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第10話 決戦前夜

 アイアース等が一路北を目指している頃。


 『女帝』テルノアに率いられたオアシス国家連合は、挙兵から一月の間にオアシス地域に点在する旧帝国領を占領。

 地盤を固めた上で、メルテュリア州都エクバラーナへと侵攻を開始する予定であった。


 皇后メルティリアと皇妃アルティリアの異母姉妹の名を捩ったメアテュリア州は、中東軍管区政庁が置かれ、オアシスの道と石の道の終着点を持つ。


 即ち、帝国本国への玄関口であり、ここを占領すれば帝都パルティーヌポリスへと続く街道に強力な防御施設の類は存在していない。

 さらに、大河川によってセラス湖と外海を結んでもいるため、水運を乱すことも可能なのである。


 そして、オアシス世界からの攻撃には、ザグロス山脈というオアシス世界とパルティノン本国を分ける巨大な壁が存在している。

 そして、その壁の北方には、ローム・セルーカ朝という、オアシス世界とは長い対立の歴史を持つ国家が存在している。

 パルティノン成立後、最初に立ちはだかった王朝で、最盛期はオアシス世界にもその手を伸ばし、今も大陸行路やセラス湖の水運を巡って経済的な対立が続いていた。


 今回のパルティノンの混乱に際しても、共和政権に対して早々と服属を願い出ていた。

 彼らにとってみれば、パルティノン皇室は長き時を自分達を抑えつけていた存在でしか無く、山岳のもたらす鉱物資源の流通路さえ確保してくれれば支配者は誰でもよいという立場を崩していないのだった。

 そんな国家が存在することが、現状のオアシス国家連合に対して、一つの影を落とそうとしていた。



 山岳を前にした陣中に、机を激しく叩く音が響く。



「では、此度の儀は貴公の知らぬところで行われたというのかっ? 戯れ言もいい加減にせよっ!!」



 居並ぶ諸将の前で立ち上がり、眼前に座す二人の男に対して声を荒げる男、ガル・イナルテュク。フォルシム北部方面の首尾を担う将軍で、浅黒い肌と鼻筋に刻まれた十字の傷が、痛々しげに残されている。

 先の大親征にも参加し、継承戦争にも出陣して名を上げた勇将の一人である。短慮なことをが玉に瑕であるが、主人であるテルノアへの忠誠とパルティノン皇室に対する尊皇は、兵士の手本と言われるほどの人物であった。



「面目次第もないが、我が娘は放蕩癖があってな……今回の戦への参陣を見送ったことにへそを曲げたのか、城を飛び出していったところだったのだ」


「それがまさか、このような結果を招くとは思わなんだ。だが、セミョアはすでに敵国に嫁いだ身。我々にとっては敵対国の女に過ぎぬ」



 声の主は、フォルシム王国の隣国ゴーラ王国国王のギアスディール・ゴーリー・ティモーシャと王弟のシハブディールである。

 両者の対立の原因は、オアシス世界の制圧を短期間で終え、いよいよ共和政権打倒を目指してパルティノン本国へと乗り込もうとした矢先にもたらされた一本の声明である。


 声明の主は、ローム・セルーカ君主トグリル4世。


 その内容は、トグリルの三男であるアルスラン王子とゴーラ王女セミョア・ティモーシャの婚姻であるという。

 突然の声明にオアシス側が困惑したのは言うまでもないが、すでにパルティノン共和政府の巫女シヴィラ・ネヴァーニャの名においてそれは成立していた。


 オアシス側諸将は、突然の事態に困惑したモノの、多くはゴーラの裏切りと判断。テルノアによる仲裁によって最悪自体こそ免れたが、今この場においては険悪な関係が続いているのである。



「では、仮にセルーカ攻撃の際に先鋒を命じたとすれば、ぬし等兄弟は裏切り者の王女の頸を喜んでとるというのだな?」


「言うまでもない。が、イナルテュク。一国の王を捕まえて、将軍風情が何という口ぶりだっ!?」


「ふんっ!! 裏切り者に対する礼儀などないわい」


「なんだとっ!! 貴様、それが長く戦場をともにした戦友に対する物言いかっ!!」


「戦友とは言え、裏切りとなれば話は別だっ!! ギアスの娘が敵対国――それも、長きに渡り我らフォルシムとは宿敵関係にあるセルーカへと嫁いだというのだぞ? 貴様らが裏切ればそれこそ東西から挟み撃ちにされるのは我らなのだっ!!」


「セルーカは我々にとっても宿敵であることは変わりない。そもそも、彼奴等が長くオアシス世界を蹂躙した際に、最初に反抗の牙を剥いたのは我らゴーラなのだ。何故、彼奴等と手を結ばねばならんのだっ!!」



 問答からはじまり、すでに口喧嘩の様相を呈してきた両者。


 シハブディールもイナルテュクとは肩を並べて戦場を駆け巡ってきた猛将である。

 先の親征の際には、お互いの奮闘によって窮地を脱してきた仲なのである。しかし、パルティノン皇室という信奉先を失い、その後に相次いだ衛生国の不穏な動きの仲、長く戦場をともにした友人ですら、他国人という違いのみで不信の対象になってしまっているのであった。



「先帝の御代…………」



 二人の猛将が、今にも武器を手に取らんというところまで白熱した問答を繰り返す様を見守っていた女傑。テルノアは静かにそう口を開く。

 呟きとも呼べるほど静かな口ぶりであったが、二人の猛将をはじめとする剣呑とした雰囲気を抱いていた諸将もまた、彼女へと視線を向ける。



「我が夫、テキシュ・シャー・フェルムシアは、長年の対立関係にあったセルーカを討ち、その都を囲んだ」



 目を閉ざしながらそう語るテルノアに対し、口を開くモノはいない。



「パルティノン皇帝よりの宣書は、セルーカの滅亡を容認するというモノであった。長年の属国を捨て、宿敵たる我らを選ぶという宣言。そして、我らはそれを大義に行動する権利を得た」



 テルノアの言に、イナルテュクをはじめとするフォルシム諸将が目を閉ざす。



「だが、妾は夫を留めてしまった。今ここで恩を売ることで、将来の友好を得る事に繋がると……。しかし、結果はどうであろうか?」



 目を見開き、諸将を見まわすテルノア。その瞳には力強さとともに後悔の光が灯っている。



「乱を起こし、宿敵パルティノン皇室を辱めた叛徒どもと手を結び、あまつさえつまらぬ謀略を持って我らを引き裂こうと画策する。そのような者達を生き延びらせたのは、一重に妾の始末。…………諸君、ゴーラに罪があるというのならば、妾の罪はさらに深い。そして、味方同士相争うとならば、まず第一に妾の首をとることが筋であろう……」



 そう言ったテルノアに対し、諸将は俯いたまま口を閉ざしている。


 テルノアの言は、正鵠を得ているが、今盟主として仰ぐ彼女を討つことなどできるはずもなく、同時に盟友であるゴーラを討つことは相手の策に乗りかかることにも繋がっていく。


 感情的には納得できないモノの、それを抑え込むのが戦いを生業にするモノの役目でもあった。



「妾の罪は此度の戦に勝利した後、償うことを約束しよう。そして、我らは明日明朝、ザグロス山脈を越え、パルティノン本国へと侵攻する。諸君等の健闘を期待する」

 



「ふう…………」


「お疲れのようですな」


「………………」



 軍議を終え、自身の天幕へと戻ったテルノアを迎えたのは、痩身に青白い肌をした男と腰まで伸びた栗色の髪を丁寧に結い上げた長身の女性兵士であった。


 男はテルノアの側近で、財務や外交面に秀でる実務官僚出身で、名をヤラオチ。現在では、軍学も修め、参謀としても役割もこなしている。


 女性は、テルノア親衛隊の長であり、名をチムーク・メリカ。テルノアと同じく獅子の耳と尾を持ち、戦の際には巨大な弓を扱い、敵を屠る。

 岩を撃ち抜いたこともあるという逸話の持ち主でもあった。



「まったく…………、イナルテュクは単純すぎる」



 メリカから渡された葡萄酒を口に含むとテルノアは嘆息しながらそう口を開く。

 猛将として長きに渡って頼りにしてきた男であったが、こう言った場面においては役に立たないどころか、傷口を大きくするところがある。



「ふむ。それが、彼の持ち味ではありますが……」


「それで、盟友に不快感を持たせていては意味がない。だが、プライドも高いから説教をくれるわけにもいかんしな。自省させる以外にはない」


「ゴーラのご兄弟はいかがなさいますか?」


「不信をもたれたことぐらいで離脱するほどの不義理な者達ではない。だが、ギアスディールは相当参っている様子だ」



 テルノアの言に、ヤラオチは先ほどの席でのギアスディールの姿を思いかえす。イナルテュクに対して反論をしていたのはもっぱら弟のシハブディールであり、兄のギアスはもっぱらうつむき加減であることの方が多かった。



「愛娘が、よりにもよって怨敵に奪われたのですからなあ……。反乱軍のやり口を鑑みれば……」


「ヤツも年をとったと言うことか……。そう言えば、奴も妻を亡くしていたな」


「後妻を迎えることもせず、側室も置いていないとか」


「後継は弟の一族に任せるとも言っていたな。まったく、君主には向かぬ男だ」



 テルノアはそう言いつつも、戦上手で知られるギアスの姿を思いかえす。

 猛将肌の弟に比べ、やや大人しい男であったが、後方にて戦機を読む巧みさは夫であるテキシュ以上である。


 そんな男が、精彩を欠くというのはいささか都合が悪い。



「ふむ……。久しぶりに、元気づけてやるとするか」


「彼は手強いと思いまするが?」


「それもまた、楽しめるさ」




 蝋燭の火が静かに揺らめいている。


 ゴーラ国王、ギアスディール・ゴーリー・ティモーシャは、自身の天幕において黙ったままその一点を見つめていた。

 先ほどまで、怒り心頭といった様子で愚痴をぶつけてきた弟のシハブディールも兄に気を使い、天幕へと戻ってしまったところである。



(あいつは強いな。……だが、私は)



 立ち去っていく弟の背中を見つめつつそう思ったギアスであったが、その後は蝋燭の炎に映る少女の姿。そして、その名前だけが反芻してくるだけであった。



「セミョアよ…………なぜなのだ? ミネアに続いて、お前まで私の前から消えてしまうと言うのか?」



 灯りに映る愛娘の顔。


 妻の残した忘れ形見故、少々わがままに育ってしまったが、国政に興味を示し城を抜け出した際にも民の姿に目を向けることはかかさなかった。

 亡き妻の様な女性になることを求めた身としては、少々複雑でもあったが、順調に成長する娘の将来を夢見ることも彼の楽しみではあったのだ。



「陛下。お客様ですが……」


「今は、一人にしてくれ……」


「そ、それが……」



 そんなことを考えているギアスに耳に、当直の兵士の声が届く。歯切れ悪くそう応えた兵士の言に続いて聞こえてきたのは、凛とした女性の声であった。



「ギアス、私だ。テルノアだ」


「――――っ!? 何の用だ?」


「とりあえず、中へ入れてくれ」


「ふむ…………よかろう。入れ………………どういうつもりだ?」



 そう言って、テルノアを招き入れたギアスであったが、彼女の姿を一瞥すると、声を落とす。

 先ほどまでの軍装とは異なり、落ち着いた色合いのドレスに身を包んでいた。



「…………愛娘に逃げられたお父さんを慰めに来てあげたのよ」



 そう言って微笑むテルノアの表情は、普段の女傑のモノではなく、どこか母性に満ちた女性のものであった。



 翌日。進軍を開始したオアシス国家連合の中には、それまでのどこか気落ちした男の姿はなく、歴戦の国王の姿だけがそこにあった。



◇◆◇



 草の匂いが強くなってきていた。


 眼前に広がるのは、永遠を思わせる緑野と澄みきった青い空。そして、両者を隔てる地平線。


 帝国本土ではまず見ることのない景観に、アイアースはあらためて遠くまで来たことを実感していた。

 新幹線も航空機もないのだから、時間が掛かるのは当然であったが、帝都を脱出してからまもなく一年。草原地帯は、冬から春にかけての泥濘期を追え、緑豊かな季節を迎えようとしている。

 その景色は、それまでは知る事の無かった帝国の広大さをあらためてアイアースに実感させてくれている。

 緑の色もセレス湖周辺とは目に見えて違っており、視線の先には件の新緑に覆われた景色が続いている。

 だが、背後に広がる景色は、砂と草の世界であり、どことなく色素の薄い、生命の息吹が感じにくい。そんな世界であった。

 しかし、草や土の匂いは、自然豊かな世界よりも感じられるという不思議なものでもあった。



「さて、行くとしようか」



 そう口を開いたイレーネの言に従い、アイアース一行は目的の地を目指す。


 草原地帯であるが故に、馬の手入れは行き届いており、整備された大地でなくとも歩みを進めるのはたやすかった。



「この草原の先に、目的の地があるのか」


「ええ」


「ですけど、ここから先が一番きついッスよ? なんと言っても、帝国の法も秩序も本当の意味で通用しない世界が続きますから」


「だろうな……」



 ハインの言に、アイアースはそう頷く。


 目に見える限り続く草原。


 この雄大さを考えれば、法や秩序で人を縛ることなど馬鹿馬鹿しく思えてしまう。如何に帝国の領土であったところで、この地に生きる人々にとってはそのような認識はないのであろう。



「――――さっそく、お出ましですよ? どうしますか?」



 そんなことを考えていたアイアースに耳に、エナの声が届く。


 見ると草原の中に黒々とした塊が見え、それがだんだんと大きくなってきている。

 馬賊の類が自分達を発見して迫ってきているのだろう。



「弓を使われるとやっかいだ。一気に潰す。ミュウ、貴様はフェルミナを守って天蓋を張れ。我々には守護による補助を」


「は~い」


「…………ちゃんと応えろ」


「はい、分かりました」



 イレーネの言に、普段の調子で応えたミュウであったが、やはりイレーネの癇に障ったようで、睨み付けられてから渋々と応え直す。いい加減見慣れたやり取りではあったが。



「殿下…………」


「ん? どうした……おおっ!?」


 と、フェルミナがアイアースに歩み寄り、両腕をかざす。すると、周囲に緑色の光が灯り、アイアースの周囲を緩やかに舞い始める。



「風の守りです。ようやく、上手くいきました」


「おう、ありがとう。そう言えば、ミュウと一緒に練習をしていたな」


「はい」


「よし、ってなわけで、イレーネ、私も一緒に行くぞ?」


「はっ、しかし、殿下の手を患わせる必要もないと思いますが?」



 フェルミナに対して、笑顔で頷き、イレーネに対して向き直るが、彼女は素っ気なくそう応えるだけであった。


 たしかに、馬賊の数は50ほど。


 一人で相対するだけでもキーリア達にすれば問題のない数であった。



「よっしゃ、行こうぜっ!!」



 そう言って、ハインが先頭を切って馬に鞭を入れる。


 残りの四人のキーリアとアイアースもそれに続き、向かってくる馬群に対して突っ込んでいく。



「単に撃破するだけじゃあアレですし、今回は俺にやらせてくれませんか?」


「かまわんが、どうするんだ?」


「機動戦ってのをやってみたいんですよ。単純に、止まることなく駆け抜けながら敵を倒していくだけです」


「ほう。やってみろ」



 イレーネの言を受け、ハインがしたり顔で頷くとさらに速度が上がる。


 アイアースは振り落とされぬようしっかりと足に力を入れ、身を屈めながら両の手に剣をとる。


 突っ込んでくる5騎に対し、一瞬のひるみを見せた馬賊達であったが、アイアース達はためらうことなくその集団の中央に突っ込んだ。


 先頭のハインとイレーネが駆け抜けながら敵を斬り伏せる。


 アイアースと他の三人はそのうち漏らしを拾いながら敵軍を駆け抜けると、ハインは休むことなく反転し、それに倣う。

 寸断された賊徒の半数に対し、距離を見たアイアースは右手に精神を集中させ、迷うことなく火炎を放射する。


 ようやく反撃体勢を整えた馬賊達であったが、思いがけない攻撃に焼かれ再び隊列を乱す。


 そこに突っ込んだ、ハインとエナによって大半が討ち取られ、駆け抜けざまにアイアースは法術をもう一発お見舞いしておいた。

 わずか一往復の間に馬賊の大半は潰走し、馬や食糧の類がそこのは残されていた。



「はは、馬を置いていったな。こいつは儲けた」



 ハインが笑いながら、うろうろと歩く馬を捕まえていく。


 馬賊に限らず、遊牧民は移動の際に一人が複数の馬を連れて行く。長距離移動の際には、一定の距離で乗馬を代えれば止まることなく移動が可能である。

 戦ではそうはいかぬが、平時の移動であれば人の重み以外は苦にならないように調教された馬が大半なのだ。


 そんなことを考えながら、残された馬を集めるアイアース。しかし、手綱を掴んだその時、馬の影から一つの影が跳び上がった。



「――――っ!?」



 慌てて馬から飛び降りるアイアースの目の前で、二頭の馬の首が流れるように地面に落ち、周囲に赤い血だまりを作る。



「しぶといな」



 思わずそう呟いたアイアースは、襲撃の張本人を睨み付ける。


 先ほどの馬賊の生き残りで、馬の影で息をひそめていたようである。ちょうど、草の背が高くなっている場所であった。

 無言で躍りかかってくる馬賊。アイアースは一歩下がりながらそれを受け流すと、背後へ飛びさがり、身体を捻りながら着地する。

 再び対峙する両者であったが、馬賊は目を見開いてアイアースを見ていた。



「こんな子どもだとは思ってもいなかったか?」



 しかし、馬賊は応えない。もしかすると、言葉も通じていないのかも知れなかった。

 そうして、応えぬまま相手はアイアース向かって飛びかかってくる。両の手に握られた白刃がきらめきを増す。


 連続で繰り出される短剣の連続技を双剣を振るって弾いていく。その都度火花が上がり、鉄のこすれる特有の匂いが鼻をつく。


 しばらく打ちあう両者。そして。



「――――っ!!」



 大人と子どもの膂力のさか、金属音とともにアイアースの剣が虚空へと弾き飛ばされる。

 慌てて剣を押し後方へと飛び下がるアイアースに賊徒が迫る。


 着地したアイアースの耳に、賊徒の叫び声が届く。


 振り下ろされた剣は、そのままアイアースに突き刺さるはずであった。



「がっ!?」



 しかし、それが降ろされることはなく、賊徒は目を見開き、剣を振りかぶったまま動きを停止させた。みると、両腕の付け根のところに、短刀が突き立てられている。

 勝利を確信し、油断したところに隙ができたのだ。



「剣を弾き飛ばして油断したな」



 そう言って両手を掲げるアイアースの手に収まる双剣。まるで、主の着地点を察知してかのような動きである。



「おりゃっ!!」



 剣を手にした勢いそのままに、アイアースは馬賊を十字に切り裂いていた。

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