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Data.95 金剛大門《ダイヤモンドゲート》

 ◆現在地

 架け橋の砦


「あらあら、おかえりなさい」


 架け橋の砦に帰還後、すぐにシュリンと会った。

 ちなみに『ウィスタリア魔風穴』はアクロス王国側にあるので丸太の門のせいで魔石が運び込めないなんてことはない。


「ただいまシュリン。見ての通り大量よ。必要な分集められたかはわからないけど」


「ふーん、とりあえずお疲れ様」


 シュリンは荷車に近づき、中身を確認する。


「まあまあ、金魔石とか銀魔石とかがいっぱいじゃない。本当に良い入手先があったようね。これなら数日で門の建造までこぎつけられそうよ」


「やっぱりレアな魔石は普通の魔石の何個分かの価値があるの?」


「ええ、そうね。銅は百個、銀は千個、金は一万個あたりかしら」


 そ、そいつはすごいわ。


「じゃあさじゃあさ、この『金剛魔石』はどれくらいの価値があるかな?」


 アイテムボックスにしまっておいた『金剛魔石』をシュリンに見せる。

 すると、シュリンは珍しく大きな目を丸くしてわかりやすく驚く。かわいい。


「……あなたって、強運なのね。あやかりたいものだわ、って今まさにあやかっているところか」


 顔に手を当て呆れたポーズをとりつつも、その口元は笑っている。


「そうねぇ……魔石百万個くらいの価値はあるんじゃないかしら? 流石にちょっと自信ないけど」


 百万個とは!

 じゃあまさか……。


「もうこれ実質魔石一千万個に到達してるんじゃない?」


「ふふっ、そうかもね。もう門の創造は可能かもしれない。でも、少し待ってくれるかしら。創造する門の形を頭の中でハッキリさせる時間が欲しいわ。なにしろ大きいから」


「全然構わないわ。無理しないでシュリンのペースでやってくれればいいから。あっ、そうだ! こんな物もダンジョンで手に入れたんだけど」


 アイテムボックスからもう一つのレアドロップ品『ダイヤモンドバリアの技書』を取り出し、シュリンに見せる。

 華奢な身体に不自由な足、このバリアのスキルはシュリンにこそふさわしいと思っていた。エリカにも許可は得ている。


「へー、素敵なプレゼントね。でも、これは私より相応しい相手に使わせてもらうわ」


「んん? シュリンより相応しい……って誰?」


「それは後のお楽しみ。さぁ、今日も防衛はりきってお願いね」


 そう言うとシュリンはいつの間にかここに移されていた小屋に引っ込んでしまった。

 てか、確かに小屋は動かせると言っていたけど本当にそのままの形でここにきている。

 これがエルフ流建築……なのか?




 > > > > > >




 ウィスタリア魔風穴攻略より数日が過ぎた。

 あれからも虫モンスターの襲撃は続き、その度に戦闘が起こったものの増強された戦力が進行を許さなかった。


 まず大きいのがゴーレム砲撃部隊の存在。

 成長したサイクロックスを中心に部下のゴレームが九体、合計十体のゴーレムからなるこの部隊は遠距離からの広範囲攻撃を得意としている。

 部下ゴーレムたちはそれぞれ得意とする属性や攻撃方法に多少の差があるものの、だいたい同等の実力であり、皆サイクロックスには及ばない。

 これは創造時に使用された素材のレアリティの差が影響されているとの話だ。


 それでも十体が横一列に並び行う飽和砲撃は圧巻で、これだけで侵攻してきた虫の大半は撃破される。

 ここ最近、私を含めたプレイヤー勢とアチルは砲撃を抜けてきた手負いの虫を相手にしているだけだった。

 そのおかげで周辺の探索や素材集めは比較的自由に行えた。


 そして今、それらの成果である門の創造が始まる。


「よし……よし……」


 手元に持つ設計図らしき紙を確認するシュリン。

 その前には大量の魔石とその他素材。そして、広がる山間の大地。丸太の壁は撤去されている。


 ここまできてなんだけど、本当に門なんて造れるのかしら。

 別にシュリンの力を疑っているわけじゃない。今まで何度もその力を目の当たりにしてきたから。

 むしろ、確実に成功するだろうから彼女への負担の方が心配だ。

 でも今の私たちにはただ見守る事しか出来ない。


「いくわ」


 それだけ言ってシュリンはスキルを発動する。

 全身から紫色のオーラが吹きだし、魔石の山を中心とした魔法円が構築される。

 巨大だ……ちょうど山肌から山肌へ、直径三百メートル近い円が出現した。


「クリエイト・金剛大門(ダイヤモンドゲート)!!」


 叫びと共に魔法円の中に稲妻がほとばしる。

 私たちのいる場所も巨大な魔法円の中になってしまっているので、思わずみんなしゃがみ込んだり両手でガードをする。


 そんな中、私はシュリンの背中をじっと見ていた。

 今のところ異変はない。大丈夫なのかな……。

 心配をよそにシュリンは意外な動きをする。

 急に自らの足で立ち上がったのだ。


 初めて見るシュリンの立ち姿はその脚の長さにまず驚く。こういうのをモデル体型と言うのだろう。その脚線美に見とれつつ、魔力のオーラはが脚に集中していることが気にかかる。

 これは……良いのか、悪いのか判断に困るけど胸騒ぎがする。


「シュリン!」


 意を決して声をかけてみる。

 その瞬間、魔法円が消え稲妻が止んだ。

 シュリンはぱたりと前のめりに倒れ込む。


「シュリン!!」


 すぐに駆け寄ってその体を起こす。

 息はあるし、顔色も全然悪くはない。でも目を開けていない。


「はっ! あぁっ……ぐっ……うううぅぅぅ……ッ!!」


 と思ったら急に眼を見開き、脚を折り曲げ抱え込むようにして苦しみだした。


「どうしたの!? 脚が痛むの!?」


「……ちか……ッ!」


「違うの!?」


「近寄るな……ッ!」


「えっ……」


 目いっぱい腕に力を込めて脚を抑え込むシュリン。

 歯を食いしばり顔には玉のような汗がいくつも出ている。

 いったいなんなのあのスキルは……。どんなデメリットがあるっていうの……。彼女の脚と何か関係が……。


「うぐっ……うぅ……」


 しばらく苦しんだ後、シュリンはまた気を失ってしまった。

 手持ちの回復系ポーションをかけて様子を見ても一向に意識を取り戻す気配がない。


「ど、どうしよう……」


「落ちつけマココ」


 カラス形態になったクロッカスが隣で言った。


「原因がスキルの使用にあることは間違いなさそうだが、ただのデメリットってワケでもなさそうだ」


「わかるの?」


「本来ならわからないはずなんだが、こいつ……シュリンのはおそらく特別だ。スキルを使用している時、なんとなく魔力が活性化してるのを感じた。魔力を使い過ぎて弱っていく感じではなかった」


「なんだかよくわからないわ……」


「しっかりしてくれよ! とりあえず今シュリンは放って置いても問題ない。それより……こいつはやべぇのが来るぞ……」


「えっ?」


「耳を澄ましてみろ……。地鳴りが聞こえてくるじゃん?」


 ……確かに本当に遠くの方から何か聞こえてくるような。


「シュリンはマンネンの中に移せ。マココと俺たちは門の上に登って戦闘準備だ」


「わ、わかった」


 シュリンを抱き抱え動き出そうとした時、それに気付いた。

 目の前に立ち塞がる宝石のようにきらめく巨大な門に。

 腕の中で眠る華奢な女の子が一人で創り上げたにしては、それは大きすぎた。


「見惚れるのは後にしな!」


「う、うん!」


 クロッカスに現実に引き戻され私は再び動き出す。

 同じく門の巨大さに圧巻されフリーズしていた仲間たちに事情を説明し、門の上に向かってもらう。


 門は全長約三百キロメートル、高さは二十メートル……シュリンは言っていた。

 本当かどうか体感では巨大すぎてわからない。

 両サイドには側防塔と呼ばれる円柱状の搭が組み込まれていて、その中にある階段を上れば門の上部へ出ることが出来る。

 門の上部はゴーレムたちやマンネンも通れるぐらい幅の広い通路になっていて、ここから敵に向けて撃ちおろし攻撃を加えることが可能だ。


 しかし、流石にいくら巨大な門の階段とはいえゴーレムたち、ましてやマンネンが上る事は出来ない。

 そこら辺の対策がマジックリフトだ。

 アクションゲームによくある上下する床のような物を二つ設置してある。

 これで巨大な物でも門の上まで持っていくことが出来るのだ。

 まあ、全部シュリンの受け売りだけど。


 なぜこんなに知識を持っているのかとシュリンに聞いたことがある。

 そしたら『エルフの里では一人でいることが多かったから本ばかり読んでいたわ。まあ、あの頃の暇つぶしも無意味ではなかったようね』と彼女は自嘲気味に言った。

 私に出会ったせいで彼女に無理させているのではないか。そんな考えを完全には振り切れない。

 これだけの門は必要なかったのではないか、今までの丸太の門で十分防衛できたのではないか、そんな思考は……門の上から見えたモノのせいで消し飛んだ。


「なんじゃこりゃー!!」


 高い所にいるので思わず叫んでしまった。

 しかし、みんなも同意見だろう。


 虫だ。超巨大な虫が森の木々を踏み倒し真っ直ぐこちらにやってくる。

 一体何メートルあんのよ……。流石に出来たての門よりは小さくあってほしいけど、正直同レベルにも見える。

 まだ距離はあるものの、ハッキリと認識できエネミーウィンドウも見える。


 <ダイダイオウグソクムシ:Lv100>。

 うごめく無数の脚。白亜の外殻はあのグランドセンチピードにも劣らぬほど硬そうだ。

 それにネームドではないものレベルはついに三ケタへ。

 ここが……この防衛イベントの一つの節目になる。

 こんなやつを通してしまえば、もはや止められるプレイヤーはいないと言っても過言ではないと思う。

 アラン……いや、火力の爆発力では私が勝る。

 このモンスターは私が倒さねばならない!

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