Data.99 炎を見た者たち
マココがダイダイオウグソクムシを撃破した頃……。
◆現在地
正義の城
「団長団長!」
城内に設置された団長室にドカドカとアカオニが入ってくる。
この団長室には集めたスキルの技書やレシピが並べられた本棚や、数々の武器防具装飾が置かれている。
「そんなに慌ててどうしたの? また亜竜でも出たのかい?」
「いつも騒がしい奴よのう……」
イスに腰掛けた男――AUOナンバーワンギルド『シャルアンス聖騎士団』の団長アラン・ジャスティマは特に慌てる様子もない。
そしてその近くの止まり木で羽を伸ばすのは【天使の親切心】を持つネームドウェポン『シロムク』。彼女は呆れ顔でアカオニを見ている。
「説明は後だ! 今見てくれねぇと終わっちまうかもしれねぇ! さあ、早く早く!」
「わかったわかったよ」
「ろくでもない事だったら今日一日お前の頭を止まり木としようか」
アカオニに急かされアランとシロムクは部屋を出る。
そして城内から外が見渡せるテラスへと移動する。
城といっても『正義の城』自体は小型の城で、石造りの洋館といっても良い。
周囲は高い城壁に守られ、その中には城以外のもいくつか建物がある。
シャルアンス聖騎士団は冒険の最中に無人のこの城を見つけ、金と素材をふんだんに投入し拠点へと改修したのだ。
「ほら! あれを見てくれ!」
「うわっ! ひえー……」
「ほぉ……これは面白いではないか」
二人は南東の方角に天へと伸びる黒い炎の柱を見た。
そして、すぐにその正体を察した。
「元気そうで何よりですね。まあ、あいかわらず元気すぎる気もしますが……」
「ふんっ、あの醜いカラスもくたばっていないようだな」
笑顔なのか、苦笑いなのかわからない表情を作るアラン。
少し楽しそうなシロムク。
「き、騎士様!」
そんな二人に城の庭から話しかける少女が一人。
その声に気付いたアランはテラスから飛び降り、少女に駆け寄っていく。
彼女はこの城の周辺に住む村の子どもで、モンスターが大量発生している今は村の住民ごと城にかくまっているのだ。
「どうしたんだい?」
しゃがみこみ、少女に目線を合わせるアラン。シロムクも地面に降り立つ。
「あ、あれ……火山が噴火したんじゃ……ひくっ」
今にも泣きだしそうな少女。
城のある地点はアクロス王国の北の果て、なのでヴォルヴォル大火山も近いのだ。
なので近くに住む少女は火山の噴火を恐れている。
「大丈夫だよ。あれは僕の知り合いが……なんというか、起こしたことなんだよ」
「じゃ、じゃあ騎士様は怖くないの……?」
「……いやぁ、少し怖いかな」
「うわーーーーーーん!!!!」
ついに少女は泣き出してしまった。
「正直に言ってどうするのだ!」
シロムクにツンツンつつかれるアラン。
「ごめんごめん! でも嘘をつくのも悪いかなって……。あれが自分に向けて放たれたらと思うと怖いもん」
「まあ、そうだが……子どもの前でくらい見栄を張って見せろ! 『騎士様』などと呼ばせてデレデレしているのだからな!」
「いてて! 僕が呼ばせてるわけじゃないって!」
カラン!カラン!カラン!
城に備え付けてある鐘の音を聞き、じゃれ合っていたアランとシロムクの表情が真剣なものに変わる。
鐘の音は敵襲の合図だ。
「泣かせてごめんね。でも、僕は行かないといけないだ。お母さんのところに戻って大人しく待ってるんだよ」
「き、騎士様……戦うのは怖くないの?」
「うん、これは平気さ。じゃあね、早く戻るんだよ!」
アランとシロムクは駆けだす。
「最近防衛のやる気がなかった騎士様よ。今日はやる気じゃないか」
「茶化すなよシロムク。まあ、気を引き締めなおしたのは事実だけどね」
「刺激を受けたか」
「それもあるけど、気掛かりなのはあの人が限界を超えた力を必要とするほどの敵が出たってところだ。僕らも油断は禁物さ」
「まぁ、あやつらにばかり先を行かれても癪だからな。今日は少々気張るとしようか」
「うんうん、その調子でいこう!」
気持ちを新たにアランとシロムクは戦いに挑む。
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◆現在地
キササキ内湾
凍りついた内湾の上に佇む人影がある。
彼らは『グローリア戦士団』、AUOナンバーツーギルドの面々だ。
「なぁ……毎回思うんだけど、わざわざ海を凍らせて足場を作ってまで敵を迎え撃つ意味あんのかな……。普通に陸地で待ってた方がいいんじゃないですかい?」
小男アワモリが不満を言う。
「ダメだ! 魚たちは陸地が得意ではない! その戦いはフェアではない!」
戦士団長オリヴァーが仁王立ちで答える。
彼は前イベントでその姿を見たという鮫人間を探しているのだ。
「そう腐るなアワモリ。団長の理論に同調するわけではないが、この作戦は意外と合理的なところもあるのだぞ」
そう発言するのは団員の一人で『氷華』の異名を持つキョウカ。
彼女は今自らの氷魔術で創り出した氷のイスに深く座り込み、腕を組み目を閉じている。
ただくつろいでいるのではなく、スキルの発動に集中しているのだ。
彼女はそもそも広範囲に影響を及ぼすスキルが得意ではない。しかし、今は作戦遂行の為無理して氷の範囲を広げている。
そのうえ、自ら生み出した氷に触れる海水の流れを読み取って敵はどのあたりから浮上してくるかを探ろうともしているところだ。
「陸地を戦場にすると必然的に港町に被害が及ぶことになる。港町だけあって海と近すぎるからな。それを避けるためには海に入って戦う必要があるが、それは私たちに不利がすぎる。両方を同時に解決するにはこれが正しい方法だと思わんか?」
「いや、無理して氷を維持してくれてるキョウカちゃんがいいなら俺はもう何も言わねぇさ。無駄口たたいてすまんですわ」
「ふっ、とはいえ私も毎度これでは気が滅入る。どうだアワモリ、シャボンで海を覆ってみないか?」
「じょ、冗談キツイでやんす……」
トホホといった感じでアワモリが視線を逸らす。
そして、その目は予想だにしていなかったものを捉えた。
「あ、ああああああっっ!! あああーーーーーーっっ!!」
思わず腰を抜かすアワモリ。
「ど、どうした? そんなに私の冗談が効いたのか?」
目を開けるキョウカ。
「あ、ああああ、あれ! あれを見てくだせぇ!」
「ん?」
「なんだ!? どうした!? 鮫人間か!?」
オリヴァーもキョウカもアワモリの指差す方向を見る。
すると、そこには天を焦がさんとする黒い炎の柱がそびえたっていた。
「あ、あの黒い炎は!?」
「知っているんですかい団長!?」
「ハーハッハッハ!! 相変わらず強い! 君に言い放った『次は負けない』という言葉、もう一度心に刻むとしよう!」
「だ、誰に言い放ったんですかい!?」
「ハーハッハッハ!!」
「あぁ……団長がまた自分の世界に入っちまった。キョウカちゃんもなんか言って……」
アワモリはまたここで予想だにしていないものを見る。
「あわわわわわわ……っ!」
面白いぐらいに慌てているキョウカの姿があった。
「ど、どうしたんですかいキョウカちゃん!?」
「ほ、炎を見たせいでイメージが揺らいでス、スキルが解除されちゃった! も、もうじきこの氷は崩れるぞ!」
「ええっ!?」
そう言っている間に氷のイスが砕け、座っていたキョウカが転げ落ちる。
「そもそもイメージでスキルの性能が変わるってのがおか……」
「本当に落ち着いてくだせぇキョウカちゃん!」
アワモリがシャボンで浮き輪のような物を作り、キョウカに装備させる。
これでキョウカは幾分か落ち着いた。
「団長! 聞いていた通りです! 一度陸地に戻りやしょう!」
「来たッ!」
「ええ?」
ミシミシと割れていく氷の亀裂の中に黒い背びれがいくつか見える。
「二人は下がってくれてもいい! わがままにつきあわせてすまなかった!」
オリヴァーは自慢の斧『惑星斧』を構える。
「そ、そんなこと言われたら逃げるわけにはいかないじゃないっすか!」
「わ、私は……何を取り乱していたんだ……。気を取り直して美しく舞うとしようぞ」
現れた黒い背びれは鮫人間なのか……。
戦士団の戦いが始まる。
次回はマココ視点に戻ります。




