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Data.106 セントラル奪還作戦 -合流-

 ◆現在地

 中央都市セントラル


「あなたがいるって事は他のグローリア戦士団のメンバーもいると考えていいのよね?」


 単刀直入にキョウカに尋ねる。


「愚問だな……と言いたいところだが、今回ばかりは丁重に答えてやろう。その通りだ。我々は西の門より侵入し逃げ遅れた者の救助をしながら中央まで来た。まあ、救助したのはアワモリやドロシーだがな。あやつらのスキルはそういう事に向いている」


「そうだったのね。良かったわ、私たちだけじゃこの町全体で救助は難しいと思っていたから」


「我々もそう思っていた。が、同じことを考える者はいるものだな。まあ、見慣れたメンツではあるが」


 キョウカが視線を私たちから逸らし、北の方角に目を向ける。

 そちらから微かに風が吹いてきている。


「音もない風の斬撃使いか……。器用なものだ」


「風……?」


 私の疑問に答えることなくキョウカは跳躍。凍ったハスの上から地上に降り立った。

 次の瞬間吹いた強風によってハスは粉々に砕け散った。


「おっといたのか、氷使い」


「そんなこともわからなかったのか、風使い。私は気付いていたがな」


「なんだと! 私が鈍感だとでも言いたいのか!」


 北から唐突に現れた煽り耐性ゼロの女性。微妙にキョウカと口調が似てるなぁ。

 黄緑の長い髪に大きなリボン、羽織袴を着て薙刀を持っている。

 えっと……情報は知っているんだけど誰だっけ……? 直接面識はないはずだ。


「あれはシャルアンス聖騎士団の<風薙(カゼナギ)>! カゼハナ・ヤナギ……やな!」


 そうだそうだ。ベラの言うとおり彼女はシャルアンス聖騎士団のトップ『十輝騎士』の一人で高い戦闘能力を有している……はず。


「いつものメンツってそういうことなのね。確かにこんな危険な場所に突っ込んでくるようなプレイヤーはそう何人もいないか」


 聖騎士団と戦士団、かつて敵として戦ったプレイヤーたちがセントラル奪還のために集まっている。

 まあ、個性豊かなメンバーだから本当に奪還を目的にしている者ばっかりかというと疑問が残るけどね。


「お前がマココ・ストレンジか。ふん、まあ悪くない出で立ちをしているが悠長なものだな。団長と引き分けた女のことだ。すでに大樹の頂上を目指していると思っていたぞ。飛べるらしいしな」


 カゼハナが私に直接語りかけてくる。


「アランはもう大樹の上に?」


「もちろんだ。この騒動の原因はこの大樹が地中から生えてきたことにある。これを取り除かない限りセントラル奪還は果たせない。ならばその根源が存在すると思われる場所に真っ先に向かうのが強者の務めだ」


「自分が弱者だと認めるのか。可愛い奴よのう……」


 キョウカがちゃちゃをいれる。


「か、かわいいだと……! そ、その理論だとお前も弱者だぞ!」


「オリヴァーも上に?」


 話が進まなくなりそうなのですぐさまキョウカに質問を投げる。


「ああ、まあな。こっちのリーダーはあちらの様に合理的な思考ではなく、高い所に上りたかっただけかもしれんがな」


「そうねぇ……」


 オリヴァーは脳みそ筋肉の熱血漢に見えて戦闘においては冷静な面もある。戦ったから知っている。

 でも抜けた面があるのもわかる。

 今回はどちらかしら……どっちでもいいわ。


「私たちは合理的に上を目指すべきと考えていたところよ。でも救助の戦力が足りなさそうと思ってね。でもこれで問題なくなったわ。今回は信用していいのねお二方?」


「市民の救助はする。だがお主たちの救助はせんぞ。せいぜい足を引っ張らない事だ」


「聖騎士団のメンバーの大半は救助にまわっている。今は王城の内部に人員を割いているが問題ない」


 キョウカとカゼハナから良い返事を得られた。


「じゃあ、お言葉に甘えて私は飛んで行くとしますか。大樹の上に! ね、クロッカス?」


「ああ、手加減ばかりで退屈してたところだ。あの上なら多少力を使っても問題なさそうじゃん」


「今回は私もお供しましょう。これでも一応グループのトップなので」


 ヴァイトも翼を広げ飛びあがる。

 遅れまいと私もクロッカスの脚を持ち空中に舞う。


「頼みましたでー!!」


 私を見送るベラ達の姿はどんどん遠ざかっていく。

 地上からだと距離感狂ってよくわからなかったけど、この木相当大きいわね。

 果たして上には何が待っているのか……。


 高いところを飛ぶ恐怖よりその疑問が心を満たす。

 まだその答えを知るのに少しの時間がかかりそうだ。




 > > > > > >




 数分後、私たちはついに大樹より上の高度に到達した。

 しかし、大樹の枝は横に大きく広がっていたため、それを避けるように一度中央から遠ざかる飛行ルートをとった。

 その為、中央に辿り着くには今の位置からもう少し前進する必要がある。

 それはヴァイトもわかっているので特に言葉を交わす事もなく前に向かって動き出す。


 植物だらけだからなのか、上空だからなのか、どちらにせよ空気は冷たく澄んでいる。

 雰囲気も妙に張りつめていて無駄口をたたく気は起きない。ただ風を切る音だけが……。


「……ッ!」


 ヒュッと風切る音と共に何かが私とヴァイトの間を通り抜けた。

 速い。シルエットこそ捉えられたけどそれがなんなのか全く判別がつかない。

 モンスターの攻撃か。確かにここに来るまで大樹に住むモンスターに攻撃された事があったけど、そのどれよりも鋭い一撃。もしや今回の標的がこちらをもう認識したか……。


「急ぐぜ」

「頼んだわ」


 加速するクロッカス。その間にも何かは飛んでくる。

 ギリギリのところで回避を続けていると、目が慣れその正体に気付いた。

 丸太だ。太く巨大な丸太がまるでダーツの様に軽々と飛んできている。


「見えてきたぜ、目標地点が。おあつらえ向きの足場まである」


 生い茂る葉の中にぽつんと現れた切り株のような円形の足場。まるで闘技場のようね。

 その上に立つのは三人……一人はアラン・ジャスティマ、シャルアンス聖騎士団の団長。

 もう一人はオリヴァー、通称『大斧のオリヴァー』と呼ばれるグローリア戦士団の団長。


 残りの一人は……知らない。

 柳のような垂れた長い長髪に細く長い体。顔は髪で隠されていて見えない。

 こいつが……敵なのかしら?


 その疑問はすぐに解消された。

 男は手のひらから自らよりも巨大な丸太を生成。その細腕からは想像出来ないほど力強くそれをこちらに投げてきた。

 先ほどまでより距離が近いぶん正確で回避までの猶予もない。

 反射的に接続形態(リンクフォーム)<TYPE:C>を展開。ブーメランで丸太を叩き切り、そのまま切り株状の足場に着地する。


「あぁ……また……めんどくさそうな奴が来たか……」


 男が声を発する。か細いと言っていいほど小さい声だが、どこか不快な気分になるザラつきがある。


「アラン、オリヴァー久しぶりね」

「お久しぶりですマココさん」

「まさかこんな再開になるとはなぁ!」


 目を合わせる事もない挨拶。二人とも相当目の前の細い男に神経を集中させている。

 よく見ると装備にも傷が多い。この二人がかりで押されているっていうの……?


「何ですかこのひょろい奴は? これが今回の騒動の下手人ですか?」


 翼は消さずそのまま足場に降りったったヴァイトがそれとなく誰かに尋ねる。


「そうだ……」


 疑問に答えたのは疑問を生んでいる本人だった。


「俺が……やった。間抜けな人間どもは気付かなかったが……俺はずっと準備していた……。この都市を破壊し……新たな魔王となることを……」


 魔王……?

 ここにいるプレイヤー四人全員がおそらく同じ疑問を抱いたと思う。


「魔王になる……とは?」


 臆せず疑問をぶつけるヴァイト。


「俺は……俺は……魔木ウンドパオブ! この都市を破壊しアカシック=コードをあいつに……っ! そうすれば俺は魔王になれる!」


 突如興奮し天を仰ぐ男。顔にかかった髪が流れ落ちくぼんだ目や樹皮のような皮膚が露わになる。そして背中から何本もの長い腕がにょきにょきと木のように生えてきた。

 とりあえず人間ではない。が、話は出来るし何やら意味深な言葉がいくつか出てきた。

 もっとお話ししててもらっても良いのだけど、どうやら向こうはもうやる気になってしまったみたい。


 私を含め四人ともその殺気を察知し戦闘態勢に入る。

 情報を引き出すにせよウンドパオブとやらを戦えない状態にしてからで問題ない。

 まあ、できればの話だけどね……。

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