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Data.94 ウィスタリア魔風穴

 ◆現在地

 ウィスタリア魔風穴(まふうけつ):地下5F


 魔石を拾い、厄介そうなモンスターは動きを封じてダンジョンの奥へと進む。

 でもそろそろアイテムボックスがいっぱいになりそうだから、一度地上に戻らないとね。

 出来る限り回復アイテムも減らしてボックスを空けてきたけど、やはり最大100個まででは往復が必須になるわ。


 キィ……キィ……


「またコウモリか。ちょうどいいわ。こいつらを倒して一度地上に引き返すとしましょう」


「はいはーい!」


 エリカが前に進み出る。

 洞窟の天井に住む<ジュエルバット:Lv43>は群れで行動しており数が多い。

 しかし、宝石(ジュエル)の名の通り魔石を多くドロップする。

 戦闘能力も高く、超音波や風の魔術でかき乱してくるので見逃す事は出来ない。


豪雷雨(ごうらいう)!」


 エリカの全身にみなぎった電気が放出され、無数の小さな塊となってコウモリに降り注ぐ。まさに雷の雨だ。

 それに触れたジュエルバットはバタバタと地面に落ちてくる。

 でも、まだ倒せてはいない。あくまでも麻痺させるにとどまる威力。


「ふー、さてさてこうなったら後は楽にしてあげないと!」


 短剣を抜き、地面に落ちたコウモリに切りかかるエリカ。

 広範囲に対して状態異常付与効果を持つ低威力攻撃……これが彼女の『シンプルな威力重視じゃなくてもっとこうテクニカルなスタイル』。

 エリカのジョブは『雷の探究者(サンダーサーチャー)』。

 ソロでの探索・戦闘能力に優れるジョブらしく、移動に便利な【電瞬雷線(でんしゅんらいせん)】や複数の敵の足止めが期待できる【豪雷雨(ごうらいう)】、雷を纏い肉体の強化と組みついてきた敵への反撃を同時に行う【雷纏(らいてん)】など強力なスキルをたくさん持っている。


 弱点としては本人も認める攻撃力の低さ、そして雷の味方殺し性能。

 味方を背負いつつ【電瞬雷線(でんしゅんらいせん)】や【雷纏(らいてん)】で移動しようとしても纏った雷で味方ごと感電させてしまう。

 広範囲攻撃も乱戦だと味方に当たるリスクを背負うことになる。

 総じてピーキーな調整がなされてるわね。こういうのは嫌いじゃない、むしろ好き。


「おーっ! 今回は金魔石を落としてくれたわ! (はかど)(はかど)る!」


 エリカがジュエルバットがドロップした物を拾い集める。

 その横でストライダーも魔石を拾い、自分の糸で作った網にせっせと入れている。

 探索の間にストライダーは成長し、その形状にも多少変化が現れていた。

 脚の先端が三つに分かれ、クローアームのように物を掴めるようになったのもその一つだ。


 架け橋の守護者ブリッジガーディアンたちは『自分はこうなりたい』という考えがなく、その状況にあわせて最適な成長をするようだ。

 そうなると、あまりいろんなことを求めすぎるとすごく中途半端に成長してしまう。

 運用方法をプレイヤーの側でしっかり決めてあげないとね。

 ストライダーはサポートが主な仕事だからこの路線でいいと思うけど。


「さぁて、あらかた拾い終えたし戻ろう! ねっ、ストライダー?」


 エリカは入口へ向かうルートを進みだす。

 ストライダーも魔石のたくさん入った糸袋を引きずりながらついていく。

 こうしてみると可愛いところもあるのよねストライダー。

 まぁ、さっきクローアームをドリルの様に回転させて動けなくなったデビルストーンの頭を貫いて倒してたのを見てるから素直に言えないけど……。


「マココさーん、何ぼーっとしてるの?」


「いや、今行くわ」


 私を呼ぶエリカ。ストライダーもチラッとこちらを見て、私がついて来たのを確認するとまた進みだした。

 機械(マシン)のような冷静な仕事っぷりと時折見せる生き物っぽいしぐさのギャップがまた面白いのよねぇ。




 > > > > > >




 ◆現在地

 ウィスタリア魔風穴(まふうけつ):地下10F(最終階層)


「ええっ!? もう最終階層!?」


 エリカが大声で驚く。

 その声に驚かなければ私が驚きの声をあげていたくらい私もビックリした。

 普通に魔石を拾って往復しつつ、奥へ奥へと深く考えずに来ていたらこれだ。

 高レベルモンスターのいるダンジョンだからかなり階層があるものと勝手に思っていたけど、稼ぎの良いダンジョンってのはリプレイ性を考慮して短くしてあることもあるわよね。

 まあAUOに関しては特に理由もなくたまたま短いだけという可能性が高いけど。


「どど、どうしよう……。レベル60のボスモンスターなんて!」


「倒せばいいのよ。二人なら……三人なら余裕よ」


 言葉の途中でストライダーに足をツンツンされた。

 かわいいようで怖いからやめようね、それは。


「そ、そうね。そこまでレベル差があるわけじゃないし余裕ね!」


 余裕とまでは言ってないんだけど、まあ元気になったから良し!

 イメチェンエリカはノリに合わせておくのが一番だ。


「どうせこのダンジョンのボスなんて動きの鈍くてデカい奴ね! ストライダーちゃんがいれば楽勝よ!」


 カタカタカタッっと得意げに足音を鳴らすストライダー。エリカのノリがうつってきてる……。

 それは置いといて……確かにダンジョンボスというのは、そのダンジョンの特徴を体現したような奴が多い。ここなら硬くて重いボスが出て来る確率は高いわ。

 ……動きを止めたはいいけど倒せないなんてことがなければいいけど。


 そんなことを考えていたら、フロア中央が淡く発光しだした。

 ちなみにこのフロアの構造は一般的なボス部屋と同じで、円形のフィールド高くドーム状の天井で構成されている。


「さあ、お出ましのようね」


 私たちは現れるであろうボスへ武器を構えた。

 が、一向にボスは現れない。


「……あ」


 それもそのはず、ボスはもうすでにいたのだ。

 ただ、その体の透明度が高すぎて認識しにくかっただけで。


「ねぇねぇマココさん。何か見つけたの?」


「フロアの真ん中をよーく見てみて」


 エリカはジーッとフロアの中心を見る。

 ストライダーも見ている。


「あっ! うわー、綺麗なガイコツ……。なんか怖い表現ですけど」


 <クリスタルスケルトン:Lv60>。

 身長2メートル弱の全身スケスケなガイコツだ。

 ただでさえ肉体が無くてスケスケなのに残った骨まで透明で透けているとはなんともいえない味わいがある……のか?

 武器の類は持っておらずまさに丸腰ね。


 思ってたボスのイメージとはかなり違うなぁ。

 このモンスターは機敏なかわりに脆そうだ。どちらが先に動きを捉えられるかが勝負の分かれ目……。


 やばっ、早速見失った!

 もう部屋の中央にはいない!


(上だ!)


「ハッ!」


 クロッカスの助言で真上に向かって『邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング)』を振り上げると、目で確認する前に何かにぶつかる音が聞こえた。

 その正体は無論クリスタルスケルトン。腕の一部を変形させ剣の様にして攻撃してきた。

 開幕頭部狙いとはやってくれる。が、逆にこいつの攻撃力はさほど高くないことが分かった。その隠れやすいボディを生かして不意をついて急所を潰す、最低限の火力で。それがこいつの戦法。


電放掌(でんほうしょう)!」


 エリカの手のひらから電気がほとばしる。非常に収束率の悪い電気は歪な軌道を描いてガイコツにヒット。しかし、その全てが透明なボディの表面で受け流される。

 ストライダーの放つ糸も同様で、粘着せずに骨の表面を流れていく。


 飛び道具はすべて無効とみて良さそうね。

 私のブーメランぐらい質量があれば簡単には受け流されないと思うけど、速度が遅いから当たってはくれないか。

 ならば……。


「エリカ、ストライダー、出来るかしら?」


「余裕っ!」


 ストライダーは脚をカタカタと鳴らす。いけるみたいね。


 ガイコツは一度私たちから離れ、薄暗いフロアの中のどこかへ潜んでいる。

 狙いは次の攻撃がきた瞬間。


(クロッカスも注意しててね)

(してたじゃん)

(そうだった……ッ!)


 来た来たっ、後ろだ!

 まさか背後をとられているのに気付かないとは……というのはいいとして、チャンスよ二人とも。


大電網(だいでんもう)サンダーネットワーク!!」


 スケスケガイコツの側面に位置どったエリカの両手から雷の網が放たれた。

 それと同時にストライダーからも糸で作られた網が放たれる。

 二つの網はガイコツを巻き込んでぐちゃぐちゃに絡み合い、地面に落ちた。


 動きは速いけど攻撃の瞬間は止まらざるを得ないからね。

 ソロで相手をするのは難しそうだけど、仲間がいれば対処しやすい部類のボスだったわ。


(まあ、単純にお前が強くなってるってのもあるんだがな)


(やけに褒めてくれるじゃないクロッカス)


(事実を言ったまでさ。普通のプレイヤーなら俺の注意があっても反応が間に合わんし、さっきの網の作戦だってお前がガイコツより素早く網の範囲から脱することが出来たから成功したんだ)


(……えっと、それで)


(あんまお前基準で難易度を語ると嫌味に聞こえるかもしれんってことさ)


(ああ、なるほどね。気をつけるわ)


 動けなくなったクリスタルスケルトンにとどめの一撃を振り下ろす。

 予想通り大して耐久のないそのボディは粉々に砕け散り、キラキラと光る粒となって消えた。

 後には金色の宝箱だけが残った。


「うっひょ~! ゴールドドロップだ!」


 エリカが宝箱に食いつく。


「さてさて中身は……おおーっ!!」


 中身を取り出し、それを高く掲げる。

 左手には分厚い本のような物、右手には透明な石の塊。


「『ダイヤモンドバリアの技書』と『金剛魔石』だって! どっちもすごそ~!!」


 小躍りするエリカとストライダー。

 割と見るけどね金の宝箱……って、これもあまり言わない方がいいか。


「金剛魔石はレアな魔石だってわかるけど、その技書って何かしら?」


「えーっ! マココさん知らないの? 技書っていうのはその名の通りスキルの書。使用することでスキルを覚えることが出来る本のことよ!」


「つまり、その本を読めばダイヤモンドバリアってスキルを覚えることが出来るのね」


「そゆこと! でも一度きりだから誰が使うかよーく考えないと」」


 ふーむ、なら私の優先度は低いかな。仲間の中では防御力が高い方だと思うし、バリアなら防御面に不安がある人に覚えてもらいたいわね。


「じゃあ、キリも良いしそろそろ戻るとしましょうか。外で待ってるサドンちゃんの荷車もいっぱいになりそうだし」


「了解!」


 ボス討伐後に出現した転移の魔法円(ワープサークル)はそのままダンジョンの入り口に通じていた。

 入り口近くには荷車の運搬・見張りを任されているサドンちゃんがいる。

 目を瞑って寝ているように見えたけど、私たちの足音に気付いてすぐ起きた。ぼーっとしているようで、こういうところは非常に敏感。

 彼女(?)もまた貴重な戦力の一人なのだ。


 エリカはサドンちゃんに跨り手綱を握る。

 ストライダーは軽いので荷車の魔石と素材の山の上に乗る。

 私は……乗るところがないので歩くことにした。


 ギィと軋む音をたてながら荷車は動きだす。

 魔石の数は相当なものだけど、一千万個には遠いか。

 金とか銀とか金剛とかレアっぽいのも交じってるからそれで誤魔化せたりしないかな?

 なんてことを考えながら私は砦(の建設予定地)への帰路についた。

お待たせして申し訳ありませんでした!

安定……更新間隔を安定させたい……。

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