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第6話 それぞれの過去

 スノウが目を覚ましたとの報告が入ったのは、空が白み始めた頃になってからであった。


 いまだに顔色は良くないが、全身に包帯が宛がわれ、一息ついている様子である。とはいえ、はじめ見たときと同様にその表情が晴れることはない。




「四皇子殿下。それに、ヴァレンシュタイン閣下。このたびは、ご迷惑をおかけいたしました」


「礼はいい。それよりも、貴様が殿下に近づいた理由とやらを話してくれ。殿下も私に伝えようとしていたようであるしな」


「はっ……。昨日、殿下に申し上げましたように、私はスカルヴィナ地方軍にて龍騎長を拝命しておりました」



 アイアース等に対して頭を垂れるスノウは、エミーナの言に頷き、時折苦痛に顔をゆがめつつ口を開く。


 話によると全身に拷問の後が残っており、今まで動けていたのが不思議なほどの重傷であるという。


 戦うことはおろか、生活にも支障が出ようと言うほどのものであるとも。




「スカルヴィナ……。敵の手に落ち、壊滅した軍の生き残りか。それで、我々に何用だ?」


「先頃のペテルポリス陥落により、私はスカルヴィナの絶滅収容所からペテルポリスへと移されました。そこで、スカルヴィナ、カレリア両地方からの脱出を援助する組織のものに救い出され、こうして生き恥をさらしております」


「解放戦線とは異なる組織が存在しているということか」


「はい。元々は、水面下で行われている教団の弾圧からの解放を主としていたようでありますが」




 エミーナの言に、スノウは自身の身に起こったことを反芻するように口を開く。


 絶滅収容所という言葉に引っ掛かりは覚えたが、占領下にある両地方の情報がほとんど入ってこない状況を考えれば、どのようなものかは想像がつく。


 アイアースもスノウの言に頷きながら口を開くと、スノウは痛みを小垂れつつそう答えた。




「ふむ。たしかに、我々の活動の影で穏健な動きを見せている者達のことは聞いていた。正直、甘いとは思ってもいたが、それなりに我々も助けられる面もあったな」


「私も、傷を負い戦うこと敵わぬ身ではありましたが、相応の情報は有しております。今も私の情報を元に危険な潜入を行っている者達は数多くおります」


「そうか。それで?」




 エミーナもまた、自身の活動の際の関わりを思い出したのか、そう頷くものの、その後のスノウの言には素っ気なく答える。


 彼女にしてみれば、ぽっと出の素人集団という思いがあるのかも知れなかった。




「今回の事は空くまでも私個人の判断であります。今回、氷の橋を抜け、エウロス地方へと侵入してくる軍に私の同僚達が含まれているとの情報を掴んだのです」


「……降伏した者達が、戦わされているのか?」


「はい。リヴィエト軍は、降伏した者達や捕らえた民を催眠法術や拷問によって洗脳し、戦の尖兵にしているのです。同僚達も、トロンヘイム陥落の際に捕らえられ、今も奴隷兵の身に堕とされております」


「それで、我々にどうしろと言うのだ?」


「いいえ、何もしないでいただきたいのです。皆様方がレトラ渓谷に向けて出陣されることはすでに存じております。同僚達も奴隷兵としてそこに配置されたようです。彼らは皆様方に向けて攻撃しない手筈になっております故、彼等に危害を加える事なく、戦線から離脱させてほしいのです」


「ふむ。離脱させることは容易いが……」


「話の筋も通っているとは思う……」




 スノウの言に、エミーナとアイアースはそう呟いたまま、口を閉ざす。


 アイアースの言うとおり、筋の通っている話であるとは思うが、先ほどのスノウの言にもあるように、リヴィエト側が捕らえた兵士や住民を洗脳して戦に駆り出すことや、ある施術を施してこちらへと仕向けることもあり得るだろう。


 そして、スノウ自身がその洗脳から解放されているのかという疑問もある。操られているとすれば、丸腰で自分達の前に現れることも、全身に傷を負っていることも不思議ではない。




「スノウ様。その身体の傷は……」




 押し黙ったままの二人を一瞥し、フェルミナが今も血を滲ませているスノウの身体に視線を落としながらそう口を開く。


 彼女自身、救いきれなかった難民達への負い目があるのかも知れなかった。




「トロンヘイムを背にした最終防衛線での戦いで、私はリヴィエト軍に捕らえられました。苛烈な拷問と眠る事が許されない獄中で……私の体と心はずたずたにされました」




 フェルミナの言に、一度顔を落とし、苦しげな表情を浮かべながらスノウはそう口を開く。


 全身に刻まれた傷を考えれば、それは生半可なモノではなかったのだと言うことはよく分かる。


 今、その時のことを思い出させるのは酷ではあったが、事実の証明としては必要であるようにも思える。





「そして私は……助かりたい一心でリヴィエトに屈したのです」




 それまで、苦悶に沈んでいた表情を、自身への怒りで満たした表情を浮かべるスノウ。しかし、アイアースもエミーナも、何も答えることなくスノウを見つめ続ける。





「私はリヴィエトへの忠誠を誓い、多くの情報を敵将バグライオフへと流しました。彼の男は勇猛かつ狡猾です。結果としてトロンヘイムは抵抗を巧に無力化され、陥落いたしました。その後も、スカルヴィナに潜んでいた仲間達は捕らえられ、奴隷兵士へと貶められていきました……売国奴とお笑いになってください」





 そこまで言い終えると、スノウは力なく笑い、両の目から涙をこぼしはじめる。


 北の現状は完全に封鎖されている状況であるが、彼のような生存者にとってはこうして生きているだけで後ろめたさを感じるような、それほどまで過酷な現状があるのであろうとアイアースは思った。





「その事を悔いて、私は彼らを救い出す組織に身を投じました。そして私の犠牲者達を……皆様にお願いしていることは国と仲間を売り、パルティノン軍人としての誇りも、戦う術をも失った男の……最後の償いなのです」




 最後。といったスノウはそれきりベッドに身体を預けると、力なく目を閉ざす。

 すでに命を繋ぐことが出来るか否かという段階を過ぎ、自身が売ることになってしまった仲間達の姿を見ることだけがこの男の生命を繋いでいるようにも思える。





「わかった。辛い事を思い出させてすまなかった。誇りと言った君のその言葉、信用しよう」


「ありがとうございます。……彼らのことを、よろしくお願いします」




 その姿を見たアイアースは、エミーナへと視線を向けた後、静かにスノウに対してそう告げる。


 たとえ、操られていたとしても、死を目前にした男の願いであり、その生命を繋いでいる思いなのである。


 事実か計略かどうかは、自分達が戦場にて判断すれば良い話であった。



◇◆◇◆◇



 永遠に続くかと思われた氷の橋梁を渡り終えたリヴィエト軍の眼前には、うっすらと降り積もった雪を被る森林地帯が広がっていた。


 エウロス地方は草原が少なく、山岳や高原の合間を縫って森林と湖沼が点在する地域。冬場は数回の雪に覆われるが、降雪量は年間を通じて安定していて、夏場は霧に包まれることも多い地域である。


 それでも、比較的温暖な気候や森林の存在は食量の確保が易く、人口もそれなりに多い。




 それでも、猛吹雪が吹き荒れるスカルヴィナから侵攻してきた彼らにとっては天地といっても言い過ぎではないほど易しい気候であった。




「クトゥーズ閣下、全部隊の渡河が完了いたしました」


「うむ。近隣に集落は?」


「情報に寄りますれば、いくつかと。東西の草原を抜ければいくらでもあるようですが」


「それでは意味がない。さっそくだが、いくつかの部隊を侵攻させろ。我々の痕跡を僅かでも残さぬようにとな」




 下馬をして、用意された椅子に腰を下ろしたクトゥーズと呼ばれた壮年の男は、副官の女性士官からの報告に頷くと集まってきた部隊長達にそう支持を出す。


 湖を突破する際にいくつかの輜重を失っており、糧秣の確保は急務であるのだ。


 もっとも、彼らにとってはそのあたりは想定内であり、周囲の群が冬に備えて確保している食糧などで用立てる算段はすでに出来ている。


 突破の際、パルティノン側の飛空部隊と思われる飛兵に発見されもしたが、僅かな期間で村々から糧秣を撤収することは簡単ではない。




「ミランダ。例の連中は?」


「大人しく従っております。もっとも、法科部隊の施術が上手くいっているとは思えないのですが」


「当たり前だ。ヤツ等は総参謀長閣下に上手く取り入っているが、閣下もまた当たればもうけモノとの認識しかない。奴隷兵達も所詮は生きるために従っているに過ぎんのだ」




 クトゥーズは、副官のミランダ・トハチェフスカヤの言に、忌々しげな表情を浮かべてそう答えた後、自身の張り出した腹を撫でながら苦笑する。


 体質からか、肥満しやすい男であるのだが、これも生きるための本能に従っているに過ぎない。と暗に言っている様子である。


 ミランダも体型のような小さなことで自身の上官を侮蔑するつもりもなく、特殊な気候帯にあって出現した氷海を渡ってくるような無茶な作戦を今のところは順調にこなしている上官の能力を素直に認めていた。




「それにしても、新しい教義を考案した功労者がこのような作戦を命ぜられるとはな。スヴォロフ閣下もなかなか手厳しい」


「私としては、さらなる高みへの一歩と思っております」




 テキパキと野営の用意をする奴隷兵達を見まわし、その監視に目を光らせる兵達を一瞥するクトゥーズは、起こされた火で簡単な調理をはじめるミランダに対し、そう口を開くと、ミランダは僅かに身を揺らしながらそう答える。


 平静を保っていても、今回のような作戦に投入されたことに納得は言っていない様子であった。




「ふむ。貴公はいずれ、参謀長閣下の後任になるだけの器。スヴォロフ閣下もそう言われておる。ヴェルサリア閣下はたしかに天才であるが、貴公もそれに値すると見込んだのやも知れんな」


「恐れ多きことでございます」


「謙遜するな。スヴォロフ閣下の人物評に外れはない。言に大帝陛下、総参謀長閣下、バグライオフなどていく中枢を担う人間は皆スヴォロフ閣下が見出し、育て上げらた者ばかりよ。閣下も、最後の奉公として貴公を育て上げるおつもりだろうな」





 不満のこもった表情を隠しきれていないミランダに対し、クトゥーズはお互いの上司の姿を思い浮かべながらそう口を開く。


 スカルヴィナ、カレリア両地方を制圧した新兵器の考案と戦術を進言した異才。


 リヴィエト軍の長老たるスヴォロフが直々に大帝ツァーベルに推挙した存在であり、それなりにプライドの高いミランダであるが、役不足な作戦でその才能を曇らせるのもまた国家の損失と言える。


 今回の配置は、敵対派閥からの横やりであったことは否定できないが故の気遣いであった。




「……、閣下。お食事の用意が整いました」


「おう。――――せっかくだ、末端にまで振る舞ってやれ」


「? 奴隷如きにでございますか?」


「地獄にもたらされた蜘蛛の糸でも人はすがる。使い捨てとは言え、飯を食わせるぐらいの対価は払えるさ」




 不敵な笑みを浮かべてそう答えたクトゥーズに対し、ミランダはその眠そうな目元を見開くと静かに頷き、周囲の兵達に指示を出していく。


 根本的にリヴィエトの上層部は、民に対して君臨するとともに、奴隷を人として扱うことはない。


 少なくとも、指揮官と同じ種の食事をとらせることなど、それまでの常識からは外れていた。





(とはいえ、この作戦で俺達が帰還できる可能性は無きに等しい。後方にて足並みを崩したところで、揺るがないだけの強さは持ち合わせている)




 クトゥーズは、周囲に生える木々が、生命力に満ちあふれている様を見ながらそう思う。


 彼らにとって、大地とは、民とは搾取するだけの存在であり、そのすべてを奪い去った後は新たな大地を求めて侵略を繰り返す。


 だが、その戦いが困難を極める時は、決まって今回のように生命力に満ちた国土を持ち得る国家が相手であったのである。


 そのすべてに勝利してきたリヴィエトであっても、苦戦の二文字とその後の戦力の回復には難儀している。




(もっとも、大戦略の名を借りた有能な政敵の粛清でしかないのであろうがな)




 クトゥーズは、今も兵達に対してテキパキと指示を出していく副官の背に視線を向けながら、先頃、獣人部隊や法科部隊が剣を交えた敵精鋭のことを思い浮かべる。


 彼らもまた、特定の勢力から煙違われ、排除された人間達であったはずであり、その恐ろしいまでの戦闘能力と視線の先にある副官の異才がクトゥーズには重なって見えている。




「スヴォロフ閣下。これで良かったんですかねえ?」




 思わずそう呟いたクトゥーズは、驚きの視線を向けている部隊長達に対して、戯けながら口を押さえると、冷たくなり始めた食事へと口をつけた。




◇◆◇




 アイアース達パルティノン解放戦線およそ200がレトラ渓谷に入ったのはその日の早朝であった。


 周囲は切り立った断崖に囲まれ、それに沿うように急流が流れ落ちているその地。急流に沿って人が通れるほどの山道が抜けており、そこからアイアース等が布陣している場までは、緩やかな平地と小高い丘が点在している。


 氷の橋を突破したリヴィエト軍はおよそ1000。数の上では5倍もの敵であったが、それを全滅させることが彼らに求められるわけではない。


 当初はそれも覚悟していたアイアース等であったが、エミーナによるとすでに帝国近衛部隊がヴァルネージ大森林へ向けて展開しており、彼らに求められたのは空くまでも敵主力の足止めであった。


 現状のまま、1000もの敵兵をヴァルネージ大森林に侵入させてしまえば、その足取りを掴むことは事実上不可能であり、展開中の帝国軍は常に敵からの奇襲を恐れての軍事行動をとらざるを得なくなる。


 敵部隊も消耗は覚悟の上であろうが、スノウの言を考えれば一部を除いて敵の多くは奴隷兵であろうと考えられる。


 こちらからすれば元々の同胞であり、敵からすれば何の感慨もない使い捨てである。



 一部敵指揮官達を除けば、リヴィエト側には何ら痛手はないように思える作戦であった。




「周囲の警戒を怠るなよ。少数の利点を生かせなければこちらはあっさりと全滅する」


「殿下、閣下よろしいですか?」




 渓谷入り口の森に展開していく解放戦線兵達に指示を出すアイアースとエミーナ元に、翼を羽ばたかせたフェルミナがやってくる。


 前進して敵の動きを探らせていたが、その報告であろうとアイアースは思った。




「敵前衛はそのまま渓谷を進んできております。多くが歩行で、装備も貧弱な様子でした」


「案の定、奴隷達か……スノウの同志達も混じっているとは思うが」


「いずれにしろ、全員を救うことなど不可能だ。スノウもそれは分かっているはずだ」




 フェルミナの言に頷いたアイアースは、気持ち肩を落とすが、エミーナの言に力なく頷く。彼女自身ももどかしいとは思っているものの、攻撃をしてこないだけの敵兵を見分けるのは不可能に近い。


 兵士達にもそのことは伝達しているが、不慮の死は覚悟の上であることを祈るばかりであった。




「それと、この先の森でこちらに助力をしたいと申し出て来た傭兵の方をお連れしたのですが」


「傭兵? その辺は、金額に寄るが……」


「俺はツケじゃなきゃ無理だぞ?」




 フェルミナの言を受け、こちらへと視線を向けてくるエミーナに対し、アイアースは素っ気なくそう告げる。


 解放戦線に手を貸している身であり、ある程度の支援と口約束は可能であるが、それも戦に勝利して帝室に復帰してからの精算である。目先の報奨が目当ての傭兵を雇うことは正直難しいところだった。




「いえ、お金ではなく、食事を提供してもらえればとのことなのですが……」


「なんだ、その疑ってくださいといわんばかりの要求は?」


「そのままです。空腹で倒れそうなのです……」




 フェルミナの言に、眉を顰めたアイアースであったが、その耳に届く女性の声に思わずドキリとする。


 聞き覚えのあるその声に、慌てて振り返ると、そこにはところどころ破損した皮鎧に身を包み、目元を中心に顔を覆う仮面を着けた人物が立っていた。




「貴様が、その傭兵か?」


「旅をしているのですが、ちょうど谷に迷い込んでしまって……、腕には自信がありますので、何か食べるモノを……」


「う、うむ……。フェルミナ、何か持ってきてやれ」


「分かりました」


「ううん、助かった……。私は、メリルと申します」


「それより、その仮面は……」





 エミーナの言に、仮面の女が安堵の声を上げたのを見て、アイアースは胸に期するものを感じつつ、メリルに対してそのことを尋ねる。


 彼女の声にはどこか聞き覚えがあり、口調は違っていても、もしかしたらという思いがあったのだ。




「殿下、先ほどから動揺してどうしたのです?」


「殿下?」


「……私はアイアース・ヴァン・ロクリス。元々は帝国の第4皇子だった者さ」


「皇族の名を名乗るのは不敬ではありませんか?」


「事実でなければな。それで、お前は何で仮面なんか被っているんだ?」


「……話さねばなりませんか?」


「疑いを晴らしたければな」





 アイアースの言に、メリルは首を傾げつつもそう答えるが、アイアースにそれを証明する手段があるわけではない。リアネイアとイレーネの剣を見せたところで、一介の旅人が何を意味するかを分かるはずもない。


 それが分かっているアイアースは、先ほどから気になっているメリルの仮面に対して、話を続ける。


 顔を隠しているとなればそれ相応の事情はあるに決まっているし、それをとらぬままでいるというのもおかしな話であった。


 しかし、アイアースは、傍らに立つエミーナもまた、彼女に仮面のことを問い詰めたことを後悔することになる。


 メリルがゆっくりと仮面を外すと、そこには赤く焼け爛れた女の顔が現れたのである。


 傷を負ってからどれほどの時間が経つのかは分からなかったが、今も傷口からは浸泌液が漏れており、彼女が傷に布を当てると、そこには地に混じったそれが滲む。




「失礼であるとは思いましたが、こういう理由で仮面を着けて生活しております」


「……何があったのだ?」


「帝国が倒れた際、多くの人間が狂い、多くの人間がその狂気の犠牲になった。それだけのことです」




 アイアースとエミーナは、なんとか表情を変えることなく仮面を着け直すメリルのことを見つめていたが、彼女の言にはそれ以上の追求を許さない雰囲気も伝わってきていた。




「旅をしていた理由も、顔を治せる方法を見つけるためです。これで満足ですか?」


「手を貸してくれるのは?」


「腕には自信がありますし、食事のお礼はそれぐらいしかできないからです」


「……そういうことならば、疑ってすまなかった。今の現状、どこに間者が潜んでいるのかわからんのでな」


「いえ。それに、食事は後になりそうです」




 アイアースとエミーナの言にそう答えると、メリルはゆっくりと視線を渓谷へと向ける。


 それに釣られて視線を向けたアイアースとエミーナの目に、渓谷をゆっくりと進んでくる兵隊の姿が映りはじめた。




 それを見て、顔を見合わせたアイアースとエミーナは、静かに自身の得物へと手を伸ばしていた。

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