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ボッタクル商店ダンジョン内営業所配達記録  作者: 仁渓
エピソード6 ラティメリア顛末

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魔物肉

               5


 あたしは、アイアンを店に呼ぶと、すぐに恒久的な肉の手配を依頼した。


 毎日、大勢の探索者が地下に潜っている。


 探索者ギルドの常設依頼として、食用にできる魔物肉の持ち帰りを追加してもらうのだ。


「常設依頼に魔物肉の確保を追加するのは構わないが、誰もやらんぞ」


 アイアンは、協力を約束してくれたが、実効性に否定的だ。


「魔物肉は、持ち運びが面倒で、ギルドの買い上げ金額が安い。しかも、血と肉の臭いで魔物が寄ってくる。いいとこなしの依頼だ」


「確かに」


 あたしは、唸った。


 毛や皮は、加工素材の材料として使い道があるので、物によっては高く売れる。

骨や牙、鱗も同様だ。


 だが、肉は、地上での需要は、ほぼ、なかった。


 迷宮に何泊もするのであれば、食料節約のため口にする場合もあるが、地上に戻ってまで食べたいものではない。


 そもそも、生肉は、持ち運んでいる間に痛むので、持ち帰ったところで、食べられない。


 運ぶだけ無駄だった。


 だから、普通は地下で解体をして、肉は捨ててくる。


 運べる荷物の総量には限界があるからだ。


 通常、探索者は、戦利品を持てるだけ手に入れるか、回復手段に三分の一以上の減少が生じたら帰還する。


 荷物が運べる限界状態で帰還している途中に、もし、より金になる戦利品を手に入れたら、安い荷物を捨て、高価な戦利品と入れ替える。


 重たくて、(かさ)をとって、買取り金額も悪い魔物肉なんか、誰も持ち帰らない。


 まして、血と肉の臭いが、他の魔物を呼び寄せるだなんて、もはや、呪いのアイテムだ。


 帰路は、極力魔物には遭いたくない。


 生肉を持ち歩くのなんか、まっぴらだった。


 誰もやらないという、アイアンの指摘ももっともである。


 探索者たちをその気にさせるためには、問題点をクリアにしなければならないだろう。


「ギルドで高く買い上げなさい」


「アホか。普通の食材を買うわ」


 むう。おっしゃるとおり。


「『はいたつくん』に自動で運ばせたらどうだろう? 各階に、空の『はいたつくん』を待機させて、どうせ捨てるつもりの魔物肉を入れてもらうの。夜になったら帰って来させる」


「各階にまではいらんだろ。ましな魔物肉が獲れる階だけで十分だ。地下四階の大口鼠(ラージマウスラット)か、地下六階の非狒々熊(ひひひぐま)だな。だが、非狒々熊(ひひひぐま)は現実的じゃない。狩るのが一苦労だし、地下六階は、探索者の数も多くない」


「じゃあ、地下四階か」


「だとしても、現実的じゃないな。朝、狩られた肉が、夜まで『はいたつくん』の中に置かれていたら、別の魔物か、何より虫に食われちまうだろう。すぐ空っぽだ」


 ダンジョン内では、毎日、物凄い数の魔物が倒されているはずだが、置き去りにされた魔物の死体が、翌日、同じ場所に残っている割合は少ない。


 魔物に、どこか別の場所に運ばれている可能性もあったが、むしろ、ダンジョン内に生息する無数の虫が寄ってたかって、あっという間に食べつくしてしまっていた。


「肉を入れたら、すぐ蓋をしてもらうとか」


「蓋の開け閉め以前に、『はいたつくん』が、目の前にあるならともかく、わざわざ運んでまで、入れてくれるとは思えんな。十メートル置きにでも、『はいたつくん』が並んでいるならつきあうだろうが」


「毎度あり」


「ギルドは、『救急くん』だけで十分だ。そもそも、百斬丸(ひゃきりまる)につくる余裕がないだろう」


「なのよねえ」


 あたしは、ぼやいた。


「何か、マルくんの仕事が増えちゃってさぁ、一匹二匹の魔物なら、配達の帰りに取ってきてもらうんだけど」、


「ギルドは、肉なしで構わんぞ。ポーションの搾りかすだけでも十分だ」


「それだとシェフが納得してくれないのよ。試しに魔物肉を入れたバージョンも作ったら、そっちのほうがおいしいの。拙者の監修した料理で妥協はできん。将来の店の評判に関わる、って」


「拙者?」


「しんちゃん、引退したら小料理屋開きたいみたいなのよねぇ。レシピを見て、最後の残飯場の人がつくれるようになればすむ話なんだけれど、タイミングのコツがあるみたいで、しばらくは、しんちゃんに実地で監督してもらわないと駄目みたい。あたしだって、どうせなら美味(おい)しいほうをだしてやりたいし」


 アイアンは、渋い顔をした。


「だとしても、魔物肉を大量に高く買い上げる予算など、ギルドにはないぞ」


「金がないなら人手を出しなさいよ。何のために現役探索者理事が四十人もいるの! 六人編成なら週一交代で回せるじゃない」


 あたしは、アイアンを焚きつけた。


「引退したとはいえ、あんただって、ほぼ現役でしょ。率先して動いて見せないと、誰もついてきてくれないわよ。」


「まじか」


 アイアンは、ぼやいた。


 結局、あたしに押し切られる形で、魔物肉は、現役探索者理事プラス理事長であるギルドマスターのアイアンが、持ち回りで確保することとした。近々、臨時理事会で提案される。


 もちろん、自分たちの探索で得た魔物肉を、捨てずに持ち帰ってもらうのでも構わない。


 理事クラスの探索者たちであれば、ほぼ、どこのパーティーも、何らかの『はいたつくん』を使ってくれている。持ち運びに問題はないだろう。


 ただし、痛んでしまってはいけないので、確保後、すぐに凍結呪文で氷漬けにして運ぶよう厳命した。


 頑丈な探索者であれば、腐った肉を食べても死にはしないかもしれないが、難民上がりの痩せこけた体の素人探索者たちでは、食中毒になったら死んでしまう可能性がある。


 万一、パーティーに凍結呪文の使い手がいない場合は、ボタニカル商店で、あたしお手製の一回限りの魔法の巻物(マジックスクロール)を斡旋する。効果は、保証しよう。


 今日も、商売繁盛だ。    

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