Data.104 セントラル奪還作戦 -突入-
side:マココ・ストレンジ
「そろそろ見えてくる頃かしら」
マンネンは軽快に舗装されていない草原を行く。今日は調子が良さそうだ。
アクロス王国は狭いとはいえマンネンなしで町と町を移動しようとしたら相当な時間がかかる。
スキルシステムやバトルバランスの奇怪さにばかり目がいくけどこういうところも結構常識破りなのよね。ワープとかもないし。
トッププレイヤーはもちろん中堅プレイヤーあたりもそろそろそれに気づいて独自の移動手段を持ち始めてもおかしくないわね。
それはさておき、内部に設置されているモニターが遠方にセントラルの影を捉えた。
「これは……想像以上に侵攻されている、というより侵食されいるわね」
かつて見た巨大なセントラルの巨大な外壁には木の根っこが絡みつき、ところどころひび割れている。
門も根で塞がれ開いていない。これでは逃げ出す事も出来ない。
そして何より目を引くのは都市の中央から天に向かって伸びている大樹。ファンタジー的にはよくありそうだけど、残念ながら以前のセントラルにこんなものはなかった。
「遠くから見てこれなんやから町中はどうなってるかわかったもんやないなぁ」
「どうやって突入しましょうか?」
「マンネンは門を砲撃で吹っ飛ばさないと入れそうにないわね。私が空から中を見て門の近くに人がいないか見てくるから、合図が合ったら突入して」
「了解です」
ベラとユーリを残し、私はクロッカスに掴まり空を飛ぶ。
接続形態はまだ使用しない。
「さて……どんなもんかしら」
「思っていたより派手にやられてるってのが正直な感想だ。見てる分には神秘的で悪くない光景だがな。これを相手すると思うと憂鬱だぜ」
「珍しく弱気じゃない。どうしたの?」
「今にわかるさ」
都市の外壁の上に降り立つ。
外壁の上は金剛大門と同じく人が通れる通路の様になっていた。
本来ならここから攻め込んでくる外敵に攻撃を加える様な設計なのだろうけど、今回は内側から食い破られてしまったため意味をなさなかった。
そう考えると地下からの攻撃って相当厄介ね。架け橋の砦にも対策を盛り込んでおいた方が良さそう。
そんなことを一瞬考えた後、私は視線を外壁の内側に向ける。
「うわぁ……これは……」
「想像通り……悪い方にだがな」
都市は森に覆われていた。
背の高い建物だけは木々を突き抜けその存在感を保っているが、ほとんどの建造物は植物の海に沈んでいる。
「人が見当たらないわね……」
「森を上から見ても何が住んでいるかはわからないさ。こりゃ地面を歩いて地道に生きてる奴を探すしかねぇな」
「そうね。とりあえず近くには人がいないし門をふっとばして道を作る作戦は実行して問題なさそう」
「ああ、市民を逃がすルートにもなる。さっさと吹っ飛ばそうじゃん」
外壁の上からマンネンへ合図を送る。
するとほぼ間髪入れず砲撃が飛び、門に直撃した。
流石ベラ、私のことを信用して躊躇なくやってくれるわ。
そのまま流れるようにマンネンが破壊した門をくぐり、奪還組全員がセントラルへ突入した。
「さて、どうしたもんかなぁ」
都市に降り立ったベラが周囲を見渡す。
地上はまさに森の中。巨大な枝や地面から張り出た根がそこらじゅうに張り巡らされており、美しかった石畳の通りも今や見る影もない。
「あっ! あそこに誰かおるで!」
ベルが指差す先には折れた木の枝の下敷きになっている男性がいた。
状況の割に元気で木をどかそうと悪戦苦闘しているところを見るにプレイヤーかな。どちらにせよ助けてあげましょう。
「マココ気をつけろよ」
「何が? もしかしてあの人が敵?」
「いや、木をどかすのにスキルを使うんじゃないかと思ってな。わかってると思うがこの都市にはよく燃えるものが多い。そのうえ傷つけてはいけない市民もいるし、町中で障害物も多い。いつも通りの戦い方は危険だ……という単純な話さ」
「あー、それでちょっと憂鬱そうだったのね」
「手加減しながら戦うのは得意じゃないんでな」
「私も気づいたら力技でゴリ押しする癖があるから気をつけないとね……って、早く助けてあげないと!」
慌てて男性プレイヤーに駆け寄り木の枝を腕力だけでどかす。私って単純に腕っぷしも強いのよね。デカイ武器ばっか振り回してるし。
「はぁ……はぁ……助かったぁ……。誰だか知らんがありが……」
男性プレイヤーの言葉が止まる。
「いや……知ってるぞ、知ってますよ! あなたはマココさんですね!」
「ええ……あ、そうですけど」
「いやぁ良かった! 一時はどうなるかと思いましたがあなたが来てくれれば安心だ!」
妙に馴れ馴れしい上テンションが急に高くなって困惑する。
「あのぉ……元気そうなので良ければお話聞かせてもらえますか?」
「ええ、いいですとも! 何をお話すればよろしいですか?」
「じゃあ、まず他のプレイヤーや市民がどうなったか知っている限り教えてください」
「ああ……そうですね……。私も初めは何が起こったのかわからずただ向かってくる敵と戦っていましたから細かいことはわからないのですが……」
男性は予防線を張りつつも詳細な情報を教えてくた。
「まず、市民はモンスター預け屋やアイテム預け屋を経営している熟練の魔導師たちが自ら生み出した異空間にかくまっていました。ご存じだと思いますが、町の預け屋さんとかは経験を積んだ魔導師が安全にお金を稼ぐためにやっていることが多いので、戦闘面では一般人よりずっと強い。しかし、歳をとっていたり実戦から離れていたりで攻め込んできたモンスターを完全に撃退するには及びませんでした……。戦闘の音は止んでるんで今は上手く隠れているんだと思います」
男性はここで一度言葉を切り、悩む素振りを見せる。
「これは戦闘の最中で聞いたウワサなのですが……奇襲を仕掛けてきたモンスターは的確に強いNPCを狙っていた、ということも」
「NPCを? どうしてかしら?」
「理由は私にもサッパリ……。ですが確かに戦う意志を見せるプレイヤーよりも避難を促しているNPCに敵意を向けていたような感じは私にも伝わりました。これが逃げるものを追いたくなるモンスターの本能なのか、はたまた誰かの命令を的確にこなしているのか……」
うーん、確かにこのセントラルに奇策で攻め込んできた時点でモンスター側にも知能の高い存在がいるんだと思う。
しかし、邪魔なNPCが誰なのかまで把握しているとは……。
「誰か親玉がいるとするならば、きっとそれはあの中央の大樹にいるんだと思います。マココさんはこれから奥に向かうんでしたら気をつけてください。中央に向かうほどモンスターも強くなります。僕は歯が立たずにここまで逃げてきたんでご一緒できませんが、ここら辺でまだ避難できていない市民やプレイヤーを探してみようと思います」
「ええ、ありがとう。門は吹っ飛ばしておいたからそこから外へみんなを逃がすといいと思うわ。お互い頑張りましょう」
男性プレイヤーに背を向け中央の大樹を目指し進み出そうとしたその時、ミシミシと音を立て目の前の石畳にひびが入る。
「むっ、早速ね」
石畳を破壊し破片をばらまきながら現れたのは巨大なバラの花だった。
太い茎には鋭いトゲ、花びらは血の様に赤い。
「センケツノバラ……レベル60を超えるモンスターです! こ、こんなところまで追って来るなんて……」
「ふんっ!」
ジャンプから邪悪なる大翼を縦に大きく振り下ろす。
赤いバラは微かな黒い炎に焼かれながら切断され、白い粒子となって消えた。
「今の炎の制御はいい感じなんじゃない?」
「だな。流石にただ振り回すだけじゃ威力不足だし、最低限炎は使っていかねーとな。せっかく敵は植物といいカモだし」
ブーメランを背中に背負い、ポカンとしてる男性プレイヤーの方にもう一度向き直る。
「あ……え……? い、一撃?」
「まあ、こんなもんよ。じゃあ今度こそ行ってくるわ。ピンチになったら逃げてもいいけど、NPCは死んだら終わりだから出来れば限界まで戦ってくれると嬉しいわ。プレイヤーはすぐ復活できるしね。まぁ、プレイスタイルは人それぞれだから強制はしないけど」
「え、ええ……これがマココ・ストレンジ……あっ! そうそうもう一つ言っておきたいことがあるんです。どうやらここではログアウトが出来ない状態になっているようで……。それに一緒に冒険してたリアル友人がやられた後戻ってこないんです……。萎えてやめた可能性もありますが、もしかしたら再ログインも出来ない状況なのかも……。と、とにかく頑張ってください! 応援してます! 長々とすいません!」
「謝ることないわ。たくさん情報をありがとう」
今度こそ男性プレイヤーと別れ、私たちは樹海と化したセントラルの奥地へと歩を進めた。




