1-13
ええと、まだ一日目が続きます。
すいません、あと1~2話でようやく姫も寝られそうです。
2個の悪だくみが同時進行です。
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「エリオットここで少し待っててね。着替えてくるから」
私はそういうと、応接室にエリオットを残したまま、居室に一旦引いた。
「お急ぎにならなくっても結構ですよ。調度品でも眺めてますから。」
そう言っておどけるエリオットに少しだけ笑いかえした。
パタン。
私の後ろでドアが閉まる。
私は詰めていた息を吐いた。
「お疲れですか?」
ドレスを外すために近づいてきた、アンナとエレンが心配そうにそういった。
「すこし。ね。」
そう言っている間にも二人の腕は休みなく動き、どんどん私からドレスを外して行く。
「あ、そのドレス管理はしっかりね。どうもこちらには、デザイン泥棒がいるみたいなの。」
ドレスを脱がされながら、今日の晩餐会の惨状を思い出して身震いしながら言った。
「どういうことです?」
私の様子が変なのに気がついたのか、エレンが声をかけてきた。
「ああ、今話すわね。その前にリリコを呼んでもらっても大丈夫かしら?」
コルセットからようやく解放されて、ほっとして、息を吸い込む。
その吸い込んだ空気をため息にしてしまいながら、エレンに頼んだ。
ここまではずしてしまえば、あとはアンナ一人でも外せるし。
「今呼んでまいりますわ。御前、失礼いたします。」
エレンはそう言って、外したドレスを衣装カートに丁寧に入れると、礼をとって出て行った。
「で、どうでした?王子様は。」
二人だけになったとたん、アンナが好奇心旺盛にきいてきた。
「どうもこうも。残念なマッチョなのよー。アンナぁぁ・・・」
アンダードレス一つになった私はアンナに抱きついた。
不安だった、怖かった、完全アゥエイでだれもが私を侮っていた。
ついうっかり涙が出そうになってアンナの服に顔をうずめた。
「大変でしたね。でも大丈夫ですよ。みんなで姫さまを支えますからね。
いざとなったら、『実家に帰らせていただきます』で行きましょう。
いざとなれば、神王陛下が恐れ多くももらってくださるそうですから。」
喉の奥でアンナが笑う。
「そういえば、嫁に行くと神王様に言ったとき、そんなこと言って下さったわねえ。」
「冗談の好きな方ですからねえ」
「本当に」
二人でクスクスと笑うと、色々な緊張がほどけて行く。
「さて、サパーをきて下さいな、姫」
「コルセットなしでね」
「もちろん。」
コンコン。
ドアがノックされた。
「誰です?」アンナの声が厳しくなった。
「お呼びにより、リリコさんをお連れしました」
エレンの声がする。
「姫様。どうします?」
緩めに仕立てられたサパードレスを私に着つけながら、アンナが聞いてくる。
「着替え終わったら、エリオットと一緒にいっぺんに説明するから。応接室で待って。と」
みんなに聞いてほしいことがそれぞれある。
だったらすべてをいっぺんに話してしまった方が、状況もわかりやすいだろう。
アンナが頷く。
そして、少し声を張って、外に聞こえるように言った。
「姫様の着替えが終わったら応接室でお会いになられます。少し待つように。あとお茶の支度を」
そう言って、私に微笑みかける。
ディナーが脂っぽくて口の中がまだベタベタする気がする。
お茶でいいからさっぱりしたい、そんな気分をわかってくれたようだ。
「はい。ではそのように」
ドアのそとで、エレンが返事をして、離れて行く気配がする。
「さあ、いつも通り可愛らしいですよ、姫様。」
私が着替えるといつもアンナがかけてくれるこの一言。
この一言で私は顔をあげて歩いていける。
****
私、エリオット、アンナ、エレン、リリコ。
応接室で、私が晩餐会の間書き留めていたメモをティーセットの隙間一杯に広げている。
「これ、本当ですか?」
リリコが、怒りに震えながら私のメモを握り締める。
そのメモには晩餐会の出席者のドレスが、王家専属になったリリコのドレスそっくりに仕立てられていたことが書いてある。
「ええ、本当よ、きっとアイツがこの国に入り込んでいるとみて間違いないでしょうね。
縫い目の特徴といい、厭味ったらしいほど安っぽく仕立ててくるところと言い、絶対アレよ」
リリコは、アルシェスに来てから色々ひどい目に遭って、現在の地位に昇りつめたのだ。
そのひどい目のほとんどが、アレのせいである。
本当は名前も聞きたくもないだろう。せっかくリリコも立ち直ってきたところだけに、リリコの表情が暗くなっていく。
「あ、あたしがあのとき騙されたりしたから、いつまでも王家の皆さまにはご迷惑を」
リリコがうなだれたまま、指をかむ。
リリコは相手を責めるより自分をどんどん責めてしまう性格なので、そうならないためにも今回きっちりカタをつけるべきだと思う。
「仕方ないわ、貴女はこちらに来たばかりで何も知らなかったんだから。
それでも、結果的にはアレのおかげで、私は専属のデザイナーを手に入れることが出来たんだから、よかったと思ってるわ」
私ははげますように、リリコの手を握る。
絶海の孤島からの来訪者を拾ったモノは、国に報告することになっている。
それをわざとしなかったうえ、リリコの不安を利用しつくしたアイツがこの国いる。
ならば、保護者である私が、今度こそ守ってやる。
「こちらに来てくれたのがリリコで本当によかった。だから、こんどこそ、アイツをどうにかして抹殺する必要があるのよ。
リリコのためにも今度こそ決着をつけなくてはね。」
そう決意を込めて言葉にすると、もやもやしたものがすっきりと落ち着いてきた。
リリコの目にも少し覇気がもどる。
それを見て安心した私は、ずっと黙り込んだ小兄様を見る。
小兄様は私が広げたメモを見ながら、どんどん眉間にしわを寄せて行く。
「そうだね、やっちゃおうか。
武でも実力があることをこちらに示しておかないと、いつまでもなめられてる訳にはいかないしね。
結婚式に戴冠式だと?一言も相談なくよくもなめた真似してくれたよ」
兄様、その微笑み怖いです。
この国はまだ大国の自覚がない。
自覚を持たせるためにもここでしつけておかないと、近隣の迷惑になるバカ犬になってしまう。
「小・・エリオット。やってしまいましょうね。」
ふう、こんな壁に何が入ってるかわからない城内で、エリオットの正体をばらしたら大変だわ。
「決まりだな」
口を滑らしかけた私をちらりと睨むと、エリオットは、お茶を口に運んだ。
集まったメンツはその言葉に重々しく頷いた。
「さて、戴冠式だけど、アーシェ姫。どうするつもりだい?」
小兄様ってばそれを私にききますか?
まあ、この国のこんな状況じゃ、私に聞くしかありませんしね。
「そうね、まだこの国は様式が決まっていないようだし、私にやりやすいように少し手をいれるつもりだけど、基本的には古のフェルナータの様式を使って行けばいいと思っています。
神王杜のほうでもフェルナータの王族傍系の末、ということで此方を国家承認したようだし。」
フェルナータとは長く友好関係を結んでいたので、実家には歴代の戴冠式の絵巻まで残っている。
頭を下げてでも見たいのではないだろうか?
「ふん。よくやる手ではあるけどな。」
小兄様、口が悪すぎます。
「フェルナータの形式をついでやらないと、血統を証明するためにも諸外国に示しがつかないし。」
こちらは傍系を名乗るんだから、それはわかっているだろう。
「でも、こちらには、長引く戦乱のせいでろくに資料もない、と」
兄様、身も蓋もありません・・・。
もう少しソフトに言ってください。
「そうみたい、晩餐もあちこちの様式のつぎはぎで、みっともないことこの上なかったし。」
しっかし、あんな晩餐会やらかしといて、旧王家を標榜するとはねえ。
知らないって怖いわ。
フェルナータの晩餐会と言えば近隣に鳴り響く美食の宴だったのに。
あの油漬けだらけのご飯をだしといて、それをいうかー。知らないって怖いわ。
「10日で、しつけ治せるか?」
そう言ってからになったティーカップを小兄様は指で持て遊ぶ。
「無理ね。まあ、がんばればまねごと位にはできるかも。
でも、今のままじゃ言うこと聞いて下さらないでしょうね。」
そう言ってため息をつく。
だって、次の王様があの朴念仁を具現化したようなザッチョだからね。
マナーの必要性を感じないでしょうねえ。
「まあ、まねごとができれば今回はそれでいいか。」
小兄様はそう言って、ため息をつく。
「私としては、本当に嫌なんだけど。仕方ないわよね。でも、ね。少し時間を稼ごうと思うの。」
そこまで私が言ったところで、小兄様の纏う空気が変わる、小兄様の拳が机をコツコツと2度かるくたたいた。
聞かれてる、という合図。
私はそのあと簡単に、晩餐の間に考え付いた時間稼ぎの方法を声に出さずにメモにしてみんなに告げた。
その間私は書いていることとはまるで違う事を口にしていた。
それは、聞かれてもいいこと、というよりぜひこちら様に聞いてほしいことだった。
「あの、デザイン盗人を絶対に捕まえてやりましょう」
そういうと、どのようにしてアイツを追い詰めていくかをちょっとドラマチックに語って見せた。
「・・・・・姫様・・・・」
すべてを筆談で告げ終わったあと、アンナは呆れたように私を見つめた。
「アーシェ・・姫・・それはやりすぎじゃないのか?」
小兄様は天井を仰ぐ。
「それは、こちらの王子様が怒りませんか?」
リリコはそう言って立ち上がった。
「このくらいやらないと、ザッチョが気がつかないと思う。」
私はそう言ってにっこり笑った。
「で、エリオット。この国は杜がないから、陣もないのよね?」
陣とは、陣同志ですぐさま手紙や小さな荷物ぐらいなら転送できる便利なモノで、神王様の管理下に置かれている輸送手段だ。
それが置かれているのは国の中心部であることが多い。
一般人でもお金さえ払えば利用できるので、一般の人は杜とは輸送屋くらいの認識であるが、それは杜の機能のほんの一部にすぎない。
杜設置の目的は神王様の耳目の役目である、ってなってるしねえ。
「まずは、実家にお手紙書かないとね。何時つくかしら?
杜がないなんて、やっぱり成りあがり国家はこまるわ。
あ、結婚したら私用の陣だけでも神王様にお願いしてつくってもらいましょう。」
晴れやかに笑った私の手は先ほどまで書いていた本当の悪だくみの計画をロウソクの炎の中に隠した。
「それがようございます、姫様。」
今まで控えていたアンナがそう言って不敵に笑った。
アンナが静かに怒ってて、怖い。
こうして、私達による、しつけのわるい大型犬のしつけ計画が静かにスタートしたのだった。
神王様についてはおいおい説明します。
絶海の孤島は文化も文明も違う場所です。
来ることはできても行くことは難しい。
そんな場所です。
登場人物が増えてきたので、
そろそろ人物紹介のページを作ったほうがいいですか?
サパードレス=夜に自室で着るゆったり目で装飾も少なめの普段着で簡単なドレス。




