第88話 的確な判断
「うんめーーー! やっぱり千人家のチャーシューメンは最高だ!」
俺たちは麗奈さんが持ってきてくれたチャーシューメンをずるずるとすすりながら作戦を立てていた。
「新潟ってラーメンおいしいからね。私個人的には青鳥ラーメンってとこもおすすめ。しょうがが聞いていておいしいんだよ」
ほのかさんも麺をすすりながら言う。
なるほど、この件がおわったらみんなで食べに行こう。
「で、あいつら二手に分かれたけど……」
俺が言うと、桜子がはふはふとチャーシューを口に入れながら、
「分かれたっていうか、市生と瑞葉だけが先生たちをおとりにして逃げ出したってことだよね、これ。ね、ほのかさん、先生たちもやっちゃう?」
「うーん、あの先生たちもあたしのいじめに加担してたけど……でも殺すほどでは……」
「でも悪いことしたんだよね? 悪い事したら報いはうけなきゃ……」
「私個人的にはね、むかつく教師だけど、まあ、あそこまで……」
そこまで言ってほのかはミカハチロウの方を向く。
ミカハチロウの鼻の先に連結された篠田と遊斗の首が涙を流しながらなにかをわめいている。
「……あそこまではやらなくてもいいかなあ」
それを聞いたご先祖様は、ズゾゾゾゾゾッとチャーシューメンのスープをすすりながら、
「ほうか。そしたら、あいつらはもう帰してもええかもしれんな。まあ、一応、ほのか、お前が直接言い聞かせて真摯な謝罪をしたら帰してやるということでええんやないか」
★
――帰るしかない。
石郷丸はそう思った。
そもそも、このダンジョンに市生たちを助けに来たのは、ひとえに市生が理事長の息子だったからだ。
その息子が逃げ出してしまった今、石郷丸たちが危険を冒してこの先まで進む義理がない。
いや、一応、理事長の娘であるみのりも捕らわれたままなので、それを救いにいく必要もあるのだが、いかんせん二人パーティではどう考えてもこのダンジョンを攻略できそうになかった。
「流川先生。もう、引き返しましょう。そして、またパーティを組みなおしてこのダンジョンに挑みましょう」
「そうですね、石郷丸先生……。私もそう思っていました」
二人の教師は、地下九階への階段を目の前にして、引き返すことを決定した。
ベテラン探索者である彼らは、その辺の判断も的確なものであった。
だが。
そのときだった。
地下九階へと続く、巨大な階段から、なにかおぞましいクリーチャーが姿を現したのだった。
それは巨大な象だった。
しかし、象ではなかった。
象の鼻部分が八本のタコの足になっており、その足のうち二本の先っぽには石郷丸の生徒が二人、連結されていた。
「せんせぇ~~~たすけてぇええええ」
「せんせ==! つらいよお、苦しいよお、せんせぇぇぇぇお願い~~~たすけてくださー―い」
それを見て石郷丸は叫んだ。
「篠田! 遊斗! 無事だったのか! ……無事……?」
無事ではないな、と石郷丸は思った。
そして。
象のモンスターの背には四人の人物が乗っていた。
そのうちの一人は、石郷丸にも見覚えがあった。
「二宮ほのか! ……いったい、お前は……」
石郷丸は気づいていなかった。
象のモンスターのそばにカメラ付きドローンが飛んでいて、その様子を撮影・配信していることに。




