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ボッタクル商店ダンジョン内営業所配達記録  作者: 仁渓
エピソード6 ラティメリア顛末

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聖女と小間使い

               24


「カルト寺院に殴り込みだって」


 ラン・デルカが店に駆け込んできた。


「及ばずながらご助力いたします」


 スー・デルカが加勢を申し出た。


 大司教への表敬訪問の当日だ。


 二人とも、いつもの探索者の服装ではなく、正装のドレスを身に着けていた。


 昔、大聖堂で聖女をやっていた頃の物だろう。


 そういうあたしも、お店用の服装ではなくて、ドレスを着ている。


 やっぱり、聖女だった頃の物だ。


 勝手にだけど、退職金代わりに、装飾品もろとも身に着けたまま大聖堂を出た。


 二人も同じだ。


 処分していていなければ、みんな、まだ持っていて当然だ。


 仮にも、カルト寺院の大司教様に会うのに、普段着というわけにはいかないだろう。


 生憎、当時のドレスしか持っていなかった。


 むしろ、若い頃のドレスが、まだ着られるあたしのスタイルを、褒めてほしい。


 あたしは、ミキを見た。


「誰かに、今日、あたしが寺院に行く話をした?」


「両親に」


 にこにこと、ミキは答えた。


「店長が、大司教様にお目通りをするんだって自慢しちゃいました」


 ラッキー経由で、ランとミキに伝わったか。


 ミキには、あたしが出かける際には、店番を頼んでいる。


 マルくんは、いつも配達でいないので、ミキがいなければ、お店を閉めなければいけないところだ。


 お目通りね。


 一般の人たちには、カルト寺院の偉い人と会う行為は、名誉なのだろう。


「殴り込みなわけないでしょ。アイアンが、ギルマス就任のご挨拶についてきてくれって言うからさ」


 あたしは、ランに答えた。


 店には、あたしと、ラン、スー、ミキの他に、アイアンがいた。


 店の前には、幌のかかった荷馬車が止まっていて、御者が待ってくれている。


 カルト寺院まで、あたしを乗せていくため、アイアンが手配して迎えに来てくれたのだ。


「だったら、こいつ連れてくのは逆効果だ。絶対暴れるぞ」


「連れてくんじゃない。ヴェロニカがアポ取れと言ったんだ」


 一緒に行く気満々なランとスーの姿に、やや引きながら、アイアンが答えた。


 アイアンは、あたしが、カルト寺院大聖堂の元聖女だった過去を知らない。


 だから、あたしとカルト寺院本部の因縁も知らない。


 ついでに言うならば、ランとスーが、そのあたしの後任の元聖女だった過去も知らない。


 探索者には、人には言わない(・・・・)過去もあるのだ。


 知っているのは、『白い輝き(ホワイトシャイン)』のメンバーだけだ。


 ちなみに、現在の大聖堂では、別の人間が聖女についている。


 ランは、呆れたような目で、あたしを見た。


「やっぱり殴り込む気じゃねぇか」


「失礼ね。挨拶ついでに建設的なお話をするだけよ」


「オレも行く。おまえの見張り役だ」


「わたくしも行きます。火事になったら消火役が必要です」


「焼かねえよ!」


 あたしは、反射的に否定した。


 それから、息を吐く。


「そりゃ、そんな服着てんだもの。行くつもりよね」


 行くのは構わないが、可愛そうなのはアイアンだ。


 元聖女のドレスを着た三人と並ぶと、やっぱり正装をしているアイアンだけれども、小間使いさんにしか見えなかった。


 ギルドマスターともなれば、対外的に偉い人と会う機会も多いから、正装も必要だ。


 現役時代には、そんな姿を見た覚えはなかったけれども、アイアンも、流石に仕立てたか仕入れたのだろう。


 とはいえ、大聖堂の聖女クラス三人と並んでは、アイアンがどう頑張っても無理である。


 あたしは、火のような赤いドレス。


 ランは、淡い赤。


 スーは、淡い青だ。


 それぞれ、ドレスと同じ色の宝石がいくつも付いたネックレスを、首からじゃらりと下げている。


 時価おいくらかは、全然知らない。


 安い物のはずはないだろう。


 一方、アイアンは、貧相なおっさんだ。


 ごめん。


 まあ、ランとスーがついてきてくれるというのは、あたしを心配してくれてのことなのだろう。


 あたしの身ではなくて、あたしの暴走を。


 見張り役と消火役というのも、多分、本気だ。


 まったく。


「あたしの設定は、アイアンの秘書。あんたらは、あたしたちの露払い。連れて行くけど、余計なことは話さないでね。基本はアイアンとあたしが話す」


「わかった」


「はい」


 あたしたちは、待たせていた馬車に乗り込んだ。


 ドレスの豪華さに合わせて、あたしの車椅子は、『魔王の玉座』だ。


 幌で隠した荷台に、斜めに立てかけた板の足場を踏んで、のしのし乗り込む。


 いつもの車椅子じゃ、さすがにちょっと見栄えが悪い。


「じゃ、ミキ、お留守番お願いね」


「はい」


 馬車が動きだした。

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