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第10話 皇帝たるものの証

 原野に広く穿たれた穴の如きクルノス盆地。


 後背を流れるクルノス川の柔らかな流れに育まれた豊かな草原は、草原に生きる数多の生物たちを呼び込む地上の楽園。


 そんな生物たちの天地は今、血を望む者達の激突によって赤く染められようとしていた。



◇◆◇◆◇



 草原に角笛が鳴り響くと、各所から銅鑼と太鼓の音が奏でられていく。


 新春の陽光を前面に受け、光りに満ちあふれた緑野に展開するリヴィエト軍一五万。


 このある種不釣り合いな邂逅を果たした大軍団を最後尾から見据え、ほくそ笑んだ帝政リヴィエト第三代皇帝ツァーベル・マノロフは、その強靱なる体躯から伸びる右腕が天高く掲げられる。



 すると、それまで草原に満ちあふれていた協奏曲がピタリと止み、静寂が緑野を支配する。



 勇将の下に弱卒なし。



 この大帝ツァーベルに率いられた大軍団に、攻撃命令が静かに下された。




「さて、行きましょうか」




 その先陣を担うのは、総参謀長たるヴェルサリア・ニコラヴィナ・ヴァシレフスカヤ。


 本来、総参謀長として大帝の傍らにあるべき魔女が、この戦においては最前線に立つ。それもまた、大帝の一つの意志。


 彼女の号令の元、最前線を担う部隊が緩やかに前進しはじめると、一つの獣が息吹をあげるが如くリヴィエト軍一五万が淀みなく動き始める。



◇◆◇



 敵先鋒は弓を射掛けながら緩やかに前進してきた。


 シュネシスは傍らに立つキーリア達とともに弓を叩き落としつつ、眼前の大軍を睨み付ける。



 読みは当たっていた。



 先頃現れた手の者の言に従うならば、軍を二つに分けたリヴィエトの内、この場にあるのは約五万の精鋭であるはずだった。


 五万に対し、一〇万で当たる。はじめて倍する勢力で敵に当たることが出来、兵の力量で上回るこちらの勝利は確約される。



 多くの兵がそう考えていたであろう。



 だが、シュネシスは手の者の正体を見抜いていた。


 緊急事態であるが故に、符牒の類を口にしないのはまだ分かる。だが、自分は“陛下”ではなく“シュネシス”である。


 そして、全軍をリヴィエト軍本隊にぶつけるには、あえて敵の策に乗る必要があったのである。


 フェスティアの死によって、大きな動揺を抱くのは、兵卒ではなく将軍達。


 そんな彼らが、突如として現れた帝国の皇子に命を賭けることはない。なれば、自分の身は自分で守らざるを得ぬ状況に追い込むしかない。




「壮観な眺めですね。テルノヴェリの時は、霧に包まれていてよく見れなかったんですが」


「はは。見るだけなら、たしかに壮観だな。だが、俺達はこれに勝たなければならないわけだ」




 そんな状況にあって、帝国軍の最前面で轡を並べるハインが不敵な笑みとともに迫り来る大軍を見つめる。


 それに答えたシュネシスもまた、同様である。


 彼らにとってみれば、自信満々で攻めかかってくる大軍であっても、こちらの意図に嵌った敵であることに変わりはない。




「聞けっ!! 敵は大軍なれど、決して我らパルティノンの敵ではないっ!! 前を見よっ。背中を見せた者にあるは死のみっ!! 死にたくなくば、前へ出よっ!!」




 背後に続くパルティノン兵を振り返り、声を上げるシュネシスに対し、続々と駆けつけるパルティノン兵達が声を張り上げる。



 神聖パルティノン皇帝たるもの、常に兵の先頭にあり。



 すでに遠き過去の遺物となった皇帝たるものの証であったが、この国難にあって、フェスティアとシュネシスはそれを体現しようとしていた。



「掛かれぇっっ!!」



 剣を手に取り声を張り上げるシュネシス。


 その傍らを三人のキーリアが固め、その後方には先ほどの一言でシュネシスの近衛へと生まれ変わった兵達が続く。



 総大将が先頭に立つ。



 やがては廃れていく風潮であったが、一個人が神性を発揮し、戦を勝利に導いていくこの戦いにあっては、それは力となって全軍に伝播していた。



◇◆◇◆◇



 眼前に展開してきた敵が、紡錘形となってこちらへと向かってきていた。



「閣下っ。敵軍がさらに突撃して参りました」


「そうですね。……誤算です」




 側近達の言にヴェルサリアはそう口を開くと、静かに頷く。


 兵力の差は大きく、偽報によっておびき出される形になった軍である。紛れも無き窮地にあってもなお、勝利をもたらす将を人は名将と呼ぶ。


 しかし、名将の力量は、それを越える人間にとっては大きな弱点となって付け入る隙を作り出す。




「隊列を乱してはなりません。敵将シュネシスは大器。確実に仕留めます」




 敵将を讃えつつ、将来自分達にとって大いなる脅威となり得る存在を葬る算段を脳裏に思い描くヴェルサリア。


 かつて、その背を追い続けた男が偉大なる敵手を次々に葬り去ってきたその手腕を、彼女はその身に刻みつけてきている。


 無言で配を振るい、後方に控える各軍にその算段を伝え、自身は麾下を率いて緩やかに後退していく。




 先鋒の後退は、少なからぬ動揺をリヴィエト軍に与えていた。


 先鋒が打ち破られれば、強力なパルティノン騎兵に一気に本陣にまで突入される危険もはらむ。


 それ故に、ツァーベル本陣は、ヴェルサリアの後退に対して、大きく動揺していた。




「大帝っ!! ヴェルサリア様がっ!! 先鋒が押されております」


「このままでは本陣まで踏み込まれる可能性も……」




 やや小高い丘に陣取り、戦場を見渡すツァーベル本陣。


 先鋒の動静はおろか、次々に攻め寄せてくるパルティノン軍の姿までここからなら把握することが出来る。




「ほう。全軍をこちらにぶつけてきたか。ヴェルサリアが本気になるだけのことはある」



 周囲のざわめきをよそに、そう呟いたツァーベルは、静かに笑っていた。


 フェスティアの死という水差しがあり、それ以上の敵種を望む事は無いと思っていたが、その弟に当たるシュネシスもまた、姉に劣らぬ敵主であると見える。


 それまでは、よけいなことをしてくれた者達もろとも破壊し尽くしてやろうかとも思っていたが、これだけの人物が現れるのならば、次もまた期待出来る。



 そんな思いをツァーベルは抱いていたのだ。



「大帝っ!!」


「落ち着け。まあ、見ていろ。ヴェルサリアの芸術というヤツをな……。それに、あいつ等の復仇もまた、見物だぞ?」



 側近達の言に、笑みを崩さずにそう答えたツァーベル。


 その視線は、後退してくる先鋒から、その左右に控える第二陣へと向けられていた。





 ヴェルサリアの後方に第二陣として控えるロマンとアンヌ。


 ツァーベルの意図を知るよしもない両名であったが、開戦と同時に激しく動き始めた戦場を注視し、最前線に身を置く総参謀長の手管を読み取っていた。


 テルノヴェリでは、全軍の不和から主戦を外され、結果として敗軍の将となった両名。だが、今のリヴィエト軍は数に劣りながらも、その練度と融和は隔絶している。




「さすが、としかいいようがないな。それにしても、パルティノンの皇族はつくづく戦好きだ」


「お互いに取るべき手を取ったわけか。スヴォロフ閣下とバグライオフ閣下の仇は討たせてもらうよ」




 左右両面にてヴェルサリアの采配を受け取った両将。


 ほどなく、後退を続けていたヴェルサリア隊とそれを追うパルティノン軍を包み込むようにリヴィエト軍全体が動き始める。




「包囲されてなお、敵の喉元に突き進むなんてのは、並みの将帥には出来ない」


「ほとんどの兵は、包囲を脱しようと左右に抜ける。だったわね」




 折しも、戦場の左右にあって、二人は計ったかのように言葉を連ねる。


 そして、それはこの場に居る良将達が共通して学び取ったそれ。すでに冥府の門をくぐった一人の老将の言葉が、リヴィエト軍全体に届いていく。




 意気盛んに攻め立てるパルティノン軍は、まだそのことに気付いていなかった。



◇◆◇◆◇



 後退するリヴィエト軍の後方に追い付き、リヴィエト兵を次々に屠っていくシュネシス。


 そのキーリアとしての武勇に敵う者はリヴィエト側になく、数的優位も一騎当千の人間の前にはあっさりと覆されんとする状況。


 だが、当の本人達はそれも今だけの夢物語という事に気付いている。


 個人の技量で圧倒しているからこそ、周囲の敵軍の動きもまた冷静に読み取ることが出来るのだった。



「今度の相手は簡単ではないか」


「そのようです」


「エミーナ、ヴァルター。後方へ戻れっ!! ゼークト一人では、厳しいぞ」



 自分達を包み込むように展開していくリヴィエト軍を一瞥し、左右にて敵を蹂躙する二人にそう命ずるシュネシス。


 両者ともに個人の技量もさることながら、今回の戦役にあってはパルティノン屈指の将帥としての地位を確立しつつある。


 それだけの人物が、今の状況にあっては求められることを、察していた。


 戦場にあって、人は狂気に飲まれる者。


 時として、その狂気をもって大敵を屠る事もあるが、そんな狂気はたった一つの綻びで一気に崩壊していく。


 今のパルティノンのように、大軍に対して猛攻を加える軍は、それが顕著に表れやすい。


 と、そんなとき、後方にて歓声が上がる。




「陛下っ、ロブス将軍が討ち死っ!! 麾下の部隊も壊滅した模様」



 今回の戦にあって、攻勢に否定的であった将軍の一人である。


 リヴィエト側の包囲展開を見て取り、退路の確保に動いたところを敵第二陣の横槍を受けたのだという。


 なまじ、戦況が読めるだけの軍才を持つ人物であったことが災いしていた。


 そして、敵将を討ち取ったことにより意気上がるリヴィエト軍。その様子に、先ほどまで果敢に攻めかかっていたパルティノン軍の攻勢に歪みが生まれはじめる。




「へ、陛下」


「かまうなっ!! ただひたすら、ツァーベルの首だけを目指せっ!! 死にたくなければ前に出るんだっ!!」



 周囲の騎兵が見せる動揺。しかし、シュネシスはそれを気にする素振りを見せずに前進を続ける。


 総大将の動揺は全軍の動揺。


 このような状況に身を置いた以上、シュネシスは最後の一人になるまでツァーベルの首を目指すだけなのである。




「陛下を信じろっ!! 戦を思い出せっ!! 弱さを見せたヤツから死んでいくんだっ!!」




 ハインもまたツァーベルの傍らから離れることなく声を荒げる。


 後方へと向かったエミーナとヴァルターもまた、兵に先んじて敵を屠り、その恐慌の伝播を挫いていく。


 しかし、二の隊、三の隊とヴェルサリアの配より繰り出される指令によって突き崩され、将兵が葬られていくに連れ、鋼の如き継戦意志をもったパルティノン軍ですらも、統制が崩れはじめていく。


 シュネシス、ハイン、エミーナ、ヴァルター。そして、ゼークト。


 彼らの奮戦と士気も虚しく、パルティノン軍の陣形は徐々に瓦解していく。


 それは、かつては草原に覇を唱えた白き狼虎の影が、光りによって掻き消されていくかの如く、緩やかに、そして確実に行われていく。



 いつしか、パルティノン軍は前衛と後衛にて分断され、攻勢を続けるシュネシス等はリヴィエト軍の巨大な包囲の輪の中に取り込まれつつあった。




◇◆◇◆◇




 戦場を縦横に駆け回る中、ヴェルサリアは敵将の首をいくつも掲げたロマンやアンヌとすれ違う。


 彼らの復仇は成り、パルティノン軍後衛はすでに潰走していた。


 残るは新帝シュネシスを中心とする最精鋭のみ。


 一騎当千を体現する兵達であったが、その包囲は次第に狭まりつつあり、新帝の撃破は時間の問題と思われた。



「クソがっ!! もう部隊も何も関係ないっ。動けるヤツは俺の周りに集まれ。陛下をお守りするんだっ!!」




 そして、狭まる包囲の中で、多数のリヴィエト兵が虚空へ舞上げられる。


 その先には白を基調とした軍装を赤く染め上げた少壮の男。恐らく、ハイン・ド・カテーリアンと思われる男が声を張り上げ、周囲の敵兵達を鼓舞している。


 天蓋孤独の奴隷から、パルティノンが誇る最強の戦闘集団キーリアとなり、長く続いた国難を生き続けてきた猛将。


 その姿に、ほんの一時リヴィエト軍の包囲の輪にたがが緩み始める。




「いけないっ!!」




 その雄姿に眼を奪われていたのは、ヴェルサリアも同様であった。


 勇者による戦陣の舞いは、戦を愛する者をただただ魅了する。時として、敵が見せる強大な力は敵味方の栄えなく敬愛を集める者なのである。


 しかし、そんな一瞬の魅了を見逃すような敵主であれば、ヴェルサリアも今回の戦において決着をつけるつもりはなかった。


 そして、幸か不幸か、自身が見込んだ敵主は、真の大器であったようである。


 今となってはそれを褒め称える余裕などありはしなかったが。


 ハインの奮戦によって穿たれた穴を見逃すことなく、本陣に向けて疾駆するシュネシス。間が悪いことにロマンもアンヌも別部隊と交戦中であり、他の将帥が彼を止めることなど不可能である。


 そう思い、馬に鞭を入れたヴェルサリアであったが、眼前を白き影が横切ったかと思うと、重い一撃が頭上よりもたらされる。




「くぅっ!?」


「いかせぬ。貴様もまた、パルティンの怨敵の一人」




 短く切りそろえた髪を振り乱しながら剣を振り下ろす女性。彼女また全身を白き軍装に身を包んでいる。


 今この場にあるパルティノンのキーリアは三人。そして、女性はただ一人のはずであった。




「エミーナ・スィン・ヴァレンシュタインか。そこをどけっ」


「戯れ言を。貴様の前に道など無い」


「無くてかまわぬ。なれば、自らの手で開くまでっ!!」




 剣を弾き、そう口を開いたヴェルサリアに対し、エミーナは巧に馬を駆りつつ、距離を詰める。


 この状況にあってもなお、味方を屠っていくエミーナの姿は、まさに戦場に降臨した戦女神の如き姿であったが、それでもこうして時間を稼がれるわけにはいかなかった。



「そなた等っ!! 頼むっ」


「ははっ!!」




 ヴェルサリアの命に、エミーナの剣へと向かって突撃するリヴィエト兵達。


 まともな戦闘で勝利することは不可能であり、手段としてはこれ以上の攻勢を妨害する以外に無い。


 個人としての敗北は、全体の勝利の前には意味なきことなのである。



「ぬっ!! こしゃくなっ」



 そうしてエミーナの傍らを抜け、本陣へと疾駆するヴェルサリアの耳に届くエミーナの声。しかし、それにかまうだけの余裕もなく、彼女の姿すらもヴェルサリアの脳裏から消え去ろうとしていた。

 


 彼女が駆けるその先にて、身体を十文字に刻まれ、赤き血を吹き上げる男の姿が目に映りこんだのである。




◇◆◇◆◇



 それは、ほんの僅かな光明だった。


 激突する敵軍の渦の中に見えた僅かな隙間。それをこじ開けた後は、自分達に追い付いてこれる敵はいなかった。


 そして、たしかな手応えとともに後方に吹き上がる血飛沫。



 勝った。



 その光景に、シュネシスは確信をこめてそう思っていた。しかし、眼前にて信じられない光景が起こっていた。




「はっはっはっはっはっ!! やるではないかっ!!」




 眼前にて衣服を赤く染める男。大帝ツァーベル・マノロフ。


 たしかな手応えとともに舞い上がった血飛沫。その先に待っているのは、大帝ツァーベルの戦死だけであるはず。


 しかし、今シュネシスの目に映るツァーベルは、傲慢なる笑みを浮かべてこちらを睨んでいる。




「ば、馬鹿なっ!?」



 ツァーベルを討てば戦は終わる。


 そう考えていたシュネシスであったが、今となって、それは過ちであったことを悟る。何がどうしてこうなってしまったのかも分からぬまま、シュネシスは今も包囲の中で戦う友軍の元へと舞い戻らんと剣を握りしめる。


 しかし、リヴィエト陣の後方へと突き抜けた彼らにとって、そこに舞い戻ることは死を意味する。



 味方の突破を待ち、戦場を離脱することが最良。



 しかし、今のシュネシスにそのよう判断を下すことは不可能であった。




「陛下っ。もはやお味方は総崩れにございます。離脱をっ」


「馬鹿を言うな……。ツァーベルは……ツァーベルはまだ」




 側近達の声に、そう答えたシュネシス。


 頭では分かっていても、眼前で起こった非常事態に感情がついていかない。ツァーベルを討てずば勝利はないのである。


 だが、剣を持って斬り裂いても死すること無き相手。それにどうやって勝利すればよいのか?


 自問だけが彼の脳裏に渦巻いている。




「陛下……」


「ゼークトっ。無事だったか」




 そんなシュネシスに対し、全身に傷を負ったゼークトが駆け寄ってくる。彼の麾下も多くが負傷しており、中央から後衛は前衛以上の攻勢に晒されてきたことが容易に見て取れる。




「はっ。ですが、もはや勝利は望めませぬ。私が殿を務めますが故、離脱を」


「……今回の戦は、万死に値する大罪。ましてや味方を残して等」


「先帝フェスティア様もまた、御自身の過ちを乗り越えて、パルティノン最大の版図を築かれました。敗北は決して罪ではございません。そして、生き残ることもまた、君主の務め」


「だが、俺は正式な君主ではない。姉上がアイアースに印綬を託したとなれば、本来の後継者は……。なれば、俺はヤツと差し違えてでもっ」




 なおも迫り来るリヴィエト兵を蹴散らしつつの会話である。


 未だ原野ではパルティノン兵の抵抗が続いているのだ。たしかに、自身が逃げなければ彼らはいつまでも戦い続けなければならない。




「馬鹿者っ!! いつまでも弟に甘えるつもりかっ!!」


「っ!?」


「陛下。貴方が背負う重圧は、諸人が決して背負う事なきもの。ですが、それを齢十六の若者に背負わせるのですか? あの日。フェスティア様が倒れられ、すべてに絶望しつつあった我々が、貴方の姿に何を見たとお思いですか?」


「俺の姿?」


「困難な状況にあってもなお、戦いを続けんとする姿にございます。まだ、アイアース殿下をはじめとする多くの若者が残るこの国を導くのは、こんなんに抗う覚悟を持った御方。それは、あなた様しかおられません」




 そう言うと、ゼークトはシュネシスに対して背を向け、いまだに激突の続く戦場へを向かう。



「ゼークトっ!!」


「陛下。新しき時代に我々のような老骨は不要です。帝国を頼みましたぞっ!!」




シュネシスの言に対し、そう答えたゼークトの姿はほどなく戦場へと消えていく。


 それは、この大地に消えていった数多の将兵の姿を追いかけて行くような、そんな姿であった。




◇◆◇◆◇


 緑野を赤く染め、大地を蹂躙する両者の激突。


 その激しい戦いも、間もなく終局を迎えようとしていた。

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