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第51話 聖帝と大帝

 周囲に轟く雷鳴と轟音。そして、巻き起こる稲妻と突風。


 守護をまとい、あらゆる気象条件の中でも生き続ける飛竜たちでも、人の力で引き起こされたそれに必死で抗うことしかできなかった。



「離脱だっ!! 全騎、気流圏から離脱せよっ!!」



 ミーノスは、自身の飛竜にしがみつくような格好で大勢を保つと、周囲の飛空兵達に対してそう叫ぶ。


 しかし、多くの飛空兵達が竜や鷲馬などとともに気流に飲み込まれ、あるモノは落下し、あるモノは気流によって戦線から離脱していく。



「殿下っ、こちらへっ!!」



 そんな周囲の状況に目を向けているミーノスの耳に届く声。視線を向けると、ルーディルとイルマが、突風の中でも姿勢を保ちミーノスに対して手を伸ばしているのだ。


 竜騎士である彼ら。相棒の真竜達ならば、この突風には耐えきることができるのであろう。


 それを見たミーノスは、なんとか突風に抗っている周囲の飛空兵達に対して声を上げる。



「総員。各竜騎士を中心に隊列を組めっ!!」



 真竜の加護は飛竜のそれを遙かに凌駕する。


 それ故に、ルーディルもイルマも姿勢を保っているのであろうが、彼らとしても突風の中で相手を救い出すほどの余裕は無い。


 しかし、仲間を加護の恩恵に与らせることが出来るため、この中を必死に耐えているのだ。


 そんなミーノスの号令の下、生き残りの飛空兵と竜騎士が隊列を組み始める。


 リヴィエト飛空部隊との決戦を経て、その数を大きく減らした彼らは、今回の決戦に際しても奮戦。


 バグライオフ軍団が全身を余儀なくされた背景には、戦における昂揚と同時に、後方から彼らの追撃を浴び続けていたことも大きな要因であるのだ。




「っ!? おいっ、小娘っ!!」



 突風の中、大勢を保ちつつルーディルとイルマの下へ向かうミーノス。


 そんな彼の視界に、一騎の飛竜の姿が映りはじめる。



 それは、先頃保護をしたリヴィエト皇女タチアーナ。



 今は、ターニャと名乗る元リヴィエト竜騎士で、今回の戦においてもミーノスに同行していた。


 もちろん、彼女は同胞であるリヴィエト兵に危害を加えるつもりはなく、情報などを漏らすつもりもない。


 だが、パルティノンとしてもリヴィエト皇女に当たる人物を無碍に扱うわけにもいかず、かといって敵陣営に戻すことも出来ないために、皇帝フェスティアの判断により、ミーノスに処遇が任されたのだ。


 公にはなっていないが、彼女にはミーノスによる結印が施されており、生殺与奪の権はこちらにある。


 そして、ターニャ自身、敗軍の将としての自覚から、思いがけない寛大な処分に感謝こそすれ、恨みを抱くつもりはない様子であった。




「何をやっているっ!! 早く来い」


「っ!? 第二皇子か。大丈夫だ。私には、エルの加護がある」


「それはそれでいい。俺達は離脱するから、一緒に来いっ!!」


「う、うむ」




 そして、呆然と浮遊要塞に目を向けているターニャの側へと竜を向けたミーノスは、彼女の飛竜であるエルクの加護の中へと入り、彼女の腕を掴む。


 一瞬、目を見開くターニャであったが、ミーノスの言に後ろ髪を引かれる様子で頷く。




「……戻りたいのか?」




 突風に、兜からこぼれる髪を靡かせ、鋭い視線を向けるミーノス。



「そうではない。そうでは…………。貴公等は、勝てるのか?」



 ミーノスの言に静かに首を振り、意志の強そうな視線を変えるターニャ。


 そして、首を浮遊様さに向けて振ると、ミーノスに対してそうといかける。


 彼女にとって、リヴィエトは愛すべき国家なのであろうが、ツァーベルは父親を奪った憎い相手。


 だが、こうして眼前の脅威をまざまざと見せつけられては、それに対抗する意志を削がれるような思いを感じたのだ。


 突然、この空間に転移し、その存在のみで次元に歪みを生み出し、周囲を破壊する存在。その脅威は人の手でもってどうにかなるモノではない。




「勝つさ。所詮、人が作ったモノだ」



 そんなターニャに対して、ミーノスは静かにそう口を開く。


 とはいえ、ミーノスにしても、それが強がりの域を出ていないことは分かっている。しかし、勝てぬ戦であっても勝たねばならない時は必ずある。



 敗北が、即破滅へと繋がる戦いがそれなのだ。




「それより、脱出するぞ。それとも、あそこに戻るか? 俺は止めんぞ」


「馬鹿を言うな。どのみち、私には見守ることしか出来ん」



 静かにそう言い放ったミーノスに対し、ターニャもまた力なくそう答える。


 自分一人が戻ったところで、全滅した飛空軍団の代わりは出来ず、かといって一騎ミーノスやフェスティアの首を狙いに行く気にはなっていない。



 尊敬すべき敵種というのは必ず存在する。



 すでに冥府への門をくぐった老将や竜騎士の言を、ターニャは身を以て感じ取っていたのだ。




「っ!? 殿下っ!?」




 そんな二人の耳に、イルマの裏返った声が届く。


 何事かと目を見開く両名。


 そんな両名が飛空するその先には、浮遊要塞の巨大砲門が静かに獲物を狙っていたのだった。




◇◆◇◆◇




 雷電と暴風雨が周囲に襲いかかる中、それは別種の轟音と激動が全土に襲いかかっていた。


 突如、現れた浮遊要塞は、その存在によって次元を歪ませ、雷電と暴風雨を発生させている。


 それによって、こちらの飛空部隊が戦うことなく壊滅していく様を見せつけられ、こうして今、パルティノンの大地に巨大な破壊の力が降り注いでいる。


 降り注ぐ砲弾によって、大地は抉られ、木々はなぎ倒され、草花は焼き尽くされる。


 同時に、人や物も破壊され、吹き飛ばされ、その営みを停止していく。


 先ほどまで、春の訪れ寄ってもたらされた緑野は、ほんの僅かな時を境に地獄絵図へと変えられていく。


 そしてそれは、僅か10日ほど前に、ルーシャ地方中南部を襲った破壊と同様の物であったのだ。



 そして、轟音と激動が緩やかに静まっていく。


 遠き彼方では、それまでの余波と余韻が残り、いまだに轟音が轟いているが、それでも、破壊をもたらされた大地にとっては、待望の平静が戻って来たことになる。


 もっとも、平静は戻っても、平穏が戻ることは無さそうでもあるが。




「ぐっ……」



 周囲に立ちこめる泥と煤の匂いを鼻腔に届かせながら、リリスは静かに身を起こす。


 先ほどまでで、赤き血に染まっていた白き軍装は、今は泥と煤によって黒く染められている。


 周囲の者達も彼女と同様で、浮遊要塞のもたらした破壊と振動によって大地に縫い付けられたのだった。



「陛下っ!?」



 そんな彼女にとって、気がかりは自分のことよりも、分身と言うべき主君のことである。



 新たな命を身に宿しつつ、前線に身を捧げる“聖帝”。



 そんな女傑は、破壊の限りを尽くされた大地にあって、ただ一人転倒を免れ、血に染まった傷だらけの身体を泥や煤に汚すことなく、悠然と浮遊要塞へと視線を向けていた。



 立ち上がり、そんな主君の傍らへと歩み寄るリリス。



 シュネシスやフォティーナ、アルテアといった首脳から、各軍の将軍達もようやく身を起こしている。


 そんな中、静かな、そして傲然たる笑い声が大地に轟きはじめた。




 それは、勝者の証。



 勝利を得たモノだけが、味わえる恍惚。そんな尊大かつ勇壮な笑い声が大地に響き渡り、それが止むと、重くそれでいて胸に響き渡る声が周囲に届きはじめる。



『ここまではよくやったと褒めてやるっ!! だが、次はどうする? パルティノンの女帝よっ!!』




 まるでそれは、浮遊要塞そのものが発しているかのような声。


 そして、勝者の傲慢さがすべてこもった物言いであった。




「分かっていようっ!! リヴィエトの大帝よっ!! 我は、この大地の主。この生きとし生きる物すべてを守るため、貴様と戦うまでのことよっ!!」


『ふ、ふっふっふっふはははははっ!! 世界帝国の覇者とはここまで愚かなモノであったか。そなたの周りを見るがいいっ!! 破壊され尽くした大地と傷つけられた兵達を見るがいいっ!! それでもなおっ、我々に戦いを挑むかっ!?』


「くどいっ!! 私はこの大地の守護者っ!! 如何なる脅威に対しても屈するつもりはない。そして、貴様らに敗れることもなっ!!」


『よかろうっ!! その言葉、証明してみるがいいっ!!』




 大地に轟きあう両者の声。


 それは、ともに人としての頂点を極めたモノのみが達することの出来る境地であり、二人の間には何人たりとも入りこむ余地はなかった。


 そして、ほどなく浮遊要塞の各所から、大地に向かって何かがゆっくりと降下しはじめる。


 先ほどまで、血に濡れた戦場となっていたテルノヴェリ平原。そこには、リヴィエト軍の生き残りが静かに友軍の到着を待っている。


 それを見て取ったフェスティアもまた、静かにシュネシスやリリスをはじめとする将軍クラスに声をかけると、彼らは周囲の兵達の元へと駆けていく。


 先ほどの砲撃によって、多くの兵達が倒れ、それ以上の兵達が傷ついている。


 戦えるモノがどれほど存在しているのか。その把握だけでも、僅かなときの間にこなさねばならなかった。





 そして、それから数刻。




 陽が西へと傾き駆けたその頃。


 引き上げられた水上橋のたもとにて、両軍は再び睨み合っている。



「陛下」


「大丈夫だ。気取られはせん」




 リリスの問いに、フェスティアは静かに答えると、ゆっくりと馬を進めはじめる。


 その傍らを、リリスとシュネシス。そして、エミーナが後に続く。


 リヴィエト側からも、黒き軍馬に乗り込んだ壮年の男と年若き男女がその後に続いていた。




「貴様がツァーベルか」


「そなたが、フェスティア……。素晴らしい美貌だな」


「ふっ……、もう少し、品のない男を想像していたが。中々の偉丈夫」




 川の中程にて、互いの容姿に目を向けあい、他愛の内言葉を口にする。


 先ほどまでの舌戦にあっては、お互いに憎しみを抱くばかりであったのだが、ともに戦を愉しみ、生命を賭けた争いに喜びを見出す心根。


 顔を見合わせると、個人間での憎しみなどは吹き飛ぶ。しかし、皇帝どうしでのそれは、決して消えることはない。




「そなた等に問う。我が民を蹂躙し、不当に大地を傷つけたるはなんの大義があってのことか?」


「大義? 我々にとって、旅は祖先によって意志づけられたこと。過去から未来永劫まで続くリヴィエトの存在そのものだ。そして、この世界は我らの旅のためにあるのだ」


「……なればなぜ、平和に暮らす我が民を害するか。通行を求めるならば、我々は正当なる歓迎を持って貴公等を受け入れたであろう。永久氷域を超え、新たなる大地を求める勇者としてな」


「全世界は我が故郷。何故に、貴公等に、通行を希い、対等の歓迎を受ける必要があろうか? 力なきに身にありながら、対等を求める者達は、我々と出会い、支配されることこそが正しき道なのだ」


「この大地は、我らパルティノンの民が生きる地。この大地に生きる者達は、我が支配の元に対等であり、その平穏なくらいを妨げることは何人にも許されぬ。そして、それを守ることこそ我が責務。貴公の主張は決して受け入れられぬこと」


「ふむ、フェスティアよ。平和とは何によって築かれる? 力による制圧と法による支配であろう? そして、法とは私なのだ。秩序とは私なのだ。……フェスティア。パルティノンの支配者にして、秩序と法の体現者。貴公等は、あくまでも我が前に立ちふさがるか?」


「逆に問おう。ツァーベル。リヴィエトの大帝よ。貴公等はあくまでも我らに立ち向かうか?」




 両雄並び立たず。


 静かなる舌戦の先にあるのは、一方の滅びによる決着のみ。二人は、それを麾下に従う者達に静かに告げたのである。




「明日。先の平原にて待つ。我々は逃げも隠れもしない」



 そして、フェスティアはツァーベルに対して静かにそう告げると、三人とともに騎馬を返す。



「ふっ、楽しみにしているぞ」




 そんなフェスティアに対し、ツァーベルもまた、騎馬を返す。


 その中で一騎。ツァーベルの傍らにて、フェスティア等に静かな視線を向けていた女性。リヴィエト軍総参謀長ヴェルサリア・ニコラヴィナ・ヴァシレフスカヤが、ゆっくりとフェスティア等の背に向けて歩み寄り、口を開く。



「パルティヌス陛下。お待ちを」


「…………何か?」


「あなた様の陣営に幽閉の身にある巫女。シヴィラ・ネヴァーニャ様のことであります?」


「……それが何か?」



 振り返ったフェスティア等四名。ちょうど、シヴィラの名をヴェルサリアが口にした際、一瞬ツァーベルが身を揺すったことには気付かなかったが、すでにその存在を忘却していた彼女達には、何事かという思いがある。




「彼女は、ツァーベル様の息女にあられます。貴公の民が、巫女として祭り上げ、虜囚の身にある。この事実を、銘々、胸に刻みつけてくださりますよう、お願い申し上げます」


「なんだと?」



 そして、ヴェルサリアは、静かにそう告げると自身の主君の元へと馬を走らせていく。


 思わぬ所から知った巫女の正体に、一瞬困惑を浮かべた四名を一瞥したまま。




「あの女が、リヴィエトの……?」


「……ならば、一連の事は…………、嫌らしい女だ」



 僅かに、心の動揺を自覚するフェスティアとシュネシス。


 忘却しようとしたことには相応の理由があり、肉親を奪うきっかけとなった巫女は、彼女等にとっては怒りに心をかき乱される存在であるのだ。


 そして、それを利用しないほど、ヴェルサリアはお人好しではなかったと言うことである。




◇◆◇




 その夜。



 テルノヴェリ南方へと移動を開始したパルティノン軍は、着々と布陣を終えていた。



 泣こうが喚こうが、今回の決戦ですべての決着がつく。



 浮遊要塞からわざわざ出てきたツァーベルを逃がすほどの甘さはフェスティアにはない。



「眠れませぬか? 姉上」



 衣服を整え、フェスティアの天幕へとやって来たシュネシスは、思った通り、目を覚ましていたフェスティアに対してそう口を開く。


 平服へと着替えてフェスティアであったが、昼に負った傷が痛々しげに各所からのぞいている。




「ああ。静かな夜というのはな」


「決戦の前です。兵はおろか、草木もまた眠りにつく。そう言われておりますね」


「して、何をしに来た? と、聞くだけ野暮であったな。私に戦うなと言うのであろう?」


「……はい」



 久々の姉弟二人きりの会話。


 シュネシスの来訪を知り、リリスをはじめとする女官達は席を外している。これを見るに、フェスティアもまた、シュネシスの意図を察していたのだろう。


 そして、昼間の戦いで重傷を負ったフェスティアに対して、シュネシスもまた、自分の意志をはっきりと告げる。



「姉上。此度の戦いが終わったら、私に帝位をお譲りください。……そして、御子の父親とともに、平穏にお過ごしください。姉上には、それだけの権利がありまする」


「……知っていたのか?」


「父親までは……。ですが」


「言うな。そなたの心遣いは嬉しい。だが、私の命は、明日にも燃えつきるかも知れぬ。この子を産み、さすれば後は帝国のために生きたい」


「姉上、姉上はこれまでに、帝国のために生き続けておりました。我々とて、姉上を救おうとすれば救えたはずなのです。しかし、それを成せなかった。その罪を我々は償いたいのです。そのためにも、姉上には平穏なる余生を過ごしていただきたいのです」


「そのくらいにしておけ。シュネシス。そなたは、アルティリア様から帝位を継ぐべく育てられていた。私は、そなたの地位を盗み取っているに過ぎぬ。せめて、その代償を払わせてくれ」


「しかし、御子はどうなりまする? 母親のいない赤子がどのような思いを……」


「私よりも母たる資格のある者はいる。他人のために命を賭け、他人のためだけに生きることの出来る者がな」



 静かなる姉弟の会話。


 お互いに、腹を割って話し合うことなど幾年ぶりのことであろうか?


 それだけの別離が二人の間にはあったのだが、それでも姉弟としての繋がりは簡単に覆せるものではない。


 そして、その根底には、数多の兄弟達との殺し合いを経験した大人達の思いが根付いている。



「姉上」


「シュネシス。帝国の未来を頼む。だが、今だけは、私に任せておけ……よいな?」



 なおも言葉を紡ごうとするシュネシス。しかし、そんな彼を優しく抱きしめ、その意志の強い眼を向けてくるフェスティアに対し、それ以上の言葉を紡ぐことは出来なかった。




「やはり、姉上は、このまま……」



 本陣を後にし、自陣へと静かに歩み続けるシュネシス。


 思いは届かなかったものの、彼は巨大な責務を託された形になる。それは、シュネシス自身も望む事であり、本来であればすでに継承していなければならぬ事。


 しかし、すべてを背負ってきた姉を救うことが出来なかった事への自責の方が今の彼には強い。


 時として、必要な勝利のためにすべてを犠牲にするだけの冷酷さを見せるシュネシスであったが、その冷徹な面はすべてが失われようとしていた兄弟達への思いが根底にある。


 それ故に、スラエヴォから続く一連の悲劇にあっても、兄弟達を救う事を優先させたのだ。




「むっ?」


 そんなことを考えつつ、歩みを進めるシュネシスであったが、ふと何かの気配に振り返る。



「あらあ? やっぱり気付いちゃいますぅ?」


「ぐっ!?」




 そんな女性の声と同時に、白刃が胸元をかすめる。


 吹き上がった血が闇の中で黒く輝く中、シュネシスは身体を返して、犯人を睨み付ける。



「グネヴィアっ!! 貴様、覚悟は出来ているんだろうな?」


「ふふふ、良いわねえ。私も殿下とは一度戦ってみたかったのよ。だけど、今は無理~。やることもあるしねぇ」


「なんだと? うっ!?」




 妖艶な笑みを浮かべつつ、シュネシスを舐めるように見つめるグネヴィア。そんな彼女に対して抜刀したシュネシスであったが、ほどなく視界が歪みはじめ、思わず膝をつく。



「毒か……」



 キーリアの身であり、相当な耐性を持っているシュネシスであったが、突然の奇襲で負った傷の影響は非常に大きい。



「死にはしないわよ。まあ、他の連中がどうするかは分からないけどねえ……。まあ、事が済むまで眠っていなさいな。わたし達は貴方の首になんて興味ないから~」




 そんなグネヴィアの言に、薄れゆく意識の中で顔を上げるシュネシス。


 視線の先には、先の戦いにてともに戦場を駆け巡ったキーリア達の姿。


 思想は違えど、祖国を思い、侵略者に立ち向かった者達の姿があったが、それは仮のモノでしかなかったのだ。



(信用したわけじゃなかった……。どちらにせよ、俺も無能の一人か……)




 ぼやける視界が徐々に黒みを帯びる中、シュネシスは静かにそう思うしかなかった。



◇◆◇◆◇



 邂逅した両雄。


 ともに戦場にてはじめて相対すべき敵種と巡り会った大帝と聖帝。しかし、そんな両者の思いも、戦場の義を知らぬ者達にとっては鼻で笑うモノでしかない。

 




 そして、両陣営が。否、全世界が思いも寄らぬ結末が、刻一刻と迫ろうとしていた。

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