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ボッタクル商店ダンジョン内営業所配達記録  作者: 仁渓
エピソード6 ラティメリア顛末

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調停者

               34


「あんたんとこのお菓子は、いつもいいものばかりよねえ。どこで買ってるの?」


 ラッキーが、甘いものを口に投げ込みながら、嬉しそうな声を上げた。


 ラッキーは、探索女子会の副会長として、現場に行けないあたしの代わりに、いつも実地で、探索女子たちの面倒を見てくれている。


 ミキの送り迎えの際、店には寄るが、あまり、お茶をしていく暇がなかった。


 今日の探索女子会の会合は、あたしとラッキーの二人だけ。


 あたしが呼んだのだ。


 極秘会議のためと称して、他の会員たちには、今日は遠慮してもらっている。


 ミキにもだ。


 ミキに、店番を任せて、あたしたちは、いつもの厨房兼調剤室でお茶をしていた。


「知らない。カルト寺院からのもらいものだもの」


「なんで、そんなとこから?」


「あたしが、昔、聖女だったから付け届け」


 ラッキーの顔色がはっきり変わった。


 あたしが、冗談を言ったと思った顔じゃない。


 あたしの言葉が、真実だと思い至った顔だ。


 あたしは、本題に入った。


「あたしさぁ、聖女だった時、あんたの顔見た覚えあんのよね。祝福してやったじゃない」


 ラッキーは、諦めたような、覚悟が付いたような顔をした。


「言われて、あたいも思い出したよ。あんた、偽名ですらないじゃん」


「普通の探索者は、聖女なんか知らないもの。あんたは偽名よね。ラティマー・セロ・オルニトレムス様。ラティマーの愛称は、ラティ。捻って、ラッキー。プラックは?」


「ブロック・ストーンヘッド」


「あら、頑丈そう」


「で、あたしの素性を知ったから何?」


「あんた、壁の外の様子は見に行った?」


「もちろん」


「外の領主様はどう動くかな?」


「わからない。仮設住宅が整然と立ち並んでいる。誰かが、意識して壁の外に街をつくろうとしたのは明らかよ。侵略だと言われても否定のしようがない。兵をあげる口実は与えたわね」


「領主間のいざこざの調停は、王様じゃない?」


「まぁ、普通はね」


 ラッキーは、歯切れが悪い。


「王様に調停を頼める伝手(つて)がある人間を探してるのよ」


 過去のいつかに、この街のダンジョンは、魔物を溢れさせた経験がある。


 まだ、壁はなく、迷宮都市としての自治も認められていなかった昔の話だ。


 ダンジョンの管理は、現在は壁の外の立場にある、この地を任された領主が行っていた。


 しかしながら、領主と、領主の軍隊は溢れた魔物を食い止められず、当時の探索者ギルドと探索者たちが、多大な犠牲を払って、これを収束させた。


 褒美としてこの地を含む、オルニトレムス王国を治める王は、探索者ギルドに対して、今後、ダンジョンを溢れさせない限り、ダンジョンの管理と税金の上納の免除を認め、迷宮都市として最低限の都市機能を持つことを許可した。


 認められた、その範囲が壁の内である。


 壁の内側に魔物が溢れるのは構わないが、決して外に出すな。


 そのような約束だ。


 一方、魔物の暴走を阻止できず、ダンジョンの利権を探索者ギルドに奪われる形となった元の領主に対して、王は、迷宮都市がダンジョンを溢れさせることがないよう、よく見張り、もし、溢れさせるようなら、再び、元の領主の領土に戻すと約束した。


 以来、ダンジョンは溢れることなく、迷宮都市は自治を続け、元の領主一族は、見張りを続けている。


 だから、自分の領内に、ぽっかり他領ができる形となった元の領主一族は、そもそも迷宮都市が嫌いで、仮に難民が自領を通って壁の周囲に集まる事態になろうとも、放置し、対処を迷宮都市に押し付けるままだった。


 もともと、一方的に仲が悪い。


 仮に、最初から壁の外に仮設住宅を作りたいと探索者ギルドが相談をしていたとしても、嫌がらせ目的なのだから、外の領主は、良い返事はしなかったであろう。


 結局のところ、王様の調停が必要になる。


「よしてよ。あたいは、どっかの(じじい)との政略結婚が嫌で出奔した人間よ。お城に顔なんか出せるわけないじゃない」


「知ってる。そこに(しび)れた、(あこが)れたもの」


「よく言うわ」


「本当よ。あたしが、聖女辞めて探索者になろうって決めたのは、あんたのせいよ」


「はいはい」


 こいつ。


「あんたは、それでいいかも知れないけど、ミキはどうするの?」


 ラッキーは、顔をゆがめた。


「いや、それもありよ。ミキは、ポーションづくりも覚えたし、これからも色々覚えるでしょう。いつか、この店を譲ってもいい。もし、いっぱしの魔法使いに育てたいなら、あたしもランもスーも、知ってる何もかもを教え込むわ。ゴーレムづくりだって、マルくんが教えられる。でもね、あんただって、ずっと知らせないつもりじゃないんでしょ。お城に戻れとは言わないけれど、整理できることは、整理しといたほうがいいんじゃないの」


「痛いとこついてくれるわ」


「あんたに何かあったら、あの子の親代わりになるつもりだもの」


「ちっ。で、あたいに何しろと?」


「領主が侵略だと文句をつけてきたら、壁の外の街づくりは、あんたの発案でカルト寺院にやらせたことにしてほしいの。難民の放置を見るに見かねたとか、そんな理由で。そうすりゃ、王様も調停に乗り出さざるを得ないでしょ。そしたら、あんた、話をつけて」


「丸投げじゃんか」


「うん」


 あたしは、にっこりと笑ってやった。


「お城から生きて戻らなかった場合、仇はとるわよ」


「じゃあ、安心して死んでこれるな」


 ラッキーは、笑った。

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