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第34話 流血への黎明

 眩い光に包まれたアイアースの脳裏に、一つの感情が流れ込みはじめる。


◇◆◇


 蒼穹の御旗を掲げた一団がゆっくりと歩み寄ってくる。


 周囲の大人が歓喜の声を上げる中、少女もまた同じように声を上げ、手渡された旗を振るう。


 これで、何日かはごはんが食べられる。少女の心を支配していたのは、そんな感情であった。


 辺境の村に生まれ、貧しいながらも平和に暮らしていた少女の家族や隣人達を襲った飢饉。生まれてはじめて味わった飢餓の苦しみは想像を絶するもの。


 育ち盛りの少女にとっては、生命の危機と同時に今後の人生にも大きな危機を与えることにつながる。


 そんな中で、目先はごはんが食べられる。お腹が減ったと泣きわめいて、親に引っぱたかれる日々からの脱却が少女にとっては何よりも嬉しかった。


 そんなことを考えている少女は、周囲の大人達の完成に巻き込まれる形で足を取られ、思わず近づいてくる一団の元へと飛び出してしまう。


 転倒しかけた彼女であったが、予想された痛みは無く。代わりに感じたのは、小さなぬくもり。


 顔を上げると、自分と同年代か年下と思われる少年が、自身を支えてくれていた。


 何も言えずに立ち尽くした少女が、周囲の大人によって強引に頭を下げさせられたのはそれから間もなくことであった。


 そんな出来事の後、しばらくの間は平和な時間が続く。


 一団の運んで来た食糧によって飢餓は脱し、その翌年は平年並みに収穫を確保することが出来ていたのだった。


 税も無理のない範囲での徴収であったことも大きかったようである。



 しかし、そんな平和な日々も長くは続かなかった。


 突如、崩れ去った平和。大人達の狼狽とともに突き付けられたのはそれまで以上の税金と横暴な兵士達の村への乱入だった。


 姉に抱かれて震えている少女の瞳に、突如、入りこんできた光とそこに映りこむ影。


 それ以降の光景はその場で消える。



 彼女にとっては思い出したくもない記憶であったのであろうか?



 そして、石造りの建物内にて使役をさせられる日々。幼い少女の肉体は傷つき、涙に暮れ始める。


 そして、数年の月日が流れた後、突如つれて行かれた一室。


 全身を包み込む苦痛と自分が自分でなくなっていくかのような恐怖の中、彼女はそれに生き残る。


 その後は、それまでのような使役の日々から解放される。


 しかし、同時にやって来たのは厳しい教育の日々。初めて経験する読み書きや戦いの方法を伝授することは、彼女にとっては新鮮であるように思える。


 だが、訓練や教育の場では好成績を収める彼女であったが、実践における成果は芳しいものではなかった。


 人を殺めるという行為が、それまでのつらい人生を送ってきた彼女にとって、犯してはならない最後の禁忌として深く刻まれていたのだ。



 結果として、突き付けられる役立たずの烙印。上官や同僚から暴行を受ける日もあったり、指令に失敗して傷を負うこともめずらしくはなかった。




「覚えておいででしたか? 私の事」



 そんな光の中で、アイアースの眼前に立つファナ。その表情はどこか、照れくさそうにはにかんでいる。



「すまん……。そういうことがあったことも」


「そうですよね。実は、私も忘れていました」


「おいっ」


「申し訳ありません。でも、あの時助けていただいたときや、その、あの時に温もりは……」


「恥ずかしいんだったら言わなくて良い……ぞ」




 と、そんなファナの姿にアイアースは言葉に詰まる。と同時に、自分の男としてのひどさに苛立ちも覚えた。


 自分の中では愛情に飢えているのだと勝手に割り切っていたが、これほどまで愛情を向けてきてくれた女性の気持ちに気付くことはなかったのだ。



「ああっ!! 殿下、涙は見せないで下さい」


「だが……な」


「殿下。私は嬉しいのですよ。初めて、人のお役に立てたことが。それが、好きになった人の為だったのですから。それに……、殿下は私のことを、決してお忘れにならないと思います。私にとってそれは、何よりも大切なことです」




 そう告げたファナの背後に、リアネイア、イレーネ、ゼノス、メルティリア、アルティリア、ラメイアをはじめとする人間達が並んでいる。


 皆、自分に関わり、多くが自分を守って死んでいった人間達だった。




「ですが、私のことを重荷に思わないで下さい。そして……、フェルミナ様と……皇帝陛下のことを」


「お前はそれでいいのか?」


「良いのですよ。私は、殿下より先に死んでしまいました。もう、あなたのおそばにいることは出来ません。ですが、あの方達はまだ……」



 そう言ったファナであったが、次第に周囲の光が光を失いはじめる。



「時はもう無いようです。殿下……、幸運を祈っております」


「…………ああ」



 アイアースがそう告げたとき、彼の眼前で光はゆっくりと消え去っていく。


 その最中、リアネイアとイレーネがファナの元に歩み寄り、優しい笑みを浮かべて彼女の手を引いていく様が見て取れた。



◇◆◇



 腕の中で目を閉ざす女性は、もう動くことはなかった。



「俺は、女に助けられてばかりだ……」



 そう呟くアイアースに対し、差し出される二振りの剣。


 顔を上げると、安堵の表情を浮かべたシュネシスがその場に立ち、その背後には動くことが可能なキーリア達が勢揃いしていた。


 およそ10名。はじめの25人に比べ、大きく数を減らしたことになる。



「戻って来ました。兄上」


「ああ……」



 剣を握りしめ、そう口を開いたアイアースは、ゆっくりを頬に伝う暖かなものを感じる。


 なんのためにそれが流れるのか? 人としてここにあることの出来ることへの安堵か、永遠に失ったものへの哀悼か。


 答えは分かっているが、涙を流してほしくないとの約束である。その答えを、決して脳裏で理解しようとは思わなかった。




「立派に成長したものね……坊や達」



 そんな、アイアース達の耳へ届く女性の声。


 ゆっくりと視線を向けると、そこには獣化を解いた一人の女性。テルノア・ハトゥン・フェルシムアが、全身に傷を負いながら、静かに佇んでいる。


 先ほどまで敵対し、多くの仲間の命を奪った相手。しかし、アイアースやシュネシス以下のキーリア達は、彼女に視線を向けているだけで、武器を取るつもりもこの場で討ち取るつもりもなかった。


 事情はあれど、罪は罪。その決着のつけ方を彼女は知っているであろうし、各所に刻まれた傷痕は息をするたびに血を吐き出しているのである。



「テルノア様。――かつてあなたは、オアシスの民を思い、帝国を思い戦い続けておりました。しかし、今回の戦いはなんのためなのです? あなたが、人の魂を弄ぶ者達に屈服するはずはない」



 闇夜に吹雪が舞う音のみが響き渡る中、アイアースはテルノアと正対すると、そう口を開く。


 背後で、サリクスがアイアースを止めようと進み出かけるが、シュネシスとミーノスがそっと腕を上げ、それを抑える。



 サリクスからすれば、その死すらも弄ばれた伯母をこれ以上苦しめたくはないのだが、他の者達はその答えを聞かずにはいられない。



 そして、その権利と責任があるのは、彼女に勝利したアイアースだけであった。


 そんなアイアースの言に、テルノアはふっと一息吐くと、全身を襲う痛みをこらえつつ、膝を折る。


 そんなテルノアに慌てて駆け寄ったサリクスに、一度ほほえみかけると、再びアイアース達の元へと視線を向け、静かに口を開いた。




「帝国の再興と教団への復讐……。それが、記憶を奪われ、流血と破壊のみに生きることを見出していた私の心に残っていた宿願だった」


「……………………」


「リヴィエトに魂を囚われ、獣に身を落としてまでも現世に留まったのも、一重にそのためだけ…………、だが、もういいわ。私は十分に戦った……。私の戦いは終わったわ」



 そこまで言うと、テルノアは静かに目を閉ざす。


 それ以上語ることはない。同胞を傷つけ、命を奪った罪は償いようがない事実であると言うことを彼女は知っている。


 だからこそ、それ以上の言は単なる申し開きにしかならず、それは自身を否定する事でしかなかったのだ。



「もういいでしょう? これ以上、この方を苦しめる気ですか?」



 そんなテルノアの態度に、口を閉ざして何も言うことの出来なかったアイアースやシュネシス。


 彼らの背後から、苦しげに息をきる女の声が耳に届く。


 視線を向けると、フェルミナの小さな肩に支えられたアリアが、貫かれた胸元をさらに赤く染めながら歩み寄ってくる。



「アリア。貴様、動いてはならぬとっ」


「申し訳ありませぬ。殿下。ですが……、私はもう、助かりませぬ」




 そんなアリアに対して、シュネシスが声を荒げつつ口を開く。しかし、傷の様子から、自身の身を悟っているアリアは、表情を改めること無く答えると、いまだに涙に目を腫らせるフェルミナにともなわれてテルノアの側へと歩み寄る。



「テルノア陛下。貴方様の魂。この私が、天へと導かせていただきます。もう二度と、あなたの眠りが妨げられること無きよう……」



 静かにそう告げるアリア。



 アイアースにとっては、死したる人間の魂すらも弄ぶ人間達への憎悪と同時に、そのような手段があることすらも驚愕する話である。とはいえ、現に彼はテルノアやイナルテュクと戦っている。


 自身が手で触れるという事実としては、これ以上にないほどの証拠を突き付けられているのである。


 そんな、アリアの言にテルノアは、静かに頷く。そして、傍らにて、自身を支えているサリクスの手を取ると、彼を優しく抱きとめた。


 その様子に、アイアースは目を背け、他の者達もそれに倣う。


 同じ兄弟とは言え、唯一の血の繋がりを持つのはサリクスのみ。そこに、自分達が入りこむわけには行かないと思ったのだ。



 やがて、その場は柔らかな光に包まれはじめる。


 そんな光に包まれた町の上空に、一騎の飛竜が舞い降りたのは、それから僅か後のことであった。



◇◆◇◆◇

 


「――――っ!?」



 自分の一部が消えたような、そんな気配にアルテアは思わず顔を上げた。


 視線の先は宵の闇に包まれ、炎に照らされた風雪が不気味な踊りを見せているように思える風景。


 そんな気配の正体をアルテアは、覚悟を持って悟っていた。



「――――終わったようだな」


「ああ。二つの巨大な害意は、別の何かへと変わり、その一つも立ち消えた。今、カミサの町に害意はない…………生き残った者達は粛清――――か??」



 傍らに立つリリスが、アルテアの言に答えるように口を開くと、最後には教団の“者”に対する嫌味のこもった視線を向けてくる。


 しかし、リリスもまた、深く被っていた外套を外したアルテアの姿に、思わず言葉を詰まらせる。



「貴様、その顔は……っ!?」


「そのまさかでございますよ。姉上、と、言って欲しいですか?」


「ま、まさか、いやしかし……」


「冗談だ。そなたは、そなたで責務を果たすべきであろう。今、カミサで死んだ私の分身のようにな……」




 目尻に溜まった涙を拭ったアルテアは、再び外套をかぶり直し、目元だけを露出する“者”へと戻る。


 北にて消えた彼女への哀悼はそれで十分だと思っていたのだ。しかし、人の感情がそう簡単に拭われることもなかった。




「むっ…………!?」



 拭ったはずの涙が溢れはじめることに戸惑いを覚えるアルテア。だが、本心では戸惑っているわけでも、その涙の意味が分からないわけでもなかった。


 そんなアルテアに対し、リリスは彼女を優しく抱きとめる。



「……なんの真似だ?」


「キーリアとして、教団の手の者を凍えさせるわけにはいきませんので」


「ふん。衛士と抱き合う“者”がいるか?」


「ここだけの話ですが、恋人同士も数名居ますよ?」


「嘘をつけ……」




 軽口の応酬であったが、次第にアルテアは長身のリリスの胸元に顔を埋めていく。こぼれ落ちる感情を、初めて彼女は制御しきれなくなっていたのだった。



「――一応、身体のつくりは陛下と同じです。恐れ多きことですが、今だけは……」



 静かにそう告げたリリス。そして、目の前で泣き伏せる少女の姿を一瞥すると、周囲の吹雪へと視線を向ける。


 すべてを凍結させ、人の感情をおも停滞させる自然の脅威であるが、今は二人の姿を隠すことに一役買っている。


 今少しの間ならば、猛威を振るうことも許してやる。アルテアを抱きしめながら、リリスは静かにそう思っていた。



◇◆◇◆◇



 吹雪吹き荒れる北辺の地。


 風雪の奏でる悲歌のみが流れ続ける静寂の地を今、一つの巨大な影が蠢きはじめていた。


 悲歌を掻き消すように、響き渡る轟音。


 それは、降り積もった風雪を巻き上げ、一つの巨大な嵐となってその地に律動し、やがてゆっくりと前進を開始する。


 そんな嵐の中で、パイプオルガンが奏でる荘厳な音楽を鳴り響かせる要塞が、ゆっくりと脈動していた。


 その要塞の主、ツァーベル・マノロフは、傍らに侍らす寵臣ヴェルサリアによって注がれたワインにゆっくりと口をつける。


 皇帝がその味に頷くと、ヴェルサリア以下、その場に詰める臣下や侍女、侍童らもそれに倣う。


 脈々と続く王朝にあって、帝政を確立した先々帝の御代より続く風習。奇しくもそれは、今、干戈を交える神聖パルティノン帝国とよく似たものでもあった。



 そんな、君臣を交えた食事の席に、一人の男が進み出る。



 男は前進に黒の外套を纏い、落ち窪んだ目元が周囲に不気味な印象を与える男、法科将軍ヴェージェフであった。




「戻ったか。ふ、食事の席に現れるとは、なかなか分かっているではないか」


「はっ……。大帝、テルノア以下、獣化軍団はフォーウィンド地峡出口の町、カミサを攻略。ですが、誠に残念ながら……テルノア・ハトゥン・フェルシムアはその地において、戦死いたしました」


「…………そうか」


「…………あの方も、所詮は帝国の人間と言うことですのね」


「ふん。無様な死を遂げた女が、本来の死に場所を得たと言うことだ。強者との戦いの末に倒れると言うな」




 ヴェージェフからの報告に、今、この帝国の頂点に立つ男と、それに次ぐ地位にある女は静かに杯を掲げる。


 言葉の裏にある、死者への思いに、その場にいる全ての者達もそれに倣う。



「スヴォロフ」


「はっ」


「決戦の舞台を整えよ。私の眼前に、件の聖帝を連れ出せ。それと、件の地に救う全ての者を、この地上から消し去れ。人はおろか、虫や草花に至るすべてを根絶やしにするのだ」




 杯をすべて飲み干したツァーベルは、列席する諸将の中にあって、歳年長の老将を呼び、静かにそう口を開く。


 吹雪吹き荒れる中、ようやく動き始めることの出来る身。そして、遠き地にあるパルティノンの聖帝フェスティアもまた、その時を待っているはずである。それと同時に、自分達なりの礼もまた果たさねばならなかったのである。



 同胞の死に対する、流血と破壊と言う名の礼を。



 歴戦の老将が、普段の耄碌さを微塵も出さずに頭を垂れると、ツァーベルはもはや眼前に並べられて食事に興味を示さず、玉座の後方に備え付けられたパルティノンの全図へと向き直る。


 それまで、自身が収めてきた領域に勝るとも劣らぬ大帝国。


 それを侵略し、支配するという美味は、並べられた豪華な食事以上に、彼の腹を満たす。




「テルノアを討つほどの者達か。そして、それを従える女帝。ふっ……、そのものをうち従え、服従させることはどれほどの美味であろうなあ?」




 笑みを浮かべつつ、そう口を開いたツァーベル。


 その言に恭しく頭を垂れたヴェルサリアであったが、周囲の者達はその表情に激しい嫉妬の炎を感じ取っていた。



◇◆◇◆◇


 月の出る晩は久方ぶりであった。

 この日、帝都パルティーヌポリスにあって、幕僚総長ゼークトと最後の会談を行っているフェスティアの元に、一人の女性が帰還する。



「失礼をいたします。ゼークト閣下、ご無礼をいたします」


「気にすることはない。貴官と陛下の関係は知っている。私は席を外そうか?」



 書類を片手に、眼前の主君と瓜二つの容姿を持つキーリア。

 ゼークトもまた、その姿にかつての邂逅を思い浮かべつつ答える。純粋な軍人はキーリアの存在を嫌うものも多かったが、ゼークトは元々が感情を抑制する性分である。

 今、眼前にいるキーリアに対しても、頼れる戦士以上の評価も以下の評価もしていなかった。




「かまわぬ。リリス、そなたが帰還してきた意味は……。そういうことか?」


「…………直接目にした分けではございません。ですが、衛士№6シュレイ以下、すべてのキーリア及び近衛部隊は、ルーシャ地方ペテルポリス地区カミサの町における戦闘で、消息を絶ちました」


「……そうか。して、これをどう読む? ゼークト、貴様も見てくれ」


 

 静かにかつ、強引に押さえ込んだ怒りを瞳に灯しながらそう口を開いたリリスに対し、あり程度の覚悟を持っていたフェスティアは、二度三度頷くと、ゆっくりを席を立つ。


 窓辺において、月の光に照らされる女性の姿は、百戦錬磨の二人であっても、思わず身震いするほどの神性を感じさせる。


 そして、フェスティアの手から二人にもたらされた書類。

 その内容を読み進めるに連れて、二人は眉を潜めつつも驚きの表情を浮かべる。



「たしかに、彼の者達の対立は深まるばかりでありましたが……」


「しかし、内容が事実であったとしても、軍としては受け入れかねますな。近衛部隊の壊滅も、本来であれば看過できぬ事実であるのです」


「その通りだ。虫がよすぎるというもの。だが、同時に、獅子身中の虫にもなれぬ愚か者どもが明るみに出ることも事実なのだ」


「では?」


「およがせ。そして、時が来たら双方とも首を刎ねろ」


 静かにそう告げたフェスティアは、再び窓辺に立ち、光を放つ月を見上げる。

 と、自身の内部で再び何かが蠢く。



(そなたも感じているのだな。――――時代が動くと言うことを)


 

 僅かな膨らみを持ち始めた腹部に手を当て、フェスティアは静かにそう語りかける。

 それは、この場にいることのない一人の男とともに告げたかった言でもあった。



◇◆◇◆◇



 それから数日の後、教団の衛士№4ルーディルにより、カミサにおける全衛士及び近衛部隊全滅の報が教団、並びに帝国軍へともたらされる。


 ルーディルの報告は、№5リリス以下、遠見を行う者達の報告と内容と一致したため、教団側はその事実を決済。


 同時に、ペテルポリス前面に配置していた全衛士及び信徒兵の即時撤退を決定する。



 それは、リヴィエト軍先鋒を担う獣人部隊との交戦前日の出来事であり、突然の裏切り行為に帝国軍は激怒するが、同時に思わぬ自体が彼らの目の前で起こる。

 それは、教団内務長フォティーナ・ラスプーキア、女官長ユマ・スィン・コルデーを中心とする共存派が、ロジェス、ジェスト等を中心とする狂信派の追放と破門を宣言し、教団本部を占拠すると同時に、姿を消していた№1イースレイ、№2グネヴィア以下の衛士及び信徒兵による敵獣人部隊の一掃であった。


 それに対して、狂信派は内海を突破してきたリヴィエト前衛部隊をペテルポリスへと招き入れ、同地を占領。


 共存派及び帝国軍本隊は、帝国本国へと向けて後退を強いられることになるものの、狂信派に対する住民の反発は激しく、リヴィエト本隊の進駐後も混乱は続くことになる。



 同胞同士が血で血を洗い、狂信者同士がぶつかり合う戦場。その混沌とした空間はさんで対峙する二人の巨人。


 聖帝と大帝の激突は、目前に迫り、狂信と愛国のぶつかりあいもまた、混乱を極めつつあった。




 そして……、表舞台から静かに退場していった者達もまた、その身に得た翼を羽ばたかせようとしていた。

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