Data.102 装甲と構想
◆現在地
架け橋の砦
「さて、あらかた集まったわね」
ダイダイオウグソクムシ撃破後、私たちは周囲を探索。あちらこちらに散らばった虫系モンスターのドロップ品を収集した。
砲撃で撃破しまくってたからホント思わぬほど遠くに飛んでる物も多かった。全部集められたとは思えないわ。
ただ……さいわい一番大事な素材はすぐに見つけることが出来た。
「大王ノ外殻……」
間違いなくダイダイオウグソクムシがドロップしたものだ。
流石にあれの外殻がそのまま落ちていた訳じゃない。その外殻の一部をさらに縮小したような形だ。
それでも私の身長ぐらいあるけどね。
「クロッカスこれはどう? 適応しそうな素材じゃないかしら?」
「ああ、なんとなくだが感じる。こいつは俺を強くする素材だ。だがこの大きさ……どうすれば食えるんだ?」
クロッカスはくちばしでツンツンと『大王ノ外殻』をつつく。
いくら大きなカラスの姿と言ってもこれは口に入らないわ。
「とりあえずくちばしで挟んでみるか」
外殻の端っこを咥えてこっちを見るクロッカス。
シュールだ……と思っていたら突然その身が黒い炎で包まれた。
「こ、これはきてるじゃんきてるじゃん!!」
炎の中から声が聞こえる。
どうやら本当に適合する素材だったようね。
黒い炎は数秒間燃え盛り、その後新たな姿となったクロッカスの羽ばたきによってかき消された。
「邪悪なる強化装甲大鴉」
フルアーマー……その言葉通りクロッカスのボディには多くの装甲が追加され、一回り大きくなっている。
前に『火の蛇の目』を食べて起きた変化と比べてもその差は歴然だ。
「どうだ? 俺的にはかなり変わった気がしてるんだが?」
「見た目はね。ステータスの方も見てみたいわ」
「よしよし」
クロッカスが自分で自分のステータスを開く。
◆ステータス詳細
―――基本―――
ネーム:クロッカス
種 類:ブーメラン
レ ア:☆80(↑25up)
相 棒:マココ・ストレンジ
攻 撃:110(↑16up)
耐 久:100(↑30up)
道具形態:邪悪なる大翼
生命形態:邪悪なる大鴉
―――技能―――
【悪魔の悪戯心】
【自動修復】Lv10(↑5up)
【斬撃波】Lv20(↑16up)
【邪悪なる火炎】Lv18(↑12up)
【邪悪なる突風】Lv18(↑12up)
【焔影分身】Lv10(↑9up)
【暗黒装甲】Lv1
レアリティとステータスの上がり幅がすごいわね。
ただ生命形態の名前は変わっていない。代わりに新たなスキルが追加されている。
「これ、新形態というより新しいスキルが発動してる状態なんじゃないの?」
「……どうやらそうらしいな」
「まあ、強くなってるならどっちでもいいわ。スキルならBとC両方の形態で使えるでしょうし、むしろまた新形態は使い分けがややこしくなるからめんどくさいわ」
「それもそうだ。それにしてもコレ体が相当重くなるな……よっと!」
クロッカスがバサバサと羽ばたく。
しかし、一向に飛び立つ気配がない。もしかして……。
「装甲を纏ってる時は飛べないみたいね」
「俺は羽ばたきと炎を噴射を併用すれば飛べれるかもしれねぇが、接続形態の時は噴射だけだからな。飛べないと考えた方が良さそうじゃん」
いろいろ試したいところだけど、今はそのスタミナが残っていない。
なんだか感覚も鈍い気がする。一度ログアウトもアリね。
おそらくプレイヤーはみんなそんな感じだと思うけど、とりあえずゴーレムたちの修復が終わるまでは待つとしましょうか。
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「ふぅん……そろそろ砦の設計も固めていかないといけないわね」
シュリンが自室の机に広げられた設計図を前に物思いにふけっている。
ダイダイオウグソクムシ討伐から数日後、門やゴーレムの修復はとっくに終わり、次なる防衛施設を作る素材を集める段階に入っていた。
「本当に砦を創る気なの? 門だけでも十分防衛は可能なんじゃない?」
「もうその話何度目よ。この前だって結構ギリギリだったし、架け橋の石碑の守りが薄いのは明白だったわ。施設にさらなる強化が必要よ」
「でも砦となると門以上に複雑な構造だし規模も大きいわ。また倒れてしまうんじゃないかと心配なんだけど」
「だから今回は各部分を小分けにして創っていくわ。門みたいに一気に完成させたりせずにね。それなら負担も少ない」
「まあ……それはそうだけど」
「心配してくれるのは嬉しいわ。でも創造は私なりの戦いなのよ。マココやみんなには毎回戦ってもらってるけど私は基本隠れるか逃げるだけ。だからせめて戦いが楽になるような物を創っておきたいの。もちろんそれで前回倒れてしまった事は反省してる。今度はもうあんなミスしないわ」
シュリンの表情は読めない。怒っているわけでもなく悲しんでいるわけでもない。ただ淡々と自分の考えを述べているといった様子だ。
ムキになっている……というワケでもなさそうだけどもう私に反論の余地はない。実際、前回の戦闘は何か犠牲が出てもおかしくなかった。施設が強化できるならそうした方が良いと私も思ってはいる。
「……そんな難しい顔で見つめられると私も設計図を描く手が止まるわ」
「あ、ごめん……」
「マココは自分がこの世界では死なない存在だから、その分私が死んでしまわないか気になっているのね」
「自分のこととか関係なくシュリンのことは心配だよ」
「ホントかしら? 所詮あなたたち神の使徒にとってはこの世界で起きた事なんてお遊びでしかないんじゃないかしら?」
「えっ……」
図星と言えば図星だ。大体の神の使徒にとってこの世界は遊び場でしかない。私も入れ込んでいるとはいえ、その言葉を否定できない。
でも、そこを突かれた事よりもシュリンがなぜそんなことを言ったのかが引っかかった。
「ど、どうして急にそんなこと言うの? 何かシュリンを不快にさせるようなことを言ってしまったかしら……」
「別に」
「確かに他の世界から来た死なない人間なんてよくよく考えると気味が悪いわよね。でも、私はシュリンのことが好きだし、シュリンも私のことを信頼してくれてるものだと思っていたわ。だからそんな言い方されると悲しい」
打算無し、そのままの気持ちをシュリンに伝える。
すると、シュリンが伏し目がちに言う。
「……ごめんなさい。私、最近ダメなのよ」
「やっぱり体調が悪いのね。あれだけすごいスキルならデメリットの一つや二つあるに決まってるもの」
「違うの。いや……そうと言えばそうなのだけど……ふふっ」
シュリンの奇妙な笑い声。不意に彼女が上目遣いの媚びた表情を作る。
「今までの言葉は全部忘れてくれていいわ。私もマココのこと好きよ。だからこそ、自分と遠い世界の存在だと思い出すとちょっと心が痛いのよ……。こんなに近くにいるはずなのに……」
シュリンが車いすに座ったまま私に抱き着き、下腹に頬を擦りつけてくる。
「こ、今度はやけに上機嫌ね」
「そう? でもこっちの方が良いでしょ? ね?」
「それはそうだけど……」
やっぱりおかしい。
とりあえず休んでもらえるように誘導しないと……。
「あのさ……」
「はっ……! 私たら……何を……」
先ほどまで熱に浮かされたようにトロンとした表情をしていたシュリンの顔が元のクールなものに戻る。
何故か自分の行動に困惑しているようだ。
「……そうね、寝るわ。マココも外の空気を吸ってきなさい」
一人納得するとシュリンは器用に車イスからベッドに移り、頭から布団をかぶってしまった。
なんだかよくわからないというのが正直なところだけど、私も一度リフレッシュした方が良いわね。シュリンの言葉に従い小屋の外へ出る。
外は朝なのでまだ明るい。天気も良く真っ青な空に黒い鳥が飛んでいる。
「ん?」
鳥……と思わしきものがこちらに向かってくる。方向的に国境の内側からだ。
いや、普通の鳥にしては大きい。モンスター……かな。
答えはどちらでもなかった。
黒い飛来物は減速することなくそのまま地面に突っ込み派手な土煙を上げた。
「どうしたのそんなに焦って。何かに追われてたの? それとも少し合わない間に飛ぶのが下手になったの?」
「どちらも不正解ですが、しいて言えば前者の方が近いと言えなくもないですね。時間に追われているので」
黒い飛来物はヴァイト。エンタメ集団『GrEed SpUnky』のリーダーでスキルによって空中戦を得意にする男。
「そんなにこの防衛ポイントを見に来たかったの? 一応チャットで定期的に近況は伝えてたと思うけど」
「ええ、この防衛ポイントに関しては心配していませんよ。空からでもその存在感がハッキリわかる立派な門ではございませんか。これはそうそう突破されませんね」
わざとらしく顎に手を当て、門を品定めするように眺めるヴァイト。
「じゃあなんでそんなに焦ってきたのよ。減速すらしないだなんてあなたらしくもない」
「……ふぅ、落ち着いてきましたよ。それで本題なのですが、セントラルがモンスターに襲われています」




