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Data.98 崩壊の時

「ああ……っ!! 手がしびれてきたぁ!」


 百回は振り下ろしたか。

 ブーメランが壊れることはなかったけど、体の方にやはりダメージが出てくる。

 周りの虫からの攻撃も全くないワケではない。避けれるものは避けてるけど何発かは喰らってしまった。


 対してダイオウの外殻には切り傷とも呼べないひっかき傷のような薄い線と少しの焦げ跡ができたくらい。

 これじゃ百万回振り下ろしても勝てやしないわ!


「おいおい! もう門にぶつかるぞ!」


「ちぃ……!」


 私にダイオウを止める手段はない。

 シュリンの創った金剛大門(ダイヤモンドゲート)を信じるしかないわ。

 衝突に備え一時的にしゃがんで外殻を掴む。


 門の上のみんなもダイオウを気にしつつも他の虫の対処に追われている。

 逃げ出す人はいない。まあ、門がダイオウを止められなかったら逃げる場所なんてないけど……。


 後十メートル……五メートル……一メートル……。


 金剛の門にその巨体が触れた時、大きな衝撃は起きなかった。鈍足なのが幸いしたようね。

 でも、その前に進む力の強大さはバリアの反応でわかる。

 後退している……バリアの範囲が一瞬で百メートル近く。

 もう門の上を守るものはない。


 しかし、門自体はまるで揺らいでいない!

 どこかが壊れたり、変な音を出したりもしていない。完全にダイオウの行進をせき止めている!


 ザザザッ! ザザザッ!


 ダイオウの無数の脚が地面をかき、えぐる。

 恐るべき一歩一歩のパワー。でも、前に進む事は叶わない。


「ひゅー、立派なもんだぜ。門だけに」


「後で何度でもシュリンにお礼を言うわ」


 今のうちにダイオウの攻略を進めねば。

 動きが止まったことでこいつのことをよく観察できるようになった。

 新たな力に期待する前に今の力で出来ることを探すか……。


 私はダイオウの背中から飛び降り、その巨体をぐるりと観察して回る。

 ……こういうボスの弱点としては定番の関節部分も隙がない。

 目も攻撃してみたけど硬い。それにこいつは前に進むだけだから目を潰しても大して意味はないか。

 結局この外殻を壊すことができる手段がなければどうにもならないという答えが出てしまった。


「まだまだいけるわよね、クロッカス!」

「ああ、こうなりゃヤケじゃん!」


 私たちは再びダイオウの背中に戻った。




 > > > > > >




「ぐっ……あぁ……」


 汗が滴り落ちる感覚。

 何回やっても結果は変わらない。


 門はいまだ健在。しかし、バリアはかなり縮小してしまった。

 もはや架け橋の石碑を守るのが精一杯。

 門の上ではダメージを負って動けなくなったゴーレムも増えてきた。

 体が大きく動きが機敏でないとなると、バリアなしではどうしても攻撃を受けてしまう。

 ミボボが戦闘中に発現したららしき新スキルを使って健気に『修復』をしているものの追いつかない。


 そして今さっき気づいたんだけど、虫がどこからか増えている。増援が送り込まれている。

 それに護衛の虫はダイオウの周りにいるのが普通だったのに、一部が跳躍や短時間の飛行能力を使い門を飛び越え架け橋の石碑を狙い出した。おかげでマンネンとベラも戦闘に参加している。

 この変化はなんなのか……。虫自身が連携をとって行なっているとは思えないけど、今は推理できる状態じゃないのが口惜しい……。


「……やっぱりダメなの?」


 頭はそう考え始めてるけど手は止まらない。

 浅い傷や焦げは増えているけど効果はまるでない。

 もはや虫たちも私が脅威でないと判断し狙ってこない。

 おかげで集中できてるけど、もう手が……ってあれ?

 ブーメランが外殻にヒットした時の衝撃が伝わってこない。ついに空振りしだしたか……?

 いや、違うんだ。折れた。『四枚の死翼』が。


「……あっ」


 そのことを頭で認識した時、思わず声が漏れた。

 しかし、変化はそれだけで終わらなかった。


「う、嘘……」


 アーマーが……装甲まで剥がれていく。

 接続形態(リンクフォーム)ももう限界だっていうの!?


「ここまでか……」


 手からブーメランを取り落しそうになったその時。


「いやっ、まだだマココ!」

「……っ! なに、これ!」


 折れたブーメランの破片やはがれた装甲が右手に集まり、『何か』を形どっていく。

 これは……。


「剣!?」


 ついにやってしまったか!?

 このまま私のアイデンティティも崩壊してしまうの!?


「いや違う!」


 これもまたブーメランだ!

 大きな特徴は明らかな持ち手の存在。

 今までのブーメランはくぼみや穴が開いていてそこに手を入れていたり、小さいものは指で挟んで持っていた。

 でもこいつは違う。刃のついていない円柱状の持ち手だけの部分が存在する!


 そして、線対称な形ではない。

 『く』や『X』とは違う、いわば『ヘ』の字型とでもいうべきか。流石に『ヘ』まで直角に折れ曲がっていはいないけど。

 短い方が刃のついていない持ち手の部分。長い方が刃だ。

 少々珍しいけど、一部のゲームで稀に見る形ではある。


 あとは……単純に巨大だ。

 全長は私の身長の倍はある。刃の部分は分厚く、幅も広い。見た目通り重い。

 それに一枚一枚細かく羽毛が生えているようなデザイン。もちろんこの羽毛のように見えるものは金属の様に硬くふわふわいていない。

 でも、まるで巨怪鳥からもぎ取った翼をそのまま振り回しているように錯覚するほど精巧な造形……。


「見惚れてる場合じゃないぜ!」

「はっ……! うおりゃあッ!!」


 新たなブーメランを思いっきり足元の外殻へと振り下ろす!


 ガギィィンッ!!

 ミシッ……


 その音が聞こえた時、ダイオウも一瞬脚の動きを止め、驚いたようなそぶりを見せた。


「んっ! へこんでる! ダイオウの外殻が!」


 見た目から伝わる攻撃的な印象は偽りではなかった!

 一撃で粉砕とはいかないあたりやはりこの虫は凄いと言わざるを得ないけど、今度は100回耐えられるかしら?

 無くなりかけてたヤル気がどんどん戻ってくる。

 いちっ、にぃ、さんっ、しっ!


「マココ、後ろだ!」


 私の変化を察知したのか、護衛の虫の一部がこちらに再び攻撃を仕掛けてきた。


「わかった! ってあれ?」


 回避動作に入ろうとしたとき、その動きの鈍さに気付いた。

 避けきれないっ!

 咄嗟に腕でガードの体勢をとる。


「ぐ……ッ! い、痛い!」


 想像以上のダメージを感じる!

 さっきまでは攻撃を受けても大したことなかったのに……。


 それもそのはず、私は今ほとんど半裸の状態だったんだ。

 ゴテゴテしたゴスロリアーマーは全てなくなり、残ったのはノースリーブへそだしインナー(動くと胸がこぼれそうなほど布の面積が小さい)とローライズで丈も非常に短いスパッツ(申し訳程度に超短いスカートがついてるけどむしろこれが動くたびにめくれて下品!)。


 後はなぜがごつくなってるグローブとブーツ。

 グローブは巨大なブーメランを振り回す手を保護するために。

 ブーツはブーメランの重さに体が持っていかれないように重くなっている。

 このブーツの重さのせいで回避が遅れた。


「前みたいに炎のブースターを使えないか?」


 クロッカスが問いかけてくる。


「ダメよ。あれは『四枚の死翼』のX字の構造があったから動きを上手く制御できたけど、こいつは刃の後ろからしか炎を噴射できないみたい」


 『四枚の死翼』は『X』の端っこ四点から炎を出せたけど、こいつはそれが出来ない。

 細かな制御は無理。しかし、逆に勢いだけなら以前のブーメランを上回っている。


「このブーメラン……『破壊(ブレイク)の怪鳥翼(バードウイング)』は何もかも攻撃特化。攻撃以外のことは考えない方がいい。いや、考えてはいけない!」


「それはわかるが、虫さんはわかってくれないぜ! その薄着で攻撃を受け続けたら流石にマズイじゃん!」


「大丈夫よ」


 私は護衛の虫を気にせずダイオウへの攻撃を再開する。

 今度はさっき試した炎の噴射によるブーストも同時に行う。


「うおおおおおおおおーーーー!!」


 バキバキバキィィィイイイイイイ!!!


 炎によって勢いの増した一撃はダイオウの外殻を砕いた!

 周りにヒビも広がっていく。

 同時に王の危機を悟った護衛の全てが私を取り囲む。


「マココ!」


「気にしない! 私の役目はこいつを壊すことッ!!」


 私も取り囲む虫もそれぞれ攻撃動作に入る。

 が、攻撃を行えたのは私だけだった。

 背後から聞こえる砲撃音と共に、虫たちは撃ち落とされていく。


「みんな、ありがとう!」


 背中に仲間たちの声援を受け、最後の一撃を振り下ろす。


邪悪なる(カース・オブ・)噴火(ヴォルケーノ)!!!」


 上から下へ、常人の目では捉えきれない速度で振り下ろされた一撃はダイオウの外殻に致命的なダメージを与える。

 だが、まだだ。外殻だけでなく本体にも致命的なダメージを負わせる!

 『破壊(ブレイク)の怪鳥翼(バードウイング)』が更なる炎を噴き上げ、ゴリゴリとダイオウの肉体深くに食い込んでいく。

 その炎はまさに火山の噴火。巨大な火柱は門の高さを優に超え、他の防衛ポイントからでも見ることが出来るのではないかというほど高くそびえ立つ。


「これで…………ッ! 終わりだぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」


 私は下へと加速を始め、やがてその足は地面についた。ダイオウを上から下へ、縦に真っ二つにして。

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