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Data.93 魔石を求めて

 ◆現在地

 架け橋の砦


「……夜明けか」


 東から……つまり丸太の門の向こう側から太陽の光が射しこんでくる。

 休息を終えた私はちょうど深夜ぐらいにログイン。そのまま夜明けまで見張りをした。

 今夜はシュリンの言ったように月明りでとても明るく、特に異変もなく平和に時間は過ぎた。


「んんっ……眩しい……。なんだか眠くなってきちゃった」


 隣にいるシュリンが大きなあくびをする。


「朝日を浴びて眠くなるなんて、もっと早めに寝とけばよかったんじゃない?」


「あら、知らないの? 私って本当は結構夜型なのよ……」


 すでにシュリンはうとうとしている。


「最近普段使わないくらいスキルも使ってるし、疲れが溜まってるのよねぇ」


「寝れる時に寝といたら? まだ門を作る材料も集まってないし、スキルを使うのがそんなに負担ならなおさら今休んでおいた方がいいわ」


「そうね……そうだったわ。今日にでも魔石を集めに行って欲しいのよ。エリカが良い場所を知ってるみたいだから……二人でそこに向かってもらう。それまで私は休むとしましょう……」


 意識が途切れそうなシュリンを背負って見張り台を降り、マンネンに乗り込み彼女を寝かせる。

 顔色は悪くないけどどうも覇気がない。何かあのスキルにはデメリットでもあるのだろうか。


「ねぇ、シュリン。門の創造は体調が戻った時でも良いからね」


「それは材料が集まってから言ってほしいわね。相当の数の魔石がいるのよ。十分休めてしまうと予想してるけど、裏切ってくれることを期待してるわ」


 そりゃそうか。魔石一千万個とか言ってたもんなぁ。

 ……何日かかるんだそれは。


「じゃあ、私行ってくるからね。私とエリカで行くから戦力は十分残ってると思うけど……」


「はいはい、大丈夫大丈夫。サドンちゃん用の荷車を作っておいたから、引かせて持って行きなさい。アイテムボックスだけじゃとても運搬が追いつかないと思うから」


「あ、ありがとう。私、ちょっとシュリンのこと心配し過ぎかな? ごめんね、こう……上手く接する方法がわからないというか……」


「私もわからないわよ。はぐれ者だし。でも、人に心配されるって意外といいものね……。もっと心配していいのよ。戦闘能力に関しては難があるから、真っ先に心配してね」


「元よりそのつもりよ」


 私はマンネンから降りる。

 相変わらずシュリンと話していると彼女の流れに引き込まれていく。

 でも、初対面の時と今とでは少し彼女の印象も違っている。


 シュリンは孤高で物静かで気難しそうに見えるけど、実際は素直で人懐っこいというか……人と接することが好きなんだと思う。

 一人でいる時間が長かった反動なのか、それとも生まれ持ったものなのかはわからないけどね。

 『かまってあげたくなる魅力のある人』って表現が似合うかな。


 残念ながら私には生産系のスキルもないし砦の創造は手伝えないけど、素材集めとそれが出来るまでの防衛ぐらいはお安い御用だ。

 さぁ、エリカを誘ってその魔石がいっぱい手に入る場所に案内してもらいましょうか。




 > > > > > >




 ◆現在地

 ウィスタリア魔風穴(まふうけつ):地下1F

 魔力を含んだ風が奥底より噴出してくる洞窟。

 最大モンスターレベル60。


「おぉ……これはまた……なかなかのスポットじゃない」


 この洞窟は広い。

 死して蠢く者の洞窟(アンデッドケイブ)よりも広く、窮屈さを全く感じないし、じめじめしていない。

 吹き抜ける風も冷たくないけど、強い。髪の毛が風に揺れっぱなしだ。変な癖がつきそう。


「前にここを見つけた時は少しだけ探索したんだけど、モンスターのレベルも高そうだし、一人じゃ無理そうと判断して魔石だけ拾って引き返したんだよね~」


「いい判断だと思うわ」


 最大モンスターレベルが60もある以上、単独での攻略は無謀だ。

 いや、二人での攻略も無謀な気がするけどね。


「ではでは、魔石をどんどん拾い集めよう!」


「このダンジョンは魔石が落ちてるもんなの?」


「うん、普通に落ちてたり壁に生えてる結晶を砕くとドロップしたりするの」


 なるほど、確かに他のダンジョンと仕組みが違うし、これなら効率よく魔石を集められそうね。


「よくこんなダンジョン見つけられたわね」


「ここらへんをうろうろしてたら偶然見つけたの。さっきも言ったように最大モンスターレベルが高いし、すぐ引き返そうとしたんだけど、魔石がぽつんと落ちてるのに気付いて『誰か他のプレイヤーが置いていったのかな?』って興味が湧いて少し奥まで行ってみたらビックリ! なんと魔石が生えてるわ落ちてるわ! でも、その後奥の方から大きな足音が聞こえてすぐ逃げだしたの」


「へー、それはなんとも……」


 ズシッ……ズシッ……ズシッ……


「さっそくお出ましみたい」


 私とエリカは岩陰に隠れ洞窟の奥を見つめる。

 姿を現したのは<デビルストーン:Lv48>。黒く大きな岩の塊に黄色く輝く目玉が二つだけついている。目玉といっても他の部分と色が違うだけでこれも岩でできている。

 腕や足はない。この巨体なのに跳ねて移動しているようだ。

 うーん……『防御力に自信あります!』って見た目してるわぁ……。私が苦手とするタイプね。


「クロッカス、どうかしら。あの岩石を破壊する自信のほどは」


「出来ないわけないが、あんなのを何体も相手にしてたら日が暮れちまうぜ」


「エリカは?」


「私の戦闘スタイルはシンプルな威力重視じゃなくてもっとこうテクニカルなものだからなぁ~」


 自信ナシと……。


「物は試し。一回攻撃して見ますか……」


 案外脆かったりして。

 私はまだこちらに気付いていないデビルストーンへ接近。見た目通り動きは鈍い。攻撃を加えること自体は容易だった。


 ギィィィイイインッ!!


 が、やっぱり硬い!

 表面に傷はつけられたから全くダメージがいれられないワケではないけど、こんな攻撃繰り返してたら反動で腕が壊れるわ!


「か、邪悪なる(カース・オブ・)火炎(フレイム)!」


 切るのがダメなら焼いてみる。

 ……うん、これも効果なし!


接続形態(リンクフォーム)を使うべきかしら……?」


「こいつ一体を倒すことだけが今回の目的ならアリだが……。それより戦いを避ける方法を考えた方がいいと思うぜ」


「私、戦うことしか能がないからそういう難しそうなことはちょっと……」


 デビルストーンは動きが鈍いとはいえ、確実に侵入者に接近してくる。囲まれると厄介極まりないので無視して奥に進むのはダメ。

 動きを封じることが出来れば本当の岩と同じくらい無害化できると思うけど……。


 カツカツカツカツ……


 ヒールで硬い床を歩いたような音が洞窟内にこだまする。

 むっ、新手……じゃない!

 後ろから私の股下をくぐり抜け、デビルストーンと対峙したのはストライダーだ。

 どうやらサドンちゃんの引く荷車の裏にでも張り付いてついて来てしまったみたい。


 ストライダーはデビルストーンの正面の地面に【粘々(ねばねば)の糸】を噴射。

 デビルストーンはそのまま糸の上にのってしまい動けなくなった。


「おぉ……すごい」


 思わず口から感嘆の声がこぼれる。


「こりゃ大助かりじゃん?」


「まったくね」


 ストライダーがいればデビルストーンと同系統のモンスターが出てきても簡単に無力化できる。

 なんでついて来たのかはわからないけど、結果的に探索が大いに楽になりそうだ。


「次も頼むわよストライダー」


 話しかけてみると足をめいっぱい伸ばして胴体を高く上げる動作を見せた。

 言葉の意味が分かっているのかどうかはさておき、ストライダーはパーティの一番前を歩き出した。

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