Data.103 中央都市を奪還せよ
「え? どういうこと?」
「そのままの意味ですよ。アクロス王国の中心に位置する最も大きな都市『セントラル』がモンスターに襲われているんです。それも結構突然でしてね。情報を手に入れてすぐここに駆けつけたわけです。ログアウトしてチャットや掲示板を見ない限りこの辺境の地に情報が伝わるのには時間がかかると思いまして」
「突然? 流石に人の多いセントラル周辺にはプレイヤーも多いでしょうし、接近してくるモンスターがいたら気が付くもんじゃない?」
「私もそう思ったのですが、どうやら敵は地中から出てきたようです。巨大な木の根のような物が都市内に張り巡らされたかと思うと、中央の城を飲み込むように大樹が生えてきたそうです。それと同時に植物系モンスターがわらわらと……。実体験ではなく掲示板の情報ですがね」
「植物……というと」
「お察しの通り。南に大量発生していた植物系モンスター群がこの事態を起こしたという説が有力ですね。弱いフリをして適度に攻め込ませずこんな隠し玉を準備していたとは……」
ここにダイダイオウグソクムシのような強力なモンスターが出現したように、各地でもモンスターの侵攻が激化しているようね。
それにしてもまさかの防衛をスルーして中央を直接狙うとは……。
「私が戻った方が良さそうね」
「そう言ってくれると思ってましたよ。今回で敵の狙いがセントラルであることは明白になりました。ならば黙ってみているわけにはいきません。残念なことにセントラルにたむろしていたプレイヤーのほとんどが不意打ちのようなモンスターの襲撃に敗北、もしくは逃亡しています。NPCはそれなりに頑張っているようですが、南に戦力を割いているのでそれも長くはもたないでしょう」
「ベラに頼んでマンネンに乗せてもらうとして、他に何人ぐらい連れて行くべきかしら? ここの防衛もないがしろにはできないわ」
「ふむ……。確か以前聞いた戦力は……いつもの三人とエリカというプレイヤー、それに接続形態が使えるアチルというNPCの少女、そして創造のスキルを持つハーフエルフのシュリンでしたっけ?」
「そうよ。私がセントラルに向かうとするなら戦力的にアチルには残ってもらいたいわ。名を冠する武器も持ってるし、本人の戦闘センスも抜群よ」
「そうですねぇ……本人の意見も聞きながら決めるとしましょうか。皆さんを呼び集めてもらえますか?」
「今はみんな探索中だからもう少し待ってくれない? もうじき帰ってくると思うけど……」
「一刻を争う状況ではありますが……まあ焦ってもどうにもなりませんか」
「俺が空から探してきてやるよ。探索に向かった大体の方角はわかってるしな」
クロッカスが私たちの元に近づいてきた。
確か見張りがてら門の上で日を浴びると言っていたけど、ヴァイト衝突の衝撃でこちらに気付いたわね。
「おやおやお久しぶりですねクロッカスくん。そうしてくれると助かります。ってか私も空を飛んでご一緒しましょうか?」
「別にいらねー。相当無理して飛んできたようだし休んでればいいんじゃね?」
「冷たいようで温かいお言葉。ではご厚意に甘えさせてもらいますよ」
クロッカスは飛び立った。
それから探索に出かけていたみんなが戻るまでに三十分とかからなかった。
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「……と、いう事なのですが」
ヴァイトが皆に向けての説明を終える。
なんとも実感が湧かないという空気だ。
「町が破壊されるとどうなるんやろなぁ……。そこからログインとか出来へんくなるんやろか」
ベラが何気ない疑問を述べる。
「プレイヤーへの影響は知りようもありませんが、まあこの世界を生きる者にとって良い事が起こるとは思えませんね」
「そりゃそうやなぁ……。普通に住んでるとこ壊されるのと一緒やもんな」
「ならなおのこと早く助けに行きましょうよ!」
居ても立っても居られないといった様子のアチルが口をはさむ。
「その事なんだけどねアチル。あなたにはここに残ってほしいのよ」
「ええ……何でですか……」
私はアチルの持つ名を冠する武器、接続形態などの防衛力を考え、シュリンの為にも残っていてほしいということを伝える。
「……私も行きたかったなぁ」
納得はしてくれたけど、少し不服そうでもあるアチル。
「ごめんなさい。でもアチルが残ってくれるおかげで私は安心してここを離れられるの。頼りにしてるわ」
「うー、頼りにされてはしょうがありません! 私がこの砦とシュリンさんを守ります! だから安心してセントラルの人たちを助けてあげてください。田舎者なので一度も行った事はないですが同じ国の仲間ですから!」
「うん、任せて」
「私も残るね。流石にアチルちゃん一人じゃかわいそうだし」
名乗りを上げたのはエリカだ。
「うん、エリカもありがとう。無理に探索には出ず門の中で待っていてくれればいいわ。勝つにしろ負けるにしろ短期決戦になると思うからすぐ帰って来るわよ」
「了解! ゴーレムちゃん達と戯れて待ってるね」
話し合いの結果、砦に残るのはアチル、エリカ、シュリン。
セントラル奪還に向かうのは私、ベラ、ユーリとなった。
奪還組はすぐさまマンネンに乗り込む。
ぐっすり眠っていたシュリンに今回のことを伝えられなかったのは悔やまれるけど、起こすのも良くない気がした。
何事もなくすぐ帰ってこれれば問題ないのだけど。
「私は空路を行きメンバーと合流して南からセントラルに突入します。あなた達はここから直進し東からセントラルに突入してください」
ヴァイトはマンネンの外から作戦を伝えてくる。
「わかったわ。メンバーという事はアイリィも来るの?」
「もちろん。戦闘力が物を言うことになりそうですからね。メンバーは全員そろっていますよ」
「といっても三人じゃない。私たちと一緒じゃなくて大丈夫?」
「そこはご心配なく……とだけ言っておきましょう。さぁ出発です。焦ってはいけませんが一刻を争う状況です」
「そうね。お互い頑張りましょう」
ヴァイトはうなずき飛び立った。
それとほぼ同時にマンネンもハッチを閉め、走行を開始。
一行はセントラルに向けて動き出した。
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◆現在地
架け橋の砦
side:アチル
「アチルちゃーん! そんなずーっと見張りしてる必要はないんだよー!」
門の下からエリカさんが声を張り上げる。
大きい声でお返事する元気がないので申し訳ないけど無視させてもらう。
マココさん達がここを出発してから数時間が経った。
それからずっと国境の外を眺めているけど特に変化はない。
「はぁ……」
戦いたいわけじゃないけど何もすることがないとマココさんのことばかり考えてしまう。
セントラルはどうなっているのかなぁ……マココさんたちは無事帰って来てくれるかなぁ……私も着いて行きたかったなぁ……。
「……はっ! ダメだダメだ」
私にはこの砦とシュリンさんを守るっていう大事な役目があるんだ。
かつてイスエドの村の防衛を任された時みたいに今回もやり遂げてみせる!
さーて見張りに集中……ってこんなことずっとしてたらまた同じ思考のループに入ってしまうわ。
「エリカさんとちゃんとお話ししよう」
心配してくれてるんだから無視はいけない。当たり前のことなのになぁ。
やっぱりまたマココさんと肩を並べて戦いたいという欲求は強いんだ。
ダイオウの時はマココさんの後ろから矢を撃ってただけだし、またドラゴンゾンビの時のように敵をかき分けお互いを庇いながらの戦いがしたいなぁ……。
あー、ダメダメ。戦いばかり考えちゃダメだってお父さんにも言われてるのに。
シュリンさんみたいに本を読んだり絵を描いたりお昼寝したりしておしとやかに過ごす術も覚えないとね。
そういえば最近のシュリンさんは結構スキンシップが激しくなった気がするなぁ。手を握ってきたりおんぶをお願いされたりすることが増えた。
それだけ頼りにされてるって事ね。なおさら頑張らなくっちゃ。
とはいえ、ここは一回下に降りよう。
実は見張りはゴーレムさんたちが常に行っている。
攻撃するかどうかの判断は私たちが下さないといけないから、私がここにいると攻撃への移行がスムーズにはなる。でも少し離れるぐらい問題はない。
最後にもう一度だけ周囲を見渡す……。
「んー、何度見ても一緒か……ん?」
視力の限界ギリギリの範囲に動くものを捉えた。
何かが森を抜けこちらに向かってくる。
虫かな? でもかなり小さいし、人型のような……。
前に出て確かめたい気持ちを抑えしばらく様子を見る。
……どうやら小柄な人物は明らかにこちらを目指しているみたい。他に引き連れいている者はいない。
様子を見ているうちにその姿がはっきりしてきた。
見慣れない服装の金髪の少女だ。少女は息を切らしながら門の前に辿り着いた。
「ど、どちら様でしょうか?」
門の上から声をかけると、少女はハッとこちらを向いた。
かと思うと視線を泳がせ何かを考えているようだ。
こっちも次にかけていい言葉がなかなか見つからず無言の時間が続く。
その後、その静寂を破ったのは少女の方だった。
「あの……シュリンという女性を知りませんか……? この近くの森に住んでおられたのですが、家ごとなくなっていて……」
「えっ!?」
この子はシュリンさんを知っている!
「ちょ、ちょっと待ってくださいね」
ど、どうしよう……。このまま本当のことを言っていいのか……。
思えば私たちはシュリンさんの過去を大して知らない。この少女もシュリンさんにとって良い人なのか悪い人なのかわからない。
こうなったら……本人を起こして聞いてこよ!
私はマジックリフトを使い門から地上に降り、シュリンさんの家に急いだ。




