Data.97 大王の蟲VS.守護者たち
ドンッドンッドンッと激しい砲撃音が鳴り響く。
全ゴーレムが砲撃を開始すると想像以上に耳にくる……。
いや、まだ砲撃を開始していないゴーレムがいた。
サイクロックスがその体から炎を噴き上げ、あるスキルの準備をしている。
これは……一番ヤバいのがくるわ。
「私の攻撃はこれが終わってからにしましょうか……」
耳を塞いでしゃがみ込む。
間もなくして、一際大きな轟音と熱風と衝撃をともなって火球が放たれた。
大きさは大したことない、今は。
何体かの虫が火球を相殺しようとスキルを放つもすべて焼き尽くされていく。
そして火球は虫の軍団の中央、つまりダイオウに迫り……はじけた。
先ほどまでとは比べ物にならないほど火球は膨張し、付近の全てを飲み込み燃やす。
これがサイクロックスの新スキルにして最強の技【破山轟火球】。
虫との戦いを続けるにつれて、サイクロックスはより虫への効果が大きい炎の力を強めていった。その一つの到達点がこのスキル。
さらには常時スキルとして【虫系特効】を入手した。
その名の通り虫系のモンスターへの攻撃ダメージが増加するスキルだ。
まさに虫キラー、殺虫ゴーレム……あまり響きは良くないけど、とにかくサイクロックスは虫モンスターに強い。
さて、そうこうしているうちに炎が消えた。
その跡には黒い煙が立ち込めている。
「……ちっ」
煙すらも踏み倒し、ダイオウの行進は続いている。
ダイオウ周辺の護衛は大半消し飛んだものの、外側にいた他の虫が減った護衛を補うように内側に集まっていく。
しかし、全体的な数は大幅に減らせている。ゴーレム部隊の働きは大きい。
人間もこれに応えなければ。
「クロッカス、接続形態!」
久々の変身。X状の黒いブーメラン、そしてゴシック&ロリータなアーマー。
うん、問題なく変身できている。
「獄炎灰塵旋風!」
『四枚の死翼』を正面に投擲。
炎を噴き上げ、風を巻き上げ、黒い塊がモンスターを焼き切り裂いていく。
私たちも炎の使い手、効果はバツグンよ!
「紅蓮火炎の矢!!」
アチルとクララも接続形態を使用し、カースドライバーから矢を放つ。
クロッカスと近い関係にあるだけにクララも炎を扱えるようだ。
炎を纏った矢というより、炎そのものが矢の形を成していると言えるそれはブレることなく一直線の軌道を描き、複数の敵を同時に貫き燃やしていく。
「爆烈の符! 符操術式・符璃冷亜弩の型!」
ユーリの放つ吹雪のような無数の符が虫たちに吹き付ける。
そして、それは次々に爆発し大きくはないものの確実なダメージを蓄積させていく。
そもそもうちのパーティで一番範囲攻撃が得意なのは彼女だ。
符操術式によってたくさんばら撒かれる符の一部は敵に当たらず無駄になることも多かったけど、今回はほぼ全弾命中している。
なんとなくだけどユーリも爽快感のある顔をしている。
「大電網サンダーネットワーーーークッ!! ランチャーーーーッッ!!」
ゴーレム達の砲撃音に負けない声で叫ぶのはエリカ。
『ウィスタリア魔風穴』で見せた大電網を両手でこねてこねてバスケットボールほどの大きさの球を作る。
そして、それを大きく振りかぶって……投げた!
電網球は山なりの軌道を描き目標まで飛んでいく。
すごい遠投ね……肩すごい……っと思ったらどうやら手にも電力を纏い、磁力のような反発する力を生み出し弾き飛ばしているみたい。
球は上空ではじけて、圧縮されていた巨大な電気の網が地上へ降ってくる。
魔風穴の時とは比べ物にならない巨大な網。これがエリカの本気ってワケね。
触れた護衛の虫は痺れたり焦げたりし、その歩みを止める。
が、やはりダイオウは止まらない。
全身を電気の網で覆われても何食わぬ顔でただ前に進む。
網はズタズタに引き裂かれ数秒で消失した。
「あーーっ!! わ、私のとっておきが~……。くぅ~、そりゃ本気で止められるなんて思ってなかったけどさぁ……。また自分に自信なくしちゃう……」
割と止められると思っていたんじゃないか、と思うほどエリカはショックを受けている。
まあ、あるよね。どう考えても無理なことを出来るんじゃないかと期待すること。
ゲームでもダメージ量的にどう考えても次の攻撃耐えないのに『耐えろっ!』って念じてダメだと『そりゃそうか』と言いつつ割と悔しかったり……。
って、そんなこと今はいい。
護衛の虫の数はもう残り少ない。
まだ生きている虫の中にも弱っていたり、ストライダーの仕掛けた糸に引っかかって動けなくなっていたりとある程度無視できる個体もいる。
「接近戦を仕掛けるわ!」
予想より早い気がするけど、それはみんなが頑張って虫の数を減らしたからだ。
今こそ勝負の時!
門の足場を蹴り、空中へと躍り出る。同時にダイヤモンドバリアの範囲からも出ることになる。
狙うはダイオウの背中。巨大な体躯ゆえ私が上に乗っかる事が可能だ。
そこにしっかりと踏ん張り、思いっきり武器を振り下ろす。
考えているようで大して考えていない作戦に頼るしかないのが悲しいところね。
護衛の虫たちはダイオウに接近する私に攻撃目標を変更する。
複数の虫から睨まれるプレッシャーは相当なものだけど、仲間を信じて気にせず突っ込むべし!
砲撃音、射撃音、爆発音、電気がバチバチする音など無数の音が入り混じる戦場を駆ける。
ストライダーの糸や私の燃える丸太のような小細工はやはりダイオウには効かなかった。
でも私には効くので避けるように前へ。
そしてついに私は巨大なダイオウの足元へとたどり着いた。
遠くから見ると比較的細く見えたたくさんの脚も間近で見ると巨大だ。
とはいえ胴体よりかは脆そうだ……脚を切って動きを止めるか……。
いや、多すぎて十本や二十本じゃ効果がありそうもない。それにこいつの体の中では脚は機敏に動いているほうだ。狙いも付けにくい。
作戦通り真上からの攻撃を行おう。
ダイオウの体に飛びつき、小さな山のような体を登っていく。
この時点でダイオウからの攻撃は無し。やはり硬さ重さ特化か……。
にしても、こいつの殻はツルツルしてて上りにくいっ。
金剛大門と同じく特殊なコーティングで魔法やその他もろもろの効果を受けにくくしているようね。
武器を突き立てて登るわけにもいかず、両手両足をフルに使わないと……。
「んっ!? そういえばこの形態なら飛べるんじゃねーか?」
「あっ!! おおっと!」
クロッカスの言葉に思わず滑り落ちそうになる。
背中に背負った『四枚の死翼』から黒い炎を噴射すれば勢いに任せた一時的な飛行が可能かもしれない。
「試す価値はあるわ! ぶっつけ本番でね!」
背中の翼から四つの炎が吹き上がり、体が一瞬重力から解き放たれる。
そして、すぐに倍になって戻ってきた。
「ぐぐぐ……っ!」
加速の勢いで強いGがかかる。
背中へ……ダイオウの背中に着地しなければ、という思いと裏腹に少しずつ離れていく。
「ま、前に前に!」
両手を前に突き出してもがく。
すると、腕回りの装甲の隙間から炎が噴き出し、前へと進む推進力が生まれた。
「わわっ……とぉ!」
セーフ。何とかセーフ。予定通り王の上をとった。
「やったわね」
「安心してる場合ではないぜ! 後ろを見な!」
振り返るとそこにはもう門が迫りつつあった。
バリアも攻撃を受けすぎてそろそろ縮小を始めそうだ。
「早いとここいつの殻をブチ砕かねーとヤバいじゃん?」
「そのようね……」
背中の『四枚の死翼』を手に取り【邪悪なる火炎】を発動。
そのまま思いっきり振りかぶってから振り下ろす!
ガギィンッッ!!
「あっ……」
「あっ……」
一撃で倒せないことなど百も承知だった。始めから何度も攻撃することが前提だった。
だけど……こいつは……。
「く、砕けない……。今の私たちじゃ……」
何度も戦いを経験してきたから、わかるようになってしまった。
その手が敵を切り裂く感覚を覚えてしまった。
ダイオウの外殻は今の私たちのどのスキルを使っても砕けない!
「どうするよマココ。百回切っても無理そうだぜ」
「ならば千回、一万回……と言いたいところだけど現実的じゃないわね。うーん……」
「逃げるか?」
「ないわ」
「だろうな。で、どうする?」
「……こうしてやる!」
私は同じようにブーメランをダイオウへ振り下ろす。
結果はもちろん同じ。ガギィンッとはじかれ敵には傷一つない。
「な、何してんだ?」
「今の私たちで無理なら、次の私たちになるしかないでしょ!? うりゃあ!!」
ガギィンッッ!!
「話がつながらないぜ!?」
「なんかこうしてれば新しいスキルかなんか目覚めるんじゃないの!? いやーッ!!」
ガギィンッッ!!
「神頼みかよ! 意外と冷静かと思ったらこれだ! ……まぁ、それしかないか!」
「そうよ! なんでもいいから砕けろやッ!!」
ガギィンッッ!!
「ブーメランの方が先に砕けなきゃいいんだがなぁ!!」
「それ今ちょっと思ったぁ!!」
ガギィンッッ!!
でも気にしてられない。
もとよりこの外殻を砕けるまで攻撃する手はずだったんだ。
それに少し神頼みが追加されただけ、何も問題はない……問題ないわ!
「ブーメランが砕けても、私たちの心さえ砕けなければっ!!」
ガギィィィンッッ!!!




