Data.96 大王の行進
◆現在地
架け橋の砦:金剛大門
ダイダイオウグソクムシの歩みは遅い。戦闘準備を行うには十分時間が有る。
十体のゴーレムはマジックリフトに乗りどんどん門の上部回廊へ。
マンネンは倒れたシュリンを乗せているうえ、いざという時緊急脱出をする必要があるので地上で待機することになった。それにともないベラも地上待機になる。
私、ユーリ、エリカ、アチルの四人は装備を整え、側防塔の階段を使い上へ。
リアルの防衛戦というのは、場合によって門の前にさらに急造の防壁を造ったりするらしいけど残念ながら人員も足りないし今回の敵に対して急造品では効果はないだろう。
「ひえ~っ! また気持ち悪いのが来ちゃったなぁ~」
エリカが悲鳴を上げる。
「私も……ちょっと足が多いのは……」
ユーリも顔をしかめる。
あのデカい虫を見て恐怖より先に気持ち悪さがくるあたり肝が据わってるのか……いや、女の子はこういう反応をするものなのかな?
「硬そうな外殻ですね……でも、私とクララなら貫けるはずです!」
「クココココッ!! どたまぶち抜いてやらぁっ!」
アチルはいつも通りで安心したわ。そして、虫を見た感想が私と同族ね。
クララは……ヤル気の裏返しと思っておくわ。
それにしてもずらっと並んだゴーレムたちは壮観だ。
まだ攻撃を開始しないあたり、敵は射程外のようね。
基本的な戦い方としては、この門の上から飛び道具で敵を攻撃することになる。
幸い人間勢も飛び道具を得意としているので、ゴーレム部隊の砲撃の中に突っ込んで敵と接近戦を繰り広げる必要はない。
「クロッカス、接続形態は使えるわよね?」
「使えないと困るじゃん? 問題ない」
「倒せるかしら、あの虫を」
「わからんな。ただ、俺の予感ではこの門にぶつかる気がするぜ。その時、どれくらい耐えてくれるかだな」
「出来ていきなりバラバラなんて展開は避けなきゃね。シュリンの為にも……」
私はこの時、シュリンの異常な反応についてクロッカスと話し合おうか悩んだ。
でも、クロッカスは察したみたいで……。
「あいつは変に気を遣ってるところがあるからな。一人で抱え込んでるのがカッコイイとでも思ってるのか……。まあ、わからんでもないが」
「私はまだ全てを話せるほどの存在ではないってことね」
「そりゃ、そうじゃん。会ってそんなに経ってないうえ、マココとはそのまんまの意味で住む世界が違うからな」
リアル世界……こっちの世界の住民にとっては天上の世界。私はシュリンにとって遠い世界の存在なんだ。
「……そうは言ったが、割とあいつはお前のこと好きだと思うぜ? だからこそ隠してることがあるのかもしれん。プライド高そうだしな」
「そう……なのかなぁ。まっ、悩んでも仕方ないか。あとで本人に聞くとしましょう」
今は迫り来る敵に何か先手をうちたい。
接近してきてわかったけど、大王の周りにも虫系モンスターがいる。
足が速そうな個体もダイオウの歩みに速度を合わせているあたり、まさに王の行進といったところね。レベルもだいたい50と侮れない。
カタカタカタッ!
ストライダーが足音を高らかに鳴らしてやってきた。
さっき横着して門の外壁に糸をくっつけて登ろうとしていたけど、この門の表面が特殊なのか糸がくっつかず悪戦苦闘していたのを見た。どうやら諦めて階段で来たのね。
ストライダーは落下防止と姿を隠して戦うための壁に飛び乗り、敵の方向そして下の方を見る。
それからゴーレムの一体をツンツンつついて壁際まで呼び、その腕を外へ突き出させる。
なるほど考えたわね。壁に糸がくっつかないので、ゴーレムの腕に糸をくっつけて移動しようってことか。
蜘蛛の様につつーっと糸を使って下へ降りていくストライダー。
でも、そもそも敵の来る方にわざわざ降りて何をしようというのかしら。
……ああっ、そうか!
『ウィスタリア魔風穴』で使ったあの戦法をまたやるのね。
重くて硬い敵は地面にくっつけて動きを封じてしまえばいい。
ストライダーは地面に【粘々の糸】を大量に設置。仕事を終えると降りてきたのと同じ方法で門の上まで戻ってきた。
この戦法が通用するかはわからないけど、もし効けば最高だ。
そんな感じで私も一つ思いついたことをやっておきますか。
> > > > > >
「よし、上出来!」
撤去した丸太を地面にいくつか設置。そしてそれを【邪悪なる火炎】で燃やす。
黒い炎に触れればダイオウの周りの護衛ぐらいは焼けるでしょう。
「さて、そろそろ……」
長距離射撃を得意とする何体かのゴーレムの射程に虫が入る頃合い。
このまま少し敵にちょっかいを出したい気もするけど、ゴーレムたちはあまり精密な射撃は得意ではない。
私が敵と重なるとその性能を発揮しきれない恐れがある。
ここはグッと我慢して門の上に戻る。
門の上ではやはり何体かのゴーレムが攻撃の体勢に入っていた。
腕をスナイパーライフルの様に細く長く変形させ、片膝をついている個体。
ゴーレムにとっては腰の高さほどの落下防止壁を掴み、両肩に生えたキャノン砲のような物で狙いを定める個体。
肩をぐるぐる回し、自らのスキルで生み出した砲弾を投擲する準備をする個体。
彼らにもそれぞれ名前を付けたのだけれど、まだこれほど個性的に成長する前だったから覚えられていない。
それに数が多かったからフランス語で1~9を表す『アン』『ドゥー』『トロワ』『キャトル』『サンク』『スィス』『セットゥ』『ユイット』『ヌーフ』でそれぞれ割り当てたのも覚えにくい要因か。
なおシュリンはしっかり覚えていた様子。
「……もどかしいわね。この待つ時間」
「……もしかしてこいつら攻撃指令待ちなんじゃねーか?」
「あっ」
そうだそうだ。
ゴーレムたちは砦に接近してきた敵や飛んできた攻撃に対して防衛行動をとるけど、今はまだ距離がある。
それに国境の向こうから来るのがモンスターだけとは限らないので、基本的には私たち人間の判断を待っているのだ。
「攻撃開始ッ! うわっ!!」
命令と同時にゴーレムたちの砲身が大きな音をたて空気を震わせる。
撃ち出された弾丸はそれぞれ異なる軌道を描き虫たちへ殺到する。
私は手で双眼鏡を作るポーズで目を凝らす。
うんうん、攻撃はヒットしている。
しかし、ゴレームたちのレベルはだいたい30未満。50を超えるダイオウの護衛たちを一撃で撃破とはいかず、大半はまだ行進を続けている。
ましてや、ダイオウ本体にはまるでダメージはない。
「そのまま周りの虫へ攻撃を続けて!」
ゴーレムたちは護衛の排除に集中させる。
ダイオウの相手は人間たちでやるわ。
「むっ! ついに来たか」
虫側からの攻撃だ。
針やら粉やら虫技っぽいものから火球や風の斬撃など魔法由来と思われるものまで無数の飛び道具がとんでくる。
こちらもそれは予想済み。
ここでもう一つ新たな防衛システムが発動する。
それは架け橋の石碑に搭載された【ダイヤモンドバリア】!
シュリンが言っていた自分よりも『ダイヤモンドバリアの技書』を使うにふさわしい相手とは石碑そのものだった。
技書はシュリンのスキルによって架け橋の石碑に使用され、石碑は自らに対する攻撃を自分で防御するようになった。
バリアは石碑を中心に球体状に展開する。そのため地面からの攻撃も防ぐことが出来る。
カットされたダイヤモンドようにキラキラと輝くバリアが外側からの攻撃を遮断する。
そして、内側からの攻撃はスルーされるため一方的な攻撃が可能だ。
バリアが発動してるうちはね……。
残念ながらこのバリアにも弱点はある。
それは展開し続けられる時間の問題。
何も攻撃が来ない状況ならかなりの時間展開し続けられるけど、攻撃を受けるとそれだけ展開できる時間が減っていき、最後には少しづつバリアの範囲が縮小していく。
金剛大門は石碑から離れたところにあり、バリアが縮小を始めると早い段階でその中から出てしまう。
つまり、このバリアがあるうちに厄介な状態異常を引き起こすモンスターあたりは全滅させておかないとめんどくさいことになるってことね。
今のところダイオウ自体が何か攻撃と思われる動作をしてくることはない。
おそらく、あのモンスターの強みは硬さと重さと大きさにあるんだ。
だからただ歩いて立ちはだかる物を破壊していくだけ。小細工の類は持ち合わせていないと思う。
どんなことでも特化してる奴は強いのよね、ホント。
そろそろほとんどのゴーレムの射程に虫が入る。
そして、私たち人間も攻撃が可能になる。
さて、まずは王の護衛狩りと行きますか……。




