ……」
足場を取り囲むように木が生え、中央に向けて曲がりながら伸びていく。
数秒後には全ての木の先端がくっ付き、伸びた枝も相まってまさに鳥かごのような密室が完成した。
「おっと……これじゃ暗すぎるな……。太陽の光は大事だ……」
鳥かごの頂点部分が少し開き薄暗かった足場に光が射す。
しかたないとはいえ完全にここは相手の土俵だ。さっさと……。
「ちょっとちょっと! 早く何とかしてくださいよ!」
木の根が蛇のようにうねりながら空中のヴァイトを捉えようと動く。
「BeamBraidBaton……千本ナイフ!」
ステッキの先端から発せられていた鎌状のビームが形を変え、無数の小さな刃となってうねる根に殺到する。
切れ味は鎌の時と変わらず鋭く、根はズタズタに切り裂かれた。
「ふっ……持っててよかったBeamBraidBaton、略してBBB。精密機械ゆえ耐久性が良くないのが玉にキズですが、威力は高く攻撃パターンも豊富! 飛行中など翼を攻撃に転用しにくい状況で私を助けてくれる相棒ですよ。出会いに関しては長くなりそうなので割愛します」
「今の話も十分長いわよ。意外とまだまだ元気そうじゃない」
「なんとか、ですね。ただ早くあの本体の男を倒してくださらないとこっちは持ちませんよ。残念ながら私はサポートが限界のようですし」
「じゃ、接近戦に持ち込むから援護頼んだわよ」
装甲を着こんだまま前に踏み出す。飛行はできないけど地上はそれなりのスピードで動ける。
ウンドパオブは行動も木だ。今いる位置から動こうとはしない。
装甲の防御力と重みに物を言わせれば接近するのは容易のはずだ……と言いたいところだけど、同じような追加装甲系スキルを持っているアランがまだアイツを倒せていない以上この戦法が決定打にならないのは明白。
ただこちらは炎だ。
触られたところに炎をつければ多少のダメージにはなるだろうし、燃え広がればこっちのもの。
さぁ、どう出て来るのかしら?
「ぬん……っ!!」
「ぐあっ……!」
ウンドパオブは何本もの腕で巨大丸太を振り回し始めた!
め、めちゃくちゃだ……!
魔王というにはあまりにも力技。もっと種から魔界特有の植物を生やして戦ったりするのかと思っていたけど、これはまるでただ強すぎる力を制御できずに暴れているだけに見える。
しかし、たちが悪くても力は力だ。振り回す丸太の起こす風で黒い炎が揺らめき安定しない。
丸太に触れた時の衝撃は装甲の内側まで響く。一、二発ならまだしも連続して喰らえば死ぬ気がする。でたらめなパワーだ。
てか、さっきから明らかに黒い炎に触れてるのに丸太燃えないんだけど!
「マココさん!」
「なに、アラン!?」
「こいつの丸太大車輪に正面から突っ込んではダメです!」
「ま、丸太大車輪?」
「そうです。僕が急遽つけた技名です。もっと練り込みたかったのですが……。まぁ、それでですね。僕もオリヴァーさんと二人で丸太大車輪を攻略しようとしてたのですが、残念ながら活路が見出せませんでした」
「ハッハッハッ! 俺の力の三ツ星で回転を乱し、アランの最強スキルで仕留めようとしたのだがあの丸太の耐久はおかしくてな。仕留め切れず今に至るというワケだ」
「じゃあ、二人で丸太の回転を止めて私が仕留めればいいのね」
「ははっ、話が早いですね。そうしてくれると助かります」
「この緊急時にはマココくんの力が頼りになる! さぁ、一緒に魔王を仕留めよう!」
アイツはまだ魔王になってないらしいけど……。そして、その『魔王になる』という過程の謎が結構気になるんだけど……。
まあ、オリヴァーにはどうでもいい事みたい。
「攻撃のタイミングは任せます! はぁぁぁ……守護星を抱く天球!」
アランを中心に複数の光の輪が展開する。その輪には光の球体がくっついていて惑星の様にアランの周りを回る。
「いけ!」
アランは指でウンドパオブを指し示す。
すると、光の輪はウンドパオブを中央に再展開される。そして、その輪にくっ付いている光の球体が丸太と逆方向に回転、衝突する。
「んぐぐぐ……ッ!! 重いですね、やはり……」
丸太と光の玉が衝突して火花を散らすというシュールな光景でも行われているのは全力のぶつかり合いだ。
「引力星! 斥力星! 重力星!」
オリヴァーの斧の周りにも三つの球体が浮かぶ。
それぞれ異なる力の塊の星々だ。
「うおおおおォォーーッッ!! 惑星旋風撃ッッ!!」
私の知らないスキルだ。
三つの星が一定の感覚を保ちつつ回転しながら前進していく。
オリヴァーの攻撃スキルは目に見えない衝撃波系が多く、今回もその類みたい。
回転する星は見えてもその回転の中心にどんな力の流れが発生しているかはわからない。
でも、その星々の回転がウンドパオブを捉えた時、明らかに丸太の動きが鈍くなった。
何らかのねじる力を丸太の回転と逆方向に加えているのかな?
って、そんなことはいいんだ今は。丸太大車輪の動きはほぼ止まっている。
発動するべきスキルは一つ!
「ふぅぅぅ……暗黒物質堕龍回帰刃っ!」
久々に使う危険で最強のスキル。
投擲されたブーメラン――暗黒の龍がウンドパオブを喰らおうと迫る。
体へのダメージはない。暴走もしていない。暗黒装甲を纏うことで私自身の安定感が増しているからだ。
いける……もうこのスキルは制御できる。後は通用するかどうか。
ウンドパオブは避ける様子もない。
いや、アランとオリヴァーのスキルによって動くことが出来ないんだ。
「グググ……この……雑魚どもが……っ!!」
何とか手だけを動かし丸太の盾を作るウンドパオブ。
今その急造の盾と龍が衝突した。
「あっ……ぐぐぐっ……何よ! あの丸太硬すぎるでしょ!」
一瞬で食い尽くせるかと思ったら意外にも耐えられている。
しかし、丸太はどんどん炭化し黒に染まっていく。壊れるのも時間の問題ね。
「あ、ああ……く、串刺しィィィ!!!」
叫びと共に何度目だという根の攻撃がくる。
こんなの装甲のある私たちには……。
「あっ、オリヴァー!」
星を攻撃に使っているオリヴァーに根の攻撃から身を守る手段はない。
オリヴァーが今やられれば再び丸太は回転の勢いを取り戻し、暗黒物質堕龍回帰刃がかき消される可能性も……。
「おやおや? やっぱり残っておいて良かったですか? なーんて……BeamBraidBaton、ミリオンアロー!」
ウンドパオブのちょうど真上、日光を取り入れるために空いた鳥かごの隙間からヴァイトがビームの矢を降らす。
その矢は多少命中精度に難あれど、その数の多さで根を根絶やしにしていく。
「さぁ、これだけお膳立てしたんだから決めてくださいよ!」
「わかってるわよ! このまま食いつくせ、暗黒の龍!!」
グオオオオオオォォォォォォーーーーーーッッ!!!
丸太の盾は崩壊し、龍はウンドパオブを飲み込んだ。
最後に何か言っていたようにも見えたけど、龍の咆哮にかき消されて聞こえなかった。




